上 下
144 / 472
初めての旅 〜ダグスク〜

216

しおりを挟む
 イオリ1人だけ個室に入られる事にヒューゴが抗議し子供達も騒いだ。
 何よりも怒りをおさえないのはゼンだった。

「ゔぅぅぅーグルゥゥゥゥゥ。」

 ゼンの威嚇に怯える衛兵達は抑えようと剣で殴ろうとしたがイオリがそれを止めた。

「ゼン。大丈夫だから大人しく待ってて。
 ヒューゴさん、子供達をお願いします。」

「分かってる・・・。
 おい、ダグスクの衛兵。忠告する。
 丁重に扱えよ。」

 ヒューゴの脅しに何とも言えない顔をする衛兵はイオリを個室に押し込んだ。



「・・・・・。」

「・・・・・。」

 連れてきた割には尋問など始めない衛兵にイオリは大人しく観察していた。

「どこから来た。」

「ポーレットですね。
 そこから、アンティティラを経由してダグスクへ。」

「これが本物だとしたら、君はSランクの冒険者という事になるが若いのにあり得るのか?」

「そうですよね。
 俺も、そう言ったんですけどギルマスが持ってけって言うんですよ。」

「昨日もイオリという冒険者がダグスクに来た。
 貴族のコインを所有していたために街へ入るのを許可した。
 君は・・・。」

「これじゃダメですか?」

 テーブルの下から腕を上げて指についた2つの指輪を見せた。

「これは・・・!!この紋章はポーレット公爵家!?」

 信じられない者を見るようにマジマジと見られイオリは居心地悪く苦笑した。

「お世話になってまして。」

 衛兵達は徐々に嫌な気分になってきた。

「こっちはポーレットのギルマスから貰いました。」

 キラリと光るもう一つの指輪は確かに冒険者のギルドマスターが特別に出すものだが、若い衛兵は初めて見たのかピンときていなかった。

「それが本物という証拠は?!」

 声が上擦り始めた衛兵にイオリは淡々と答えを言った。

「鑑定のスキルのある方を呼べば良いのではないですか?
 ここは入街の検査をするところ、1人や2人はいらっしゃいますよね?」

「・・・そうだ。呼んでくる。」

 そろそろと立ち上がり衛兵が外に出ようと扉に手をかけた時だった。

 外側から勢い良く扉が開き衛兵の顔面にぶつかった。

 ドンっ!!  「グフッ!!」

 入ってきた人物は顔を押さえて悶えている衛兵を無視してイオリに顔を向けると縦膝をして挨拶した。

「貴方がSランク冒険者のイオリ殿でよろしいか?
 私はダグスクの領主、オーウェン・ダグスク様直轄騎士団団長レイナードと申します。

 この度のグダスクの貴殿への無礼お許し頂きたく、直接領主オーウェンが謝罪をしたいと申しております。
 ご同行願いますか。」

 おぉぉ、騎士様・・・。

 レイナードと名乗った騎士はジェントルの雰囲気を持ち、まっすぐとイオリの目を見た。
 口髭を持ち髪を後に撫でつけ今だに鍛錬を続けているのが分かる熟練の騎士。
 イオリはニッコリ笑うと立ち上がった。

「お供しましょう。
 しかし、お詫びなど不要です。
 彼らは自分の仕事をしただけです。
 イオリと言う名は父がつけてくれた名前ですが私自身、同じ名前に出会った事はありません。
 2日続けて現れるなど怪しんで当然。
 グダスクは危機管理能力が高いと考えるべきです。」

 レイナードはホッとしたように立ち上がると頭を下げた。

「寛大な言葉に感謝します。
 昨日の“イオリ”と名乗る人物が何者かはわかりませんが、調べを続ける事はしなければなりません。
 貴方の名前に傷がつく行為をするやもしれませんからね。
 貴族のコインを持っていたとか、その貴族は判明しておりますので現在、話を聞きに行っているところであります。

 貴方はまず、領主屋敷にご案内させていただきます。」

「よろしくお願いします。」

 レイナードは道を譲るように脇によるとイオリは開け放たれた扉から出ようとした。

 真っ青になりながら頭をさげる衛兵にイオリは肩を叩き

「顔痛いでしょ?冷やしてくださいね。」

「申し訳ありませんでした!!!」

「それじゃ。」

 ニッコリ笑うイオリは扉から出ると手始めにゼンの突撃に遭った。

『大丈夫?痛い事されてない?』

「されてないよ。話きかれてただけ。」

『聞こえてたよ!!』

「じゃぁ、無事だって分かってたろ?」

「「「イオリ!!!」」」

 続いて双子とナギ、ニナまでもがイオリにしがみついてきた。

「心配させてゴメン。大丈夫だよ。
 大人しく待っててくれてありがとう。」

 一人一人を抱きしめると安心したのか硬直していた子供達の顔が緩んできた。

「イオリ!」

「ヒューゴさん。ご心配おかけしました。」

 ヒューゴも安心したように肩の力を落とすと自分の隣にいる女性を紹介した。

「良かった。
 イオリ、この人はダグスクの冒険者ギルドマスターの・・・。」

「ソフィアンヌよ。災難だったわね。
 まさか、同じ名前の人物が通ったなんて知らなくて私が衛兵に伝えておけば良かったわ。
 ごめんなさい。」

 髪を結い上げショールを肩にかけた女性が眉を下げで謝ってきた。

「はじめまして
 イオリです。わざわざギルマスが来てくれたんですか?
 ありがとうございます。
 まぁ、酷い目にあってないんで大丈夫ですよ。
 子供達を怖がらせたのは怒ってましたけど、謝ってもらったんで。」

 今だにイオリから離れようとしない子供達にソフィアンヌは身を屈めて謝った。

「ごめんなさいね。ダグスクの街を嫌いにならないでね。」

 子供達は顔を見合わせると頷いた。

「「「いいよ。」」」

 そう言われソフィアンヌは優しく微笑んだ。

「本当にギルマスなの?」

 スコルが首を傾げてソフィアンヌに問いかける。

「そうよ。変?」

「そうじゃなくて、今までのギルマスはイカツイのとモジャモジャだったから
 綺麗なギルマスは初めてだよ。」

 スコルの言葉にイオリとヒューゴは爆笑し、子供達はニヤニヤしてソフィアンヌは微笑んだ。

「そうね。あの人達とはちょっと違うわね・・・。」

「スコル。笑わせないで。

 さてと、ギルマスとも話さなければいけないですけど領主さんに会う約束があるんです。」

 イオリは後に控えるレイナードに振り向いた。 
 すると、レイナードはソフィアンヌに頷いた。

「では、ソフィアンヌも一緒に屋敷に行けばいい。
 一度に話し合えば時間も無駄にならない。」

「そうね。そうしましょうか。」

 ???な顔のイオリ達にレイナードは言った。

「ソフィアンヌは私の妻です。」




 

 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます

兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。

続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん
ファンタジー
⭐︎書籍化決定⭐︎  『拾ってたものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』  第2巻:2024年5月20日(月)に各書店に発送されます。  書籍化される[106話]まで引き下げレンタル版と差し替えさせて頂きます。  第1巻:2023年12月〜    改稿を入れて読みやすくなっております。  是非♪ ================== 1人ぼっちだった相沢庵は小さな子狼に気に入られ、共に異世界に送られた。 絶対神リュオンが求めたのは2人で自由に生きる事。 前作でダークエルフの脅威に触れた世界は各地で起こっている不可解な事に憂慮し始めた。 そんな中、異世界にて様々な出会いをし家族を得たイオリはリュオンの願い通り自由に生きていく。 まだ、読んでらっしゃらない方は先に『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』をご覧下さい。 前作に続き、のんびりと投稿してまいります。 気長なお付き合いを願います。 よろしくお願いします。 ※念の為R15にしています。 ※誤字脱字が存在する可能性か高いです。  苦笑いで許して下さい。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。