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初めての旅 〜アンティティラ〜

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 教会を出て、ジョゼの工房へ直接向かうと今日は随分と慌ただしく職人達が出迎えてくれた。

「親方!いらっしゃいましたよ!」

 若い職人が奥の方へと声をかけた。

「おうよ!今行く!」

 大きな体を揺らしながら、ジョゼがドシドシとやってきた。

「またせたな。最後の確認してくれ。」

 イオリを商品まで案内すると部屋には大きな箱物が沢山あった。

「おぉ!この大きさは圧巻ですね。
 ではでは・・・。」

 イオリがワクワクした顔で商品を確認していくのをヒューゴはスコルに耳打ちした。

「なんだ、あれ?」

「冷蔵庫って言うんだって、ヒューゴはまだイオリの料理食べた事ないけど
 イオリのご飯スッゴイ美味しいんだ。
 もっと、快適に料理したいって魔道具を注文したんだ。

 ボクもちゃんとした使い方知らないんだけど、多分良い物だよ。」

「あー。あの顔か?」

 スコルはヒューゴを見上げて

「うん!」

 と言った。

 また楽しみが増えたとヒューゴはニッコリすると視線をイオリに戻した。

「ここはクスクスの木を利用している。強度もあるし、何より匂いもなくて湿気にも強い。
 で、お前さんが言っていた鉄を錆させない魔法を施しておいた。
 段の部分にも使われてるから好きに使え。」

「素晴らしいですね!!想像より、理想に近くなっています。
 流石プロ集団!アンティティラに来て良かった。」

 ここまでの賛辞を子供達ですら聞いた事がない。
 子供達はコレはそれほど凄い物なんだと認識した。

「全部でおいくらになりますか?」

「そうだな。お前さんに材料を貰ったとは言え、中々上質を使っちまった。
 悪いが、全部で金貨150枚でどうだ?」

「勿論です!もっとかかると思ってました。
 この、保温の石は別にお支払いします。このスイッチ押せばいいんですか?」

「そうだ。それなら、金貨12枚追加だ。」

 嬉しそうに自分のイベントリに入れるイオリにジョゼは言った。

「今回は面白い物を作らせてもらった。
 お前さんがコレで何をするか知らねえが、またなんかあったら俺のとこに来な。
 何でも作ってやるよ。」

 顔を輝かしたイオリは何度もお礼を言うとジョゼの工房を後にした。





「今のでアンティティラでの用は終わったのか?」

 ヒューゴは面白いものを見たようにイオリに言った。

「はい。最後にグラトニー商会へ挨拶に行こうと思います。」


 イオリを待っていたかのようにアンナとミロはロビーに出て来ていた。

「来たのかい?ジョゼさんの品は満足したのかい?
 見せてもらったけど、何だいあれ?本当にあんなのが欲しかったのかい?」

「念願叶ったものですよ。ずっと欲しかったんです。」

「冷やすったって、何を冷やすのさ?」

 冷やすという考えがない世界代表で心底不思議そうにアンナはイオリに聞いた。

「んー・・・。アンナさんだから教えますね。実は・・・」

「・・・本当かい?それなら、私も一つ作ってもらおうかね。」

 耳打ちに嬉々としたアンナは早速、ジョゼへ注文するだろう。

「お世話になりました。」

 イオリの言葉にアンナは現実に戻って来た。

「アンタがここで良い出会いをしてくれて良かったよ。父様にも報告しとこう。
 気をつけるんだよ。何やら、最近騒がしい。」

 アンティティラ伯爵の依頼の話だろう。
 イオリは頷くとアンナと握手をした。

「「またね。」」

 アンナに抱きつくと双子はギュッとされて喜んだ。
 いつも明るくても母恋しい子供には違いないのだ。

「元気にね。弟と妹を大切にするんだよ。」

「「うん。」」

 双子はミロにも抱きついていた。

 モジモジしているナギとニナの背を押すと2人はニッコリとアンナに抱きついた。

「アンタ達も元気でね。イオリの言うこと聞くんだよ。」

「はーい。」

 ナギの声と共にニナも声なき返事をした。

「お世話になりました。大旦那に・・・ポーレットに着いたら直接、ご挨拶に行くとお伝えください。」

 何とも言えないヒューゴをアンナは抱きしめた。

「それは喜ぶだろうさ。イオリを頼むよ。あの子はグラトニーの宝だけど、この国の宝だよ。
 コレから、面倒な奴らに狙われかもしれない。出来た子だけど、知らない事も多すぎる。
 守ってやっておくれ。」

 ヒューゴは真剣な顔で頷いた。

「必ず。」


 もう一度、別れを言うとイオリ達はグラトニー商会アンティティラ支部を出て行った。




「代表?イオリさんはなんて言ってたんです?冷蔵庫の使い方。」

 ミロはニヤニヤ笑うアンナに聞いた。

「冷えたエールは震えるほど旨いんだそうだ。
 コレで一儲けできるかね・・・。」

「イオリさんの考えた事ですから・・・。」

「チッ!ホワイトキャビン行きか。・・・・。まぁ、旦那の為だけに我慢しとこうかね。
 フフフ。」



 その後、ポーレットとアンティティラの酒場では冷えたエールが流行ったという。
 真似しようと氷魔法やら風魔法やら使う者もいたが、どうも勝手が違う。
 不思議な箱を持つ者は後に立たなかった。
 アースガイルで当たり前になった冷蔵庫の始まりは、こうして旅をした1人の青年の欲望から始まったのであった。

 


 
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