上 下
72 / 472
初めての旅

145

しおりを挟む
「お話してもいい?」 

 スコルがイオリの裾を引っ張ってコソコソと聞いてきた。


「良いよ。何が聞きたいの?」

「このお店は何屋さんなの?」

 アーベルはニコニコと微笑むとブルーノに顔を向けた。
 ブルーノは一礼してから説明した。

「グラトニー商会は全ての物を扱います。
 塩や野菜などの食べ物、布や糸などの裁縫類、服や宝石などの装飾品、土地の売買から人材の育成まで多岐に渡ります。

 他の店と違うのは棚などに商品を置いておらず全てを注文して頂いてから、ご自宅などにお持ちするという点でございます。

 貴族の方からの注文や業者の大量買などもございますので、下のソファーエリアでご注文を聞きカウンターで支払い後に送り場所を指定して頂くという流れでございます。」

「なるほど・・・。手広いのですね。
 スコル分かったかい?」

「うん!何もないからビックリした。」

 グラトニー商会の面々は朗らかに笑った。

「それでイオリさん。
 ホワイトキャビンの事ですけどね。
 砂糖と乳製品の製造と販路も確保できまして、牧場での建設が終わり次第開始したいと思います。
 他に何かございますか?」

 バートは伺うように聞いた。

「ホワイトキャビンについては、バートさんにお任せしているんで、別にないですけど・・・。
 あっ!ポーションの飴はどうしていますか?」

 ハンスは机から資料を探しバートに渡した。

「はい。教会のエドバルド様から3人ほど薬にくわしい者を紹介していただきまして、話を進めています。
 同時に公爵家の方でもハーブの勉強をされてる方々いるそうで合わせでハーブ飴も試みようと思っています。」

「うん。良いですね。
 できれば、安価で一般市民が手に取りやすい方法にして下さい。」

「それならば、薬屋としての店舗を持ちましょう。
 砂糖が流通し始めたら、すぐにお菓子をメインとしたお店も始めようと思います。」

「うん!良いですね。
 俺たちが帰るまでに色々と始まっているでしょうか?」

 バートは何度も頷きハンスと確認し始めた。

「そう思います。
 そういえば、どちらに行かれるんですか?」

「アンティティラとグダスクへ。

 アンティティラでは料理に必要な魔道具を探しに行きます。
 冷たいデザートやヨーグルトを安定して作るのに試したいんですよ。」

「!!!
 それは素晴らしい!見つけたら是非一報下さい。
 アンティティラでもグラトニー商会の支部があります。」

 興奮気味のバートにイオリは苦笑した。

「分かりました。一度伺います。
 ダグスクでは食材が欲しいんです。
 俺が求めるものがあるかは分かりませんが・・・。

 それと子供達に一度海を見せたくって。」

「なるほど。食材・・・。
 ダグスクにもグラトニー商会があるので訪ねてください。
 すぐに国中のグラトニーと連絡が取れるので、何かあれば力になります。」

 バートが言うとアーベルだけでなくブルーノとハンスも頷いた。

「ありがとうございます。心強いです。」

 イオリはグラトニー商会の幅広さに驚きながらも何も分からない旅に安心の一つを見つけた気がした。


「時にイオリ君・・・。」

 アーベルが口にした先に新たな出会いがあるとはイオリは思いもせずに話に耳を向けた。

「私からの頼みがあるんだ。いや、冒険者としての依頼じゃない。
 1人の男を助けて欲しい。」

「どういう事です?」

 アーベルは溜息を吐いた。

「以前、懇意にしていた冒険者がいてね。
 諸事情で実家に帰ると言って連絡が途絶えんたんだ。
 心配になって調べてみれば奴隷落ちをしていた・・・。驚いたよ。

 何度も助けようとしたが拒否されてしまってね。
 とても心苦しい。

 その男が今言っていた、アンティティラにいるんだ。」

「その人の事情をお聞かせ願いますか?」

 イオリの言葉にアーベルは元よりバート達も苦渋の顔をしていた。

「元はBランク冒険者で王都でも有望な男だった・・・。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます

兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。