拾ったものは大切にしましょう～子狼に気に入られた男の転移物語～

美食の旦那さん

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　朝だと言うのに冒険者ギルドは騒然としていた。

　お祭り気分の者もいれば、すでに依頼ボードの前で睨み合ってる者もいる。
　受付でスタンビートの討伐確認している者もいるし、報酬で騒ぐ者もいた。
　中にはスタンビートで死人が出なかった事で参加すれば良かったと嘆く者もいる。

　そんな中を子供達連れで入ったもんだから、イオリに視線が集まるのも無理はない事だったかもしれない。

「離れるなよ。」

　イオリの囁きに子供達は頷きイオリとゼンにピッタリとくっついてきた。

　いつのまにか静かになっていたギルドの中を歩き受付の列に並ぶと少しは知った顔がいた。

　闇トロールの時にいた鎧の剣士達だ。

《何ていったかなぁ。》
　
　イオリは名前を思い出しながら会釈すると、鎧の剣士達も手を挙げて挨拶してくれた。
　
《なんか気合いの入った名前だった気がする。
　ガッツだかガツンだか・・・。》

『ガンツだよ。イオリ。』

　ゼンが笑いながら教えてくれた。

「あぁ、そうだった。へへへ」

　笑って誤魔化すイオリにゼンは苦笑していた。

「次の方どうぞー。」

　受付の呼ぶ声がしてイオリ達は進んだ。
　座っていた女性とラーラが代わりイオリの対応をしてくれた。

「おはようございます。イオリさん。
　昨日はお疲れ様でした。
　そして有難うございました。」

「おはようございます。ラーラさん。
　依頼の完了の受付お願いします。」

「かしこまりました。
　では、皆さん順にカードをお願いします。」

　スコルからカードを提示して討伐の確認をしていった。
　イオリまでが終わるとラーラは説明する。

「スコルさんが総討伐数54頭
　パティさんが総討伐数56頭
　イオリさんは従魔のゼンさんの分も入れて584頭です。
　ナギさんは魔獣の討伐数こそありませんがサポートで尽力していただいたのでパーティー報酬が入ります。
　金額はこちらに記載しましたので換金所へお願いします。

　それとイオリさん。
　ギルマスが話を聞きたいとお待ちです。
　部屋までお越し下さい。」

「分かりました。ありがとうございます。」

　イオリが子供達を連れてギルマスの部屋に入るとギルドのフロアが唸りをあげた。

「うおおおー。スゲーな584頭だってよ！」

「子供達でさえ俺より多い・・・。」

「マジで化け物かよ・・・。」

「パーティーで総数694だってよ。
　少ないメンバーだから異常な数だぞ。」

　すると酒場エリアから不穏な会話が聞こえた。

「なぁ、この人数で襲っちまえば全部俺らの物になるんじゃねーか？」

　・・・・・。

「賢く生きるのはこーやんだよ。」

　・・・・・。

　まるでヒソヒソ声で話してますと言う感じではあるが自分が泥酔して割と大声で話している事など気づきもせずに3人の男達は笑いながら話す。

　屈強な者らに囲まれているなんて気づくまでにペラペラと何処で襲うか、女の子の獣人は売れるだの高らかに話していた。

「おい、親父！酒の追加！」

　返事が聞こえず苛立ち紛れに叫ぶ。

「おい！酒だって言ってるだろ。」

「お前らにやる酒なんて、もうねーよ。　　
　痛い思いをしてさっさと帰んな。」

　淡々とジョッキを片付ける親父に男達は苛立ち、立ち上がろうとすると肩を押し付けられた。
　その時になって初めて自分達が囲まれている事に気付いた男達は酔いが覚めるのが分かった。

「いや、じょっ
　冗談じゃねーか！」

　1番に話していた男の言葉に笑っていた2人が何度も頷いて同意する。

「アイツは、最早ポーレットの英雄だよ。
　少ない被害で終わらせちまいやがった。

　公爵家だって認めてるし街の皆んなも知ってる。
　勿論、ここにいる奴らだって同じさ。」

　鎧を纏った剣士ガンツは人を掻き分け男たちに言った。

「それを知りながらアイツらを罵るんならお前らはなんだ？
　ゴミか？
　ゴミは掃除しないとなー。
　なぁ、みんな！」

「「「そうだ！そうだ！」」」

　男達には酒の効力など切れている。
　青くした顔を一掃白くさせて喚いた。

「ここはギルド内だぞ！
　冒険者同士の争い事はご法度のはずだろう！！」

「俺たちはゴミを掃除するだけさ、なぁ？それなら良いんだろ？」

　ガンツ達が受付を見ると受付の人たちは一様にそっぽを向いていた。　

「私達は何も知りませんし、見てません。
　もし、大きなゴミが落ちているなら捨ててきてくださると助かります。」

　ラーラの声が聞こえた。

「なら、街の外に捨ててきてやるよ。
　行くぞ皆んな！」

「「「「おぅ！」」」

「やめろ！やめてくれ！謝るから！しないから！」

　何人もに担がれた男達は悲鳴を上げながらギルドを出て行った。


　酒場エリアでは親父がテーブルを拭いていき受付では新たな依頼の査定をした。

　静かになったギルドフロアは変わりない日常に戻った。