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美食の旦那さん

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「おっしゃる意味が分かりませんな。」

 50歳を超えたラモン子爵は公爵家の兄弟を前にしても余裕の笑顔をした。

「分からないのはこっちの方だ。
 何故、私を含めたポーレット公爵家に準ずる者達へ偵察鳥を差し向けられた?」

「私はそんな事はしておりません。
 何か証明できるものはお持ちですか?」

 出来るわけもあるまいと顔に書いてあるニヤけた顔に嫌けがさしたニコライはエドガーに頷いて見せた。

「こちらが、仕留めました偵察鳥です。
 額にしっかりとラモンの紋章が。
 偵察鳥は当主の許可なくば飛ばす事が出来ず、何らかの理由で当主が知らぬ事だとしても責任は当主にございます。」

 テーブルに突き出された偵察鳥を見て顔を歪めるラモン子爵とオドオドし始めた子息。
 しかも、エドガーが言い訳の道を断つものだから言い訳のしようもない。

「わっ私は常日頃からポーレットの将来を憂いております。
 何かあれば直ぐに公爵様にお伝えできますように調べているのです。」

 無理な言い分にヴァルトは溜息を吐きニコライは怒気を孕んだ声でラモン子爵並びに隣に座っている子息に言い放った。

「ポーレットの将来とな?
 それは有難い事ではあるが分不相応ではないか?
 国王から、このポーレットを任されいるのはポーレット公爵家の当主でる我が父である。
 一子爵家が偵察鳥を使い、公爵家を調べるなど何か邪心を疑われても仕方あるまい?
 ポーレット公爵次期当主ニコライの名の元にラモン子爵家を家宅捜索しろ!」

「なっ!横暴な!!」

「横暴?それはどちらだ?
 何を知りたかったか知らないが今までの貴族と同じと思うな。」

 鋭い目を逸らさないニコライを悔しそうにラモン子爵は唇を噛んだ。
 子息はブルブルと震え落ち着きをなくした。

 ラモン子爵家に公爵家私設騎士団が乗り込み治安維持隊が屋敷を囲んだ。

 様々な部屋で悲鳴や怒号がする中、立ち上がるラモン子爵をマルクルが押し戻した。

「ニコライ様は立って良いとは言っていない。」

 若造に押し切られ明らかにラモン子爵はイラついていた。

 そん中、ヴァルトの従魔ルチアはただ一点を見つめ続けていた。



 ラモン子爵を捜索するのに加わったニコライ従者フランとヴァルト従者トゥーレは一緒に行動していた。

 部屋を開け悲鳴を上げる侍女達の首には首輪ならぬチョーカーが施されていた。
 奴隷の証明である魔道具である故に外せる事など出来ない。
 2人は眉間にシワを寄せ侍女達に外に出るように言った。

「どこから買った奴隷か調べろ。違法取引なら大問題だ。」

 騎士の2人が頷くと侍女の奴隷を別の部屋に集め事情聴取を始めた。

 モラン子爵の奥方は自室でポーレットの騎士を相手に喚き散らしていた。

「私を誰だと思っているの!!夫に会わせなさい!
 夫はアースガイルだけじゃなくミズガルドにも信頼された人よ!
 ポーレットの田舎貴族が今に見ていなさい!!」

 トゥーレはフランと目を合わせ1人奥方の部屋をノックして入った。

「今の話を詳しくお聞かせください。」

 トゥーレの笑顔を見て奥方はそれ見たことかと騎士を扇子で叩きトゥーレを招き入れた。

「やっと話の通じる人が来たのね。
 良い?ウチの人はアースガイルとミズガルドの間を取り持ち歴史に名を刻む人なのよ。
 だから、ポーレットに来てやったというのにポーレットにいる貴族は公爵が怖くてお茶会にも来やしない。
 コレだから田舎は嫌なのよ。

 貴方。ココを出して下さったら、夫に口添えしますわよ。
 どうせ、公爵家も潰れるんですから。」

 奥方はピンチになると口が軽くなるらしい。
 トゥーレが笑顔なのを良い事に聞いてもない事をペラペラと話してくれた。
 トゥーレは騎士に目で合図をし部屋から出して奥方と2人になった。
 廊下でフランを止めている騎士は必死である。

「お聞かせください。
 何故、子爵は公爵家長男を調べていたんですか?」

「さあね。何でも良い商売になるとか言っていたわ。
 最近、雇っていた運び屋がミスして大事な商品を無くしたのよ。
 大損も良いとこよ。」

「大事な商品?」

「ミズガルドの貴族経由の仕事でね。
 王都の貴族が御所望で一度我が家に置いて躾けてから送るつもりだったの。
 我が家の使用人達は良い子ばかりでしょう?
 
 それを!あの役立たずが魔の森でトロールだか何だかに会って商品を置いて逃げて来たって言うじゃないの。
 ウチ人も大激怒よ!
 だから代わりに特別な品物を持ってお詫びに行かなければならないの。

 ねぇ、貴方何か良いもの知らない?
 仕事はウチの人に任せて。悪いようにはしないわ。
 私も貴方に興味があるもの。」

 下品な香水の匂いを漂わせ奥方はトゥーレにしな垂れかかった。

「面白い話ですね。公爵家が潰れるとはどういう事です。マダム。」

 トゥーレは抱きとめも離す事もせずに奥方の耳元で囁いた。

「いつでも魔の森をスタンピードを起こさせられるんですって。
 もう少しポーレットで商売して公爵と交渉して決めるって言ってたわ。
 公爵が使えない人間だったら。」

 奥方はパチンっと指を鳴らし

「ミズガルドから貰った指輪を壊せばいつでもパニックよ。
 その前に逃げないと巻き込まれてしまうけどね。」

 ニンマリ笑い見上げてきた奥方の髪を掴み引き離したトゥーレは

「フラン!!」

 と叫ぶと廊下からフランの

「承知!」

 の声と共に走り去る音が聞こえた。

「痛い!!何するのよ!やめて!!」

 そう喚く奥方を騎士に任せ。

「拘束しておけ。死なすなよ。
 まだまだ話してもらう事がある。
 それと、牢に移送したら洗浄魔法を忘れるな。臭くてたまらない。」

 顔を歪め自らを洗浄魔法で清めるとゴミクズを見るような目で奥方を見つめた。

「滅ぶとはどちらの方でしょうね。
 貴方方は手を出してはいけないものに手を出している事に気づいていない。」

 部屋から出たトゥーレの背中に些か貴族夫人としてはいただけない粗暴な言葉が響いていた。
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