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美食の旦那さん

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 今日一日のイオリを見ていてデニは安心した。
 愛し子としてのイオリは尊い存在であるのに乳屋の家族はイオリを身近に感じていた。
 イオリの過去がどうかは知らない、でも今、目の前にいる青年は人々に良い影響を与えていた。
 息子や番の話ではなく自らの目で見た事でデニは父親の話を思い出していた。


___

『稀に現れる愛し子は世界に影響を落とす力がある。
 教会に囲われ信仰の中心にいるか王族に生まれ支配をするか・・・。
 民に寄り添い導く人材であるかは、その時でなくてはわからない。
 神が何を持ってその者を愛し子とするのか・・・。
 我らは人に干渉し過ぎてはならないが主人と愛し子は見極めねばならない。
 坊が出会う愛し子が良き者であれば良いがな。』
___


『父様・・・。
 私が出会った愛し子はとても愛い子です。
 己の楽しい事に人を巻き込み一緒に楽しんでいる。
 我が主人も恵まれた出会いをいたしましたよ。』

 イオリの初めての馬車の旅の夜。
 白いカーバンクルが草間がら笑いかけていた・・・・様な気がした。




「さぁ、今日は疲れたろう。お風呂入って寝ようか?」

 すでに目を擦り始めているナギに声を掛けると案の定イオリに抱きついてきた。

「そうか、イオリのテントには風呂が付いているのか羨ましい。」

 ニコライは欠伸をしながら近づいてきた。

「入ります?いつでも良いですよ?」

「良いのか?ナギが眠そうだ。後でいいぞ?」

 眠そうなナギを気遣いイオリ達は先に風呂に入る事にした。

 双子、ナギ、ゼン、アウラを連れて風呂に入るといつも騒々しいお風呂タイムが今日は静かだった。

「流石に今日は疲れたよねー。
 しっかり温まったらグッスリ眠れるよ。」

 全員をサッパリとさせ布団に寝かす。
 ベットエリアの電気を消すとすぐに子供達とアウラは眠ってしまった。

 風呂の準備をして声をかけるとニコライだけでいいという。

「私は基本の洗浄魔法が使えますから、普段も魔法で済ましてしまう事もあるんですよ。」

 そういうエドガーにフランとバートは頷いた。

「俺は入りたい。遠出先で風呂に入ると体が楽になる。」

 ニコライを風呂に案内し使い方を教えると随分と驚いていた。

 残りはダウンフロアに案内しジャスミンでお茶を入れた。

「初めて入りましたけどね。
 こんなに立派な魔法テントなんて見た事ないですよ。」

 キョロキョロと辺りを見渡すバートは感心した様に言った。

「私達も初めてですよ。ヴァルト様から教えていただいてましたけど、驚きました。」

 エドガーの言葉にフランは頷く事しかできなかった。

「そうでした?
 譲り受けた時はゼンと2人で寝起きするのに十分の大きさだったんですけど、住む人数によって変わっていくんですかね?」

「そんなの聞いた事ないですよ。
 譲った方はどこで手に入れたんでしょうね。」

 イオリの言葉に流石グラトニー商会の人間も聞いた事がないという。
 イオリは肩を竦めた。

「大方ダンジョンではないのですか?
 あそこは不思議な物が手に入ると聞きますから。」

「だからこそ、冒険者の夢なんだろうがな。
 時折、貴族も金を出して冒険者や自分の騎士を送っているらしい。」

「以前、馬車屋さんがダンジョンに入ったって聞いたんです。
 怪我をされたっておっしゃってました。」

 エドガーとフランの話で思い出した様にイオリは言った。

「バルバルじーさんだな。
 あの人も若い頃は激しく活動していたらしいからな。
 命があって何よりだよ。」

 フランの言葉にはダンジョン攻略の難しさが表れている様だった。
 エドガーはイオリの顔を見て言った。

「興味がおありですか?
 確かにイオリ君は強いですが、魔獣ハントとは違う難しさがあると言います。
 簡単ではないかもしれませんよ?」

「ないと言ったら嘘ですね。
 でも、子供達が居ますから簡単には挑戦しませんよ。
 少なくともナギが1人で身を守れるくらい成長しないと・・・。」

 頷くエドガー達を他所にデニを肩に担いだニコライの軽い声が聞こえた。

「すぐだと思うぞ。」

 イオリはコップに水を汲み渡した。
 ニコライはグビッと飲んだ。

「美味いな。
 いやな、この間クリストフとエルノールが話していたんだ。
 ナギは優秀なんだとか、この間の瞬間移動だったか?
 立派に使いこなしているらしい。」

「ええ。聞きました。
 ナギ、人も一緒に瞬間移動させられるんですよ。
 この間はゼンと距離を伸ばす練習をしていました。」

「なんだって?
 そんな事が可能なのか?」

『相当の魔力コントロールが必要ですよ。
 ナギは戦闘の能力がない分、コントロールが良いのでしょう』

 デニの言葉にニコライ達は感心した様に眠るナギに視線を送った。

『最近は私達にも笑顔を見せてくれる。  
 優しい子だ。』

「でもその分、鬼ごっこは子供がやってると思えないほど激しいですけどね。」

 イオリが苦笑しながら言うと大人達は小さな声で笑った。

 この日、満天の星が広がる牧場の一角で小さく灯るテントの光が消えるのは随分夜が深まった時間であった。
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