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写真撮影
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お風呂から上がり、パジャマに着替える。まだ寝る時刻じゃないのにすごく眠い。慣れない環境で緊張しっぱなしで疲れていたからだ。
「寝るかい。眠そうだよ」
「うん……」
こくっとうなずいたら、身体がフワリと浮いた。
「お父さんがベッドまで連れて行ってあげる」
その人の腕が私を抱き上げたのだ。抱かれて移動しながら、重いまぶたが降りてくる。眠くて目を開けていられない。
優しい声が聞こえた。
「おやすみ。美沙は……ものだ」
……今、なんて言ったのかな。
そこまでだった。私は吸い込まれるように眠りに落ちていった。
♢
目が覚めたら朝になっていた。父が寝かせてくれたらしいベッドから降りる。
「おはよう美沙」
「おはよう……ございます」
その人……微笑んでいる父へ、ぎこちない挨拶をする。
「よく眠れたかい」
「あ、はい」
「朝食ができたから、おいで」
父のあとからキッチンへ行くと、そこに知らない女の人がいた。
お母さんよりも若い、と思った。大きな目で私を見ている。感情の読み取れない目だった。
「この子が?」
「そうだ」
「ふうん」
「もういいよ」
その女の人と父が短い会話を交わす。それだけで、その人は何も言わずにキッチンから出ていった。玄関のドアが開いて閉まる音が聞こえた。
……今のは誰だろう。
当然の疑問を抱いている私へ、
「さあ、食べようか」
父が明るく言った。説明してくれるつもりは無いらしい。
テーブルの上にはトーストと卵焼きにポテトサラダが用意されていた。椅子に座り、父と向かい合って、それらの朝食を食べ、急に気がついた。
この朝食はあの女の人が作ってくれたのだ。そうに違いない。するとあの人は。
「今日は美沙に妹たちに会ってもらう」
私の確信を裏付けるように、父が言った。
「私の……妹?」
「そうだよ」
私に妹はいない。母の子は私だけだ。だから父の家族の……だからあの女の人はきっと。
父に聞きたいことはいっぱいあった。
どうしてこの家には誰もいないのか。
なぜ急に私に会う気になったのか。
今まで母と私を放っておいたくせになぜ?
どうして……離婚したのか。
聞けなかった。
聞くのが怖かった。
今まで信じていた自分の世界が、母と過ごした穏やかな生活が崩れてしまいそうで怖かったのだ。
♢
朝食を終えると、写真を撮ると父が言い出した。買ってもらった服を着た私を撮りたいのだと言う。
「かわいい美沙を残しておきたいんだ」
昨日から何度もかわいいと褒められたら悪い気はしない。
服だけでなく、下着まで新しいものをつけるように言われ、戸惑いながらも寝室に戻り、パジャマと下着を脱いで、下ろしたての新しい服に着替えた。レースとリボンの飾りが付いた白いブラウスと水色のプリーツスカートに。女の子っぽい服だ。
窓に白いカーテンが掛かった、家具が置いていない、椅子がポツンとあるだけの広い部屋へ、その部屋の真ん中に立たされた。
「いいよ。すごくかわいいよ」
褒めまくる父からの指示でポーズをとる。三脚に載せたカメラで父が何枚も写真を撮る。
「その椅子に座って。さあ」
まるでファッションモデルにでもなったような気分で、言われるままにさまざまなポーズをとった。
「そうそう。かわいいね。美沙は美人だ」
自然に笑みが浮かぶ。もっとかわいく見えるように首を傾げたり、頬杖をついてみたりする。
けれど、舞い上がっていた気分も、父の一言で凍りついた。
「服を脱いで」
顔が引き攣るのがわかった。固まっていたら、
「服を脱ぎなさい」
父がまた命じた。思わず、
「いやっ。恥ずかしい」
拒否した。買ってくれた新しい下着をつけろと言われた理由がわかった。
「父さんは美沙のすべてを残しておきたいんだよ」
「でも、いやよ」
「今まで会えなかったから、こんなに大きくなって、かわいい美沙を、父さんの美沙を」
「だったらなんで……私とお母さんを捨てたの?」
込み上げてきた激情に駆られ、言いたくても言えなかった疑問をぶつけた。
「それは、お母さんが美沙に会わせないようにしていたからだよ」
「……お母さんが?」
「うん。美沙の養育費を受け散るのも断られた」
告げられた意外な事実に愕然となった。
「大変だったね。つらかったよね。ごめんよ美沙」
近づいてきたその人にぎゅうっと抱きしめられた。
「愛してる。美沙。ああ美沙」
温かい腕の中で、何度も何度も名前を呼ばれた。顔を上げたら、おでこにその人の唇が、そっと触れた。
「美沙はお父さんの大事な存在なんだ。だから」
「……うん」
……写真を撮られるなんて嫌だけど。
緊張と恥ずかしさで手が震えていた。その震える手でブラウスを脱ぎ、スカートを脱いだ。
「ああ、かわいいよ。すごくかわいい」
下着でたたずむ私へ、かわいいと繰り返しながら父が写真を撮る。
「横を向いて。そうだ。今度は後ろを向くんだ。そう、少し足を開いて。美沙はかわいいね」
命じられたとおりに。
私は人形だから。
かわいいお人形だから。
前を向いたり横向きになったり、後ろを向いたり、恥ずかしいのは変わらないけれど、だんだん慣れてきた。手の震えも止まった。緊張も薄れてきた。そんな私を、カメラのレンズを覗き込んだ父が撮影する。
少し疲れてきたころ、カメラから顔を上げた父がこう言った。
「それじゃあ、下着も脱いじゃおうか」
イヤと言いそうになり、唇をギュッと噛んでこらえた。
きっとそう言われるだろうと思っていたので、服を脱ぎなさいと命じられたときほどには驚かなかった。
「父さんは、かわいい美沙のすべてを見たいんだ。残しておきたい」
「すべてを……?」
「そうだよ。大好きな美沙をね」
「……うん」
小さくうなずく。また手が震えていた。その手で下着を脱いでいく。
……恥ずかしいけれど……私はお人形だから。
「かわいいよ美沙。肌が白くてとても綺麗だ。大きくなったらきっとすごい美人になるよ」
レースのカーテン越しに差し込む朝の日差し。灯りをつけなくても部屋の中は明るい。その明るい部屋の真ん中、服も下着もぜんぶ脱いで裸になった。胸と大事なところを手で覆い隠し、少し背中を丸めて立つ。こちらを向いているカメラのレンズの前に、かすかに震えながら。けれど……。
「手をどかしなさい。美沙のすべてを見たいと言っただろう。手を下ろして背筋をまっすぐに、胸を張りなさい」
父の声は穏やかだった。しかしその命令には逆らえない。命じられたとおりに、身体を隠していた手をゆっくりと下ろす。
エアコンの効いた明るい部屋の中で、私の恥ずかしい姿を隠してくれるものは何もない。
裸になった私を父は写真に撮った。何枚も。いろいろなポーズをとらされた。私は大人しく従った。
「寝るかい。眠そうだよ」
「うん……」
こくっとうなずいたら、身体がフワリと浮いた。
「お父さんがベッドまで連れて行ってあげる」
その人の腕が私を抱き上げたのだ。抱かれて移動しながら、重いまぶたが降りてくる。眠くて目を開けていられない。
優しい声が聞こえた。
「おやすみ。美沙は……ものだ」
……今、なんて言ったのかな。
そこまでだった。私は吸い込まれるように眠りに落ちていった。
♢
目が覚めたら朝になっていた。父が寝かせてくれたらしいベッドから降りる。
「おはよう美沙」
「おはよう……ございます」
その人……微笑んでいる父へ、ぎこちない挨拶をする。
「よく眠れたかい」
「あ、はい」
「朝食ができたから、おいで」
父のあとからキッチンへ行くと、そこに知らない女の人がいた。
お母さんよりも若い、と思った。大きな目で私を見ている。感情の読み取れない目だった。
「この子が?」
「そうだ」
「ふうん」
「もういいよ」
その女の人と父が短い会話を交わす。それだけで、その人は何も言わずにキッチンから出ていった。玄関のドアが開いて閉まる音が聞こえた。
……今のは誰だろう。
当然の疑問を抱いている私へ、
「さあ、食べようか」
父が明るく言った。説明してくれるつもりは無いらしい。
テーブルの上にはトーストと卵焼きにポテトサラダが用意されていた。椅子に座り、父と向かい合って、それらの朝食を食べ、急に気がついた。
この朝食はあの女の人が作ってくれたのだ。そうに違いない。するとあの人は。
「今日は美沙に妹たちに会ってもらう」
私の確信を裏付けるように、父が言った。
「私の……妹?」
「そうだよ」
私に妹はいない。母の子は私だけだ。だから父の家族の……だからあの女の人はきっと。
父に聞きたいことはいっぱいあった。
どうしてこの家には誰もいないのか。
なぜ急に私に会う気になったのか。
今まで母と私を放っておいたくせになぜ?
どうして……離婚したのか。
聞けなかった。
聞くのが怖かった。
今まで信じていた自分の世界が、母と過ごした穏やかな生活が崩れてしまいそうで怖かったのだ。
♢
朝食を終えると、写真を撮ると父が言い出した。買ってもらった服を着た私を撮りたいのだと言う。
「かわいい美沙を残しておきたいんだ」
昨日から何度もかわいいと褒められたら悪い気はしない。
服だけでなく、下着まで新しいものをつけるように言われ、戸惑いながらも寝室に戻り、パジャマと下着を脱いで、下ろしたての新しい服に着替えた。レースとリボンの飾りが付いた白いブラウスと水色のプリーツスカートに。女の子っぽい服だ。
窓に白いカーテンが掛かった、家具が置いていない、椅子がポツンとあるだけの広い部屋へ、その部屋の真ん中に立たされた。
「いいよ。すごくかわいいよ」
褒めまくる父からの指示でポーズをとる。三脚に載せたカメラで父が何枚も写真を撮る。
「その椅子に座って。さあ」
まるでファッションモデルにでもなったような気分で、言われるままにさまざまなポーズをとった。
「そうそう。かわいいね。美沙は美人だ」
自然に笑みが浮かぶ。もっとかわいく見えるように首を傾げたり、頬杖をついてみたりする。
けれど、舞い上がっていた気分も、父の一言で凍りついた。
「服を脱いで」
顔が引き攣るのがわかった。固まっていたら、
「服を脱ぎなさい」
父がまた命じた。思わず、
「いやっ。恥ずかしい」
拒否した。買ってくれた新しい下着をつけろと言われた理由がわかった。
「父さんは美沙のすべてを残しておきたいんだよ」
「でも、いやよ」
「今まで会えなかったから、こんなに大きくなって、かわいい美沙を、父さんの美沙を」
「だったらなんで……私とお母さんを捨てたの?」
込み上げてきた激情に駆られ、言いたくても言えなかった疑問をぶつけた。
「それは、お母さんが美沙に会わせないようにしていたからだよ」
「……お母さんが?」
「うん。美沙の養育費を受け散るのも断られた」
告げられた意外な事実に愕然となった。
「大変だったね。つらかったよね。ごめんよ美沙」
近づいてきたその人にぎゅうっと抱きしめられた。
「愛してる。美沙。ああ美沙」
温かい腕の中で、何度も何度も名前を呼ばれた。顔を上げたら、おでこにその人の唇が、そっと触れた。
「美沙はお父さんの大事な存在なんだ。だから」
「……うん」
……写真を撮られるなんて嫌だけど。
緊張と恥ずかしさで手が震えていた。その震える手でブラウスを脱ぎ、スカートを脱いだ。
「ああ、かわいいよ。すごくかわいい」
下着でたたずむ私へ、かわいいと繰り返しながら父が写真を撮る。
「横を向いて。そうだ。今度は後ろを向くんだ。そう、少し足を開いて。美沙はかわいいね」
命じられたとおりに。
私は人形だから。
かわいいお人形だから。
前を向いたり横向きになったり、後ろを向いたり、恥ずかしいのは変わらないけれど、だんだん慣れてきた。手の震えも止まった。緊張も薄れてきた。そんな私を、カメラのレンズを覗き込んだ父が撮影する。
少し疲れてきたころ、カメラから顔を上げた父がこう言った。
「それじゃあ、下着も脱いじゃおうか」
イヤと言いそうになり、唇をギュッと噛んでこらえた。
きっとそう言われるだろうと思っていたので、服を脱ぎなさいと命じられたときほどには驚かなかった。
「父さんは、かわいい美沙のすべてを見たいんだ。残しておきたい」
「すべてを……?」
「そうだよ。大好きな美沙をね」
「……うん」
小さくうなずく。また手が震えていた。その手で下着を脱いでいく。
……恥ずかしいけれど……私はお人形だから。
「かわいいよ美沙。肌が白くてとても綺麗だ。大きくなったらきっとすごい美人になるよ」
レースのカーテン越しに差し込む朝の日差し。灯りをつけなくても部屋の中は明るい。その明るい部屋の真ん中、服も下着もぜんぶ脱いで裸になった。胸と大事なところを手で覆い隠し、少し背中を丸めて立つ。こちらを向いているカメラのレンズの前に、かすかに震えながら。けれど……。
「手をどかしなさい。美沙のすべてを見たいと言っただろう。手を下ろして背筋をまっすぐに、胸を張りなさい」
父の声は穏やかだった。しかしその命令には逆らえない。命じられたとおりに、身体を隠していた手をゆっくりと下ろす。
エアコンの効いた明るい部屋の中で、私の恥ずかしい姿を隠してくれるものは何もない。
裸になった私を父は写真に撮った。何枚も。いろいろなポーズをとらされた。私は大人しく従った。
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