サンタの願いと贈り物

紅茶風味

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【淳平編】3話-2

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 昼食を終え、早々にそこを立ち去った。騒がしい教室に戻って進路希望の用紙を取り出し、周囲に目もくれずそこを後にする。

 職員室に行くと、三上は机に向かって何か作業をしていた。近づけば、テストの答案用紙に赤丸を付けているところだった。周囲に座っている教員も、昼休みだというのに何かしらの仕事をしている。

「三上先生」

 僕の声に顔を上げ、椅子ごと身体を反転させた。背後に立っていた僕に、あぁ、と変わらない表情のまま言う。

「遅くなって、すみません」

 用紙を差し出すと、無言のまま受け取る。見定めるように志望校を見つめる姿に、少しだけ怯んだ。大丈夫、指摘されるようなことはないはずだ。ちゃんと身の丈にあった学校を書いたし、第三希望まで埋めてある。

 三上は用紙から視線を外し、僕を見上げた。

「たしか、小さな弟か妹がいたな」

 突然のその質問に、面を食らう。

「え、はい……。弟が、いますけど」
「いくつだ」
「四歳です」
「今はどうしてる。母親はいないのだろう、誰か傍にいるのか?」
「えっと、保育園に通っているので」
「お前が迎えに行っているのか、一人にするような時間は無いだろうな」
「無いですよ。そのへんは、父と話し合って分担してます」
「そうか……」

 矢継ぎ早の質問がやむと、三上の視線は僕から外れ、そのまま椅子が反転した。無言で背中を向けられ、どうしたらいいのか分からずに立ち尽くしていると、「もう戻っていい」と小さく声が聞こえてきた。その手は既に、次の赤丸を付け始めている。

 背中に向かって挨拶をし、職員室を出た。結局、進路希望については問題は無かったようだ。弟についての質問は、おそらく今問題になっている事件を危惧してのことだろう。普段から無愛想で感情が見えない先生だが、意外と親身になってくれるのかもしれない。



「今日のよるごはんはハンバーグ」

 葵が僕の手を握ったまま、独り言のように言った。遠くで沈みかけている夕日が、その小さな顔を照らしている。

 保育園へ葵を迎えに行き、その帰り道にあるスーパーで夕飯の材料を買う。いつも通りの行動パターンだ。

「ハンバーグって、どうやって作るか知ってるか?」

 家の近くの狭い道路を歩きながら、葵に聞いた。

「おなべで焼くんだよ」
「お鍋じゃなくて、フライパンな。その前にも、色々とやることがあるんだ」
「ふーん」

 興味の無さそうな返事で、会話が途切れた。スーパーの袋の中には、特売だったひき肉のパックと、玉ねぎや卵、サラダ用の野菜パックが入っている。パン粉は家に残りがあるはずだ。

「そろそろ葵も、料理のお手伝いができるといいなぁ」

 少しわざとらしくそう言うと、葵が不思議そうな顔で見上げてくる。

「おてつだいができると、なんなの?」

 何だか棘のある言い方だが、純粋に分からないのだろう。僕が楽になる、と言ったら、葵は納得するだろうか。もっと、料理自体に対するメリットを伝えた方がいい気がする。

「えっと、お手伝いして、料理ができるようになると、そのー……嬉しいだろ。おいしい物を食べると、心が幸せになるし」

 上手く言えない。こういう時、子供に対してどんな言い方をすればいいのかが、全く分からない。

 葵はたどたどしい僕の説明を黙って聞き、尻すぼみに終わったのを確認するとゆっくりと口を開いた。

「お兄ちゃんは、あおいが料理できるようになったらうれしい?」
「嬉しい、嬉しいよ」

 慌てて答える。

「お父さんは?」
「お父さんも嬉しいよ、きっと凄く喜ぶよ」
「お母さんも?」

 思わず足が止まった。手を繋いでいた葵も、一歩遅れて止まる。見上げてくる顔に笑顔を作って見せ、何でもなかったようにまた歩き出した。

「やっぱり、葵にはまだ料理は早いかな」
「えー」

 さほど残念そうではない声が、静かに弱く、僕の耳に届いた。
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