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男女混☆合サッカー大会
024 休日返上
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休日返上で仕事に勤しむのは、社会人の鏡に思えてそうではない。本来取得できる休暇をわざわざ勤務に充てているのだから、休息時間を自らどぶに捨てる自殺行為である。体の健康は、損なって初めて重要さを身にしみて感じるのだ。
もっとも、それを理解していながら出勤せざるを得ないこともあるのだが。
ちびっ子時代の思い出が詰まる、こじんまりとした公園。芝生面積は狭く、植樹をしようものなら遊び場が消失してしまう。
近所にあることもあって、まだ『公園』を漢字で書けない時期にはここを駆けまわっていた。訳も分からず等速直線運動を反復し、衣服を土だらけにしてこっぴどく叱られたものである。
……放課後返上で、ねぇ……。
高校生の健介は、一番乗りで空っぽの公園へ到着していた。子供心をくすぶられたのではなく、とある約束を果たしてのことだ。昨日にボールと触れ合う事すら叶わなかった麻里に、どうしてもサッカーの相手になってくれと頼まれているのである。
腕時計に目をやると、まだ予定時刻まで若干の余裕があった。スマホがポケットに入っていないのが残念だ。
ついでに悠奈を誘おうかとインターホンを押しかけたのだが、友達ごときで異性の家に突入することは流石に憚(はばか)られた。あの日の悲劇が根に染みついてから、まだ一回も魔境を突破したことがない。
住宅街あるあるの一つとして、平日の真昼間はゴーストタウンと化す。呪いのお札が各家の玄関にでも貼り付けられているかのように、人が出てくることも無ければ鍵を回す音もしない。
コミュニティ意識が希薄になった現代社会で、近所づきあいなどあったものではない。唯一家庭で交流していたと言えるのは、斜め向かいの悠奈だけである。
「……健介くーん! 何か酷い事されてないー?」
ヒソヒソ話が筒抜けになりそうな場が、にわかに騒がしくなる。騒音の正体は、街はずれから全力疾走してきた女子高生にあった。
……サッカーボール片手に、か……。
キャップとユニフォームを装着したその姿かたちは、サッカー部のもの。サッカーへの情熱を昂らせていただけの風格をにおわせている。
麻里が履いているのは、普段目にする真っ白の運動靴ではなかった。ほんのわずかに顔を見せる靴裏に、ゴムのトゲがびっしりと生えている。女子サッカーの強化選手の名簿に上がっていても、気付かずにスルーしそうだ。
「……誰もいないだろ? 埋め込まれた機械を遠隔操作されてるわけじゃあるまいし」
「……それだ! きっと、多田さんがマイクロチップを埋め込んだんだよ!」
手を打って陰謀論を主張されても、受け入れかねる。健介の身体をコントロールできたとして、悠奈に何のメリットがあるのか。
……麻里は、悠奈のことを本当に排除しに来てるよな……。
昨日もそうだった。彼女が誘拐という過激手段に手を染めたのは、サッカー相手になってもらうため。成り行きで悠奈がオマケとして付いてきたが、麻里の計画には居なかったはずだ。
紙切れ一枚で人を切り捨てられたのは健介であり、麻里は何も関与していない。ライバル視する人物に勝ちたいのなら、追い出さずに真っ向勝負を挑めばよい。
「……昨日は、上に放置しちゃってごめんね。多田さんに煽られて、ヒートアップしちゃって……」
「麻里も十分煽ってたけどな」
「……少なくとも、ロープはほどいてあげるつもりだった……」
サッカーボールを巧みな足技でさばきながら、目線は上の空。麻里に目隠しをしてサッカーをさせても、健介がゴールネットを揺らす日は訪れなさそうである。
刑法と照らし合わせると、万引きは立派な犯罪。誘拐ともなれば、量刑は重いものになる。
……罪の意識は一応ありそうだけど、そこじゃないんだよ……。
縄をほどかなかったことについて謝罪していて、健介を上階に縛り付けたことは対象外らしい。常識にも、断層でズレる現象は起こりえるのか。
「私、保健室でずっと看病してたんだよ? 太陽の方向に向かって土下座したり、手をギュッと握ってあげたり……。多田さんに隠蔽されて、知らないんだよね……」
「悠奈から全部聞いたよ。ありがとう……って感謝すべきなのか、この場合?」
悠奈は、ぐったりしていた健介を介抱してからの経過を洗いざらい暴露してくれた。本人が誇大広告を打ったかもしれないが、悠奈をステージから落とそうとするあまり嘘をふんだんに混ぜ込む麻里よりは信頼がおける。
運動部に嫌気がさして引退した身でも、その名残は体重に現れる。標準体重を超過する健介の身体を女一人で背負うのは、満杯の米俵を担いで運ぶよりも苦労したに違いない。
「倒れてた俺を、悠奈が運んでくれたんだってな」
「え……。多田さん、裏切ったな……」
もっとも、それを理解していながら出勤せざるを得ないこともあるのだが。
ちびっ子時代の思い出が詰まる、こじんまりとした公園。芝生面積は狭く、植樹をしようものなら遊び場が消失してしまう。
近所にあることもあって、まだ『公園』を漢字で書けない時期にはここを駆けまわっていた。訳も分からず等速直線運動を反復し、衣服を土だらけにしてこっぴどく叱られたものである。
……放課後返上で、ねぇ……。
高校生の健介は、一番乗りで空っぽの公園へ到着していた。子供心をくすぶられたのではなく、とある約束を果たしてのことだ。昨日にボールと触れ合う事すら叶わなかった麻里に、どうしてもサッカーの相手になってくれと頼まれているのである。
腕時計に目をやると、まだ予定時刻まで若干の余裕があった。スマホがポケットに入っていないのが残念だ。
ついでに悠奈を誘おうかとインターホンを押しかけたのだが、友達ごときで異性の家に突入することは流石に憚(はばか)られた。あの日の悲劇が根に染みついてから、まだ一回も魔境を突破したことがない。
住宅街あるあるの一つとして、平日の真昼間はゴーストタウンと化す。呪いのお札が各家の玄関にでも貼り付けられているかのように、人が出てくることも無ければ鍵を回す音もしない。
コミュニティ意識が希薄になった現代社会で、近所づきあいなどあったものではない。唯一家庭で交流していたと言えるのは、斜め向かいの悠奈だけである。
「……健介くーん! 何か酷い事されてないー?」
ヒソヒソ話が筒抜けになりそうな場が、にわかに騒がしくなる。騒音の正体は、街はずれから全力疾走してきた女子高生にあった。
……サッカーボール片手に、か……。
キャップとユニフォームを装着したその姿かたちは、サッカー部のもの。サッカーへの情熱を昂らせていただけの風格をにおわせている。
麻里が履いているのは、普段目にする真っ白の運動靴ではなかった。ほんのわずかに顔を見せる靴裏に、ゴムのトゲがびっしりと生えている。女子サッカーの強化選手の名簿に上がっていても、気付かずにスルーしそうだ。
「……誰もいないだろ? 埋め込まれた機械を遠隔操作されてるわけじゃあるまいし」
「……それだ! きっと、多田さんがマイクロチップを埋め込んだんだよ!」
手を打って陰謀論を主張されても、受け入れかねる。健介の身体をコントロールできたとして、悠奈に何のメリットがあるのか。
……麻里は、悠奈のことを本当に排除しに来てるよな……。
昨日もそうだった。彼女が誘拐という過激手段に手を染めたのは、サッカー相手になってもらうため。成り行きで悠奈がオマケとして付いてきたが、麻里の計画には居なかったはずだ。
紙切れ一枚で人を切り捨てられたのは健介であり、麻里は何も関与していない。ライバル視する人物に勝ちたいのなら、追い出さずに真っ向勝負を挑めばよい。
「……昨日は、上に放置しちゃってごめんね。多田さんに煽られて、ヒートアップしちゃって……」
「麻里も十分煽ってたけどな」
「……少なくとも、ロープはほどいてあげるつもりだった……」
サッカーボールを巧みな足技でさばきながら、目線は上の空。麻里に目隠しをしてサッカーをさせても、健介がゴールネットを揺らす日は訪れなさそうである。
刑法と照らし合わせると、万引きは立派な犯罪。誘拐ともなれば、量刑は重いものになる。
……罪の意識は一応ありそうだけど、そこじゃないんだよ……。
縄をほどかなかったことについて謝罪していて、健介を上階に縛り付けたことは対象外らしい。常識にも、断層でズレる現象は起こりえるのか。
「私、保健室でずっと看病してたんだよ? 太陽の方向に向かって土下座したり、手をギュッと握ってあげたり……。多田さんに隠蔽されて、知らないんだよね……」
「悠奈から全部聞いたよ。ありがとう……って感謝すべきなのか、この場合?」
悠奈は、ぐったりしていた健介を介抱してからの経過を洗いざらい暴露してくれた。本人が誇大広告を打ったかもしれないが、悠奈をステージから落とそうとするあまり嘘をふんだんに混ぜ込む麻里よりは信頼がおける。
運動部に嫌気がさして引退した身でも、その名残は体重に現れる。標準体重を超過する健介の身体を女一人で背負うのは、満杯の米俵を担いで運ぶよりも苦労したに違いない。
「倒れてた俺を、悠奈が運んでくれたんだってな」
「え……。多田さん、裏切ったな……」
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