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雨
007 歴史は繰り返す
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「……去年悠奈とゲーセンに行ったとき、女子平均を割ってたんだけどなぁ……」
生まれつき肉体を改造されたサイボーグ説は、そこで否定された訳だ。有無を言わさずラブレターを突き返した無感情な悠奈は存在すれど、人間と言う生物を辞めてまではいなかった。
才能は無くとも、技術を熟練させれば同等の境地に達することが出来る。
悠奈は、元となる筋肉が不足している。欠けたパワーを補っているのが、弱点を正確に突く老獪な技能なのだ。陸上選手をプロ野球に入団させて、盗塁王を獲得できないのも同様の例と言えよう。
……虚言癖はいつものことだけれども……。
発するネタに行き詰まっている麻里を見ていると、取り付けたばかりの約束も色あせてくるものだ。ハナから完遂する意思が一度も表示されていないのだから。
健介とて、口だけ公約を達成してもらおうとは思っていない。これを好機と法廷で争おうとしても、玄関口となる裁判を開いてくれない。
「ゲームセンターの機械なんて、精密なのと比べて全く信用できないよ? 私の証言とゲームセンター、どっちを信じるの?」
「それはもちろん後者だな」
「……ええ……」
共感を呼びかけようと視線を落とした表情から打って変わって、不満を平たんになったまぶた主張するようになった。麻里の透明な化けの皮が剥がれた。
トップの怒気が伝播したのか、周りの女子たちも足が落ち着いていない。クラスは麻里に支配されていて、健介が一人で立ち向かえる空気は残っていなかった。
「……健介くん、もうちょっと身分をわきまえた方がいいかな。悪い子リストに入れて、布に包み隠してもいいんだよ?」
権力で不正をもみ消す政治家は、邪悪な笑みを浮かべるお嬢様とそう変わらないのだろう。国の将来を左右する大一番で不正が横行するヤツは、悠奈との縁以上に腐乱臭が漂っているに違いない。
指令系統は張り巡らされていて、教室にいる女子全員が捕獲網を手に取っていた。一言健介が批判的な文章を口にすれば、ガムテープで言論を封じられてしまう。
どこかのヒーローに、健介はならない。正答は、状況次第で捻じ曲げられるか弱いものなのだ。
「……多田さんが、そのまま私を引きずって家まで……」
『ドンッ!』
担任でさえ閉め切られた扉には四苦八苦するというのに、その代物を発泡スチロールにしてしまった人物が乗り込んできた。
彼女の身が空間に浸ったと同時に、後方の扉が反動で元に戻る。跳ね返された力のみで、重たい金属扉が片道切符を得たのだ。
クラス名簿に、この芸当をやってのける女子は一人しかいない。
「……黙って聞き耳を立ててたら、健介にあること無い事吹き込んで……。あと一秒遅かったら、教室のドアを押し倒してたよ……」
密閉空間だった教室内の音を拾っていることが、彼女の非凡さを浮き彫りにしている。
「……もちろん、健介は騙されてないよね?」
「麻里がウソを付くなんて、日常茶飯事だしな……」
自身を正当化したいばかりに、他人の地位を削る。大胆な手口が通用していたのは、麻里の取り巻きあってのことだ。
一年次は慎重に事を運んでいたようだったが、誰からも止められなかったことで暴走して今に至る。
悠奈との勝負とあって、退くにも引き下がれなくなった麻里。真剣を振りかざした敵に、つばを飲み込んで竹刀を構えた。
「……丁度いい機会だから、多田さんにも言っておこうかな。いくら一匹狼でも、私のいう事に逆らったら……」
「……逆らったら……?」
「……とにかく、言うことを聞いてもらうから!」
議論に発展すると、状況供述と能力の差で確実に負けると踏んだようだ。実力行使で、正義の使徒を抑え込みにかかろうとした。
……学食で一回痛い目を見てるはずなのに……。俺はもう知らないぞ……。
エスケープルートを、麻里は拒否した。自身が決めた道なのだから、末端まで身に染みて経験して欲しい。
「……マリちゃんの気持ちは、変わらないみたいだね……」
そして、悠奈の柔らかみが消し飛んだ。
「……正義執行(じゃすてぃす)……!」
次のコマでは、既に麻里が下腹部を押さえてコンクリートにひざまずいていたのであった。
生まれつき肉体を改造されたサイボーグ説は、そこで否定された訳だ。有無を言わさずラブレターを突き返した無感情な悠奈は存在すれど、人間と言う生物を辞めてまではいなかった。
才能は無くとも、技術を熟練させれば同等の境地に達することが出来る。
悠奈は、元となる筋肉が不足している。欠けたパワーを補っているのが、弱点を正確に突く老獪な技能なのだ。陸上選手をプロ野球に入団させて、盗塁王を獲得できないのも同様の例と言えよう。
……虚言癖はいつものことだけれども……。
発するネタに行き詰まっている麻里を見ていると、取り付けたばかりの約束も色あせてくるものだ。ハナから完遂する意思が一度も表示されていないのだから。
健介とて、口だけ公約を達成してもらおうとは思っていない。これを好機と法廷で争おうとしても、玄関口となる裁判を開いてくれない。
「ゲームセンターの機械なんて、精密なのと比べて全く信用できないよ? 私の証言とゲームセンター、どっちを信じるの?」
「それはもちろん後者だな」
「……ええ……」
共感を呼びかけようと視線を落とした表情から打って変わって、不満を平たんになったまぶた主張するようになった。麻里の透明な化けの皮が剥がれた。
トップの怒気が伝播したのか、周りの女子たちも足が落ち着いていない。クラスは麻里に支配されていて、健介が一人で立ち向かえる空気は残っていなかった。
「……健介くん、もうちょっと身分をわきまえた方がいいかな。悪い子リストに入れて、布に包み隠してもいいんだよ?」
権力で不正をもみ消す政治家は、邪悪な笑みを浮かべるお嬢様とそう変わらないのだろう。国の将来を左右する大一番で不正が横行するヤツは、悠奈との縁以上に腐乱臭が漂っているに違いない。
指令系統は張り巡らされていて、教室にいる女子全員が捕獲網を手に取っていた。一言健介が批判的な文章を口にすれば、ガムテープで言論を封じられてしまう。
どこかのヒーローに、健介はならない。正答は、状況次第で捻じ曲げられるか弱いものなのだ。
「……多田さんが、そのまま私を引きずって家まで……」
『ドンッ!』
担任でさえ閉め切られた扉には四苦八苦するというのに、その代物を発泡スチロールにしてしまった人物が乗り込んできた。
彼女の身が空間に浸ったと同時に、後方の扉が反動で元に戻る。跳ね返された力のみで、重たい金属扉が片道切符を得たのだ。
クラス名簿に、この芸当をやってのける女子は一人しかいない。
「……黙って聞き耳を立ててたら、健介にあること無い事吹き込んで……。あと一秒遅かったら、教室のドアを押し倒してたよ……」
密閉空間だった教室内の音を拾っていることが、彼女の非凡さを浮き彫りにしている。
「……もちろん、健介は騙されてないよね?」
「麻里がウソを付くなんて、日常茶飯事だしな……」
自身を正当化したいばかりに、他人の地位を削る。大胆な手口が通用していたのは、麻里の取り巻きあってのことだ。
一年次は慎重に事を運んでいたようだったが、誰からも止められなかったことで暴走して今に至る。
悠奈との勝負とあって、退くにも引き下がれなくなった麻里。真剣を振りかざした敵に、つばを飲み込んで竹刀を構えた。
「……丁度いい機会だから、多田さんにも言っておこうかな。いくら一匹狼でも、私のいう事に逆らったら……」
「……逆らったら……?」
「……とにかく、言うことを聞いてもらうから!」
議論に発展すると、状況供述と能力の差で確実に負けると踏んだようだ。実力行使で、正義の使徒を抑え込みにかかろうとした。
……学食で一回痛い目を見てるはずなのに……。俺はもう知らないぞ……。
エスケープルートを、麻里は拒否した。自身が決めた道なのだから、末端まで身に染みて経験して欲しい。
「……マリちゃんの気持ちは、変わらないみたいだね……」
そして、悠奈の柔らかみが消し飛んだ。
「……正義執行(じゃすてぃす)……!」
次のコマでは、既に麻里が下腹部を押さえてコンクリートにひざまずいていたのであった。
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