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一章 何か、おかしい
純 CHAPTER3
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四時間目終了のチャイムが鳴り、授業終わりの号令がかかった。教室の中が一気に騒がしくなる。
「純ちゃん、今日も別にすることないなら一緒に帰ろ」
中学校の授業過程が全て終了して少しばかり体の力が抜けていた純に、恭平から『一緒に帰宅しよう』という勧誘がかかった。別に用事があるわけでもないので、素直に提案に乗った。
恭平の『今日も』という言い方からも分かるように、ここ最近は毎日恭平と一緒に帰っている。
----------
「とうとう、明日でもう中学校も終わりか……」
今日の登校中に純も同じことを言っていた気がする。わざわざ復唱するぐらい、恭平にとっても中学校がかなり短いように思えているのだろう。
「で、もうバラバラになっちゃうのか。当然高校はみんな違うから」
「バラバラになるって言ったって、別に住む場所がいきなり変わるわけでもないよね? ……基本的に」
ここが田舎だとすれば大部分の人が一番近い高校を受けるのだろうが、幸いというべきかあいにくというべきか、純たちが住んでいる地域は高校が周辺に一校しかないわけではない。電車で行くことができるところまで含むと、10校ぐらいあるのではないだろうか。
「でも、会える機会は相当減っちゃうんじゃない?」
「それは、確かにそうだけど……」
何かつながりがない限りは、当然会わなくなる。
「だから、この場で事前にさよならを言っておこうと思って」
「!!!」
恭平が言っていることは、『もう純と恭平が会うことはほとんどないだろう』という前提になってしまっている。
(そんなの……嫌。これからも、ずーっと、恭平と一緒にいたい)
「まだ明日が残ってるのに? それに、これからだって……」
言葉にしたい部分をどう言葉に訳せばいいのか分からない。続けて何を言えばいいのだろう。
「明日は『じゃあね』ぐらいの明るくて軽い挨拶で済ませたいから、悲しくて重いほうを今日のうちに言っておきたいんだ。それに、志望先の高校……。確か、純ちゃんは、『群石高校』だったでしょ?」
(あれ、私、恭ちゃんに志望先の高校、言ったっけ?)
純の中に疑問として一瞬浮かんだものの、自分の勘違いだと思い、すぐに消えた。
「そうだけど。というか、話がずいぶん重いね」
「ごめん」
恭平がいったん謝りの言葉を入れる。
「話を戻すけど、僕の志望校は『盛成高校』なんだ。受験に落ちたら、なんていう暗い話でもない限り、バラバラになっちゃう。距離もかなり離れてるし」
確かに、群石と盛成は数キロ程度離れていたはずだ。
「恭くん、私の言いたいことはそういうことじゃなくて……」
「とにかく、明日が終われば会えなくなっちゃうから。二人で帰るのも明日が最後かな」
純が話そうとしているところを遮って、恭平が話を進める。
「じゃ、純ちゃん、また明日! 受験頑張ってね!」
そう言うと恭平は、さっさと今まで歩いてきた道を右に曲がっていってしまった。
「う、うん……」
恭平の背中がたちまち小さくなり、そして消えた。
(恭くんって、強引に話を持っていくタイプだっけ? ……気のせいかな)
またも恭平に対する疑問が生まれるが、無視する。
(このままじゃ、恭くんと会えなくなる。何とかして、私の思いを……)
純は恭平に今までもかなりの好意を向けていた。だが、たぶん恭平には本当の意味では届いていなかっただろう。現に、恭平の言い方がそれを物語っている。
中学校二年ぐらいになってからだろうか。純が恭平をそれまでの『幼馴染』や『大親友』以外に、『異性』として見るようになったのは。
最初は、『純ちゃん』という呼ばれ方を自分が無意識に嫌がっているのだと決めつけていた。
だが、時間がたつにつれて、だんだんその『異性』としても見るようになったのかの正体がわかってきた。そう、招待は好意という言葉に隠れた『恋愛感情』だったのだ。
別に気づいたからと言って、それだけで行動を起こすわけにもいかない。なぜ恭平に対して『恋愛感情』が湧いているのかが分かっていなかったからだ。
ただの幼馴染とは見切れず、また明確にどこが好きなのかもぼんやりとして全貌が分からない。
純は、長い時間を狭間で苦しんだ。そして、少しづつではあるが、その『どこが好きか』も自分の頭で理解できるようになった。
幼いときから一緒に過ごしてきた純だからこそ分かる、恭平のやさしさ、そして安心できる力強さに惚れていたのだ。決して作った顔ではない、恭平の中身を好きになっていたのだ。
中学校も明日で終わり、恭平と会うのも最後になるかもしれない。自分の気持ちを伝えられずに終わるのと、ダメでも自分の気持ちを伝えるのと、どちらが純にとってスッキリするか。
(それは、当然気持ちを伝えたい。たとえ相手にされなかったとしても)
明日がラストチャンス。やり直しは効かない。
(明日、恭くんを引き留めて、それからどこか人がいないところまで連れてきて……)
気が付けば、純は、明日どうやって恭平に想いを伝えるかに頭を没頭していた。そして、また頭の中に出てくるかすかな違和感も。
(恭くんの一人称、たしか『俺』だったような……。気のせいかな)
「純ちゃん、今日も別にすることないなら一緒に帰ろ」
中学校の授業過程が全て終了して少しばかり体の力が抜けていた純に、恭平から『一緒に帰宅しよう』という勧誘がかかった。別に用事があるわけでもないので、素直に提案に乗った。
恭平の『今日も』という言い方からも分かるように、ここ最近は毎日恭平と一緒に帰っている。
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「とうとう、明日でもう中学校も終わりか……」
今日の登校中に純も同じことを言っていた気がする。わざわざ復唱するぐらい、恭平にとっても中学校がかなり短いように思えているのだろう。
「で、もうバラバラになっちゃうのか。当然高校はみんな違うから」
「バラバラになるって言ったって、別に住む場所がいきなり変わるわけでもないよね? ……基本的に」
ここが田舎だとすれば大部分の人が一番近い高校を受けるのだろうが、幸いというべきかあいにくというべきか、純たちが住んでいる地域は高校が周辺に一校しかないわけではない。電車で行くことができるところまで含むと、10校ぐらいあるのではないだろうか。
「でも、会える機会は相当減っちゃうんじゃない?」
「それは、確かにそうだけど……」
何かつながりがない限りは、当然会わなくなる。
「だから、この場で事前にさよならを言っておこうと思って」
「!!!」
恭平が言っていることは、『もう純と恭平が会うことはほとんどないだろう』という前提になってしまっている。
(そんなの……嫌。これからも、ずーっと、恭平と一緒にいたい)
「まだ明日が残ってるのに? それに、これからだって……」
言葉にしたい部分をどう言葉に訳せばいいのか分からない。続けて何を言えばいいのだろう。
「明日は『じゃあね』ぐらいの明るくて軽い挨拶で済ませたいから、悲しくて重いほうを今日のうちに言っておきたいんだ。それに、志望先の高校……。確か、純ちゃんは、『群石高校』だったでしょ?」
(あれ、私、恭ちゃんに志望先の高校、言ったっけ?)
純の中に疑問として一瞬浮かんだものの、自分の勘違いだと思い、すぐに消えた。
「そうだけど。というか、話がずいぶん重いね」
「ごめん」
恭平がいったん謝りの言葉を入れる。
「話を戻すけど、僕の志望校は『盛成高校』なんだ。受験に落ちたら、なんていう暗い話でもない限り、バラバラになっちゃう。距離もかなり離れてるし」
確かに、群石と盛成は数キロ程度離れていたはずだ。
「恭くん、私の言いたいことはそういうことじゃなくて……」
「とにかく、明日が終われば会えなくなっちゃうから。二人で帰るのも明日が最後かな」
純が話そうとしているところを遮って、恭平が話を進める。
「じゃ、純ちゃん、また明日! 受験頑張ってね!」
そう言うと恭平は、さっさと今まで歩いてきた道を右に曲がっていってしまった。
「う、うん……」
恭平の背中がたちまち小さくなり、そして消えた。
(恭くんって、強引に話を持っていくタイプだっけ? ……気のせいかな)
またも恭平に対する疑問が生まれるが、無視する。
(このままじゃ、恭くんと会えなくなる。何とかして、私の思いを……)
純は恭平に今までもかなりの好意を向けていた。だが、たぶん恭平には本当の意味では届いていなかっただろう。現に、恭平の言い方がそれを物語っている。
中学校二年ぐらいになってからだろうか。純が恭平をそれまでの『幼馴染』や『大親友』以外に、『異性』として見るようになったのは。
最初は、『純ちゃん』という呼ばれ方を自分が無意識に嫌がっているのだと決めつけていた。
だが、時間がたつにつれて、だんだんその『異性』としても見るようになったのかの正体がわかってきた。そう、招待は好意という言葉に隠れた『恋愛感情』だったのだ。
別に気づいたからと言って、それだけで行動を起こすわけにもいかない。なぜ恭平に対して『恋愛感情』が湧いているのかが分かっていなかったからだ。
ただの幼馴染とは見切れず、また明確にどこが好きなのかもぼんやりとして全貌が分からない。
純は、長い時間を狭間で苦しんだ。そして、少しづつではあるが、その『どこが好きか』も自分の頭で理解できるようになった。
幼いときから一緒に過ごしてきた純だからこそ分かる、恭平のやさしさ、そして安心できる力強さに惚れていたのだ。決して作った顔ではない、恭平の中身を好きになっていたのだ。
中学校も明日で終わり、恭平と会うのも最後になるかもしれない。自分の気持ちを伝えられずに終わるのと、ダメでも自分の気持ちを伝えるのと、どちらが純にとってスッキリするか。
(それは、当然気持ちを伝えたい。たとえ相手にされなかったとしても)
明日がラストチャンス。やり直しは効かない。
(明日、恭くんを引き留めて、それからどこか人がいないところまで連れてきて……)
気が付けば、純は、明日どうやって恭平に想いを伝えるかに頭を没頭していた。そして、また頭の中に出てくるかすかな違和感も。
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