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001 ゴブリン ハードモードはつらいです
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地面に適当な葉っぱを敷いただけの薄暗い洞窟でオレは生まれた。
母ちゃんは生理的な不快感を覚える乱杭歯のゴブリンだ。
父ちゃんは誰だかわからないけど、氏族の全員が親であり家族でありって感じの生活をしている。
正直に言って、自我が芽生えた時には心が折れたけどね。
前世は碌な人生じゃなかった。
まぁ死んじまった今となってはもうどうでもいい。
たださ転生した先がゴブリンってどういうことだよ。
どんだけオレは過去に悪行を積んできたんだって話だ。
転生したらチーレムで無双できるんだってのは嘘だった。
とにかく嫌悪感に悩まされながらも、オレはゴブリンとして生きてきた。
そんな中でいろいろと分かったことがある。
オレが生まれたのは暗雲の森ってところだ。
色んな動物や魔物が棲んでいるのは森の恵みが豊富にあるからだろう。
そんな暗雲の森の中で、ゴブリンは最低クラスの強さだ。
森の中になっている木の実を主食として、偶に獲れる動物の肉を喰らう。
調味料なんて贅沢なものはない。
危険な場所に住んでいるというのに、ゴブリンは氏族ごとに別れて棲んでいる。
ちなみにオレが生まれたのはマラキザという氏族だ。
氏族の規模としてはあまり大きくないんじゃないかな。
オスが十二匹にメスが六匹だから、全部で二十に満たない数だ。
その理由は長が語ってくれた。
数年前にどこかのバカが森の上位捕食者である大牙虎に狙われ、氏族の拠点まで逃げてしまったと。
大牙虎からすればボーナスステージみたいなもんだ。
氏族の半数以上が殺されちまったらしい。
それから拠点を変えて、緩やかに氏族の人数は増えているところだ。
ちなみにオレは大牙虎が起こした惨劇の後に生まれている。
ただでさえ弱い種族であるのだから、氏族ごとに共棲関係にあるのかと言えばそうではない。
基本的にそんな知恵は持っていないからだ。
出会ってしまったら同族であっても敵としかみない。
恐ろしくレベルの低い殺し合いをすることになる。
そんなゴブリンたちが最も恐れるのは同族ではなくニンゲンなのだ。
ニンゲンはゴブリンを蛇蝎のごとく忌み嫌い、見かければ殺しにくる。
逃げ回るしかないんだが、いかんせんゴブリンの足は遅い。
見つかれば氏族ごと皆殺しの目にあってしまう。
「ゴブぅううううう!」
おっと。誰かが叫んでいる。
洞窟の外に出てみると、広場で氏族の長であるシモ爺が粗末な杖を片手に小躍りしていた。
「うるせえぞ、シモ爺」
シモ爺って呼び名はオレがつけた。
本名はシモニークっていうんだけど、いまいちピンとこないんだよな。
それでシモ爺って付けたんだが、本人は意外と喜んでた。
「マラクスか。相変わらず生意気なヤツじゃのう。まぁいい。さっきな神のお告げがあったんじゃが、アンバの奴らが滅んだそうな」
アンバってのはうちと縄張りが近い氏族のことだ。
神のお告げっていってもシモ爺の頭がどうにかなっているわけじゃない。
実はゴブリンに加護を与えている神ってのがいるんだ。
暗がりと性欲の神であるイライト。
ゴブ爺はイライトからのお告げを受信できる、ゴブリン神官という希少クラスなのだ。
「理由は?」
「ニンゲンどもじゃ」
なんで浮かれてやがるんだ。
ニンゲンに襲われたら、こんな弱小氏族なんて一巻の終わりだぞ。
「ヤベえじゃねえかよ! なんで踊ってんだ!」
”フフフ”と含み笑いをしたゴブ爺が貧相な胸を張った。
「マラクスのおバカっ! アンバの奴らが死んだら、縄張りが増えるじゃろうが!」
「いやその前にニンゲンに襲われるかもしれないだろ!」
「その発想はなかった……」
マラキザ種族で一番の知恵者のシモ爺がこのざまである。
ゴブリン全体で見れば、いかにお察しの状態かわかるものだ。
「ど、どどどど、どうしたらええんじゃ!」
シモ爺が口の端に唾をためながら慌てふためいている。
「どうするたって逃げるのがいちばんだろ」
本当は偵察にいって状況を把握したい。
ニンゲンにしても森の奥に進むことになるから、うちの氏族の拠点にくるかどうかわからない。
だからこそ偵察に出るのが重要なんだけど、それができる人材がいない。
オレ? 無理無理無理の無理の介だよ。
だって氏族でいちばんのガリガリだからね。
碌な前世ではなかったけど、飽食の国の記憶があるんだ。
どうしたって食が細くなるってもんだよ。
まぁそれでも病気をしたことはないから、ゴブリンって種族は消化器官が優秀なんだと思う。
オレと同世代の奴らは腹を下したりしてたけどな。
バカみたいに腐った肉を食うからだ。
「に、逃げるっていってもどこに行けばいいんじゃ!」
「それを考えるのが長の仕事だろうが」
「な、なにいいい!」
シモ爺が叫んだ瞬間だった。
ひゅんと音がしたかと思うと、シモ爺が燃えた。
は?
「ぎゃひいい!」
悲鳴があがると同時に血の臭いが鼻につく。
肉を燃やす嫌な臭いもする。
どさりとシモ爺の身体が音を立てて倒れた。
「ハッハー!」
若い陽気な声だ。
目を遣ると茶髪の小僧たちがいた。
剣を持っているのと槍を持ったのを、弓を構えているのと杖を持っているのの四人だ。
シモ爺がやられたのは恐らく杖を持っている魔法使いの仕業だろう。
弓を持っている奴が矢を放つ。
死んだ。
頭を射貫かれて死んだ。
どうする?
戦うって選択肢はない以上、逃げるしかない。
だけど身体が動かなかった。
膝ががくがくと震えて腰が抜けてしまう。
ぺたりと座り込んだオレの目の前に剣を持った小僧がいた。
「ふはっ。ゴブリンでも腰が抜けるんだな、笑わせてくれるぜ!」
熱い。
右の肩から左の腰へと抜けるように斬られた。
痛みよりも熱を感じた。
力が抜けていく。
「ラッセル、そこを離れろ。メータが洞窟に魔法を撃つ!」
「あいさー」
洞窟?
マズい、あそこはまだ子どもがいるんだぞ。
生理的な不快感を催させない希少な幼生体なんだ。
「や……めろ」
「お? なんだこいつ」
「やめ……ろ」
「ふは、ふはははは。おい、ギデオン」
「ん? どうしたんだラッセル」
「このゴブリン、俺たちの言葉がわかるみたいだぜ?」
「はっ! バカなことを言うな。ゴブリンにそんな知性があると思ってんのか」
「自分でも聞いてみたらいいだろ?」
「おい、ゴブリン。これを見ろ」
無理矢理に頭を掴まれた。
槍で串刺しにされたゴブリンの姿がある。
こいつは……オレを無駄に誘ってきたメスだ。
M字にV字と股を広げては”くぱあ”していた元気なメスだ。
「糞が」
理解不能な怒りに頭が沸き立つ。
前世の記憶もあったからか、どこか自分はゴブリンではないと思っていた。
それなら同族が殺されても怒りがわかないはずだ。
しかしどうだ。
ゴブリンたちを殺されてオレは猛烈な怒りを覚えている。
あまつさえ同族の子どもの心配もしたのだ。
下腹に響くような爆発音がした。
洞窟はがらがらと崩れ、熱気と爆風が辺りを焦がす。
「ははっ」
乾いた笑いが漏れる。
オレは……ゴブリンだ。
都合よくゴブリンじゃないなんて考えて、周りの奴らを馬鹿にしていた。
でも本当に馬鹿だったのはオレの方だ。
ちくしょう。
なんで理不尽に奪われるんだ。
いつだってそうだ。
前も現在も。
強いヤツってのは自覚がない。
奪われる弱者にも心があるってことに。
「おい!」
槍使いが足を刺してきた。
「お前、糞がって言ったよな!」
「な、俺たちの言葉が理解できて話せるんだぜ、このゴブリン」
うるせえよ。
黙ってろ。
「そんな目で睨むなよ」
剣使いがヤレヤレってポーズをとる。
それが癪に障った。
「殺して……やる」
「そりゃあ無理ってモンだ」
剣使いが唇の端を吊り上げて嘲笑った。
悪意に満ちた顔を見つめる。
絶対に復讐してやると思いながら……。
母ちゃんは生理的な不快感を覚える乱杭歯のゴブリンだ。
父ちゃんは誰だかわからないけど、氏族の全員が親であり家族でありって感じの生活をしている。
正直に言って、自我が芽生えた時には心が折れたけどね。
前世は碌な人生じゃなかった。
まぁ死んじまった今となってはもうどうでもいい。
たださ転生した先がゴブリンってどういうことだよ。
どんだけオレは過去に悪行を積んできたんだって話だ。
転生したらチーレムで無双できるんだってのは嘘だった。
とにかく嫌悪感に悩まされながらも、オレはゴブリンとして生きてきた。
そんな中でいろいろと分かったことがある。
オレが生まれたのは暗雲の森ってところだ。
色んな動物や魔物が棲んでいるのは森の恵みが豊富にあるからだろう。
そんな暗雲の森の中で、ゴブリンは最低クラスの強さだ。
森の中になっている木の実を主食として、偶に獲れる動物の肉を喰らう。
調味料なんて贅沢なものはない。
危険な場所に住んでいるというのに、ゴブリンは氏族ごとに別れて棲んでいる。
ちなみにオレが生まれたのはマラキザという氏族だ。
氏族の規模としてはあまり大きくないんじゃないかな。
オスが十二匹にメスが六匹だから、全部で二十に満たない数だ。
その理由は長が語ってくれた。
数年前にどこかのバカが森の上位捕食者である大牙虎に狙われ、氏族の拠点まで逃げてしまったと。
大牙虎からすればボーナスステージみたいなもんだ。
氏族の半数以上が殺されちまったらしい。
それから拠点を変えて、緩やかに氏族の人数は増えているところだ。
ちなみにオレは大牙虎が起こした惨劇の後に生まれている。
ただでさえ弱い種族であるのだから、氏族ごとに共棲関係にあるのかと言えばそうではない。
基本的にそんな知恵は持っていないからだ。
出会ってしまったら同族であっても敵としかみない。
恐ろしくレベルの低い殺し合いをすることになる。
そんなゴブリンたちが最も恐れるのは同族ではなくニンゲンなのだ。
ニンゲンはゴブリンを蛇蝎のごとく忌み嫌い、見かければ殺しにくる。
逃げ回るしかないんだが、いかんせんゴブリンの足は遅い。
見つかれば氏族ごと皆殺しの目にあってしまう。
「ゴブぅううううう!」
おっと。誰かが叫んでいる。
洞窟の外に出てみると、広場で氏族の長であるシモ爺が粗末な杖を片手に小躍りしていた。
「うるせえぞ、シモ爺」
シモ爺って呼び名はオレがつけた。
本名はシモニークっていうんだけど、いまいちピンとこないんだよな。
それでシモ爺って付けたんだが、本人は意外と喜んでた。
「マラクスか。相変わらず生意気なヤツじゃのう。まぁいい。さっきな神のお告げがあったんじゃが、アンバの奴らが滅んだそうな」
アンバってのはうちと縄張りが近い氏族のことだ。
神のお告げっていってもシモ爺の頭がどうにかなっているわけじゃない。
実はゴブリンに加護を与えている神ってのがいるんだ。
暗がりと性欲の神であるイライト。
ゴブ爺はイライトからのお告げを受信できる、ゴブリン神官という希少クラスなのだ。
「理由は?」
「ニンゲンどもじゃ」
なんで浮かれてやがるんだ。
ニンゲンに襲われたら、こんな弱小氏族なんて一巻の終わりだぞ。
「ヤベえじゃねえかよ! なんで踊ってんだ!」
”フフフ”と含み笑いをしたゴブ爺が貧相な胸を張った。
「マラクスのおバカっ! アンバの奴らが死んだら、縄張りが増えるじゃろうが!」
「いやその前にニンゲンに襲われるかもしれないだろ!」
「その発想はなかった……」
マラキザ種族で一番の知恵者のシモ爺がこのざまである。
ゴブリン全体で見れば、いかにお察しの状態かわかるものだ。
「ど、どどどど、どうしたらええんじゃ!」
シモ爺が口の端に唾をためながら慌てふためいている。
「どうするたって逃げるのがいちばんだろ」
本当は偵察にいって状況を把握したい。
ニンゲンにしても森の奥に進むことになるから、うちの氏族の拠点にくるかどうかわからない。
だからこそ偵察に出るのが重要なんだけど、それができる人材がいない。
オレ? 無理無理無理の無理の介だよ。
だって氏族でいちばんのガリガリだからね。
碌な前世ではなかったけど、飽食の国の記憶があるんだ。
どうしたって食が細くなるってもんだよ。
まぁそれでも病気をしたことはないから、ゴブリンって種族は消化器官が優秀なんだと思う。
オレと同世代の奴らは腹を下したりしてたけどな。
バカみたいに腐った肉を食うからだ。
「に、逃げるっていってもどこに行けばいいんじゃ!」
「それを考えるのが長の仕事だろうが」
「な、なにいいい!」
シモ爺が叫んだ瞬間だった。
ひゅんと音がしたかと思うと、シモ爺が燃えた。
は?
「ぎゃひいい!」
悲鳴があがると同時に血の臭いが鼻につく。
肉を燃やす嫌な臭いもする。
どさりとシモ爺の身体が音を立てて倒れた。
「ハッハー!」
若い陽気な声だ。
目を遣ると茶髪の小僧たちがいた。
剣を持っているのと槍を持ったのを、弓を構えているのと杖を持っているのの四人だ。
シモ爺がやられたのは恐らく杖を持っている魔法使いの仕業だろう。
弓を持っている奴が矢を放つ。
死んだ。
頭を射貫かれて死んだ。
どうする?
戦うって選択肢はない以上、逃げるしかない。
だけど身体が動かなかった。
膝ががくがくと震えて腰が抜けてしまう。
ぺたりと座り込んだオレの目の前に剣を持った小僧がいた。
「ふはっ。ゴブリンでも腰が抜けるんだな、笑わせてくれるぜ!」
熱い。
右の肩から左の腰へと抜けるように斬られた。
痛みよりも熱を感じた。
力が抜けていく。
「ラッセル、そこを離れろ。メータが洞窟に魔法を撃つ!」
「あいさー」
洞窟?
マズい、あそこはまだ子どもがいるんだぞ。
生理的な不快感を催させない希少な幼生体なんだ。
「や……めろ」
「お? なんだこいつ」
「やめ……ろ」
「ふは、ふはははは。おい、ギデオン」
「ん? どうしたんだラッセル」
「このゴブリン、俺たちの言葉がわかるみたいだぜ?」
「はっ! バカなことを言うな。ゴブリンにそんな知性があると思ってんのか」
「自分でも聞いてみたらいいだろ?」
「おい、ゴブリン。これを見ろ」
無理矢理に頭を掴まれた。
槍で串刺しにされたゴブリンの姿がある。
こいつは……オレを無駄に誘ってきたメスだ。
M字にV字と股を広げては”くぱあ”していた元気なメスだ。
「糞が」
理解不能な怒りに頭が沸き立つ。
前世の記憶もあったからか、どこか自分はゴブリンではないと思っていた。
それなら同族が殺されても怒りがわかないはずだ。
しかしどうだ。
ゴブリンたちを殺されてオレは猛烈な怒りを覚えている。
あまつさえ同族の子どもの心配もしたのだ。
下腹に響くような爆発音がした。
洞窟はがらがらと崩れ、熱気と爆風が辺りを焦がす。
「ははっ」
乾いた笑いが漏れる。
オレは……ゴブリンだ。
都合よくゴブリンじゃないなんて考えて、周りの奴らを馬鹿にしていた。
でも本当に馬鹿だったのはオレの方だ。
ちくしょう。
なんで理不尽に奪われるんだ。
いつだってそうだ。
前も現在も。
強いヤツってのは自覚がない。
奪われる弱者にも心があるってことに。
「おい!」
槍使いが足を刺してきた。
「お前、糞がって言ったよな!」
「な、俺たちの言葉が理解できて話せるんだぜ、このゴブリン」
うるせえよ。
黙ってろ。
「そんな目で睨むなよ」
剣使いがヤレヤレってポーズをとる。
それが癪に障った。
「殺して……やる」
「そりゃあ無理ってモンだ」
剣使いが唇の端を吊り上げて嘲笑った。
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