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#2. 大丈夫だよ、気にしないで
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私はワーキングホリデーでカナダに来て、普段はお土産屋さんでアルバイトをしている。そんな中でも、私には絵本作家になりたいという夢が密かにあった。最後に「絵本作家になりたいんです」と誰かに話したのは高校時代の進路相談時。担任の男性教師に、
「絵本作家だけで食っていける保証はないぞ」
と言われたことがある。母からも、「お姉ちゃんは成績優秀で国立大学に合格したのに、あんたは絵本作家になるだなんて……。そんなの無理に決まってるでしょう」と言われたっけ。確かに先生の言う通りだと思い、将来の可能性を広げるために大学へ行き、その後は一般企業で4年間働いた。が、それでも絵本作家になるという夢はそう簡単には諦めきれなかったのだ。
カナダに来たのも、誰も私のことを知らない中でリスタートしたいという願望があったから。優秀だった姉と比較して私を否定する母と離れたかったのもある。有名になんてならなくて良い。そんな気持ちで、カナダでも細々と趣味程度にゆるく絵本を描いてきた。
お土産屋さんでのアルバイトを終え、私はいつものように河原で絵本を描く。そんなとき、現地の男性が声をかけてきた。20代半ばか後半くらいの、黒に近い茶髪で目がくりくりとした可愛い雰囲気の男性だ。
「すみません、絵本描いてるんですか?」
私は声をかけられて驚いたのもあり、「まあ、はい、そうですね……」と返す。
「僕こういう物語とか書けないので、書ける人ってすごいなと思う。作品読んでみても良い?」
男性にそう言われ、私はこれまでの作品を渡した。
「すごい……! 僕いま独身で彼女もいないけど、将来子どもができたらぜひ読ませてあげたい」
男性は目をキラキラさせながら私の作品を読んでいる。今まで誰にもこういったことは言ってもらえなかったので嬉しい。
「ところで、どうして絵本を描こうと思ったの?」
と男性に聞かれる。そう聞かれると話は長くなるけど、と言って私はきっかけを語った。
小学生の頃、毎週金曜日の朝の会でボランティアの人が絵本の読み聞かせをしてくれて、その時間が好きだった。それで私もこんな面白い絵本を描けるようになりたいって思って、ノートに書いてたの。それがお母さんに見つかって、「あんたこんな漫画みたいなくだらない絵ばっかり描いてどうするの?」って言われて。成績優秀だったお姉ちゃんと比べられて、「絵本作家になりたいだなんて、そんなの無理に決まってるでしょう」って……。もうお母さんには本当の将来の夢を話しても無駄って思ったの。高校時代の担任の先生にも「絵本作家だけで食べていける保証はない」と言われて、その通りだなって思って、大学卒業後は普通に社会人してたけど、それでも絵本作家の夢は完全には諦めきれなくて……。どうしたら良いと思う?
私は気づいたら涙が止まらなくなり、子どものように泣いてしまった。男性は深くため息をつき、私を両腕で包み込む。その状態で赤ちゃんをあやすように私の体を揺さぶり、耳元で「大丈夫だよ、大丈夫だよ」と囁いていた。
しばらくして私は落ち着きを取り戻す。「ごめんなさい、こんなところ見せちゃって……」と我に返って言った。すると男性は「大丈夫だよ、気にしないで。君の心の内に触れられて良かった。それと君の夢だけど、簡単に諦めてはダメだよ」と言ってくれる。それから私と男性は握手して別れた。名前も連絡先も聞けなかったけれど、またどこかで会えたらと思う。
「絵本作家だけで食っていける保証はないぞ」
と言われたことがある。母からも、「お姉ちゃんは成績優秀で国立大学に合格したのに、あんたは絵本作家になるだなんて……。そんなの無理に決まってるでしょう」と言われたっけ。確かに先生の言う通りだと思い、将来の可能性を広げるために大学へ行き、その後は一般企業で4年間働いた。が、それでも絵本作家になるという夢はそう簡単には諦めきれなかったのだ。
カナダに来たのも、誰も私のことを知らない中でリスタートしたいという願望があったから。優秀だった姉と比較して私を否定する母と離れたかったのもある。有名になんてならなくて良い。そんな気持ちで、カナダでも細々と趣味程度にゆるく絵本を描いてきた。
お土産屋さんでのアルバイトを終え、私はいつものように河原で絵本を描く。そんなとき、現地の男性が声をかけてきた。20代半ばか後半くらいの、黒に近い茶髪で目がくりくりとした可愛い雰囲気の男性だ。
「すみません、絵本描いてるんですか?」
私は声をかけられて驚いたのもあり、「まあ、はい、そうですね……」と返す。
「僕こういう物語とか書けないので、書ける人ってすごいなと思う。作品読んでみても良い?」
男性にそう言われ、私はこれまでの作品を渡した。
「すごい……! 僕いま独身で彼女もいないけど、将来子どもができたらぜひ読ませてあげたい」
男性は目をキラキラさせながら私の作品を読んでいる。今まで誰にもこういったことは言ってもらえなかったので嬉しい。
「ところで、どうして絵本を描こうと思ったの?」
と男性に聞かれる。そう聞かれると話は長くなるけど、と言って私はきっかけを語った。
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