ライラック

相沢 朋美

文字の大きさ
上 下
1 / 10

1

しおりを挟む
 「岩合さん、休憩行ってください」
「了解です。岩合、休憩いただきます」
店長にインカムで指示を出され、僕は休憩室に向かう。専門学校卒業後に今の会社に入社して、2年目となる。販売員という仕事は好きだけれど、22年間生きてきてこれで良いのだろうかという不安もあった。今すぐ辞めたいわけじゃないけど将来どうしようか。何か良いことでもないだろうか。そんなことを考えながら、僕はコンビニで買ったお茶とおにぎりを食べる。
 食事を終えてボーっとしていたとき、他店の女性店員が「お疲れ様です」と言って休憩室に入ってきた。片手にはうさぎパンといちごミルクを持っている。新卒くらいの年齢だろうか。148cmと小柄だけれど、目ばかり大きい女性だ。
「あ、お疲れ様です」
僕は彼女に挨拶を返す。その瞬間、僕は彼女に何かを感じた。あ、この人と結婚するかも。そんな感じのものだ。休憩を終え、午後の業務に戻った。金曜日だったけれど、夕方から夜にかけて仕事終わりのお客様がたくさん来店される。閉店後は少し残業して退勤した。明日もあわよくば彼女に会えないだろうかと思いながら眠りにつく。

 翌日、僕は午前中の業務を終えて休憩室に向かった。あわよくば昨日の女の子とばったり会えないかな、なんて考えながら。コンビニで買ってきたサンドイッチを食べながらスマホで動画を見ていると、昨日会った彼女がいちごミルクを片手に入ってきた。しかし持っているのはうさぎパンではなく、手作りのお弁当だ。
「昨日以来っすね」
僕がそう言うと彼女は、「そうですね」と言って笑っていた。
「いちごミルク好きなんですか?」
僕が聞くと、彼女は
「もうお気に入りです」
と目を輝かせながら笑う。それからはお互いについて自己紹介する。
「まだ自己紹介してませんでしたっけ? 僕、5階のアローズの岩合真志です」
「私は3階のアフタヌーンローズの渋沢里美です」
このやりとりでお互いの店舗とフルネームが初めてわかった。胸元の名札は苗字しか書かれていなかったから。
 その後、僕は渋沢さんについてたくさんのことを知る。高校卒業後に今のお店に就職し、新卒1年目の19歳であること。九州出身であること。料理が好きで、休みの日はお菓子作りもしていること。実家で犬を飼っており、犬が好きなこと。お互いについていろいろな話をしているうちに、休憩時間の終わりが近づいてくる。連絡先を聞けなかったのが心残りだ。明日会えたら連絡先を聞くことにしよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

大人な軍人の許嫁に、抱き上げられています

真風月花
恋愛
大正浪漫の恋物語。婚約者に子ども扱いされてしまうわたしは、大人びた格好で彼との逢引きに出かけました。今日こそは、手を繋ぐのだと固い決意を胸に。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

処理中です...