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第六章

贖罪

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『それにしても……』

これだけの人数から対象者を瞬時に選定して、殺さない程度の加減でピンポイント攻撃したのか……。グリフォンは正に上位種の幻獣だ。こんな高等魔術、俺には絶対真似できない。

「凄いな、グリフォンは!」

感嘆の声を漏らす俺に、ベルが「当然だろう」と、小馬鹿にした様に鼻を鳴らした。

「ただの幻獣から聖獣へと昇りつめたような奴だ。俺には到底及ばないが、奴の的確で無駄のない魔力の使い方は、調節がど下手くそなお前にはいい手本になっただろう。尤も、後先考えない無謀さの方が課題だがな」

「そっ、そんな事!」

「限界を考えず、枯渇寸前まで『目』を酷使したよなぁ?ああ、それと無自覚に『魅了』ダダ漏れさせたりとかもなぁ?」

「ぐぬぬ……!!」

ベルの言う事は尤もなんだけど、俺への嫌味がふんだん過ぎる!くそぅ、どうせ俺は未熟で調節がど下手くそでだよ!

というか。アスモデウスと対峙した時の事、ベルまだ怒ってるってか根に持ってるんだな。……うう、言い出したのもやらかしたのも俺だけど、報酬と仕置きの内容がグレードアップしそうで益々怖くなってきた。

『貴様らの身体に突き刺さりし断罪の羽は、我の赦しなくば消える事叶わぬ。己の罪深さを悔いながら苦しみ、裁きの時を待つが良い』

グリフォンの厳かな、奴等にとって残酷な宣告がなされた後、国王と王太子が立ち上がる。

「騎士達よ!バティルと王弟アミールを拘束し、地下牢に投獄せよ!」

「「「はっ!!」」」

そして国王の鋭い指令が飛び、グリフォンの制裁を受けなかった騎士達が苦しむバティルを取り押さえる。王弟の方は、数人がかりで壁から引き抜かれて運び出されていった。

苦しみ呻く多数の罪人達は動けはしないので、ひとまず此処に放置といった所か。

指示を終えた国王は、王太子と共にグリフォンへと向き直り、膝を折り平伏する。そして、バティル達にいい様にされたとはいえ、自国と友好国を危機に晒した責任が王族としてある。自分達も裁かれるべきだと訴えたのだ。

『……面をあげよ、国王マリク」

促され、沈痛の面持ちで国王が顔を上げる。それに対し、グリフォンの双眼は穏やかだった。

『マリク。そなたは祖父、そして父から続いた悪政を正そうと尽力していた。それでも、歪んだ選民意識は未だ根深くこの国を巣食っているのは、此度の事で痛感したであろう』

「……はい。政の中核である宰相や実弟に裏切られ、このような……。全くもってお恥ずかしい限りでございます」

『ふふ……。だが、図らずも悪弊を取り除く絶好の機会となったな?粛清と大変革で忙殺されるであろうが、そなたの息子達が助けてくれよう。風通しを良くすべく励め。それをもって、我とカルカンヌへの贖罪としよう』

「……はっ!この身に代えましても、必ずや!!」

『そして王太子コリン。そなたも父王を助け学び……シェンナが成人して此方へ嫁ぐ迄に、住みやすく緑豊かな国となるよう尽力せよ。そなたならば、精霊達が喜んで助けてくれよう』

「!!ありがたき幸せ……!この国の為、そして何よりシェンナの為に、必ずやり遂げてご覧にいれます!」

二人の決意に満ちた姿に、グリフォンは満足そうに目を細める。ザビア将軍も嬉しそうに微笑んで、シェンナ姫は顔を真っ赤にして耳をぱたぱたさせて、めっちゃ可愛いかった。

『さて……』

一呼吸おいて、グリフォンが傍観者に徹していた俺とベルに向き直る。

そして双眼を閉じて俯くと、俄かに全身が淡く光って……ベルとは対照的な、純白のカルカンヌ民族衣装を纏った黄金の美丈夫へと変化したのだ。

「わ、ぁ……!」

波打つ見事な髪は、シェンナ姫と同じ見事な金色。猛禽類の如くな鋭い双眼も、背に生える大翼も黄金色だ。

肌は透き通る健康的な白で、シェンナ姫が隔世遺伝でグリフォンの血を濃く受け継いだのを伺わせる。ただし、整った精悍な顔立ちはザビア将軍にとても良く似ていた。

前世でも今世でも、グリフォンが智天使ケルビムと称されたのも頷ける。以前オネェの天使と邂逅してなければ、俺だって天の御使だと勘違いしたかもしれない。

実際の天使の羽は、階級によって二対ある者もいるらしいけど色は全て純白。ベルに聞いたら悪魔は「黒」で天使は「白」。これは絶対の理らしい。

それは兎も角。グリフォンは俺の斜め横にいるシェンナ姫とザビア将軍へ微笑み、静かに手を広げる。二人は小さく肩を揺らし、それから嬉しそうに駆け寄っていった。
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