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第六章

聖獣の降臨

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りぃん……!

詠唱に再び応えて共鳴した魔法陣は、眩い光となって謁見の間を照らす。

だがその光は人の目を眩ませることのない、優しくも荘厳なものだった。

「おお……!!」

群衆の一部から驚愕の声が上がる。何故なら、放射線状に広がったそれは消えずに魔法陣が在った場所に集い、『形』となったからだ。

黄金の色はそのままに、気高く勇猛な……聖なる獣の姿へと。

「凄い……輝いてる!」

黄金色の光を全身に纏い顕現したグリフォンは、カルカンヌの民達が崇める聖獣そのもの。

見事な金色の毛並みこそ同じでも、ラウルの呪いによって生命力を奪われ、苦しんでいた時とは雲泥の差だった。

「綺麗だな……。まるで宝石みたいだ!」

なんてぽろりと呟いたら、ベルがシャーッと「浮気する気か!」とか訳分からないこと言っているので、聞こえなかったふりをしておく。

ってか、アホな言い合いする場面じゃないし、そもそも俺はお前の嫁じゃねぇ!!

「ヒィイ!!グッ、グリフォン……!?」

「カルカンヌの守護獣が……っ!?なっ、なぜ!?」

顕現したグリフォンを見た群衆から、悲鳴と疑問の声があちこちから沸き上がる。

「何故!」と叫んだ貴族の狼狽顔を見るに、「何故ここに」ではなく「何故生きている」……と言いたかったに違いない。

『三つ頭』のイベントを経験してない彼らだが、考えてみればこちら聖獣の方がよほど恐怖に違いない。

なにせ、この場にいる大多数がバティルと王弟の奸計に関わっているのだから。

今ここに『カルカンヌの聖獣が現れた』と言う目の前の事実。そして、それが意味するのは……。

「「「「…………!!」」」」

これから己の身に降り掛かる悪夢を直視した途端、驚愕を浮かべていた彼らの顔が一様に恐怖へと塗り替えられた。

パニックになってる群衆を、俺は醒めた気持ちで見渡した。

そう、断罪をするのは俺達じゃない。このシナリオはカルカンヌを発つ前、既にグリフォンと話し合って決めていたのだ。
ちなみに姫様達には、後宮を出て謁見の間へ赴く前に伝えていた。

あくまで俺は、ベルと共に呪いの根源を断ち切る手助けをするだけ。

オンタリオ……もといオンタリオの不穏分子達への制裁は、最大の被害者であった守護獣が行うべきだから。

グリフォンの圧倒的なオーラに気圧され、群衆は逃げたくとも逃げられないでいる。まあ、仮に動けてもベルが扉全てを封鎖してるんだけど。

周囲を冷たい真紅で睨め付けてから、ベルは無言で指を鳴らす。

すると、パリン……と薄い殻が割れたような音がして、シェンナ姫達に掛けていたドームの結界が解かれた。

「聖獣……さま……!」

「ああ……お元気に……!!……良かった……!」

膜越しでは無くなった、畏怖堂々と在るグリフォンを目にしたシェンナ姫とザビア将軍は、畏怖堂々と在るグリフォンを目にして、堪え切れなかった涙を溢れさせた。

両膝をついて最大級の敬意を示す主人達に続き、召使いちゃん達も同様に「聖獣様……!」と、涙を流して床にひれ伏している。

そんな彼らを見下ろし、グリフォンは鋭い双眼を和らげた。

「せ、聖獣様!!」

驚愕していたオンタリオ国王と王太子は、その時弾かれたように玉座から立ち上がる。

「おお……。カルカンヌの、偉大なる風の覇王……!」

国王は戸惑いを濃く浮かべていた。

無理もない、バティル達の計画が始まったかなり初期に生き人形に仕立て上げられていたのだから。

俺の『目』で自我を取り戻してからは、召喚された悪魔公ベリアル上位悪魔ラウルとバトルを始めて、とどめにグリフォンの召喚。
正直、怒涛の展開に頭もついていけてなくて、尚且つこの状況をよく飲み込めてないみたいだ。

「聖獣様。御健勝な御姿を目にでき、我が国父共々感慨無量に御座います」

けれど、大戦争の策謀を叔父と宰相に告げられ、ラウルにより生き人形にされていたコリン王太子は違う。

シェンナ姫と土精霊コノハ、そして顕現したグリフォンを前にして、明らかな安堵と……後悔を浮かべていた。

二人は揃って両膝をつき、両手を組んで深く頭を垂れた。

先刻、国王達にシェンナ姫達がした最高権力者への礼をグリフォンに取る。それは、聖獣と人間の明確な階層秩序ヒエラルキーを示していた。

己の意思ではなく、バティルとラウルに操られていた……もしくは情勢を見ておもねようとしてるのか。
半数以上の騎士達、そして三分の一程の貴族達が国王達に続いて次々とグリフォンへ平伏していく。

『…………』

グリフォンの双眼は再び鋭くなり、平伏し敬意を示す国王達を黙って見下ろす。
淡い光を放つ黄金の双眼は、何かを見定めているかのようだった。

『……久しいな国王、そして王太子よ。息災で何よりだ』

やがて、深く威厳に満ちた声が国王達にかけられた。

「勿体なきお言葉」と、二人は更に頭を垂れ、不安気に見守っていたシェンナ姫達がホッと表情を緩める。どうやらグリフォンは彼らの魂の色……真偽を確認し、納得したらしい。

だが、玉座の間にいるもう一人の男は違った。

『さて。そこなる醜悪な魂を持つ、浅ましく穢らわしき男よ。名はバティルと言ったか?』

「ひぃっ……!!」

この状況から逃れる為、必死に王座の間から下まであと一段まで這い降りていたバティルは、声と双眼に怒りを湛えたグリフォンに睥睨され、金縛りにあったように身体を硬直させた。
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