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第六章
黒の王の名は伊達じゃない!
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「あ……あ、ぁ…!お、王!わたっ、ワタクシは…!」
「おい貴様、俺をいつまで見下ろしているつもりだ?」
「!?ひ、ぇ!?」
ベルの声は至って平坦で、抑揚も余り無い。
しかしそれに反比例して、纏う空気が禍々しく重くなっていくのを肌で感じる。
対峙している者への恐怖か、呂律も回ってないラウルの顔から大量の汗が噴き出し、全身の震えが更に大きくなっていく。動こうにも、容赦ない威圧で金縛り状態になってるっぽい。
「立場を弁えろ、痴れのゴミが…!」
低い唸り声がベルの口から漏れて、細まった深紅の瞳孔が拡張する。
途端、ラウルの服が引力にぐんっ!と引っ張られ、玉座から絨毯へと強く叩き付けられた。
「グハァ!!」
ラウルの悲鳴と轟音が 広間に響き渡る。
打ちつけられ、ピクピクとうつ伏せで痙攣している悪魔を玉座で見下ろす国王達は、最早呆然となり目を見開くのみとなっている。そして、今まで騒がしかった外野も水を打ったように鎮まりかえってしまった。
『うわー…!』
あのインパクトだと絨毯下の大理石、確実に陥没してるよな。まぁ、腐っても大悪魔だ。瀕死は無いだろうけど、顔から激突してるから鼻とか潰れてそう…。
めちゃ力業でラウムを玉座から引き下ろし、平伏させたベルだったが、当然これで終わる筈もなく。蔑んだ冷たい眼差しのまま翼を大きく羽撃かせ、一陣の風を送る。
「うぎゃあぁ!?」
吹き抜けた風がラウルの片翼をばっさり切り裂く。
夥しい漆黒の血…じゃなく多分瘴気が飛び散り、ヤツは顔を上げる事も出来ずに苦痛に塗れた悲鳴を迸らせた。
「う、ヴぁあー!!ぐぅう…!!」
黒の精霊にとって、付属する角や尻尾、翼は魔力の根源。そして弱点でもあるって、魔導書で読んだ事がある。
実際、ラウルは壮絶な痛みで体勢を立て直せずにもがいているばかり。正に目には目を、歯には歯を、翼には翼を…だな。
「さてと。此奴を痛ぶり尽くす前に…」
「ひっ!!」
次にベルが視線を移したのは、バティルだった。
契約悪魔への蹂躙を目の当たりにした奴は、当然の事ながらラウルよりも震え、怯え切って後退ろうとしているようだ。
だが、ラウルと同じくベルの威圧にあてられ、どうする事も出来ずに立ちすくんでしまっている。
「先ずはそいつだな」
温度の無い声音でそう呟くと、ベルはバティルの持つ杖に嵌る呪いの魔石をすっと指差す。そして、ノーモーションで指先から紅焔を放った。
「なぁっ!?」
バティルが驚愕の叫びを上げる。
何故なら、その焔は生き物の如く瘴気を纏う魔石だけに巻き付いたのだ。
焔に取り込まれた魔石は、ぐにゃりと歪に蠢いたかと思うと、あっという間にぐずぐずに溶けてしまった。
「あ? うわぁ!!」
延焼した様子はなかったのだが、燃える工程をすっ飛ばし、杖がいきなり灰となって崩れ去ってしまう。
掴んでいた物が消失してから数秒後、やっと思考が追いついたバティルから悲鳴が上がる。それは瞬き数回程度の、あっという間の出来事だった。
『すごい…!』
傍若無人に見えるベルだけど、ピンポイントでラウルにのみ攻撃や威圧を放っていて、玉座の国王達や近くにいる人間達に余波が一切及ばない様にしている。
結界に護られている姫達は勿論、一番近くにいる俺にも保護魔法を施してくれている。ここまで高度で緻密な魔力の調節…。
普段は黒蛇でシャーシャーしてるから忘れがちだけど、七大君主の一柱で魔界のルシファーに次ぐ黒の王、ベリアルの名は伊達ではないと、素直に賞賛の念が湧いてくる。
聖獣の生命を蝕み、自分の喉を焼いた不快な瘴気の気配が尽く消え去った。
『よかった…。グリフォンは、これで助かる!』
あまりに呆気なさ過ぎて実感がいまいち湧かないけれど、悪魔公の矜持に掛けて、俺との『約束』を違える事はない筈だ。
安堵がじわりと胸に広がっていく。ベルは、呪いを壊せば吸い取られた魔力は元の持ち主に戻ると言っていた。
ならば、三元素の精霊達は…コノハ以外は消滅してしまったけど、グリフォンは既に回復している事になる。
『だとしたら、ベルが彼奴を片付けた後で話し合った通り…!」
胸の辺りに手を置き、そこに在る『モノ』を確認する。
応急処置でベルに喉を少しだけ癒やして貰ったけど、悪魔公召喚の際、また痛みがぶり返してる。『魔眼』で大幅に消費したから、治癒に回せる魔力は僅かだけど、少しでも回復させなければ。だって…。
『…ん?あれ?』
ふと、空中に浮いた「何か」が目に映る。
逸らしていた意識を戻せば、それは溶けてベルの焔と混じり合ったラウルの魔石だった。が、赤黒い物体になって…もっとおぞましい『何か』に変質した気が…?
ベルを見れば、真紅の双眼をもっと紅くさせてそれをじっと睨んでいる。
そして視線を僅かに動かしたと思ったら、宙に蠢く赤黒物体が床で呻くラウルの頭上へとフヨフヨ移動し、突如浮力を失ってヤツにぶち撒けられたのだ。
「おい貴様、俺をいつまで見下ろしているつもりだ?」
「!?ひ、ぇ!?」
ベルの声は至って平坦で、抑揚も余り無い。
しかしそれに反比例して、纏う空気が禍々しく重くなっていくのを肌で感じる。
対峙している者への恐怖か、呂律も回ってないラウルの顔から大量の汗が噴き出し、全身の震えが更に大きくなっていく。動こうにも、容赦ない威圧で金縛り状態になってるっぽい。
「立場を弁えろ、痴れのゴミが…!」
低い唸り声がベルの口から漏れて、細まった深紅の瞳孔が拡張する。
途端、ラウルの服が引力にぐんっ!と引っ張られ、玉座から絨毯へと強く叩き付けられた。
「グハァ!!」
ラウルの悲鳴と轟音が 広間に響き渡る。
打ちつけられ、ピクピクとうつ伏せで痙攣している悪魔を玉座で見下ろす国王達は、最早呆然となり目を見開くのみとなっている。そして、今まで騒がしかった外野も水を打ったように鎮まりかえってしまった。
『うわー…!』
あのインパクトだと絨毯下の大理石、確実に陥没してるよな。まぁ、腐っても大悪魔だ。瀕死は無いだろうけど、顔から激突してるから鼻とか潰れてそう…。
めちゃ力業でラウムを玉座から引き下ろし、平伏させたベルだったが、当然これで終わる筈もなく。蔑んだ冷たい眼差しのまま翼を大きく羽撃かせ、一陣の風を送る。
「うぎゃあぁ!?」
吹き抜けた風がラウルの片翼をばっさり切り裂く。
夥しい漆黒の血…じゃなく多分瘴気が飛び散り、ヤツは顔を上げる事も出来ずに苦痛に塗れた悲鳴を迸らせた。
「う、ヴぁあー!!ぐぅう…!!」
黒の精霊にとって、付属する角や尻尾、翼は魔力の根源。そして弱点でもあるって、魔導書で読んだ事がある。
実際、ラウルは壮絶な痛みで体勢を立て直せずにもがいているばかり。正に目には目を、歯には歯を、翼には翼を…だな。
「さてと。此奴を痛ぶり尽くす前に…」
「ひっ!!」
次にベルが視線を移したのは、バティルだった。
契約悪魔への蹂躙を目の当たりにした奴は、当然の事ながらラウルよりも震え、怯え切って後退ろうとしているようだ。
だが、ラウルと同じくベルの威圧にあてられ、どうする事も出来ずに立ちすくんでしまっている。
「先ずはそいつだな」
温度の無い声音でそう呟くと、ベルはバティルの持つ杖に嵌る呪いの魔石をすっと指差す。そして、ノーモーションで指先から紅焔を放った。
「なぁっ!?」
バティルが驚愕の叫びを上げる。
何故なら、その焔は生き物の如く瘴気を纏う魔石だけに巻き付いたのだ。
焔に取り込まれた魔石は、ぐにゃりと歪に蠢いたかと思うと、あっという間にぐずぐずに溶けてしまった。
「あ? うわぁ!!」
延焼した様子はなかったのだが、燃える工程をすっ飛ばし、杖がいきなり灰となって崩れ去ってしまう。
掴んでいた物が消失してから数秒後、やっと思考が追いついたバティルから悲鳴が上がる。それは瞬き数回程度の、あっという間の出来事だった。
『すごい…!』
傍若無人に見えるベルだけど、ピンポイントでラウルにのみ攻撃や威圧を放っていて、玉座の国王達や近くにいる人間達に余波が一切及ばない様にしている。
結界に護られている姫達は勿論、一番近くにいる俺にも保護魔法を施してくれている。ここまで高度で緻密な魔力の調節…。
普段は黒蛇でシャーシャーしてるから忘れがちだけど、七大君主の一柱で魔界のルシファーに次ぐ黒の王、ベリアルの名は伊達ではないと、素直に賞賛の念が湧いてくる。
聖獣の生命を蝕み、自分の喉を焼いた不快な瘴気の気配が尽く消え去った。
『よかった…。グリフォンは、これで助かる!』
あまりに呆気なさ過ぎて実感がいまいち湧かないけれど、悪魔公の矜持に掛けて、俺との『約束』を違える事はない筈だ。
安堵がじわりと胸に広がっていく。ベルは、呪いを壊せば吸い取られた魔力は元の持ち主に戻ると言っていた。
ならば、三元素の精霊達は…コノハ以外は消滅してしまったけど、グリフォンは既に回復している事になる。
『だとしたら、ベルが彼奴を片付けた後で話し合った通り…!」
胸の辺りに手を置き、そこに在る『モノ』を確認する。
応急処置でベルに喉を少しだけ癒やして貰ったけど、悪魔公召喚の際、また痛みがぶり返してる。『魔眼』で大幅に消費したから、治癒に回せる魔力は僅かだけど、少しでも回復させなければ。だって…。
『…ん?あれ?』
ふと、空中に浮いた「何か」が目に映る。
逸らしていた意識を戻せば、それは溶けてベルの焔と混じり合ったラウルの魔石だった。が、赤黒い物体になって…もっとおぞましい『何か』に変質した気が…?
ベルを見れば、真紅の双眼をもっと紅くさせてそれをじっと睨んでいる。
そして視線を僅かに動かしたと思ったら、宙に蠢く赤黒物体が床で呻くラウルの頭上へとフヨフヨ移動し、突如浮力を失ってヤツにぶち撒けられたのだ。
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