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第六章

卑劣な策略

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「コ…リン、さま…」

小さく囁いた声は今にも泣きそうに震えていた。不可視状態で俺の髪の間に隠れてるコノハも、『コリン…!』と悲しそうに呟いている。分かっていても、目の前の現実に感情が揺れてしまうのは仕方がない。

『コノハの話で、この国に起きた事の顛末が分かった。そして、国王と王太子の現状も…』

あの頑健な砦が出来た時期とバティルが宰相になった時期を逆算すれば、大凡一年前に異変が始まった。

圧倒的な力を持って存在感を高め、病を得て退位した(もしくは排除した)前宰相の後釜に座ったバティルは、カルカンヌの収穫祭にコリン王太子と共に赴き、グリフォンに呪いを植え付けた。

そしてすぐ、バティルは王弟と共に先ず王に『魅了』で精神支配をかけ、次に穏健派の貴族達を次々に更迭または失脚させていったらしい。

最後にバティル達は、コリン王太子を謁見の間に呼びつけた。カルカンヌに起こっている事態と、略奪に近い形でシェンナ姫を輿入れさせる事に憤る王太子に、バティル達は笑いながら自分たちの所業を明かしたそうだ。

そして王と同様『魅了』を施そうとしたが、彼を慕う土、水、火の精霊が必死に阻止したそうだ。だけど、バティルの杖によって力を吸収されてしまったのだと言う。

王太子は土の精霊ノームだけじゃなく、水の精霊ウンディーネ火の精霊イフリートまで使役していたのかと驚いたが、コノハは『違うよ』と訂正した。

『コリン、綺麗な魂と魔力を持ったステキな子。だから僕らは契約するって言ったんだ。そしたら、手助けして欲しい時は魔力を渡す、けど僕たちを使役したくない。僕たちは友達だからって…』

使役で繋がっていなければ、万が一自分の身に何か起きても共倒れする必要はない。
そう言ってくれた心優しい彼だから、逃げろと言われても精霊達は見捨てられず、最後まで抗った。

結局コリン王太子は精神支配を受け、火と水の精霊は消滅してしまったけれど、コノハだけは核の欠片を飛ばす事が出来た。
ほぼ全ての力を奪われ、消えゆく瞬きになりながらも友達コリンを助けたいと宮殿を彷徨っていた所、俺の魔力を帯びたスラッシュに引き寄せられ張り付いた...と言うのがコノハが知る一部始終だった。

風の精霊シルフィは、聖獣のグリフォンがいるカルカンヌに集まっていたので難を逃れた。けれどバティルはグリフォンの『風』の魔力を奪っているから、実際事足りてる訳か』

分からないのは、王弟がいるのに国王達をわざわざ生かして傀儡にする意味だ。殺されなかったのは幸いだったけど、何故このような回りくどい真似をしたのだろう。

クーデターを起こし国を真っ二つにするよりも、王と王太子を傀儡にして操った方が得策だと彼らは考えたのだろうか。いやでも上位悪魔グレーターデーモンを召喚してるんだぞ?

『バティル達に取って、シェンナ姫と同じで国王やコリン王太子には利用価値があるって事なんだろう』

それがロクなもんじゃないのは確かだ。今や傀儡となった国王とコリン王太子を操るバティル。
冷徹な面差しで俺達を見下ろす奴の杖の上の大鴉も俺達を…いや、俺をじっと凝視していた。

「!?」

不意にバティルの双眼が変わった。怪しく光る茜色になったそれらは、真っ直ぐにシェンナ姫とザビア将軍へと突き刺さる。

「!あっ…!?」

「っ!!」

認識した瞬間に彼らの前へ立ち塞がったが、一瞬でもまともに『目』を浴びた二人から驚きの声が上がる。心の中で舌打ちしてバティルを睨みつけると、既に奴の双眼は元の色に戻っていた。

「…成る程。貴殿に『魅了』をかけられている、というのは虚偽ではないか」

微かな苛立ちを浮かべるバティルに構わず、俺は後方の姫達を確認した。すると、顔色は悪いものの二人に奴の『目』による影響はなさそうだ。侍女ちゃん達は、そもそも平伏してるのでバティルからの被害はない。

「二人とも大丈夫?気分悪くない?」

「え、ええ。平気です、魅了師殿」

良かった。奴が『魅了』だと勘違いしている俺の『護り』は、この空間でもしっかり効果を発揮しているようだ。

…にしても、腹が立つなこの男!!

「おい宰相。これが他国の王族への敬意ある挨拶か?」

この空間では、もう感情を制御する必要はない。

俺は腹に溜まって煮えている怒りを言葉に、そして『目』に乗せバティルをしっかり睨みつけた。王弟の時より更に強く。
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