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第五章
馬鹿な子ほど可愛い
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『おい。その宰相って男はグリフォンに触れたのか?』
『ザビア将軍。その宰相は、グリフォンに触れましたか?』
ベルが言い放った問い掛けは、当然俺の言葉としてマイルドにザビア将軍へと伝える。
『いいえ。国の象徴である聖獣様に触れるなど、我が国の民だとて許されておりません。賓客であろうが他国民が……』
ザビア将軍は首を横に振り否定しかけ…何かを思い出しハッとなる。
『ただ…一人だけ。許され手を取る誉れを受けた方がいます』
『ほぉ。そいつは誰だ』
『その人は誰ですか?』
ベルの再度の問い掛けを伝えると、ザビア将軍の眉間に皺が寄る。
そして、気づかわしげにグリフォンに身を寄せるシェンナ姫を一瞥した後、躊躇いがちに口を開いた。
『……コリン王太子殿下、です』
『――ッ!?う、嘘です!コリン様が、聖獣様に呪いを、なんて!!』
兄の口から出た名前にシェンナ姫は青褪め、必死に否定する。そんな妹を痛ましそうに見つめ、『残念ながら、事実だ』と更に彼女には残酷な言葉を続けた。
そう、グリフォンに呪いを寄生させるには直接触れる必要があって、オンタリオの人間でそれを成したのは王太子のみ。
『…そうだったな。アレはとても善い魔力を持った者。我も気に入っていた故、我の手を取る事を認めたが…』
『嘘です、うそ……!』
胸元に顔を埋め、泣き崩れたシェンナ姫の頭にグリフォンが優しく頬擦りする。
王子を信じ、懸命に否定する彼女を咎めるでもなく黙ったまま。
そんなグリフォンの態度に、姫への愛情の深さがこちらにまで伝わってきて切なくなった。
『けどなぁ….』
話を聞けば聞く程、俺にはコリン王太子が首謀者とは思えなかった。
『善き魔力』と言ってた通り、グリフォンは人間の魔力や魂の輝きを視る事が可能なのだ。
もし、彼の内に邪な『悪い魔力』が少しでもあれば、グリフォンが気づかない筈がないし、触れる許可を与える訳がない。
だとしたら、巧妙に秘匿された呪いの『種』を知らず媒介した…?
そうだ。国王や重鎮達、つまり国家若しくは個人の陰謀で王太子は利用されたと考える方がよっぽどしっくりくる。
それでもって、限りなく怪しいのは王太子と共にやって来たバティルと言う男だ。そいつが背後で王太子を使い、グリフォンに呪いを寄生させた術者と仮定すべきだろう。
『だけど、これはあくまで仮説だから』
王太子が無実とはまだ言い切れない。
彼が首謀者、もしくは彼の意思で片棒を担いでいる可能性が欠片でもある以上、シェンナ姫には気の毒だけど…下手な慰めは逆効果になる。
――……ん?あれ?というか、グリフォンの『手』に触れたって…あんなにでっかい鳥足に鉤爪ついてて、どうやって握手したんだろう?
『…は?ユキヤ、お前真面目に言ってんのか?』
脳内の声をしっかり拾ったベルは、目を見開き俺を信じられないって感じで見あげてきた。
え?何でそんな反応するんだ?
『いやだって、グリフォンと人間って物凄く体格差あるじゃん。あ、手を取るって言ってたけど、軽く触れただけか?』
『阿呆!グリフォンは”人化”してたに決まってんだろうが!』
『え…ぇえーーー!グリフォンって人化出来たの!?』
驚く俺をベルは心底馬鹿にした様な目で見ながら、『そもそも、人化しねえで人間とどうやって子を成せんだ?』と言われ、ぐうの音も出なかった。
年を経た幻獣ならば人型を取るのは容易いらしく、この国の初代巫女姫とグリフォンのように愛し合い、子を成した事例は少ないながら存在するそうだ。
今は呪いに冒され、衰弱しているから本来の姿のままだけど、力を取り戻せばグリフォンの人型が見られるのか…。
『今更そこに疑問を持つとは、バカかお前は!無知も大概にしやがれ!』
『ううっ…』
本当その通り過ぎて自分が情けなくなった。肩を落として項垂れる俺への、ベルの蔑む視線が痛い…。
『これ…脳内会話で良かったよ』
『…ま、バカな奴ほど可愛いというがな…』
小声でボソッと呟いたベルの言葉は聞き取れなかったが、どうせ俺の悪口だろうから無視しておく。
そう、落ち込んでる暇はないと気持ちを切り替え、俺はシェンナ姫を宥めるザビア将軍、そしてグリフォンにその時のやり取りを詳しく聴取したのだった。
『ザビア将軍。その宰相は、グリフォンに触れましたか?』
ベルが言い放った問い掛けは、当然俺の言葉としてマイルドにザビア将軍へと伝える。
『いいえ。国の象徴である聖獣様に触れるなど、我が国の民だとて許されておりません。賓客であろうが他国民が……』
ザビア将軍は首を横に振り否定しかけ…何かを思い出しハッとなる。
『ただ…一人だけ。許され手を取る誉れを受けた方がいます』
『ほぉ。そいつは誰だ』
『その人は誰ですか?』
ベルの再度の問い掛けを伝えると、ザビア将軍の眉間に皺が寄る。
そして、気づかわしげにグリフォンに身を寄せるシェンナ姫を一瞥した後、躊躇いがちに口を開いた。
『……コリン王太子殿下、です』
『――ッ!?う、嘘です!コリン様が、聖獣様に呪いを、なんて!!』
兄の口から出た名前にシェンナ姫は青褪め、必死に否定する。そんな妹を痛ましそうに見つめ、『残念ながら、事実だ』と更に彼女には残酷な言葉を続けた。
そう、グリフォンに呪いを寄生させるには直接触れる必要があって、オンタリオの人間でそれを成したのは王太子のみ。
『…そうだったな。アレはとても善い魔力を持った者。我も気に入っていた故、我の手を取る事を認めたが…』
『嘘です、うそ……!』
胸元に顔を埋め、泣き崩れたシェンナ姫の頭にグリフォンが優しく頬擦りする。
王子を信じ、懸命に否定する彼女を咎めるでもなく黙ったまま。
そんなグリフォンの態度に、姫への愛情の深さがこちらにまで伝わってきて切なくなった。
『けどなぁ….』
話を聞けば聞く程、俺にはコリン王太子が首謀者とは思えなかった。
『善き魔力』と言ってた通り、グリフォンは人間の魔力や魂の輝きを視る事が可能なのだ。
もし、彼の内に邪な『悪い魔力』が少しでもあれば、グリフォンが気づかない筈がないし、触れる許可を与える訳がない。
だとしたら、巧妙に秘匿された呪いの『種』を知らず媒介した…?
そうだ。国王や重鎮達、つまり国家若しくは個人の陰謀で王太子は利用されたと考える方がよっぽどしっくりくる。
それでもって、限りなく怪しいのは王太子と共にやって来たバティルと言う男だ。そいつが背後で王太子を使い、グリフォンに呪いを寄生させた術者と仮定すべきだろう。
『だけど、これはあくまで仮説だから』
王太子が無実とはまだ言い切れない。
彼が首謀者、もしくは彼の意思で片棒を担いでいる可能性が欠片でもある以上、シェンナ姫には気の毒だけど…下手な慰めは逆効果になる。
――……ん?あれ?というか、グリフォンの『手』に触れたって…あんなにでっかい鳥足に鉤爪ついてて、どうやって握手したんだろう?
『…は?ユキヤ、お前真面目に言ってんのか?』
脳内の声をしっかり拾ったベルは、目を見開き俺を信じられないって感じで見あげてきた。
え?何でそんな反応するんだ?
『いやだって、グリフォンと人間って物凄く体格差あるじゃん。あ、手を取るって言ってたけど、軽く触れただけか?』
『阿呆!グリフォンは”人化”してたに決まってんだろうが!』
『え…ぇえーーー!グリフォンって人化出来たの!?』
驚く俺をベルは心底馬鹿にした様な目で見ながら、『そもそも、人化しねえで人間とどうやって子を成せんだ?』と言われ、ぐうの音も出なかった。
年を経た幻獣ならば人型を取るのは容易いらしく、この国の初代巫女姫とグリフォンのように愛し合い、子を成した事例は少ないながら存在するそうだ。
今は呪いに冒され、衰弱しているから本来の姿のままだけど、力を取り戻せばグリフォンの人型が見られるのか…。
『今更そこに疑問を持つとは、バカかお前は!無知も大概にしやがれ!』
『ううっ…』
本当その通り過ぎて自分が情けなくなった。肩を落として項垂れる俺への、ベルの蔑む視線が痛い…。
『これ…脳内会話で良かったよ』
『…ま、バカな奴ほど可愛いというがな…』
小声でボソッと呟いたベルの言葉は聞き取れなかったが、どうせ俺の悪口だろうから無視しておく。
そう、落ち込んでる暇はないと気持ちを切り替え、俺はシェンナ姫を宥めるザビア将軍、そしてグリフォンにその時のやり取りを詳しく聴取したのだった。
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