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第五章
呪いの移り香
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「?!黒の魅了師殿!」
隣にいるザビア将軍が、焦ったように仮面の男を制止する素振りを見せた。
それも当然だろう。火竜は獰猛な肉食魔獣な上、使役以外で人馴れは絶対にしない。
更に、覆われた鱗には低級だが魔法無効化が付与されているため、下手な魔術師の類では身体に傷をつけるの難しいだろう。
命令も無しに近づけば集団で襲われ、歴戦の騎士だろうがあっという間に噛み殺される、もしくは炎で焼かれて絶命だ。さあ、どうするのかこの「もどき」は。
「問題ない。交渉成立だな」
だが。多少は動揺するかと思いきや、仮面の男は飄々とした口調であっさり了解する。
と同時にフワリと宙に浮き上がり、我々の頭上を飛び越えると火竜の群れの前に降り立った。ほぉ…。下位精霊を眷属にしているのか?
男と私の火竜が対峙した。
とは言え、まだ互いの距離がある。目の前に現れた男を目に写すや、伏せていた火竜達は長に続いて次々起き上がり、喉奥で唸りはじめる。
「どうした、もっと近づかないと躾直しは出来んのではないか?」
火竜の剣呑な雰囲気に怖気付いたのか、黙って佇んでいる男の背後から嫌味を投げてやる。だがそれに反応する事なく、男は徐に足を踏み出したのだった。
ーー馬鹿め!『あの御方』の力で縛られた此奴らは、私にのみ付き従う様にされているうえ、命令も思考で思いのまま。最も近くに寄った瞬間、頭を噛みちぎらせてくれるわ!
◇◇◇
『うぉおい!ベル、お前っ!また勝手に何言ってんだよっ!!』
じーっと睨みつけてたら、今度は「杖をあそこの火竜に向けろ」って指示だされ、訳分からず従ったらベルの奴!トンデモ発言かましやがった!
躾直すって、あの巨大な火竜達を?!って、つまり使役しろって事?!
幾らなんでも無茶が過ぎるぞと脳内で怒鳴ったが、ベルは涼しい顔(多分)で舌をチロチロ出している。
『俺が下手な博打を打つと思うか?ユキヤ、お前なら彼奴の『魅了』を解いて使役し直すなど朝飯前だ』
『へ?『魅了』?』
小首を傾げている内に、俺の声を真似たベルがどんどん話を進めていく。ザビア将軍も戸惑ってるけど、俺もメチャクチャ戸惑ってますよ。で、いつの間にか交渉成立とかなってるし!
『おい羽虫。ユキヤを浮かせて…そうだな、一番大きなトカゲの15歩手前で下ろせ』
『え?ちょ、ちょっ…!』
フゥは「ブーっ!お前が命令するなー!」と不服そうだったが、渋々ベルの命令に従ってしまう。あれよと俺は、どでかい火竜のキッチリ15歩手前に立った訳だ。
後ろにいるラシャド達に背中を向けてるから、不意打ちで攻撃されないよう一応防御結界はしておいたので、まあ安全。だけど前方は…。
『と…遠目で見るより迫力満点っ…!』
ラシャドが騎乗していた一番大きい火竜が起き上がり、俺をギロリと睨みつけ喉奥で唸り出した。
他の火竜達も、次々に巨体を起こして、多分ボスであるこいつに習う。正直、グリフォンと初対峙した時の方が怖かったけど、群れって点で同じ位かな…じゃなくって!
「おいベル!どうすんだよこれ?!…ん?そう言えばさっき『魅了』とか言ってたけど」
小声で毒づく俺に、ベル蛇は巻きついていた首から肩口に首を乗せ、「幻獣と比べたら、コイツらトカゲなんぞ木端の魔獣だろが、情けねぇ事言ってんじゃねぇ!」って逆に叱られた。
『グリフォンに罹っていた『呪い』を覚えているだろう。あのラシャドとかいう男から、それと同じ匂いがした』
「えっ?」
唐突に「呪い」と、しかもその匂いがラシャドからしたとベルから言われた俺は、思わず後ろを振り返りそうになった。
が、しかし「馬鹿野郎!トカゲから目を離すんじゃねぇ!」と軽い尾っぽビンタを喰らい断念。くっ…!このサディストめが!!
「お、おい!って事は、ラシャドがグリフォンに呪いをかけた本人なのか?!」
『いや、あれは移り香の様なものだ。大方火竜に乗っていたからだろうな』
「それって…」
『間違いねぇ。コイツを使役したのが、グリフォンに呪いを掛けた奴だ』
『目の奥をよく見てみろ』と言われ、改めて目の前の火竜を…正確には目を凝視してみた。
隣にいるザビア将軍が、焦ったように仮面の男を制止する素振りを見せた。
それも当然だろう。火竜は獰猛な肉食魔獣な上、使役以外で人馴れは絶対にしない。
更に、覆われた鱗には低級だが魔法無効化が付与されているため、下手な魔術師の類では身体に傷をつけるの難しいだろう。
命令も無しに近づけば集団で襲われ、歴戦の騎士だろうがあっという間に噛み殺される、もしくは炎で焼かれて絶命だ。さあ、どうするのかこの「もどき」は。
「問題ない。交渉成立だな」
だが。多少は動揺するかと思いきや、仮面の男は飄々とした口調であっさり了解する。
と同時にフワリと宙に浮き上がり、我々の頭上を飛び越えると火竜の群れの前に降り立った。ほぉ…。下位精霊を眷属にしているのか?
男と私の火竜が対峙した。
とは言え、まだ互いの距離がある。目の前に現れた男を目に写すや、伏せていた火竜達は長に続いて次々起き上がり、喉奥で唸りはじめる。
「どうした、もっと近づかないと躾直しは出来んのではないか?」
火竜の剣呑な雰囲気に怖気付いたのか、黙って佇んでいる男の背後から嫌味を投げてやる。だがそれに反応する事なく、男は徐に足を踏み出したのだった。
ーー馬鹿め!『あの御方』の力で縛られた此奴らは、私にのみ付き従う様にされているうえ、命令も思考で思いのまま。最も近くに寄った瞬間、頭を噛みちぎらせてくれるわ!
◇◇◇
『うぉおい!ベル、お前っ!また勝手に何言ってんだよっ!!』
じーっと睨みつけてたら、今度は「杖をあそこの火竜に向けろ」って指示だされ、訳分からず従ったらベルの奴!トンデモ発言かましやがった!
躾直すって、あの巨大な火竜達を?!って、つまり使役しろって事?!
幾らなんでも無茶が過ぎるぞと脳内で怒鳴ったが、ベルは涼しい顔(多分)で舌をチロチロ出している。
『俺が下手な博打を打つと思うか?ユキヤ、お前なら彼奴の『魅了』を解いて使役し直すなど朝飯前だ』
『へ?『魅了』?』
小首を傾げている内に、俺の声を真似たベルがどんどん話を進めていく。ザビア将軍も戸惑ってるけど、俺もメチャクチャ戸惑ってますよ。で、いつの間にか交渉成立とかなってるし!
『おい羽虫。ユキヤを浮かせて…そうだな、一番大きなトカゲの15歩手前で下ろせ』
『え?ちょ、ちょっ…!』
フゥは「ブーっ!お前が命令するなー!」と不服そうだったが、渋々ベルの命令に従ってしまう。あれよと俺は、どでかい火竜のキッチリ15歩手前に立った訳だ。
後ろにいるラシャド達に背中を向けてるから、不意打ちで攻撃されないよう一応防御結界はしておいたので、まあ安全。だけど前方は…。
『と…遠目で見るより迫力満点っ…!』
ラシャドが騎乗していた一番大きい火竜が起き上がり、俺をギロリと睨みつけ喉奥で唸り出した。
他の火竜達も、次々に巨体を起こして、多分ボスであるこいつに習う。正直、グリフォンと初対峙した時の方が怖かったけど、群れって点で同じ位かな…じゃなくって!
「おいベル!どうすんだよこれ?!…ん?そう言えばさっき『魅了』とか言ってたけど」
小声で毒づく俺に、ベル蛇は巻きついていた首から肩口に首を乗せ、「幻獣と比べたら、コイツらトカゲなんぞ木端の魔獣だろが、情けねぇ事言ってんじゃねぇ!」って逆に叱られた。
『グリフォンに罹っていた『呪い』を覚えているだろう。あのラシャドとかいう男から、それと同じ匂いがした』
「えっ?」
唐突に「呪い」と、しかもその匂いがラシャドからしたとベルから言われた俺は、思わず後ろを振り返りそうになった。
が、しかし「馬鹿野郎!トカゲから目を離すんじゃねぇ!」と軽い尾っぽビンタを喰らい断念。くっ…!このサディストめが!!
「お、おい!って事は、ラシャドがグリフォンに呪いをかけた本人なのか?!」
『いや、あれは移り香の様なものだ。大方火竜に乗っていたからだろうな』
「それって…」
『間違いねぇ。コイツを使役したのが、グリフォンに呪いを掛けた奴だ』
『目の奥をよく見てみろ』と言われ、改めて目の前の火竜を…正確には目を凝視してみた。
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