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第四章

優しくしてやる

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「腕、は、離せよ!」

「ん?抱きしめて貰いたいのか。それとも抱いて欲しいか?」

「違うって!どうしてそうなるっ!」

健全な「抱く」がセクシャルな「抱く」になってるし!流石は狡猾悪魔、あからさまにそっち方向に持っていきやがった。

ベルの手から腕を抜こうとするも、ビクともしない。くそぅ、俺だって伊達にベハティ母さんやセオドア父さんに鍛えられてないんだぞ。

「! ひゃっ!」

必死になって腕を引っ張るように踏ん張ってたら、ベルがいきなり手を離した。その結果、俺は勢いついて後ろのソファーに倒れこみ、体制を整える間も無くベルに両肩を掴まれ、仰向けに寝転がされてしまう。

「ベルッ!」

「お前が離せと言ったから離したんだろうが」

肩を押さえつけられ起き上がることもできず、自分を見下ろし余裕な態度で揶揄うベルを睨み上げる。片膝を乗せたベルの重みで、ソファが僅かに軋んだ。

「ユキヤ」

静かに名を呼ばれ、どきりとする。肩を掴んでいたベルの手が、すぅっと剥き出しの首筋を撫で上げた。

「っ…!」

大きくて無骨な手は、指先がひんやりとしている。蛇の姿で首に巻きついている時の体温に近い、けれど全く違う動きに背筋がゾクゾクして、思わず息を詰まらせた。

嫌悪感から…だったら良かったのに。けど、そうじゃない類の震えだったのが地味にショックで、狼狽えるのには充分過ぎた。

そんな俺の反応はベルを大いに悦ばせたみたいで。真紅の双眼を細め壮絶な笑みを深めると、俺の身体を跨ぐようにソファに乗ってきた。横にも縦にも広くて長い、ベッド代わりにも使えそうな抜群の安定感が憎らしい。

(不味い、まずいマズイ!!)

ちょっと、流石にこの状況ってヤバいんじゃなかろうか。ってか、取り交わした誓約書に「性的な目的で接触できない」と盛り込んでたのに、なんで弾かれないんだコイツ?!

「なんでって、不思議でも何でもないだろユキヤ。お前が本気で俺を拒絶してねぇんだから」

思考を読むなよっ!え?顔にダダ漏れてた。いやそうじゃなくって!お、俺が本気でこの危機的状況を拒絶してない…だと…?!

「それ以外説明つかねぇだろ」と言われ、更にショックが大きくなる。嘘だから、ありえないからと言葉で拒絶しても、実際ベルの手が不埒に首を撫でようが(服越しだけど)胸元を掠めようが、火花どころか静電気すら発生しなかったのだ。

「ユキヤ…ようやく俺を受け入れる気になったんだな」

しみじみと感慨深げに言われた言葉に、全身が主に染まった。

「?!な、なってないからっ!俺は異性愛者でっ、同性はっダメ…!」

「照れるなよ、可愛い奴。…安心しろ、優しくしてやる」

ひぃい!ぺろりと下唇を舐める仕草がめっちゃエロい。エロ過ぎて肌が粟立ってしまう。何なら涙目にもなってしまう。

「あ…っ、や、めっ…!」

いやらしく動く指の腹が薄い布ごしに肌を摩る。

その動きに一々肩や胸が跳ねて、掠れた声が漏れてしまった。拒絶したいのに…身体が上手く動かないのはベルに抑えられている…からじゃなく。俺を見下ろす熱を孕んだ深紅の双眼に意識が絡め取られてるから?

まさかベルの奴、魔眼を使って俺の魅了を抑えてる?!じゃなきゃ、この状況に説明が…。

「ヒッ!」

指と指の間で柔く胸の尖りを挟まれ、大きく身体が跳ね上がってしまう。
間髪入れず捏ねる様に摩られると、寒気に似た感覚が襲ってきた。

「ヤッ…め…!べ、る…ぁあっ!」

止めろと怒鳴りたいのに、強くも弱くもない絶妙な力で敏感な箇所を撫でられ、口から出てくる言葉は掠れて尻切れ蜻蛉になる。

俺の過敏な反応を楽しみ、くくっと喉奥で嗤う悪魔が憎らしくて必死に睨みつけた。

「そんな潤んだ目で睨んでも、誘ってる様にしか見えねぇぞ…ユキヤ」

「……?!」

ベルの顔が近づいてきて、堪らずぎゅっと目を瞑った。震える唇に熱い吐息がかかったと感じると同時に、ベルのそれらが重ねられた。
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