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第四章

逃げた本当の理由

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「コリン様は、とても思慮深くてお優しいお方でした。私はこのように人とは違う見た目をしている為、他国の方々には気味悪がられる事も多かったのですが…」

無意識に自分の耳を撫で、寂しそうに微笑んだ姫を見つめ、兄である将軍は痛ましそうに眉を寄せた。

「でも!コリン様はそのような事もなく、逆にこの姿を「神々しい」とお褒め下さいました。私、あの方にお会い出来る収穫祭が、いつも楽しみでした。あの方も私に会う日がいつも待ち遠しいと仰って下さって…」

その頃の事を話すシェンナ姫の頬はうっすらと赤く染まり、表情も先程とは違ってとても幸せそうだ。…あれ?ひょっとして、シェンナ姫って、その皇太子の事が…。

「それで昨年、あの方が仰ったのです。『将来、君が成人したら、僕は君に結婚を申し込んでもいいかな?』と。私、喜んでお受け致しますとお答えしました。聖獣様も、祝福して下さって…」

――え?!待てよ。それじゃあ実質婚約していたようなものじゃないか。いずれシェンナ姫が成人すれば結婚出来るのに、なんでこんな強引な事してんだよ。

姫の口から語られる話と現状との矛盾に、俺はつい疑問をぶつけてしまうが、それに対して彼女は首を横に振って溜息を零した。

「…分かりません。お手紙を差し上げても返事もありませんし…。私、聖獣様と同じぐらいにあの方も心配なのです。ひょっとして、何かあったのだろうか?何かよからぬ事に巻き込まれているのではないのか?と」

「…私もコリン殿と何回かお話致しましたが、真面目でご気性も穏やかな方でした。自国の食料自給率を何とかしたいと、農業の研究をしておられているとかで。昨年お会いした時は『皇太子なんて弟達の誰かに譲って、こちらに婿入りしようかと思ってるんだ』と笑って話されていました」

「お、おぅ….」

先刻まで俺が持っていた王子のイメージは、聞けば聞くほど崩れていく。ついでにパンケーキもすっかり萎んでしまっていたが、今はどうでもいい事なので無視だ。

「…あの時は冗談を仰っているのかと思っていましたが…。まさかとは思いますが、その事で何か面倒事が起こったのかもしれません」

うん、そりゃそうだよな。一国の王太子が「農業の研究がしたいから、他の国に婿入りします」なんて言ったら、周囲はパニックになってしまうだろう。血の気の多い国民性だって言う話だし、将来の国王をそそのかしたとか言って、国交断絶になってもおかしくはない。

でもそれだと矛盾が生じる。結局やっているのは、国交断絶ではなく強引な嫁取りだ。しかも報復であるかのように、国や聖獣を人質にして逃げる退路を断って。

「私には…あの方がこのような酷い事をするとは思えないのです。コリン様はこの国にいらっしゃった時、いつもこの国を美しいと褒めて下さってました。『いつか僕の国も、この国のような緑溢れる美しい風景にしたいな』と仰って」

――確かにそんな人が、大切な人の大切な国が滅びるような真似をするとは考えにくい。
しかもシェンナ姫いわく、「自分は本当は逃げたのではなかった。コリン王太子に直接会って話をしたくて王宮を抜け出したのだ」…だ、そうで。

だが、途中でシェンナ姫を心配し、呪いを受けた身体で探しに来たグリフォンに捕まったものの、当のグリフォンの力が尽きてしまった。

だから、今回の強引な輿入れに懐疑的だったザビア将軍の手引きで、あの隠れ家にグリフォンと共に潜伏していたのだという。

結果としてそれが「逃げた」という事になってしまい、俺が呼ばれたって訳なんだけどね。
ふむ。姫やグリフォンの行動と、父王や兄の思いと国同士のやり取りが、随分ややこしくこんがらがってしまったみたいだ。

まあ、やはり元凶はオンタリア王国の強引かつ卑怯な嫁取りなんだけど。
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