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第四章

誠意を示す

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『ユキヤ?』

『マスター!?』

「黒の魅了師殿?!」

「ベル、フウ。ザビア将軍。俺の後方に」

「い、一体何を…?」

「いいから下がって!ベル、お前もだ!俺から離れて下がれ!」

ベルは何か言いたそうに俺を見た後、素直に俺から離れていく。そうして全員が俺から離れたのを確認した俺は、彼らに防御結界を張った。

「み、魅了師殿!?」

ザビア将軍が驚愕の声をあげる。ベルやフウも結界から出ようと体当たりしているが、それに構わず、俺はグリフォンとシェンナ姫の方へと向き直った。

『…何の真似だ…』

俺の視線を受け、怯えたように自分に縋りつくシェンナ姫を庇うように、グリフォンが唸り声をあげる。

「このまま言い合いしていても平行線だ。ならば俺に悪意が無い事を証明するしかないだろ?」

そう言うと、俺は手にした杖もグリフォンの前に放り投げた。

「俺はこれから一切、魔力もスキルも使わない。武器も放棄する。あんたと話をするのに、それらは全部必要無いからな」

『なんだと…貴様….?!』

いや、別に杖に何かある訳じゃないんだけど、ウォレンさんが『それっぽく見えるから』と言って渡してくれたこの杖、本当にそれっぽく…というか、しっかり武器に見えてしまうんだよね。
杖に嵌め込まれた石なんて、そこから光線が出そうだし。…いや、ザビア将軍をぶちのめした時に、しっかり武器として使用したな。

でもこれ自体には力は無い…筈。だからこうして手放す事で、害意が無いと少しでも思ってくれれば御の字だ。

「俺は、あんた達をどうこうする気は毛頭ない。助けたいと思っているだけだ。グリフォン、あんたの呪いもそうだけど、シェンナ姫も、早いとこ治療しないと…」

『シェンナに触るな!!』

近寄ろうとした俺に、グリフォンが風の魔力を浴びせてくる。その攻撃は空間を切り裂くように、俺の顔や腕、足を掠めていく。

顔の方は、仮面が魔力を弾いてくれて無事だったが、ローブから出ている手や足元といった場所が容赦なく切り裂かれ、血が滲む。
だが、これはきっとただの牽制だ。風を司る幻獣が本気で攻撃をしかけてくれば、今頃俺の身体はバラバラになっていた筈だから。

俺はグリフォンの攻撃に対し反撃する事無く、一歩一歩、ゆっくりと近付いて行く。

そうして巨大なグリフォンの目の前に立つと、微動だにせず、俺を睨み付ける彼と暫し見つめ合う。

…ハッキリ言って、超恐い。魔力なんて使わずとも、鋭い嘴や鉤爪で攻撃されれば、俺みたいな非力な人間、ひとたまりもない。

でもここで怯えた様子を見せる訳にはいかないと、俺は腹に力を入れ、グリフォンの身体に震えながら縋りついているシェンナ姫へと向き直る。そして、グリフォンに背を向けたまま彼女へと手を伸ばした。

ビクリ、とシェンナ姫の身体が大きく跳ねる。…まあ、そりゃそうだよな。こんな黒づくめの仮面男なんて恐いよ、普通は。

俺は出来るだけ怯えさせないようにと、シェンナ姫の頭に優しく手を乗せ、撫でてやる。
「え…?」

涙で溶けそうな程潤んだ大きな金色の瞳が、俺を見上げてくる。うわ、メチャクチャ可愛い。

だけどどう見てもこの子、小学生高学年っぽいんだよな。俺には幼女趣味は無いので、残念ながら範疇外だ。

でも俺、弟も勿論可愛いけど、可愛い妹も欲しかったんだよな。ああ…こんな子が妹だったらなぁ。

「苦しい?大丈夫だよ、すぐに治してあげるから。勿論、君の大切な聖獣様もね」

そう言いながら、精一杯の笑顔を向ける。勿論仮面に阻まれ、俺の表情は相手に見えない。でもこういった事は、気持ちが大切なのだ。精一杯の真心を込めれば、きっと相手に通じる。…多分。

するとシェンナ姫の大きな瞳が更に見開かれた後、その瞳からポロポロと幾つもの涙が零れ落ちる。

「わっ!」

「うわああああぁん!!」

そしてなんと、シェンナ姫は俺に抱き着くと、そのまま声をあげて泣き始めたのだった。
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