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第四章
オンタリオ国の陰謀
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「えっ!?確かシェンナ姫、そのオンタリアって国の王太子の元に輿入れする予定だったんですよね!?なんでそんな事を!?」
「その時は、シェンナ…姫は皇太子と婚約はされていませんでした。かの国は私達がこの国を救おうとする全てを邪魔し、支援と引き換えに姫と王太子との婚約を王に進言して来たのです」
「…そして王様は、その取引に乗った」
「…仕方ありませんでした。農業しか取り柄の無い弱小国。しかも、唯一の糧である農作物が壊滅的となってしまった。方や天然資源を武器に力をつけて来た好戦的な新興国であるオンタリア。….敵対してでも力を貸そうとする者や国家はいなかったのです」
――そこまで俺は、ふと疑問を感じた。
確かグリフォンの司る力は『風』だった筈。ならば先程ベルが王様に問い掛けたように、風の力を使って雨雲を呼べばよかったじゃないか。それに…。
「ザビア将軍、先程の王様の話では、シェンナ姫が望まぬ結婚を強いられた事に怒り、グリフォンは日照りから国を守らなかったと言っていましたが、貴方の話とは矛盾が生じる。日照りが続いていた時、何故グリフォンはこの国を守らなかったのですか?」
「…聖獣様は…守りたくても守れなかったのです。あの方は病に侵され、お力を使う事が出来なくなっていました。…いえ、かの国がシェンナ姫の輿入れと引き換えに援助を申し入れてきた時点で初めて気が付いた!あれは…病などではなく、呪いだったのだと!」
俺の問いに、ザビア将軍は何とか冷静に答えようとしていた。が、やがて精悍な顔を憤怒で歪め、血管が浮き出る程に硬く握った拳を声と共に床へ叩きつけた。
「この不自然な異常気象も聖獣様のお力を呪いで封じたのも、全てシェンナ姫を手に入れる為の策略だったのだと…!!」
だが分かった所で、こちらは何もする事は出来ない。
数万の民を餓死させるか、亡き王妃のたった一人の忘れ形見を失うか。…為政者として、王が下した判断は後者だった。
だが、聖獣…グリフォンはそれを良しとせず、王に対しこの国を去ると告げると、シェンナ姫を連れ去ったのだ。
国の守護神が国を見捨てる。それは滅亡を意味するに等しい。
だがどちらにしろ、手に入れようとした花嫁がいなくなれば、オンタリアはこの国を完膚なきまでに制圧し、蹂躙するだろう。
「ですが、かけられた呪いを解除しなければ遅かれ早かれ聖獣様は命を落とし、この国を守る者がいなくなってしまう。だから王は、その役割をオンタリア王国にしてもらうおつもりなのでしょう。…たとえこの国が植民地にされようと、滅亡するよりはマシだと」
再び怒りを内に押し込め、苦悩と疲労を色濃く浮かべる将軍を、俺は何とも言えない気持ちで見つめていた。
胸糞が悪くなる、実に良くある話。
力と奸計で弱小国を騙し貶め、蹂躙する強国のお話だ。そして勝利は悲劇を呼び、また新たに歪な形を紡ぎ出していく。不条理で不公平で反吐が出る、俺が一番大嫌いな物語。
ちらっと、いつの間にか首から手首へ移動しているベルを見る。退屈そうに目を細めて頭を甲に乗っけていたが、将軍の話にさして興味を示している様子もなく、また首元に移動していった。自由だなおい!
不可視になってるシルフィも、肩で小さく欠伸をしている…。まあ、よっぽど気に入った人間以外に精霊達が興味を持つ事はないからな。
「でも、仮にシェンナ姫がオンタリアへ行ったとしても、この国を救ってくれる保証はどこにもないですよね?」
気を取り直して問うた俺に、将軍は勿論だというように首を横にふる。
「それでももう、その希望にすがる他に手は無いと…そう王も大臣達も考えています。ですが肝心のシェンナ姫は聖獣様と共に逃げてしまった。途方に暮れていたところ、誰かの口から貴方様の名があがったのです」
召喚士の更に上を行く『魅了師』という存在がある事。
あらゆる者を魅了し、支配する事の出来る稀有で希少な力を有する者達。しかもその魅了師の中でも最高峰に君臨する『黒の魅了師』は、あらゆる組織や国家に属する事は無い。
そして、依頼を請けるかどうかの基準は金や権力の多さではなく、依頼内容に興味を持った時のみであるという事。
そうした話を聞いた王は、一縷の望みをかけ『黒の魅了師』に依頼をしたのだった。
「そうして貴方様はこの国にやって来られた。黒の魅了師殿。私は貴方に聖獣様とシェンナを捕らえさせる事だけは避けなければと思いました」
ザビア将軍は真っ直ぐ俺を見つめ、迷いなくキッパリそう言い切った。
「その時は、シェンナ…姫は皇太子と婚約はされていませんでした。かの国は私達がこの国を救おうとする全てを邪魔し、支援と引き換えに姫と王太子との婚約を王に進言して来たのです」
「…そして王様は、その取引に乗った」
「…仕方ありませんでした。農業しか取り柄の無い弱小国。しかも、唯一の糧である農作物が壊滅的となってしまった。方や天然資源を武器に力をつけて来た好戦的な新興国であるオンタリア。….敵対してでも力を貸そうとする者や国家はいなかったのです」
――そこまで俺は、ふと疑問を感じた。
確かグリフォンの司る力は『風』だった筈。ならば先程ベルが王様に問い掛けたように、風の力を使って雨雲を呼べばよかったじゃないか。それに…。
「ザビア将軍、先程の王様の話では、シェンナ姫が望まぬ結婚を強いられた事に怒り、グリフォンは日照りから国を守らなかったと言っていましたが、貴方の話とは矛盾が生じる。日照りが続いていた時、何故グリフォンはこの国を守らなかったのですか?」
「…聖獣様は…守りたくても守れなかったのです。あの方は病に侵され、お力を使う事が出来なくなっていました。…いえ、かの国がシェンナ姫の輿入れと引き換えに援助を申し入れてきた時点で初めて気が付いた!あれは…病などではなく、呪いだったのだと!」
俺の問いに、ザビア将軍は何とか冷静に答えようとしていた。が、やがて精悍な顔を憤怒で歪め、血管が浮き出る程に硬く握った拳を声と共に床へ叩きつけた。
「この不自然な異常気象も聖獣様のお力を呪いで封じたのも、全てシェンナ姫を手に入れる為の策略だったのだと…!!」
だが分かった所で、こちらは何もする事は出来ない。
数万の民を餓死させるか、亡き王妃のたった一人の忘れ形見を失うか。…為政者として、王が下した判断は後者だった。
だが、聖獣…グリフォンはそれを良しとせず、王に対しこの国を去ると告げると、シェンナ姫を連れ去ったのだ。
国の守護神が国を見捨てる。それは滅亡を意味するに等しい。
だがどちらにしろ、手に入れようとした花嫁がいなくなれば、オンタリアはこの国を完膚なきまでに制圧し、蹂躙するだろう。
「ですが、かけられた呪いを解除しなければ遅かれ早かれ聖獣様は命を落とし、この国を守る者がいなくなってしまう。だから王は、その役割をオンタリア王国にしてもらうおつもりなのでしょう。…たとえこの国が植民地にされようと、滅亡するよりはマシだと」
再び怒りを内に押し込め、苦悩と疲労を色濃く浮かべる将軍を、俺は何とも言えない気持ちで見つめていた。
胸糞が悪くなる、実に良くある話。
力と奸計で弱小国を騙し貶め、蹂躙する強国のお話だ。そして勝利は悲劇を呼び、また新たに歪な形を紡ぎ出していく。不条理で不公平で反吐が出る、俺が一番大嫌いな物語。
ちらっと、いつの間にか首から手首へ移動しているベルを見る。退屈そうに目を細めて頭を甲に乗っけていたが、将軍の話にさして興味を示している様子もなく、また首元に移動していった。自由だなおい!
不可視になってるシルフィも、肩で小さく欠伸をしている…。まあ、よっぽど気に入った人間以外に精霊達が興味を持つ事はないからな。
「でも、仮にシェンナ姫がオンタリアへ行ったとしても、この国を救ってくれる保証はどこにもないですよね?」
気を取り直して問うた俺に、将軍は勿論だというように首を横にふる。
「それでももう、その希望にすがる他に手は無いと…そう王も大臣達も考えています。ですが肝心のシェンナ姫は聖獣様と共に逃げてしまった。途方に暮れていたところ、誰かの口から貴方様の名があがったのです」
召喚士の更に上を行く『魅了師』という存在がある事。
あらゆる者を魅了し、支配する事の出来る稀有で希少な力を有する者達。しかもその魅了師の中でも最高峰に君臨する『黒の魅了師』は、あらゆる組織や国家に属する事は無い。
そして、依頼を請けるかどうかの基準は金や権力の多さではなく、依頼内容に興味を持った時のみであるという事。
そうした話を聞いた王は、一縷の望みをかけ『黒の魅了師』に依頼をしたのだった。
「そうして貴方様はこの国にやって来られた。黒の魅了師殿。私は貴方に聖獣様とシェンナを捕らえさせる事だけは避けなければと思いました」
ザビア将軍は真っ直ぐ俺を見つめ、迷いなくキッパリそう言い切った。
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