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第四章

カルカンヌ王国の巫女姫

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王の私室だという、豪華だが落ち着いた雰囲気のある部屋に通された俺は、この国の名産だという黒糖をふんだんに使って淹れたカフェオレらしき飲物を飲んでいた。

うん、ちょっと甘いけど黒糖を使っているからか、独特のコクがあって凄く美味い。え?仮面?当然しています。

ウォレンさんの言った通り、口元に持って行くとしっかり飲める。超面白い。一体どんな仕組みになっているのか気になるところだ。

ちなみに、俺の肩にとまっているシルフィも、ちゃっかりとご相伴に預かっているのだが、腕から移動して首に巻きついているベルが、羽虫を追い払うように尻尾でベシベシ追っ払っていてウザい。

空中アクロバットでフラフラになっていた頭も、飲み物のお陰でだいぶ落ち着いた。なので、まずは依頼についての内容を王の口から話してもらった。
本当なら誓約書を直に見たいところだけど、それは流石に無理があるからな。

依頼の内容については、要約すると以下の通りだった。

『誘拐された聖獣の奪還について依頼したい』

『誘拐したのはカルカンヌ国王女、シェンナ姫』

『聖獣はグリフォン』

『どんな手段を用いても良い。ただし聖獣も王女も絶対に傷付けてはならない』

おおっ!聖獣ってグリフォンの事だったのか!

グリフォンってあれだろ?頭が鷲で下半身が獅子の幻獣で、捕食動物の頂点の良いとこ取りしているその外見から、前世では色んな国や権力者が紋章にしていたんだよな。

ゲームやコミックにもよく登場していて、かの世界的に有名な某魔法使いファンタジー小説でも、主人公が所属する寮の名前に使われていたっけ。

『グリフォンか…。神霊系に近いとされる幻獣系の上位種だ。もし奴を喚んだのがこの国の者だとしたら、かなりの術者だな』

相変わらず、絶妙なタイミングで俺の代わりに言葉を発するベルに対し、王は神妙な顔で頷いた。

「はい。かの聖獣様を召喚したのは、五百年以上前に実在したこの国の王女であり、シェンナと同じ巫女姫であったと言い伝えられております」

――成程、凄いな巫女姫。…って、ちょっと待て!

グリフォンでテンション上がって気付くの遅れたけど、何でこの国の王女様が自分の国の聖獣を拐うんだよ。

しかも、『どんな手段を用いても』って言いながら、王女にも聖獣にも傷ひとつつけるななんて、矛盾があるにも程があるだろ!仮にも幻獣の上位種だぞ!?戦わずにどうやって大人しくさせるんだよ!

『…だからこそ『魅了師』に依頼したんだろうが』

ベルの『お前は馬鹿か?』的な言い方にムッとするが、そういえば今の俺は『黒の魅了師』だったな。ヤバイヤバイ、気を抜くとすぐ忘れてしまう。

魔法使いや剣士は魔法や剣技を使い、召喚師は自分が召喚した魔獣を使って戦う。もし彼らがグリフォンのような上位種と対峙した場合、傷ひとつつけずに戦う事など不可能に近いだろう。

その点、魅了師は魅了のスキルで相手を自分に縛り付け、服従させる事が出来る。
腹黒第一王子と師匠予定のハイエルフ様が、ベル使って実践してくれたから実力はお墨付き。

成程、まさに今回のような依頼にはうってつけなんだ。となると、残る疑問は誘拐犯である王女様だな。

なぜ、彼女が聖獣を拐わなければならなかったのか。というか、グリフォンを誘拐するなんてその姫君…シェンナさんだったか。彼女、ひょっとして物凄く強い力を持っているとか?

「貴方の娘さんは巫女姫だと言いましたが、どのような力を持ってグリフォンを攫ったのですか?」

「そ…それは…」

王様は動揺した様子で言い淀んだ。自分の声とベルの声だと口調が微妙に違うけど、そこら辺は気づいてなさそうで有り難いです。

まあ、本当なら依頼内容にあまり深く突っ込まない方が良いんだろうけど、こちらには本物の『黒の魅了師』ではないというハンデがある。しかも頼りのベルも力を封じられて、普通の蛇に成り下がってしまっている。だから相手の能力や力を把握するのは重要な事なのだ。

やがて王様は観念した様子で口を開いた。

「実は…。娘は聖獣様を誘拐したのではないのです。聖獣様も、ご自分の意志で娘と逃げました」
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