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第一章
その後の顛末【テオ視点】
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第一王子の住まう離宮の一つ。その一角の奥殿と呼ばれている建物の一室で、兄はこんこんと眠り続けている。
あの第二王子との決闘から三日。
あの時、全ての従魔を兄に倒され、激高したローレンス王子によって召喚された下位悪魔により、兄は重傷を負わされた。
悪魔は闇の精霊に属する上位種だ。
そして闇の精霊は、その力が無いのに自分を呼び出した召喚士には必ず報復を行うのだと、後で母のセオドアに聞いた。
成程、だから兄は必死に王子があの召喚陣を使うのを止めたのか。そしてその通り、ローレンス王子は下位悪魔に認められず、殺されそうになったのだ。
そして兄は王子を殺そうとする下位悪魔から王子を庇い、深手を負った。そして、今現在に至るまで全く目を覚ます事無く眠り続けているのだ。
兄が下位悪魔に重傷を負わされた時、俺は咄嗟に兄を助けようとした。だが助けようにも、兄と下位悪魔が閉じ込められている結界をどうにかしないことには話にならない。
だが、広域防御結界を解除すればローレンス王子は再び下位悪魔に命を狙われてしまうだろう。
兄がローレンス王子の命を救おうとした英雄であったとしても、王子の命と周囲の者達全ての安全を考慮すれば、結界を解くという選択肢は存在しない。
そもそも、選りすぐりの精鋭である宮廷騎士団が張った結界は強力で、俺がどうにかしようにも、手も足も出なかった。
その間にも、兄が下位悪魔に今にも殺されそうになってしまっている。
絶望に心が染められそうになったその時、兄が下位悪魔に向かって何かを叫んだ。
広域防御結界を張られている為、結界の外にいる俺達に内部の声は聞こえない。
だが次の瞬間、兄の周囲に見慣れぬ魔法陣が浮かび上がり、まばゆい光と共に….もう一体の悪魔が出現したのだった。
――それは、驚く程に美しい悪魔だった。
鈍色を含んだ金髪。深紅の瞳。黒く大きな翼。露出の多めな黒衣を纏う身体は見事に鍛え上げられ、しなやかで美しい。例えるならば、美しい毛並みを持つ優美な肉食獣のようであった。
上位悪魔になればなるほど、その姿はより人間に近く美しくなっていくという。
いわば精霊系にとっての『美』とは、強さの基準そのものなのだと聞いた事があった。それで言えば、この目の前の人外は格上な存在なのだと、その存在自体がそう告げていた。
どうやら上位悪魔は怒っていたらしい。
自分より先に呼び出された下位悪魔を嬲り殺しにした後、兄に何かを施して結界を最も容易く破壊した。
結界越しではなく直接目にした上位悪魔は、美しさも滲み出る魔力も桁違いで、その場にいた誰もが無意識に畏怖の感情を抱き、動けずにいた。
そんな中、上位悪魔はゆっくりとローレンス王子へと近付いて行く。
ローレンス王子もそれを護衛する騎士達も、他の者達同様、上位悪魔の魔力にあてられ、言葉を発する事も出来ずに硬直している。
ほぼ1メートルの距離で止まったソレは、無言のまま鮮血のような赤い双眸で王子を見下ろした。
目を逸らすことも出来ず、大蛇に睨まれた獲物のように震える王子。上位悪魔が彼に何をしようとしているのか…。それに薄々気が付いていても、恐怖で誰も何も出来なかった。…当然、俺自身も。
微かに、薄い氷が割れるような音が聞こえた気がした。それとほぼ同時に、王子の口から絶叫が迸る。
悲鳴を上げながら両手で顔を覆い、苦しみもがく姿を目にした誰もが理解した。上位悪魔が王子の「目」を壊したのだと。
其れを証明するかのように、指の間から細い血の筋が伝い落ちていく。側にいる騎士達が目の前の悪魔から王子を離そうとするが、威圧が更に高まり金縛りにあってしまう。
無感情で無機質なかんばせで、苦しむ王子を見下ろしたまま何のモーションもなかった上位悪魔の手が僅かに動いた、その時だった。
「やめろ!彼に手を出すな!」
意識を失い、倒れているとばかり思っていた兄が、上位悪魔に向かって叫んだのだった。
上位悪魔はその声に振り向くと、兄と視線を合わせる。
『兄上が殺される!』
――下位悪魔の時と同じく標的が王子から兄に変わった。
そう思いこみ、何とか兄を守ろうとするも、地面に根が生えたように足が動かず声も出せず。でくの坊の様に俺は、上位悪魔と睨み合っている兄を不甲斐なく見守るしか出来なかった。
『あれ…?兄上の目の色が…?』
遠目だったからか、その時ふと、兄の黒目が金色に光っているように感じた。
上位悪魔は暫く兄を見つめた後、不意に目を逸らす。
そして黒い羽根をその場に舞い散らせ、忽然と姿を消した。後には完全に意識を失った兄と、俺達が取り残されているだけだった。
いち早く動いたのは、第一王子であるランスロット殿下だった。
彼は先ず、傷ついた第二王子を早急に王宮の魔法医師団の元へ送る様に指示を出し、兄の元に駆け付けた。そして傷の程度を確認しつつ、多くの騎士達に指示を出してその場の収拾に動いたのだ。
迅速で的確な指示の元、混乱は最小限に留められ、大波乱となった王子の生誕祭は幕を閉じた。
生徒達は全て家へと帰されたのだが…。第一王子は兄の治療と保護を名目に、自分の宮殿へと運び入れたのだった。
あの第二王子との決闘から三日。
あの時、全ての従魔を兄に倒され、激高したローレンス王子によって召喚された下位悪魔により、兄は重傷を負わされた。
悪魔は闇の精霊に属する上位種だ。
そして闇の精霊は、その力が無いのに自分を呼び出した召喚士には必ず報復を行うのだと、後で母のセオドアに聞いた。
成程、だから兄は必死に王子があの召喚陣を使うのを止めたのか。そしてその通り、ローレンス王子は下位悪魔に認められず、殺されそうになったのだ。
そして兄は王子を殺そうとする下位悪魔から王子を庇い、深手を負った。そして、今現在に至るまで全く目を覚ます事無く眠り続けているのだ。
兄が下位悪魔に重傷を負わされた時、俺は咄嗟に兄を助けようとした。だが助けようにも、兄と下位悪魔が閉じ込められている結界をどうにかしないことには話にならない。
だが、広域防御結界を解除すればローレンス王子は再び下位悪魔に命を狙われてしまうだろう。
兄がローレンス王子の命を救おうとした英雄であったとしても、王子の命と周囲の者達全ての安全を考慮すれば、結界を解くという選択肢は存在しない。
そもそも、選りすぐりの精鋭である宮廷騎士団が張った結界は強力で、俺がどうにかしようにも、手も足も出なかった。
その間にも、兄が下位悪魔に今にも殺されそうになってしまっている。
絶望に心が染められそうになったその時、兄が下位悪魔に向かって何かを叫んだ。
広域防御結界を張られている為、結界の外にいる俺達に内部の声は聞こえない。
だが次の瞬間、兄の周囲に見慣れぬ魔法陣が浮かび上がり、まばゆい光と共に….もう一体の悪魔が出現したのだった。
――それは、驚く程に美しい悪魔だった。
鈍色を含んだ金髪。深紅の瞳。黒く大きな翼。露出の多めな黒衣を纏う身体は見事に鍛え上げられ、しなやかで美しい。例えるならば、美しい毛並みを持つ優美な肉食獣のようであった。
上位悪魔になればなるほど、その姿はより人間に近く美しくなっていくという。
いわば精霊系にとっての『美』とは、強さの基準そのものなのだと聞いた事があった。それで言えば、この目の前の人外は格上な存在なのだと、その存在自体がそう告げていた。
どうやら上位悪魔は怒っていたらしい。
自分より先に呼び出された下位悪魔を嬲り殺しにした後、兄に何かを施して結界を最も容易く破壊した。
結界越しではなく直接目にした上位悪魔は、美しさも滲み出る魔力も桁違いで、その場にいた誰もが無意識に畏怖の感情を抱き、動けずにいた。
そんな中、上位悪魔はゆっくりとローレンス王子へと近付いて行く。
ローレンス王子もそれを護衛する騎士達も、他の者達同様、上位悪魔の魔力にあてられ、言葉を発する事も出来ずに硬直している。
ほぼ1メートルの距離で止まったソレは、無言のまま鮮血のような赤い双眸で王子を見下ろした。
目を逸らすことも出来ず、大蛇に睨まれた獲物のように震える王子。上位悪魔が彼に何をしようとしているのか…。それに薄々気が付いていても、恐怖で誰も何も出来なかった。…当然、俺自身も。
微かに、薄い氷が割れるような音が聞こえた気がした。それとほぼ同時に、王子の口から絶叫が迸る。
悲鳴を上げながら両手で顔を覆い、苦しみもがく姿を目にした誰もが理解した。上位悪魔が王子の「目」を壊したのだと。
其れを証明するかのように、指の間から細い血の筋が伝い落ちていく。側にいる騎士達が目の前の悪魔から王子を離そうとするが、威圧が更に高まり金縛りにあってしまう。
無感情で無機質なかんばせで、苦しむ王子を見下ろしたまま何のモーションもなかった上位悪魔の手が僅かに動いた、その時だった。
「やめろ!彼に手を出すな!」
意識を失い、倒れているとばかり思っていた兄が、上位悪魔に向かって叫んだのだった。
上位悪魔はその声に振り向くと、兄と視線を合わせる。
『兄上が殺される!』
――下位悪魔の時と同じく標的が王子から兄に変わった。
そう思いこみ、何とか兄を守ろうとするも、地面に根が生えたように足が動かず声も出せず。でくの坊の様に俺は、上位悪魔と睨み合っている兄を不甲斐なく見守るしか出来なかった。
『あれ…?兄上の目の色が…?』
遠目だったからか、その時ふと、兄の黒目が金色に光っているように感じた。
上位悪魔は暫く兄を見つめた後、不意に目を逸らす。
そして黒い羽根をその場に舞い散らせ、忽然と姿を消した。後には完全に意識を失った兄と、俺達が取り残されているだけだった。
いち早く動いたのは、第一王子であるランスロット殿下だった。
彼は先ず、傷ついた第二王子を早急に王宮の魔法医師団の元へ送る様に指示を出し、兄の元に駆け付けた。そして傷の程度を確認しつつ、多くの騎士達に指示を出してその場の収拾に動いたのだ。
迅速で的確な指示の元、混乱は最小限に留められ、大波乱となった王子の生誕祭は幕を閉じた。
生徒達は全て家へと帰されたのだが…。第一王子は兄の治療と保護を名目に、自分の宮殿へと運び入れたのだった。
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