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第一章
召喚獣
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まず一人が爆炎系の魔法を撃ち、それにもう一人が水系の魔法を同時に撃った。それによって大量の水蒸気を巻き起こし、周囲の状況を見えにくくしてしまう。
そしてサーチ系のスキルを持つ者だろう。煙幕の中、的確に俺に向かって襲い掛かってくる。
俺は両足に仕込んだショートソードを抜き取ると、切りかかって来た相手の剣を弾いて叩き割る。
『…空を渡りし自由の使者よ。我が身にその力を宿らせたまえ』
風魔法の呪文を唱え、地面を蹴って空中に躍り出る。
――右3時の方向に二人、正面に一人、後方に二人…。
目隠しに邪魔されず、瞬時に敵の位置を確認する。そして着地するや、先手必勝とばかりに次々と対戦相手を倒していった。
「おお…!何と!」
「これは…!」
霧が晴れた時、その場に立っていたのは俺だけだった。俺に挑んできた者達は全て地に伏せているか、尻餅をつき震えているかだ。
「で?次は誰が来るんだ?」
半数ほど残った親衛隊の連中を睨み付けてやると、皆青褪め、怯えた様子で後ずさる。どうやら戦意喪失したらしい。
――実は俺自身、この時点ですでに息が上がってしまっていた。
いくらこの一週間、集中的に特訓を受けたとは言っても俺は武術の達人ではないし、実践経験もない素人だ。これだけの人数を一度に相手するのは流石にバテる。
だが相手の思惑通り、本命に行き着くまでにスタミナ切れになってしまったら洒落にならない。だから少々やり過ぎかと思う程度に叩き潰させてもらったのだ。
案の定、勝手にビビって戦意喪失してくれた。ふう…やれやれ。やはり攻撃は最大の防御だな。魔力も温存出来たし、後は王子様の従魔が対処可能なレベルであることを願うだけだ。間違っても幻獣クラスがいませんように。
「ええい!この役立たず共が!!もうよい、下がれ!この者には私直々に制裁を下す!」
「制裁?決闘の間違いだろ?」
「どちらも同じ事だ!いいか!このようなザコ共を打ち倒したからと言っていい気になるなよ!?目に物見せてくれる!」
そう言い放った次の瞬間、ローレンス王子の濃い翡翠色の瞳が鮮やかな黄緑色に光った。
『氷の吐息。氷雪を纏いし雪原の白き獣。我が名と命に従い顕現せよ!アイシングウルフ!』
詠唱が終わると同時にローレンス王子の足元が発光し、真っ白な毛並みの狼が飛び出して来た。
そして更に、王子の召喚は続く。
『大いなる大地。その谷間より生まれ出でたる者。我が名と命に従い顕現せよ!ロックベアー!』
同じく、王子の足元から真っ黒な熊が現れる。どちらも牡牛並みのデカさだ。
――良かった。幻獣ではなく、魔獣だった。
いや、別に良くないけど。
幻獣じゃないとはいえ、あの二体の魔物、ベハティ母さんから映像付きで見せてもらった上位魔獣の中にいたし。ランク的にはBランクに相当する危険な連中だ。それを二体も同時に出すかよ!
「さあ行け、お前達!」
ローレンス王子の命令と共に、二匹の従魔が同時に俺へと襲い掛かってくる。
おい、これって勝つ気というより、殺る気満々じゃね?ちゃんと寸止めする気って、あるのかな。
『防御結界発動!』
手をかざし、防御の魔法陣を発動させる。
アイシングウルフの牙と、ロックベアーの爪が魔法陣に阻まれ、二匹が後方に飛びずさる。その隙に、まずはアイシングウルフへと攻撃照準を合わせた。
こいつの属性は『氷』
牙や爪の攻撃を喰らうと、そこが凍結してしまう上、動きも狼だけあって俊敏だ。先に倒しておいた方がいいな。
『紅の炎よ。全てを焼き尽くす業火の矢となりて敵を貫け!“紅蓮の矢”』
詠唱を唱えた直後、指の先に一点集中し、放った炎爆魔法が炎の矢となって再び襲い掛かってきたアイシングウルフの眉間を貫いた。
アイシングウルフの全身にヒビが入り、まるで氷が割れるように粉々に砕け散る。
すると、周囲からどよめきと黄色い歓声が上がった。(その黄色の中に、野太い声が多数混じっていたような気がするが…)
さて次だが…。確かこの熊、名前の通り毛皮が滅茶苦茶固いんだよな。
その重さからアイシングウルフのような機動力はないんだけど、とにかく攻撃が半端なく重い。普通の熊に遭遇して攻撃されても大ケガなのに、それに完全武装した鉄の鎧並みの毛皮をまとってるんだから、まともに攻撃を喰らったりしたらひとたまりもない…と、母さんが言っていた。当然、普通の剣ではかすり傷一つ負わせられないとの事だ。
ちなみに母は、以前こいつと遭遇した時、素手でブチのめしたと言っていたが…。俺も修行を続けていれば、いつか岩を素手で砕けるようになるのだろうか。
俺が今手にしている剣は、ウェズレイ父さんが先祖代々受け継いでいる宝具の一つで、魔鉱石…前世で言えばレアメタルの一種を使って造り上げた剣なのだ。なので、ひょっとしたらあいつを切る事が出来るかもしれない。でも俺の力量では切れたとしても毛皮だけで、本体までは切れない可能性が高い。
そうなるとやはり、さっきのアイシングウルフ同様、魔法で何とかすればいいのだが…。氷に対して炎ってのはすぐ分かったけど、岩系にはどの攻撃がいいんだったっけ?
そしてサーチ系のスキルを持つ者だろう。煙幕の中、的確に俺に向かって襲い掛かってくる。
俺は両足に仕込んだショートソードを抜き取ると、切りかかって来た相手の剣を弾いて叩き割る。
『…空を渡りし自由の使者よ。我が身にその力を宿らせたまえ』
風魔法の呪文を唱え、地面を蹴って空中に躍り出る。
――右3時の方向に二人、正面に一人、後方に二人…。
目隠しに邪魔されず、瞬時に敵の位置を確認する。そして着地するや、先手必勝とばかりに次々と対戦相手を倒していった。
「おお…!何と!」
「これは…!」
霧が晴れた時、その場に立っていたのは俺だけだった。俺に挑んできた者達は全て地に伏せているか、尻餅をつき震えているかだ。
「で?次は誰が来るんだ?」
半数ほど残った親衛隊の連中を睨み付けてやると、皆青褪め、怯えた様子で後ずさる。どうやら戦意喪失したらしい。
――実は俺自身、この時点ですでに息が上がってしまっていた。
いくらこの一週間、集中的に特訓を受けたとは言っても俺は武術の達人ではないし、実践経験もない素人だ。これだけの人数を一度に相手するのは流石にバテる。
だが相手の思惑通り、本命に行き着くまでにスタミナ切れになってしまったら洒落にならない。だから少々やり過ぎかと思う程度に叩き潰させてもらったのだ。
案の定、勝手にビビって戦意喪失してくれた。ふう…やれやれ。やはり攻撃は最大の防御だな。魔力も温存出来たし、後は王子様の従魔が対処可能なレベルであることを願うだけだ。間違っても幻獣クラスがいませんように。
「ええい!この役立たず共が!!もうよい、下がれ!この者には私直々に制裁を下す!」
「制裁?決闘の間違いだろ?」
「どちらも同じ事だ!いいか!このようなザコ共を打ち倒したからと言っていい気になるなよ!?目に物見せてくれる!」
そう言い放った次の瞬間、ローレンス王子の濃い翡翠色の瞳が鮮やかな黄緑色に光った。
『氷の吐息。氷雪を纏いし雪原の白き獣。我が名と命に従い顕現せよ!アイシングウルフ!』
詠唱が終わると同時にローレンス王子の足元が発光し、真っ白な毛並みの狼が飛び出して来た。
そして更に、王子の召喚は続く。
『大いなる大地。その谷間より生まれ出でたる者。我が名と命に従い顕現せよ!ロックベアー!』
同じく、王子の足元から真っ黒な熊が現れる。どちらも牡牛並みのデカさだ。
――良かった。幻獣ではなく、魔獣だった。
いや、別に良くないけど。
幻獣じゃないとはいえ、あの二体の魔物、ベハティ母さんから映像付きで見せてもらった上位魔獣の中にいたし。ランク的にはBランクに相当する危険な連中だ。それを二体も同時に出すかよ!
「さあ行け、お前達!」
ローレンス王子の命令と共に、二匹の従魔が同時に俺へと襲い掛かってくる。
おい、これって勝つ気というより、殺る気満々じゃね?ちゃんと寸止めする気って、あるのかな。
『防御結界発動!』
手をかざし、防御の魔法陣を発動させる。
アイシングウルフの牙と、ロックベアーの爪が魔法陣に阻まれ、二匹が後方に飛びずさる。その隙に、まずはアイシングウルフへと攻撃照準を合わせた。
こいつの属性は『氷』
牙や爪の攻撃を喰らうと、そこが凍結してしまう上、動きも狼だけあって俊敏だ。先に倒しておいた方がいいな。
『紅の炎よ。全てを焼き尽くす業火の矢となりて敵を貫け!“紅蓮の矢”』
詠唱を唱えた直後、指の先に一点集中し、放った炎爆魔法が炎の矢となって再び襲い掛かってきたアイシングウルフの眉間を貫いた。
アイシングウルフの全身にヒビが入り、まるで氷が割れるように粉々に砕け散る。
すると、周囲からどよめきと黄色い歓声が上がった。(その黄色の中に、野太い声が多数混じっていたような気がするが…)
さて次だが…。確かこの熊、名前の通り毛皮が滅茶苦茶固いんだよな。
その重さからアイシングウルフのような機動力はないんだけど、とにかく攻撃が半端なく重い。普通の熊に遭遇して攻撃されても大ケガなのに、それに完全武装した鉄の鎧並みの毛皮をまとってるんだから、まともに攻撃を喰らったりしたらひとたまりもない…と、母さんが言っていた。当然、普通の剣ではかすり傷一つ負わせられないとの事だ。
ちなみに母は、以前こいつと遭遇した時、素手でブチのめしたと言っていたが…。俺も修行を続けていれば、いつか岩を素手で砕けるようになるのだろうか。
俺が今手にしている剣は、ウェズレイ父さんが先祖代々受け継いでいる宝具の一つで、魔鉱石…前世で言えばレアメタルの一種を使って造り上げた剣なのだ。なので、ひょっとしたらあいつを切る事が出来るかもしれない。でも俺の力量では切れたとしても毛皮だけで、本体までは切れない可能性が高い。
そうなるとやはり、さっきのアイシングウルフ同様、魔法で何とかすればいいのだが…。氷に対して炎ってのはすぐ分かったけど、岩系にはどの攻撃がいいんだったっけ?
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