26 / 194
第一章
お兄ちゃん面させてくれよ
しおりを挟む
一見してほっそりとした体躯に仕立ての良い漆黒のローブを纏った青年。
その髪は、ローブと同じように漆黒。だが、ただの黒ではない。サイドを軽く後ろに流し、頸が隠れる程の長さに整えられたそれは艶やかな光を含んでいて、鍛えられた鋼のように煌めいている。
すっきりとした鼻梁、長めの前髪から覗く形良い双眼。輝く瞳はブラックオパールを連想させた。そして、うっすらと薄紅色に染まった厚くも薄くもない唇…。およそ完璧とも言える程に整った怜悧な美貌がそこには在った。
まるで黒百花が咲き誇ったかのような美しさは、確かに噂通り、父親であるセオドアとよく似ていた。
――が、その美しさに言葉では言い表せない独特の雰囲気が加わって、まるで目が離せない。切れ長の黒い瞳は髪と同じく、光を含んで晴れた夜空のように美しく煌めいていた。
水を打ったように静まり返った場に、息を飲む音だけが聞こえてくる。
そんな異様な雰囲気に、青年の顔が僅かにしかめられる。だが、階段を駆け降りてくる人物の姿を捉えると僅かに表情を緩ませた。
「テオ!」
手を上げ、青年がふわりと微笑む。
すると生徒達が次々と膝を着いていく。中には腰から崩れ落ちた者もいて、青年はキョトンと目を丸くした。
「…え~と、なんだこの状況?」
青年…ユキヤは周囲を見回し、戸惑いながらそう呟く。
そして、自分の元にやってくる直前で停止してしまったテオに自分から近付き、なんだかこちらを凝視しながら呆けている顔を見上げ、上気した頬にそっと手を当てた。
「テオ、元気…じゃなさそうだな。なんか痩せちまってるし。ちゃんと飯食ってたか?」
そこでようやく我に返ったテオが、慌てて自分を心配そうに見つめるユキヤに頭を下げた。
「兄上、申し訳ありません!私のせいで、兄上にこのような迷惑を…!」
自分より背の高い弟の、つむじが見える程に深く下げられた頭。それにユキヤは自分の手をポンと乗せ、優しく撫でてやる。
「よせよテオ。お前だって被害者だろが!それにそもそもの原因はあの残念王子様だし、ついでに言えば俺が不甲斐ないせいだ」
「そ、そんな事は…っ!」
バッと顔を上げたテオと視線が重なる。
悲壮な表情を浮かべている愛しい弟に、ユキヤは努めて明るく言葉をかけた。
「だからな、お前は気にすんな。弟を守るのは、兄として当然だし!…なあテオ、たまには俺にもお兄ちゃん面させてくれよ」
そう言って安心させるように微笑んだユキヤに、再びテオの動きが停止した。
「テオ?」
どうしたんだと声をかけようとすると、頬を染めたテオが熱に浮かされたような眼差しをこちらに向け、自分の手を両手で強く握りしめる。
「兄上…俺は貴方を…」
「…うん?」
だが、テオが言葉を言い終わる前にユキヤの服の袖から出てきた黒蛇が、テオに向かってシャーッと牙を剥き、威嚇した。
「うわっ!」
突然の事に反射的に後ずさったテオに、なおも威嚇する黒蛇をユキヤが慌てて抑える。
「おい、ベル!止めろ!何やってんだお前!こいつは俺の弟だぞ!?」
首(?)を掴まれたベルが、鋭い目つきでユキヤを振り向く。
『弟?フン、その割にはお前と同じ血の匂いはまったくせんがな。それに弟だろうがなんだろうが、お前に馴れ馴れしく触れてくる奴は等しく俺の敵だ。それにしても…』
ユキヤをじっと見た後、ベルの真紅の目がスッと細められる。
『俺が抑えててもこれかよ。ったく、お前のタラシ力は呆れるほど末恐ろしいな』
「タラシ言うな!不可抗力だ!」
「あ…兄上、それは一体…?」
戸惑いがちに聞いてくるテオに「ペットだ」と返すが、テオは更に戸惑った様子になった。それはそうだろう。普通は蛇をペットにする奴なんていやしない。
「え~と…だな。こいつはその…とある失敗をやらかした結果というか…」
「失敗?」と首を傾げたテオの顔が途端、険しいものへと変わった。
「テオ?」
「やあ。初めまして。君がテオノアの兄君か」
不意に声がかけられ振り向くと、そこには鮮やかな金髪に翡翠色の目をした美しい少年が後方に沢山の男達を付き従え、不敵な笑顔を貼り付かせていた。
その髪は、ローブと同じように漆黒。だが、ただの黒ではない。サイドを軽く後ろに流し、頸が隠れる程の長さに整えられたそれは艶やかな光を含んでいて、鍛えられた鋼のように煌めいている。
すっきりとした鼻梁、長めの前髪から覗く形良い双眼。輝く瞳はブラックオパールを連想させた。そして、うっすらと薄紅色に染まった厚くも薄くもない唇…。およそ完璧とも言える程に整った怜悧な美貌がそこには在った。
まるで黒百花が咲き誇ったかのような美しさは、確かに噂通り、父親であるセオドアとよく似ていた。
――が、その美しさに言葉では言い表せない独特の雰囲気が加わって、まるで目が離せない。切れ長の黒い瞳は髪と同じく、光を含んで晴れた夜空のように美しく煌めいていた。
水を打ったように静まり返った場に、息を飲む音だけが聞こえてくる。
そんな異様な雰囲気に、青年の顔が僅かにしかめられる。だが、階段を駆け降りてくる人物の姿を捉えると僅かに表情を緩ませた。
「テオ!」
手を上げ、青年がふわりと微笑む。
すると生徒達が次々と膝を着いていく。中には腰から崩れ落ちた者もいて、青年はキョトンと目を丸くした。
「…え~と、なんだこの状況?」
青年…ユキヤは周囲を見回し、戸惑いながらそう呟く。
そして、自分の元にやってくる直前で停止してしまったテオに自分から近付き、なんだかこちらを凝視しながら呆けている顔を見上げ、上気した頬にそっと手を当てた。
「テオ、元気…じゃなさそうだな。なんか痩せちまってるし。ちゃんと飯食ってたか?」
そこでようやく我に返ったテオが、慌てて自分を心配そうに見つめるユキヤに頭を下げた。
「兄上、申し訳ありません!私のせいで、兄上にこのような迷惑を…!」
自分より背の高い弟の、つむじが見える程に深く下げられた頭。それにユキヤは自分の手をポンと乗せ、優しく撫でてやる。
「よせよテオ。お前だって被害者だろが!それにそもそもの原因はあの残念王子様だし、ついでに言えば俺が不甲斐ないせいだ」
「そ、そんな事は…っ!」
バッと顔を上げたテオと視線が重なる。
悲壮な表情を浮かべている愛しい弟に、ユキヤは努めて明るく言葉をかけた。
「だからな、お前は気にすんな。弟を守るのは、兄として当然だし!…なあテオ、たまには俺にもお兄ちゃん面させてくれよ」
そう言って安心させるように微笑んだユキヤに、再びテオの動きが停止した。
「テオ?」
どうしたんだと声をかけようとすると、頬を染めたテオが熱に浮かされたような眼差しをこちらに向け、自分の手を両手で強く握りしめる。
「兄上…俺は貴方を…」
「…うん?」
だが、テオが言葉を言い終わる前にユキヤの服の袖から出てきた黒蛇が、テオに向かってシャーッと牙を剥き、威嚇した。
「うわっ!」
突然の事に反射的に後ずさったテオに、なおも威嚇する黒蛇をユキヤが慌てて抑える。
「おい、ベル!止めろ!何やってんだお前!こいつは俺の弟だぞ!?」
首(?)を掴まれたベルが、鋭い目つきでユキヤを振り向く。
『弟?フン、その割にはお前と同じ血の匂いはまったくせんがな。それに弟だろうがなんだろうが、お前に馴れ馴れしく触れてくる奴は等しく俺の敵だ。それにしても…』
ユキヤをじっと見た後、ベルの真紅の目がスッと細められる。
『俺が抑えててもこれかよ。ったく、お前のタラシ力は呆れるほど末恐ろしいな』
「タラシ言うな!不可抗力だ!」
「あ…兄上、それは一体…?」
戸惑いがちに聞いてくるテオに「ペットだ」と返すが、テオは更に戸惑った様子になった。それはそうだろう。普通は蛇をペットにする奴なんていやしない。
「え~と…だな。こいつはその…とある失敗をやらかした結果というか…」
「失敗?」と首を傾げたテオの顔が途端、険しいものへと変わった。
「テオ?」
「やあ。初めまして。君がテオノアの兄君か」
不意に声がかけられ振り向くと、そこには鮮やかな金髪に翡翠色の目をした美しい少年が後方に沢山の男達を付き従え、不敵な笑顔を貼り付かせていた。
5
お気に入りに追加
936
あなたにおすすめの小説
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する
135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。
現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。
最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる