上 下
1 / 194
第一章

この世界と自分自身について

しおりを挟む
「ほぉ…。お前が俺の召喚者か」



「………」



血の色の様に紅く光る魔法陣の中、『ソレ』は、声も出せずに固まる俺の姿をじっくりと眺めた後、二ィッと笑った。







◇◇◇◇









ーー俺の名前は冠菊雪弥。花も恥じらう、ごく普通の一般的な16歳の男子高校生で、名前でわかる通り日本人だった。

おっと、いくら肌も細胞もピチピチとはいえ、花は恥じらわんな、女じゃあるまいし。

……虚しくなってきた。ともかく話を戻そう。

今現在の俺は精神以外、冠菊雪弥という名の日本人ではない。

どういう事かと言えば、俺は何らかの原因(多分、事故か病気)により早死にし、この今いる世界...つまり異世界に転生したらしいんだ。

そこら辺が曖昧で、未だによく思い出せないんだけど、死因を詳しく思い出しても意味ないよな、って自分を納得させてる。
前世の家族とか以外、しっかり思い出せるのは俺より先に死んでしまった親友1人だけ。多分だけど、強烈なトラウマとか強い印象を伴ってる人達は、魂レベルで記憶が染み付いてるのかなって思う。

因みに俺が『冠菊雪弥』としてこの世界で覚醒したのは、僅か4歳の頃だ。

いや~!あの時は真面目に頭狂うかと思うぐらい衝撃を受けたし、めっちゃパニックになったさ。

なんせ日本に生まれ、貧乏な母子家庭での高校生ライフを送っていた筈の俺が、いきなりお貴族様が住むようなお屋敷で(実際貴族だったけど。しかも公爵!)召し使いやらメイドやらにかしずかれていたのだから。しかも縮んでるし!!

……いや。それよりも何よりも俺を驚愕させた事実があった。

それは…。

「ユキヤ、黙りこんでどうしたんだ?食も進んでいないみたいだし、気分でも優れないのか?それとも肉の味が変だったか?」

よく通る低音ボイスにハッと意識を浮上させ、声の方向に顔を向けた。

そこには、貴族さながらの華美な部屋に置かれた、これまた豪華な長テーブルの上座。いわゆるゴッドファーザー席に堂々と鎮座している、見た目30後半の絵に描いたような銀髪碧眼の美丈夫(イケオジ)が、ワイングラスを片手に心配そうな様子でこちらを見ていたのだ。

…そう、今は夕食の真っ最中である。

かくいう俺は、目の前にあるメインディッシュのカモ肉にナイフとフォークを刺したままの態勢で固まっていた。
やばい。うっかり昔を思い出しつつ物思いにふけって、思いっきり不審な行動してたわ

「いいえ、何でもありません父上。ちょっと考え事をしていました」

軌道修正を図るべく食事を再開し、安心させるように微笑みを浮かべれば、イケオジ…もとい父がホッとしたように目元を緩める。

「そうか。なにもないならばよい。しかし考え事とは...何か心配事でもあるのか?」

またしても心配そうな様子で突っ込まれ、思わず笑顔が引きつった。この心配性な過干渉オヤジが!

「ウェズレイ。ユキヤが何でもないと言っているのだから、本当に何でもないんですよ。だいたい貴方はユキヤに干渉しすぎです!ユキヤももう16歳。子供ではないのですから、少しは放っておいてあげなさい」

「う、そ、そうだな…。うん、ユキヤも年頃だしな。色々考えることもあるんだろう」

横からピシャリと指摘され、端正で精悍な面立ちに今度は焦りの表情を浮かべたイケオジは、咳払いをしながら手に持っていたワイングラスを傾ける。

その場が収まった事に、俺はホッと息をついた。

「有難う、父さん」

そう小声で呟くと、目の前に座っている黒髪黒目の絶世の美貌を持つ『父親』が俺の唇の動きを察し、緩く笑った。

…そう。転生したのであろう俺を最も驚愕させたのは、母親が女ではなく、男だったという事実だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

厘/りん
BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

【本編完結】まさか、クズ恋人に捨てられた不憫主人公(後からヒーローに溺愛される)の小説に出てくる当て馬悪役王妃になってました。

花かつお
BL
気づけば男しかいない国の高位貴族に転生した僕は、成長すると、その国の王妃となり、この世界では人間の体に魔力が存在しており、その魔力により男でも子供が授かるのだが、僕と夫となる王とは物凄く魔力相性が良くなく中々、子供が出来ない。それでも諦めず努力したら、ついに妊娠したその時に何と!?まさか前世で読んだBl小説『シークレット・ガーデン~カッコウの庭~』の恋人に捨てられた儚げ不憫受け主人公を助けるヒーローが自分の夫であると気づいた。そして主人公の元クズ恋人の前で主人公が自分の子供を身ごもったと宣言してる所に遭遇。あの小説の通りなら、自分は当て馬悪役王妃として断罪されてしまう話だったと思い出した僕は、小説の話から逃げる為に地方貴族に下賜される事を望み王宮から脱出をするのだった。

【第1部完結】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~

ちくわぱん
BL
【11/28第1部完結・12/8幕間完結】(第2部開始は年明け後の予定です)ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。

公爵様のプロポーズが何で俺?!

雪那 由多
BL
近衛隊隊長のバスクアル・フォン・ベルトランにバラを差し出されて結婚前提のプロポーズされた俺フラン・フライレですが、何で初対面でプロポーズされなくてはいけないのか誰か是非教えてください! 話しを聞かないベルトラン公爵閣下と天涯孤独のフランによる回避不可のプロポーズを生暖かく距離を取って見守る職場の人達を巻き込みながら 「公爵なら公爵らしく妻を娶って子作りに励みなさい!」 「そんな物他所で産ませて連れてくる!  子作りが義務なら俺は愛しい妻を手に入れるんだ!」 「あんたどれだけ自分勝手なんだ!!!」 恋愛初心者で何とも低次元な主張をする公爵様に振りまわされるフランだが付き合えばそれなりに楽しいしそのうち意識もする……のだろうか?

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

弟枠でも一番近くにいられるならまあいいか……なんて思っていた時期もありました

大森deばふ
BL
ユランは、幼馴染みのエイダールが小さい頃から大好き。 保護者気分のエイダール(六歳年上)に彼の恋心は届くのか。 基本は思い込み空回り系コメディ。 他の男にかっ攫われそうになったり、事件に巻き込まれたりしつつ、のろのろと愛を育んで……濃密なあれやこれやは、行間を読むしか。← 魔法ありのゆるゆる異世界、設定も勿論ゆるゆる。 長くなったので短編から長編に表示変更、R18は行方をくらましたのでR15に。

騎士団長の溺愛計画。

どらやき
BL
「やっと、手に入れることができた。」 涙ぐんだ目で、俺を見てくる。誰も居なくて、白黒だった俺の世界に、あなたは色を、光を灯してくれた。

Restartー僕は異世界で人生をやり直すー

エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。 生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。 それでも唯々諾々と家のために従った。 そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。 父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。 ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。 僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。 不定期更新です。 以前少し投稿したものを設定変更しました。 ジャンルを恋愛からBLに変更しました。 また後で変更とかあるかも。

処理中です...