Seeker at night

西崎 劉

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第一幕 終焉の物語と殉教者たち

三:②

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元々の土台の土が鉢の大きさに比べて十分の一に満たなく、新たに設置した、世界樹を育んだポットの中の土も根を包む程度。両方併せても五分の一。残りの被せる量の土が圧倒的に足りない。どうしようかと、頭を抱えた。すると、脳内の知識が囁く。
『どうしたい?』
『今なら自由に環境を作れるよ?』
 その囁く知識に問いかける。
「それって、日本の元来の環境が失われるってこと?」
それに対して返答があった。
『世界樹の根が抱え込んだ土の記憶があるから大丈夫。惑星“セラフィタ”の土もあったから、その環境が加算された』
 遙はセラフィタの世界を脳裏に浮かべる。環境的には遙の中の常識と差異はない。四季があって、人々が暮らしていて、動植物がある。違う事と言えば、セラフィタの世界は、獣や鳥の特徴を持つ人々が居たと言うことだ。つまり、二種類の人類が存在する世界になるということである。惑星セラフィタとしての星は消えていて、人類もまた絶えている。魔王と呼ばれた青年もまた、獣の姿と人の姿の二つを持っていた。遙が空に憧れていた事もあるのだろうか? それとも、偶然なのかは判らない。ただ、彼は獣としての姿は鳥類だ。猛禽類であるためか、地上の四つ足の獣より、遠く広い視野を鳥の時は持っていた。
「日本は日本の国土を、地球での経度で欲しいかな? けど、近くに大国はご遠慮したいかも。侵略されることもなく、侵略することもなく。他国と付き合うならば、やっぱり理想はそれぞれ尊敬しあえる方がいいよね」
『そのあたりは、皆に任せよう。我らは環境を“創造”する側なのだから』
「それから、星にとって、自衛する存在が欲しいかな? 人間でいう白血球」
『・・・・・・内側? それとも外側?』
「そりゃ、両方。星に住む生命体が、星や世界に対して害意あるものを生み出したときに駆除する存在。・・・・・・地球では、処理できないのにも関わらず生み出したモノに対して、使うだけ使って、それが生み出した廃棄物を処理できないからと、封じて地下に埋めて対処した。核廃棄物がそうだよね・・・・・・。自分たちで綺麗に処理できないモノは、そもそもが使うべきじゃないと思う。分解できる方法、安全に、無毒に出来る方法を編み出して初めて使わなくちゃ。そうじゃないと、廃棄物がどんどん貯まって、ある日あふれ出る。深刻な環境汚染だよ。・・・・・・だから、利益の為に、利便の為に犯さない一線。それがわかるようにしておけば、二度と繰り返さなくてもいいと思う。・・・・・・あとで、後悔しないためにも、立ち止まって考える切っ掛けがあればいいと思うんだ。それが、内側」
『外側に関しては、神々になるのかな?』
「・・・・・・・そうだね。世界樹の護衛という意味では。けど、精神世界と、物質世界が隔絶している現代では、それゆえに後手に回ってしまう。今回もそうだったから、世界樹の消耗を私たちは知ることが出来なかった。だからこその、生命エネルギーの確保に、私たちの国が、世界が使われたんだよ」
 遙は深く深くため息を吐く。
「今回の出来事をふまえ、今までの世界と違う、全く新しい世界を生み出す世界樹を育むためには、土壌が足りない。星を形成するには情報も不足。そういう事でしょ?」
 思わず呟いた遙に対し、地鳴りのような低い意思が返答してきた。
『創造に必要な、希望に添うような条件の環境を用意するには、という意味では足りない』
「・・・・・・ただ、現在そのままの環境を用意するならば、そうあれと、器を満たしているということ?」
『その世界樹を芽吹かせた環境のままであれば、構成される要素を満たしていた。が、望んだ環境設定が、学び、取り入れ、進化し、強化することだろう?それならば、足りない。世界のありようにも手を加えるならば尚更だ。“後悔なき、未来”と、定められた。世界樹の母に設定された遙がそう望んだ。片方が一方的に搾取されることもなく、何より星の健康的な維持との均衡を重視するようにと』
遙は「うん」と同意した。
「あれはねぇ・・・・・・。利便を求めすぎて、かつてあった命が、種族が、どれだけ滅びたか。ならば、それの対策を考えなくちゃと思いつくよ。人類としてさ? 日本人としてもさ」
『・・・・・・・・・・』
「自分勝手で独りよがりでは、滅びを迎えるって、身を持って理解しなくちゃ。何事も、自分のこととして、考えられる環境が必要だなって思ったのよね?」
 遙は深くため息を吐く。
「だから、日本人としての私たちの場合は、今の“星”に転移した、という設定で。だから、技術力が勝負の種族という立ち位置で。日本の国の国土と共に、方位や緯度は同じくあれば、現在の環境維持もどうにか出来るかも。けど、現在の日本は、他の国の兼ね合いを見て、原子力発電をやめられなかった。発電した後の産業廃棄物処理の問題もあるだろうけども、処理が出来るだけの知識があって、無毒化できてたら、“残していた”。けど、それが出来ず、放射能汚染とそれに伴う公害の危険性を抱えたままの現在のままでは、“認められない”。だからこれからはその選択肢を捨てて貰う。星を汚し、あらゆる命を傷つけるからね? 他に頑張って貰うつもりで、それらば、全部、“こちらに国が移動してくる際、使えなくなった”という事にする。
強引な切り替えだけど、水力や風力、地熱といった、エコなエネルギーがまだあるし、強引だけど強制しなくちゃきっと全面的な移行って、私たちの性格上、思い切りが悪い上に決断力が乏しいからいつまでも出来ないと思うんだよ。天然ガスはいいとしても、石油はどうかな? 掘り当てて吹き出せるほど年月を重ねた星かどうかは、今回は解らないんだよ。いろいろ騒ぎにはなるとは思うけど、乗り越えられるかなぁ・・・・・・」
『そこまで考えるのは過保護だ』
 そう、返されて、遙は苦笑した。
「そっか。・・・・・・そうだよね、苦難があるからこそ、それを乗り切るために、知恵を絞ったり本気で取り込むわけだし。それこそが、進化だよねぇ。おおよその枠組みを作って、基礎的な対処方法を学んで貰う形がいいのかな? 情報収集してもらって、知識を新たに貯めて貰う。それが一番いい形かも。わたしは神様でも何でもないからねぇ・・・・・・・」
『遙、今ならいろいろ設定できるよ? その権限を持っているからね』
 子供のような幼い声が囁いた。遙は何処かおどけたような声音に、冗談でなら・・・・・・と、聞き返す。
「日本や、惑星セラフィタに無かった環境で、ファンタジィのお約束といったら、魔法や魔獣や、ダンジョン?そういうノってこと?」
『そうだねぇ』
軽く返った返答に、遙は肩を竦める。
「難しいんじゃない? 日本の国はそのまま移動するから、それを使う身体能力を持っていない。普通に、四季があって、脅威は自然が起こす天災と、同じ人類が起こす人災だったしね。惑星セラフィタも変わらない。まぁ、獣と人の姿を二つ持つ彼らの場合は、身体能力が高いってところがあるけど、文明はどっこい。共通することは、表だって星の化身である神様が、それぞれの人類に殆ど干渉しなかったってこと。おかげで星が異星であり、異世界からの侵攻に、人類が知らない内に対抗していて星が持つ存在エネルギーを消耗し、私の故郷である日本を維持する力を使って、現存維持するための力を確保して、癒すために回したのに対して、惑星セラフィタは、主神である星の核を残して滅んだ。・・・・・・まぁ、日本の場合は、切り捨てられた現場に私が行くことが出来て、託されたことからそれを差し穂として、新しい生命の育む世界樹へと進化させることが出来たし、惑星セラフィタは、最後の生命の足掻きが実り、命は絶えたとしても、基礎知識と共に物質世界の要である星が残り、それを託されたから、完全な滅びともいえない状況だけども」
『・・・・・・・・・・・・』
「けど、両方ともに人類は魔法を使える身体構造をしていない」
『そうだけれどさ、この新しい“星”が現在持つ要素以外を取り入れることが出来たら、夢を現実に出来るよ! 例えば、交渉によって使えるように出来る、とかね?』
「・・・・・・押すね・・・・・・。さては、この“声”は、日本のカルチャー部門かなぁ・・・・・・。ま、それぞれがそれぞれ、増長しないように対抗策の一つとして取り入れるのは、アリかな? じゃ、オーソドックス的に魔法、これは四元素と光と闇。その現象を司るのは、精霊や妖精。法力や仙術、身体強化などといった類は聖霊。神々や魔神は神通力や加護。神々の、精霊や聖霊、妖精や妖魔、悪霊の顕現。魔や聖に呼応した聖獣や妖獣が居てもいいね。で、ダンジョンも? 盛りだくさん、いいよ? ええ、もう好きに盛り込んでもいいさ。意思の疎通は可能。けど、交渉によってしか、成り立たない。利己的だと破滅。勉強の前に資格があるかどうか、資格を得たら、自分の心の属性と相性のいい相手との交渉。自分の体力との正比例とかね?」
『資格の取得方法は?』
「それこそ、ダンジョンとかね? 資格取得用のダンジョンとか、いいんじゃないかな? そこで出会い、相棒を見つける事が、資格を取得したということになるんじゃないかな? 世界の“法”の代弁者という側面も持たせてさ、力を得て、暴走しそうな時の抑止力的な意味合いも、資格取得の時の契約書に明記するのもありかも。小さな国でも、ダンジョンという機関で、希少な素材を手に入れることが出来るって素晴らしいと思うんだよね? それこそ、国の中でお金が回るって事だし。素材の研究機関から、それこそ、小説の中に登場する薬師のように採取の依頼なんかがあったら、雇用も増えると思うよ? それこそ、このダンジョンに入って素材を集めてくる人とかね?運動が苦手だったり、協調するのが不得手だったりする人でも働くことが出来る。雇用が生まれれば、それだけ生活手段が増えるってことだもの、まずは餓える事が減る」
 遙は「でも」と付け加える。
「それらを得るには、そもそもが“無い”土壌だからこそ、そういう要素を持った環境を得ることによってしか、実現出来ない。・・・・・・それこそ、直接そういう“環境”の世界に行って、その世界で一定期間馴染む必要があるんじゃないかな? 星という器に植わった私たちの“世界樹”。その根本の土台を支えるはずの土がこんなに少ないって事は、一定数の条件に見合った世界を巡ることで、土を得ることが出来るんだと考えているんだよ。・・・・・・きっと、前と同じ環境で世界なだけではもう“足りないんだ”」
『・・・・・・“コチラ”は偽装する』
 そっと囁いた知識という声があった。その声に聞き覚えがある。遙は僅かに目を見開き、苦笑した。・・・・・・それは、そもそもがそもそも、故郷の未来を託した存在だからだ。
「あの日、あの時、あの場所で、何か起きる?」
 その問いかけに、楽しげに声が返ってきた。
『国内には殆ど被害のでない“天変地異”』
「へ? ・・・・・・・え?!」
『だって、そうだろう?“日本”は、日の本と呼ばれた世界は、新しい星に移住するのだから』
 そう言い切られ、それは事実なのだが、日本列島が“移住した後”がどうなるのか、気になった。日本列島は、ユーラシアプレートと太平洋プレートの境目に存在し、片方が地下へ潜り込む反動で地震が起きやすい。
「他の国から見たら“天変地異”ってこと? え、」
『日本の領域、そう、二百海里を含めて丸ごとごっそり移動だからねぇ・・・・・・穴が開いて、そこに埋めるように海水が流れ込む。表向きは日本列島が海中に沈んだように見える。・・・・・・大きな地震が起きたように見えて、実際に海上から消えるわけだから、その衝撃は周囲に影響与えると思うよ』
遙は想像して眉間に深い皺が寄る。
「・・・・・・津波の心配は?」
 流れ込んだ海水は、今度は安定するために、渦を描き外へと波打つ。その波の高さを現実問題として想像すると恐ろしい。思わず身を震わせた遙に、皮肉げな声が響いた。
『これから先は、隣国は国境や海里を気にせず漁が出来る
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