Seeker at night

西崎 劉

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第一幕 終焉の物語と殉教者たち

一:⑤

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問われて、遥はちらりと友香と視線を交わした後に、昨日見た夢の内容を辿るように思い出す。そして、一つ話していないことがあった。
「・・・・・・関係あるかどうか解らないけど、彼らの言う“子供たち”を頼まれたとき、思わず明日の打ち上げに参加する人たちを補佐にしてほしいと、言ったような?」
 遥の返答に、梓を始め、全員が全員、目を驚きで見開いた。
「え?」
「いや、一人は無理でしょ、と思わず呟いたら、提案があるなら言ってみろって言うから、友香を始め、みんな色々詳しいじゃん? 漫画家として、ご飯食べていっている先生と呼ばれる立場で、同じ業界にいる友香を知っているからこそ、どんな漫画を描いているのかも、読んでいるからね? 制作過程を想像できるから・・・・世界っていうの? わたしの持つ知識より、断然詳しく調べているだろうし、理解していると思うから、絶対必要だと、夢の中でね、“目の前のコレは夢だ”と思いつつも、希望として要求した。明日の参加者を相談役として、わたしの補助に欲しいと。・・・・・・ねぇ、これって関係ある?多分、各先生方のアシスタントで、今日打ち上げに参加を決めて、古屋先生の本拠地である大阪まで足を伸ばした人たちは、先生方の補佐になるんじゃないかな?」
 遥の言葉に、慌てた様子で梓は、今日参加しているアシスタントたちと参加していない人たちをそれぞれ選って占った。すると、各先生に付いているアシたちは、その占い結果すらも、先生方と等しくしていて、顔をひきつらせる。そして、参加していない人たちは、バラバラな結果の上に、その他大勢と等しく悪い。楽しい打ち上げのはずなのに、重い沈黙がその場を支配した。
「・・・・・・・あ・・・・・・えっと、一応夢、ッスよ?」
 へらりと笑って見せると、この重い空気を変えようと、声音を明るめに意識して聡は笑顔で声を上げるが、それが取り繕ったものであることを、その場に居た全員が理解していた。
「そうだよね、ただの夢だし!」
 一つ柏手を打って、同調したのは、夢を見た張本人の遥だ。古屋夫妻と、椿姫は視線を交わした後に、深いため息を吐く。
「どちらにしても、何が起ころうとしているかもまるっきり解らない状態だから、対処のしようもない。ただの夢なのか、そうでないのか、一応目安の今週一週間を乗り切ればいいんだけど、落ち着かないってことなら、西荻さんの補佐になれるような、自分の抱える分野の情報整理でもしておく?・・・・・・どっちにしろ、現在それぞれが抱えている連載や読み切りの原稿の仕上げでそんな暇はなくて潰れそうだけど」
代表で梓が、開き直りのように軽い気持ちで提案する。
「・・・・・なら、念のため、俺たちの心の安寧のために情報収集しておくか? まぁスピルチュアルな方面の情報なんて、正確性が怪しいけどな!」
 肩を回しながら陸郎は提案もした。
「え、じゃあ・・・・・・俺の情報整理って、格闘技とスポーツなんスけど?」
「浅く広くで集めた資料を掘り下げたら? それにルールブックや野外で遊べる方法とか、そういうの? あと、アウトドアや車関連もじゃない?」
「そういう大峰センセは、ゲーム関連になるのかな? 攻略本や設定資料集も資料のうち?! ・・・・・・梓先生の場合は青年紙方向だから、一番資料が多くて整理が大変そう・・・・・・」
「陸郎の資料の方も膨大よ? 日本だけじゃなく、海外の歴史資料や時代背景もあるから」
「「「あー・・・・・・・・・・」」」
「ま、まぁ・・・・・・なんだ? 一年後、とかじゃなくって、一週間しか無いんだから、もう開き直って、好きなもの食い溜めしておくってのも、アリだぞ?」
「賛成!!」
 あっはっはと笑って何度目かの乾杯をして、夜遅くまで飲み会を続け、翌日別行動をしていたアシスタントを連れて、それぞれの本拠地へ戻っていく。飛行機で帰る為に関西空港へ向かった青森出身の聡と、東京出身の穂乃花、北海道出身の椿姫とは、古屋家の玄関で分かれ、遥と友香は新幹線で福岡へと帰る。もうその頃になると、夢の話や梓の占った結果とかはそこまで気にならなくなっていて、大阪土産に豚まんやたこ焼き、お菓子などを色々新大阪駅で購入して、地元に帰り着いた後、その足で家族や友人たちに配って回った。結局、二人で暮らす友香の仕事場件自宅に帰り着いたのは、日も落ちた頃。
「・・・・・・遥・・・・・・」
「ん?」
「ほんと、なんなんだろうね?」
「そうだねぇ・・・・・・」
友香は玄関口で、遥へと振り返りながら「でも」と、口元を綻ばせて笑みを作る。
「頼ってくれて、嬉しい」
「そお?」
 遥もおどけるように肩を竦めて、目を細める。
「夢の中で、わたしが“わたし”だというのを自覚するような事は、滅多になくてさ、それでいて、何かを任されるというのも、また初めて」
「うん」
「特技も何も無い、平凡なわたしがだよ? 頼むっていわれちゃったら、そりゃ、出来ないことを数えて狼狽えるよ。で、真っ先に相談するのがいつも友香だったから、友香を。で、今回は色々詳しそうな人たちが集まるでしょ? 顔を見たのも初めてで、友香が連れて行ってくれたから、出会う事ができたわけで。だから、今回集まった人たちなら、色々相談できるなともあらためて思ったよ。・・・・・・夢の中でのわたしに“良くやった!”って褒めてあげたい」
「そうだね、よしよし!」
 友香は笑って遥の頭を撫でて頷く。
「もういい歳してるんだから、ヨシヨシはないでしょ」
「いいじゃん、誰かを頼ることを覚えたんだって、自覚できる事だったんだから。学生時代はそうじゃなかったでしょ? 出会った時は、兎に角、他人に不信感を持っていたみたいだったから、自分自身の事は、余程の事じゃない限り、自分自身でどうにかしようとしてたでしょう。ま、苛めにあっていた私に最初に気づいてくれたのは、遥だったもんね? 孤立していた私に、手を差し伸べてくれたのも、遥。夢を応援して両親の説得に協力してくれたのも遥。・・・・・・側にずっと居てくれたのも遥だよ」
「そうだっけ?」
「そうだよ! だから私もと思ったんだから。遥が頼ってくれる時が来たら、それに応えられるようになりたいって思った。だから、こうやって夢という無意識の中で、ちゃんと私が遥の中にいて、頼られる存在になっているっていうのが知れたのが、凄く嬉しい・・・・・・」
 笑み崩れる友香に、遥はなんだか照れくさくて視線を僅かに逸らしつつも、指で頬を掻いた。
「・・・・・・そっか」
 友香は、元気良く「うん!」と頷いて、態とらしく腰に手を当てて怒った様にしてみせる。
「女の友情だって、捨てたもんじゃないって事だよ! なんで、世間では、男の友情は価値があって、女の友情は軽薄だっていわれるのかな? ま、女のおひとり様は、世間から見れば、褒められたものじゃないみたいな考え方なんだけどねぇ、特に昔の人は、結婚することが女の幸せって思っているし。でも、仕事を持っていて、ちゃんと収入源があって、大事な親友が側に居る私は、全然不満じゃないよ? ・・・・・・ちゃんと幸せなんだから」
 友香の言葉に、こみ上げてくるような嬉しさがあって、遥は言葉もなく、頷いた。同意するために。ふと、空を何の気なしに見上げた。そこで思わず声を漏らす。
「どうしたの?」
 友香の問いかけに、遥は闇夜に沈んだ空を指さす。そこには、まばらに瞬く星空に、下弦の月が見えているだけのはずだった。
「二重の虹が空を埋めている」
「・・・・・・へ?」
 友香は、遥に言われて、半分室内に入りかけていたが、再び外に出ると、空を見上げた。が、友香の視界には、普通の夜空だ。
「・・・・・・・・・・・・・わたしの目に映るのは、いつもの星空で、半分になった月だけど」
「私には、それに空を埋め尽くすほど大きな円を描いた虹と、中央に近くに描く虹が見える」
 友香は遥の顔を見つめた後に、再び空を見上げたが、何度見ても、変わらない夜空だ。友香は眉間に深く皺を寄せて、無言で見つめ返してくる遥を見た後、しばしの間、思考を巡らせた。
「・・・・・・・・・・・・・それが何か判る?」
「現在進行形で警告しているの。・・・・・・あ・・・・・・対処方法が無いよ!!」
 遥の言葉に、友香は大きく目を見開いた。遥は片手で頭を掻き毟ると、
その場に座り込んだ。
「へ?」
 遥は掌を突き出して開く。
「五巻!・・・・・・いやいや、夢なんだよね? 夢だよね! 実際に見る事なんてない幻なんだって、思いたいよ」
「・・・・・・・・・・は、るか?」
 友香は震える声音で問いかける。
「夢が夢じゃなかったってことにならないことを祈る! “魔王”は、何故、一人になった?」
「“魔王は、他の星の生命体から、自分以外のすべてを奪われた”」
「そう、全てだよ。形あるモノは全て奪われる。有機物は徴収され、侵略者たちに消費されるんだ。形ある無機物は形状を解かれる。彼らにとって、“そこにあるもの”は、資源なんだよ。見つけたモノが好きにして良いと思っている。・・・・・・カレラにとっては、自分たちの生活のためだけに、他の星の全ての生命と文明を奪い尽くすんだ。しかも、他国への侵略ではなく、他星への侵略。・・・・・・魔王が戦ったのは、そういう文明を発達させた異星人の一国とだ。・・・・・・星全体のほんの一部。それでも、そうだと気づかないうちに
後手後手となり、最後の一線しか守ることが出来なかった。星の意思の代弁者、私たちで言う神を守るため。例え地上の全てが奪われたとしても、神さえ在れば、何れ命が生まれる。・・・・・・・恐ろしく長い時間を再びかけなければならないけど、星が死んだわけじゃないからね。・・・・・・けど、私たちには見ることが、対抗する術を持たない。・・・・・・もう、ね。抵抗しようにも敵に対峙する資格が無い」
「・・・・・・・・・・・・資格?」
「見れる、触れるかってこと。見ることが出来ないと避けることも出来ないし、触れないと相手に干渉できない。一般人にとって、知らないうちに侵略が始まって、自覚のないまま未来が奪われる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・遥ぁ・・・・・・」
 泣き出しそうな表情で、顔色を蒼白に染めたまま、遥の名を呼ぶ友香に、遥は寒気を覚えるほどの予感を覚えつつも、ぎこちない笑みを浮かべた。
「今週一週間。準備も何もないよ、友香。ただただ毎日を過ごして来週を迎えることを願っていればいいと思う」
「でも!」
「だって、私たちには、それしか出来ないのだから」
「・・・・・・でもでも、夢だとしても、遥は頼まれたんでしょ? 子供たちを頼むって。・・・・・・・何もしないでいるわけないよ!」
 縋るように遥の腕を抱え込んだ友香に、「じゃあ」と、提案してみる。「それならば、メッセージだけ、してみる? 一週間後の夜に、福岡・天神駅のモニター前集合って」
「へ?」
「わたしは、誰が神様たちにとっての子供たちか判らない。だから、わたしが見た夢の内容を掲載して、とりあえず集合だけかけてみる? 信じるか信じないか、それを任せるのは読み手。わたしと友香は、モニター前に一応行く。こちらも半信半疑だから、自由意思に任せよう」
 友香は堅く遥の服の裾を握ったまま、何度も頷いた。そして、ようやく笑ったのだ。
「これで、何もしていないことにならないね」
と。
「そうだね。夢の中に登場した人たちは、わたしに何を期待しているのかも、何より何が出来るのかも判らない。けど、もしもに備えよう。・・・・・・バラケるよりは、可能性に期待しよう。・・・・・・個人を特定できる名前が判っていたらまだマシなんだけどねぇ・・・・・・」
友香にそう、返した。

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