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第一幕 終焉の物語と殉教者たち
一:①
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子供の頃から不思議な夢を見ることが多かった。もちろん一夜明けたら忘れる類のものも多くは見たが、朝まで内容を覚えているものもまた多い。思いつきで、そういうある意味映画を一本タダで見ているような、そんな濃い夢を見たら、その内容の詳細を日記として記録するようになって、夢の中で起こった出来事を鮮明に“この身に降り懸かった出来事として”時を経ても覚えていることが多くなった。夢の内容は様々だったが、ある程度成長し、自分が印象に残って忘れずに朝を迎えた殆どの夢が、自身が登場人物の一人として、その夢に出てくる世界で生涯を過ごした類で、感覚的に言えば“成り代わり”。何らかの事情で本来の定めから外れて死亡し、抜けた後の体に宿り、身体の持ち主の“運命”を肩代わりすることで、辿るだろうと思われる道程を“約束された期間”生きるのだ。決められた期間とは、その世界の“転換期”。一つの時代を終息に導く存在たちの成した事を、そうして仲間の一人として、又は群衆の中に紛れる一人としてつぶさに見守ってきた。仲間として共に行動をするときは、持てる技術・能力を用いて貢献に心血を注ぐために、成長する過程で自身の“力”を延ばす努力をした。時には大勢と対立する立場となり、魔王と罵られたこともある。けれども、自分自身の中にある、多くの価値観の不一致が、妥協を許さなかったのだから仕方がない。またある時には、攻めてきた敵対勢力を、全滅へと導いた事もある。喜怒哀楽を味わい、咀嚼し飲み込んで、自分らしくあり続けた。・・・・・・そういう“夢”を今も時折見続けている。
「ただいま」
西荻遥は、波瀾万丈な物語に登場するような内容の、仮初めの肉体を纏う夢とは違って、真実今を生きる“現実”では、程々の平穏を満喫していた。現在の仕事も、製造工場での社員の一人だ。
「おかえりぃ・・・・・・」
応えて奥の部屋から顔を覗かせたのは、よれよれの部屋着を纏った、遥と同年代の女性だ。
「スランプだよ、書けないよ、進まないよ、締め切りがぁ・・・・・・」
「友香、その様子じゃ料理に逃げたね?」
「違うよ! お腹空いたから、気分転換だよ!!」
友香と呼ばれた女性は、頬を膨らませて、懸命に主張するが、美味しそうな香りに誘われて台所にたどり着いて見た料理の品数に、相当行き詰まっていることが解って苦笑する。彼女は高校時代からの友人で、名を柊友香。小学生時代から趣味で漫画を書いており、書き溜めしてきた作品を投稿したことがきっかけで、漫画家デビューを飾ったのは、高校時代だ。ただ、本人の性格から引っ込み思案の上に人見知りだったから、希望する出版社へ、持ち込み投稿するのではなく、友香が決めている条件が揃った出版社の、ネット投稿を受け付けている所に送った。極力他人と交流することのない方法。デビュー作品もパソコンと漫画を作画する機能を搭載したソフトを使って描いたデジタルの物だったから、高校卒業しても上京することもなく、ネット経由で原稿を提出している。出版社からは上京を強く進められたものの、担当編集者との打ち合わせは、よほどのことが無い限り、電話で済ませているから問題ない。執筆している仕事の内容は、現代物からファンタジィ物までジャンルに固執はないようだ。料理も出来ない訳ではない。彼女の描く世界観や作り込まれた話を読めば解るほどに、凝り性で完璧主義な部分があるから、料理も手間のかかる物が多い。さらっと作って、食事を共にしようと待っていてくれることもある。つまり、遥と同居する上で、友香にメリットがあるのか、不思議で首を傾げたくらいだ。何しろ借家とはいえ、仕事用に一軒家を借りていて、そこに遥が住まわせてもらっている事実がある。せめて家賃を折半しようと思って提案しても、修羅場の飯スタントだから、スタッフの住居を融通するのは当たり前だと取り合わない。困って友香の両親に相談するが、「貴女が結婚する相手を見つけるまで付き合ってあげて」といわれるくらいで、苦笑されて終わった。つまり、友香自身か、遥が伴侶を見つけるまでこの同居生活が続くのかもしれないと、漠然と思う。何でもやろうと思えば出来る人なのだ、友香は。遥には心を寄せる相手は居ない。職場の同僚も高齢とでもいえる相手が多く、別にさして恋人が欲しいと思ったことは無かったから、高校から続く友人が、遥が一人暮らしを考えていると打ち明けたときに誘ってくれたときに己が同意したのは、ほんの少し、寂しさを感じていたからかもしれないと考えていた。もっとも、その寂しさの理由は未だにその原因を見つけられていない。友香の両親と同じく、遥の両親や兄弟もまた、同じ町内に居るのだ。しかも徒歩圏内だから、社会人になって、友香と同居という形で住まいを変えても、両親の要請で仕事の帰りに電話を貰う形で買い物を代行して実家に顔を見せ、買った物を手渡す際に家族の様子を聞くことが多いし、同じく友香の両親の買い物を手伝うこともある。両家の関係はすこぶる良いといっていい。そして、どんなに忙しくても、同居人であり、今の家の世帯主である友香は、遥が帰ってくると、笑顔でいつもこう告げた。
「お帰り! お疲れさま」
「ただいま」
西荻遥は、波瀾万丈な物語に登場するような内容の、仮初めの肉体を纏う夢とは違って、真実今を生きる“現実”では、程々の平穏を満喫していた。現在の仕事も、製造工場での社員の一人だ。
「おかえりぃ・・・・・・」
応えて奥の部屋から顔を覗かせたのは、よれよれの部屋着を纏った、遥と同年代の女性だ。
「スランプだよ、書けないよ、進まないよ、締め切りがぁ・・・・・・」
「友香、その様子じゃ料理に逃げたね?」
「違うよ! お腹空いたから、気分転換だよ!!」
友香と呼ばれた女性は、頬を膨らませて、懸命に主張するが、美味しそうな香りに誘われて台所にたどり着いて見た料理の品数に、相当行き詰まっていることが解って苦笑する。彼女は高校時代からの友人で、名を柊友香。小学生時代から趣味で漫画を書いており、書き溜めしてきた作品を投稿したことがきっかけで、漫画家デビューを飾ったのは、高校時代だ。ただ、本人の性格から引っ込み思案の上に人見知りだったから、希望する出版社へ、持ち込み投稿するのではなく、友香が決めている条件が揃った出版社の、ネット投稿を受け付けている所に送った。極力他人と交流することのない方法。デビュー作品もパソコンと漫画を作画する機能を搭載したソフトを使って描いたデジタルの物だったから、高校卒業しても上京することもなく、ネット経由で原稿を提出している。出版社からは上京を強く進められたものの、担当編集者との打ち合わせは、よほどのことが無い限り、電話で済ませているから問題ない。執筆している仕事の内容は、現代物からファンタジィ物までジャンルに固執はないようだ。料理も出来ない訳ではない。彼女の描く世界観や作り込まれた話を読めば解るほどに、凝り性で完璧主義な部分があるから、料理も手間のかかる物が多い。さらっと作って、食事を共にしようと待っていてくれることもある。つまり、遥と同居する上で、友香にメリットがあるのか、不思議で首を傾げたくらいだ。何しろ借家とはいえ、仕事用に一軒家を借りていて、そこに遥が住まわせてもらっている事実がある。せめて家賃を折半しようと思って提案しても、修羅場の飯スタントだから、スタッフの住居を融通するのは当たり前だと取り合わない。困って友香の両親に相談するが、「貴女が結婚する相手を見つけるまで付き合ってあげて」といわれるくらいで、苦笑されて終わった。つまり、友香自身か、遥が伴侶を見つけるまでこの同居生活が続くのかもしれないと、漠然と思う。何でもやろうと思えば出来る人なのだ、友香は。遥には心を寄せる相手は居ない。職場の同僚も高齢とでもいえる相手が多く、別にさして恋人が欲しいと思ったことは無かったから、高校から続く友人が、遥が一人暮らしを考えていると打ち明けたときに誘ってくれたときに己が同意したのは、ほんの少し、寂しさを感じていたからかもしれないと考えていた。もっとも、その寂しさの理由は未だにその原因を見つけられていない。友香の両親と同じく、遥の両親や兄弟もまた、同じ町内に居るのだ。しかも徒歩圏内だから、社会人になって、友香と同居という形で住まいを変えても、両親の要請で仕事の帰りに電話を貰う形で買い物を代行して実家に顔を見せ、買った物を手渡す際に家族の様子を聞くことが多いし、同じく友香の両親の買い物を手伝うこともある。両家の関係はすこぶる良いといっていい。そして、どんなに忙しくても、同居人であり、今の家の世帯主である友香は、遥が帰ってくると、笑顔でいつもこう告げた。
「お帰り! お疲れさま」
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