上 下
6 / 16

ポーションを作ろう

しおりを挟む

「低品質だけど薬草が4つ、まずまずだな」

 無事薬草を入手した俺はシアたちと別れた後、宿へと戻っていた。
 帰り道に購入したガラス瓶などの必要最低限の道具を部屋に並べ、いざポーション作成。

 久しぶりの感覚に胸が躍りそうだ。
 あ、そういえば道すがら倒した魔物の素材もいくつかとっておいたんだった。

 カバンからスライムの粘液やオオコウモリの羽などの素材を取り出す。
 どれも品質は最悪だが、ないよりはマシ。
 魔物とは何度かエンカウントしたがシアとレアが思ったよりも強かったおかげで魔物の素材も危なげなく採取することができたのだ。

 こればかりはクエストを無理やり奪い取っていったレアに感謝だな。

 とと。
 それよりもポーションだ。

 ポーションの基本は原料と魔法式だ。
 特定の原料に魔法式を組み込むことでありとあらゆる魔法をポーションに込めることができる。
 もちろん、原料の種類や強さによって出来上がるポーションの質は上下するし、魔法式が未熟だとどんなに良い原料を使っても粗悪品にしかならない。

 そして、原料を作るためには素材から特定の成分だけを抽出する必要がある。
 その方法はいろいろあるが今回は誰でも安価にできる方法を試すとしよう。

 まずは薬草であるグリーンハーブだ。
 これを水と一緒に鍋へ入れ沸騰するまで待つ。
 沸騰すると水の色が緑色っぽくなるので弱火にしてグリーンハーブを取り出す。

 これで第一段階は完了だ。
 本来ならここでグリーンハーブを太陽で乾かす必要があるのだが、今回は手間なので魔法『スコーチド』で乾燥させる。
 乾燥したグリーンハーブを粉末状に砕けばこちらは一旦完了だ。

 鍋へと戻り茹った緑色の液体を別の容器に移し替える。
 ここでスライムの粘液を容器に投入する。
 なくても別に問題はないが、入れることによって成分の抽出が楽になるのだ。
 とろとろになるまでかき混ぜて、程よい頃合いに活性化の魔法をかける。
 液体が薄く光れば成功だ。成分が液体の中で活性化し、原料へと変異しているのだ。

「よし、これで準備が整ったな」

 第二段階完了。
 ここから本格的に原料の作成が始まる。
 液体は漏斗で粘度の高い液体とそうでない液体とで分ける。
 ここでいう粘度の高い液体とはスライムの粘液とグリーンハーブの成分が混じったものである。

 スライムの粘液にはわずかだけど魔力を吸い取る効果があり、液体に混じっていた成分を程よく吸い取ってくれるのだ。
 うまく吸い取ってくれないこともあるが今回は気にせず続けることにする。

 次にグリーンハーブの粉末だ。
 普通の回復のポーションであれば成分を抽出した後のグリーンハーブは不要だけど今回はアレンジを加える。
 せっかく、オオコウモリの羽を手に入れたのだから活用するのだ。

 オオコモウモリの羽を使うといっても正確には飛膜部分を使う。オオコウモリに限らず魔物の飛膜は風の精霊と相性が良いことが多い。今回は飛膜からその成分を抽出して、ポーションに加えることにする。

 飛膜をぶつ切りにしグリーンハーブの粉末でまぶす。
 全体的に程よくまぶし終えたら合成魔法でグリーンハーブと飛膜を合成する。
 そうして出来上がった塊をさらに魔法でお好みのサイズに切り刻む。

 ふぅこれくらいでいいだろう。
 刻んだ塊と先ほどの粘度の高い液体を同じ容器に入れる。
 あとはここに魔法式を組み込むことによってポーションの完成だ。

「おっと、忘れてた。こいつも入れなきゃな」

 市場で手に入れた果物とハチミツも一緒に容器の中に放り込む。
 これは味付けだったり色付けだったりのためだ。

 回復のポーションだからな果物で色を赤くしてハチミツで味をまろやかにしたりする。
 組み合わせによって入れる物を変える必要があるからここでの素材選びは慎重にすることが重要だ。

 最終段階。
 魔法式を組み込みこんでポーションを生成する。
 
 ポーション作りでもっとも難易度が高い作業がこれだ。
 といってもポーション作りのプロである俺にとっちゃ今回の魔法式はお茶の子さいさいなのだが。

 今回主に魔法式へ組み込むのは回復の定義情報だ。
 何が回復なのかをきちんと組み込まないと効果がうまく表れなかったりするので間違いないように組み込む。
 この組み込む内容はポーション作りの教科書に載っているので初心者は教科書通りにきちんと組むこと。
 
 俺は玄人なので組む内容をアレンジする。
 このポーションはオオコウモリの羽のおかげで風の精霊との相性は良いはず。
 回復の効果に風の精霊を加えてミックス。

 ボンッ。

 容器の中で小さな爆発が起きた。
 爆音が部屋に響いて耳が少しやられたが問題ない。

「くっくっく……あーはっはっはっ大成功だ!」

 そう、ポーションは出来上がったのだ。
 量はざっと小フラスコ20本分。

 至高のポーションとは呼べないが思った以上に出来上がりは良さそうだ。
 特にこの艶のある色だ。回復のポーションといえば赤、ワインのように深くミステリアスな赤。
 今回作ったポーションの色は純度の高いポーションと同じように最高のワインレッドである。

 香りも素晴らしい。
 ほのかに香るこの匂いはまさしく回復のポーションそのものだ。
 ポーションは独特な匂いがして嫌だというやつもいるが、品質が良ければその独特さは上品さに変わる。

 味も確かめてみよう。ついでに効果も。
 ペロリ。
 少しだけ掬い取ってから舐める。

 甘い。ハチミツを入れたおかげもあるが、それ以上に魔法式を無駄なく綺麗に組み込めたのが大きいのだろう。
 回復の定義に味は存在しない。そこに味の定義を魔法式に加え子供でも飲みやすいようにしたのだ。
 魔法式は少しでも間違えれば意味が大きく変わってしまうこともある。
 俺の魔法式はあの素材から正確に甘いという味を表現することができたのだ。

 そして、一番重要な要素でもある効果。
 これに関してはまずまずな出来だ。
 回復力はあまりない。しかし、あの品質の悪い素材からこの効果を生み出せたのなら問題ない。
 少なくともその辺の安価なポーションよりかは効果があるだろう。

 これを販売すれば当面の資金が――。

「さっきからうるさいのです。黙りやがれなの」

 部屋の扉が唐突に開かれた。
 そうか、爆発もそうだが宿ではしゃぎすぎたな。

「すまない。もう少し気を配るべきだったよ。お詫びにポーションでもってあれ? お前、レアか?」
「エルロット?」

 奇妙なことに扉の前に立っていたのは先ほど別れたばかりのレアだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

その転生幼女、取り扱い注意〜稀代の魔術師は魔王の娘になりました〜

みおな
ファンタジー
かつて、稀代の魔術師と呼ばれた魔女がいた。 魔王をも単独で滅ぼせるほどの力を持った彼女は、周囲に畏怖され、罠にかけて殺されてしまう。 目覚めたら、三歳の幼子に生まれ変わっていた? 国のため、民のために魔法を使っていた彼女は、今度の生は自分のために生きることを決意する。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...