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ポーションを作ろう
しおりを挟む「低品質だけど薬草が4つ、まずまずだな」
無事薬草を入手した俺はシアたちと別れた後、宿へと戻っていた。
帰り道に購入したガラス瓶などの必要最低限の道具を部屋に並べ、いざポーション作成。
久しぶりの感覚に胸が躍りそうだ。
あ、そういえば道すがら倒した魔物の素材もいくつかとっておいたんだった。
カバンからスライムの粘液やオオコウモリの羽などの素材を取り出す。
どれも品質は最悪だが、ないよりはマシ。
魔物とは何度かエンカウントしたがシアとレアが思ったよりも強かったおかげで魔物の素材も危なげなく採取することができたのだ。
こればかりはクエストを無理やり奪い取っていったレアに感謝だな。
とと。
それよりもポーションだ。
ポーションの基本は原料と魔法式だ。
特定の原料に魔法式を組み込むことでありとあらゆる魔法をポーションに込めることができる。
もちろん、原料の種類や強さによって出来上がるポーションの質は上下するし、魔法式が未熟だとどんなに良い原料を使っても粗悪品にしかならない。
そして、原料を作るためには素材から特定の成分だけを抽出する必要がある。
その方法はいろいろあるが今回は誰でも安価にできる方法を試すとしよう。
まずは薬草であるグリーンハーブだ。
これを水と一緒に鍋へ入れ沸騰するまで待つ。
沸騰すると水の色が緑色っぽくなるので弱火にしてグリーンハーブを取り出す。
これで第一段階は完了だ。
本来ならここでグリーンハーブを太陽で乾かす必要があるのだが、今回は手間なので魔法『スコーチド』で乾燥させる。
乾燥したグリーンハーブを粉末状に砕けばこちらは一旦完了だ。
鍋へと戻り茹った緑色の液体を別の容器に移し替える。
ここでスライムの粘液を容器に投入する。
なくても別に問題はないが、入れることによって成分の抽出が楽になるのだ。
とろとろになるまでかき混ぜて、程よい頃合いに活性化の魔法をかける。
液体が薄く光れば成功だ。成分が液体の中で活性化し、原料へと変異しているのだ。
「よし、これで準備が整ったな」
第二段階完了。
ここから本格的に原料の作成が始まる。
液体は漏斗で粘度の高い液体とそうでない液体とで分ける。
ここでいう粘度の高い液体とはスライムの粘液とグリーンハーブの成分が混じったものである。
スライムの粘液にはわずかだけど魔力を吸い取る効果があり、液体に混じっていた成分を程よく吸い取ってくれるのだ。
うまく吸い取ってくれないこともあるが今回は気にせず続けることにする。
次にグリーンハーブの粉末だ。
普通の回復のポーションであれば成分を抽出した後のグリーンハーブは不要だけど今回はアレンジを加える。
せっかく、オオコウモリの羽を手に入れたのだから活用するのだ。
オオコモウモリの羽を使うといっても正確には飛膜部分を使う。オオコウモリに限らず魔物の飛膜は風の精霊と相性が良いことが多い。今回は飛膜からその成分を抽出して、ポーションに加えることにする。
飛膜をぶつ切りにしグリーンハーブの粉末でまぶす。
全体的に程よくまぶし終えたら合成魔法でグリーンハーブと飛膜を合成する。
そうして出来上がった塊をさらに魔法でお好みのサイズに切り刻む。
ふぅこれくらいでいいだろう。
刻んだ塊と先ほどの粘度の高い液体を同じ容器に入れる。
あとはここに魔法式を組み込むことによってポーションの完成だ。
「おっと、忘れてた。こいつも入れなきゃな」
市場で手に入れた果物とハチミツも一緒に容器の中に放り込む。
これは味付けだったり色付けだったりのためだ。
回復のポーションだからな果物で色を赤くしてハチミツで味をまろやかにしたりする。
組み合わせによって入れる物を変える必要があるからここでの素材選びは慎重にすることが重要だ。
最終段階。
魔法式を組み込みこんでポーションを生成する。
ポーション作りでもっとも難易度が高い作業がこれだ。
といってもポーション作りのプロである俺にとっちゃ今回の魔法式はお茶の子さいさいなのだが。
今回主に魔法式へ組み込むのは回復の定義情報だ。
何が回復なのかをきちんと組み込まないと効果がうまく表れなかったりするので間違いないように組み込む。
この組み込む内容はポーション作りの教科書に載っているので初心者は教科書通りにきちんと組むこと。
俺は玄人なので組む内容をアレンジする。
このポーションはオオコウモリの羽のおかげで風の精霊との相性は良いはず。
回復の効果に風の精霊を加えてミックス。
ボンッ。
容器の中で小さな爆発が起きた。
爆音が部屋に響いて耳が少しやられたが問題ない。
「くっくっく……あーはっはっはっ大成功だ!」
そう、ポーションは出来上がったのだ。
量はざっと小フラスコ20本分。
至高のポーションとは呼べないが思った以上に出来上がりは良さそうだ。
特にこの艶のある色だ。回復のポーションといえば赤、ワインのように深くミステリアスな赤。
今回作ったポーションの色は純度の高いポーションと同じように最高のワインレッドである。
香りも素晴らしい。
ほのかに香るこの匂いはまさしく回復のポーションそのものだ。
ポーションは独特な匂いがして嫌だというやつもいるが、品質が良ければその独特さは上品さに変わる。
味も確かめてみよう。ついでに効果も。
ペロリ。
少しだけ掬い取ってから舐める。
甘い。ハチミツを入れたおかげもあるが、それ以上に魔法式を無駄なく綺麗に組み込めたのが大きいのだろう。
回復の定義に味は存在しない。そこに味の定義を魔法式に加え子供でも飲みやすいようにしたのだ。
魔法式は少しでも間違えれば意味が大きく変わってしまうこともある。
俺の魔法式はあの素材から正確に甘いという味を表現することができたのだ。
そして、一番重要な要素でもある効果。
これに関してはまずまずな出来だ。
回復力はあまりない。しかし、あの品質の悪い素材からこの効果を生み出せたのなら問題ない。
少なくともその辺の安価なポーションよりかは効果があるだろう。
これを販売すれば当面の資金が――。
「さっきからうるさいのです。黙りやがれなの」
部屋の扉が唐突に開かれた。
そうか、爆発もそうだが宿ではしゃぎすぎたな。
「すまない。もう少し気を配るべきだったよ。お詫びにポーションでもってあれ? お前、レアか?」
「エルロット?」
奇妙なことに扉の前に立っていたのは先ほど別れたばかりのレアだった。
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