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第五章 帰還
146話
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アルディスと話している間、何度ぽかんとしたかわからない。だがそんなリフィルナでもわかったことがある。ようやくわかったと言うのだろうか。
フォルスに対しては確かにずっと不思議な気持ちではあった。兄への気持ちのような、だが実際兄に抱く気持ちと違うような、よくわからない気持ちだった。
アルディスに言われ、自分の中で出会ってから今までのフォルスが浮かび、そして昨日のフォルスの言葉を思い出して顔が熱くなった。多分アルディスはそれによってリフィルナが自分の気持ちを理解したことにすぐ気づいたのだろう。
ただまだ気づきたてで、リフィルナはフォルスへの自分の気持ちをどう表現したらいいのかわからない。それにアルディスから「上手くいきますように」と祈ってもらえたが、フォルスへの返事をどうすればいいのかについても戸惑っていた。
手紙を書けばいいのかもしれないが、頭の中でも未だどう表現すればいいのかわかっていないというのに文字で何と書けばいいのか到底思いつきそうにない。直接会えばどうにかなるかもしれないとは思ったが、第一王子に対して気軽に会う機会などそれこそ思いつかない。フォルスたちはいつでも来ていいと言ってくれてはいたが、さすがに表立って用事がないと王宮へ出向くのは敷居が高すぎる。
コルドに今こそ相談してみればいいのかもしれないとリフィルナは思い立ち、部屋を出た。だがコルドはちょうど出かけるところだったのか何やら支度をしていた。
「コルド兄さま、どこかへお出かけなの?」
「仕事で王宮へな」
王宮、と聞いてリフィルナはハッとなった。ついて行っては駄目だろうか。このままではフォルスに会う機会というか、口実もなく立ち往生だ。
リフィルナを見てきたコルドが苦笑してきた。
「お前も来るか?」
「いいの?」
「俺は仕事とはいえ人に会うだけだし、その間少し待っててもらうことになるが問題ないと思うよ」
「じゃ、じゃあすぐに支度してくるから待ってて!」
「ああ、わかった。まだ時間には余裕がある。急がなくてゆっくりで大丈夫だぞ」
笑いながらコルドは頷いていた。
「で、何か用事があったんじゃないのか? 王宮に」
馬車の中でコルドがニヤリと笑いながら聞いてくる。
「うん……あの、ね。その、フォルに話があったんだ」
「フォルス王子に、な」
「手紙を出せばいいのかもだけど、浮かびそうになくて。いっそ直接会えば言葉が出るかなとか思って。だけど会う約束を特にしてないから、どうしようかなって。でも約束してないから、こうして急に行ったところで会えないかもしれない、ね」
言いながらリフィルナは俯いた。相手は王子だ。それに王位継承権をアルディスに移したばかりだし、フォルスも引継ぎや何やらで忙しいのではないだろうか。リフィルナが行ったところで会えない可能性が高いと失念していたことに今さら気づいた。
「……リィーが会いにきたとわかれば絶対あの人は飛んででも来るだろうな……昨日絶対何かあったに違いないだろ……」
「え? 何か言った?」
ぼそりとコルドから何か聞こえてきたのでリフィルナは頭を上げた。コルドを見ると何故か複雑そうな顔をしている。
「いや……。何でもない。大丈夫だよリィー。多分貴賓室に案内されるだろうから、とりあえずそこで寛いでいてくれ」
「うん」
王宮に着くと一旦二人とも貴賓室へ案内された。だがすぐに誰かの従者らしい人に呼ばれ、コルドは部屋を出ていった。後に残されたリフィルナは待っている間に誰かにフォルスへの取り次ぎを頼むことはできないだろうかと考えながら、用意してもらった茶に手をつけた。
「美味しい」
さすがは王宮御用達というのだろうか。いつ来ても出される茶がとても美味しい。その上一緒についてくる焼き菓子も毎回あまりにも美味しそうで、手をつけないでいる強い力など持ち合わせていないリフィルナは毎回負けてしまっている。今も甘いものへの誘惑に負け、何の目的も果たせそうにないというのについ、優雅に焼き菓子も口にしていた。
いっそもう、このまま焼き菓子を堪能して今日は終わろうか。
そんな風に考えてしまう。そもそも人付き合いは未だに得意ではない。いくら友人となってくれた人たちであってもできることとできないことがある。しかも王子相手に自分が返事をするために貴賓室まで呼び出すなど、おこがましさしかないのではないだろうか。
やっぱり手紙のがいいかな……でも何て書けばいい?
『拝啓フォルス王子殿下、ここのところめっきり寒さを感じるようになってまいりましたがいかがお過ごしでしょうか』
……何か、違う。
しかしブルーに託すような気軽な手紙と違って普通に出す手紙なら時候の挨拶は必要だろう。とはいえそこから一体どのようにして今のリフィルナの気持ちを伝えればいいのだろう。テンションが違う気がしてならない。
いっそ、アルにブルーを借りる?
一瞬名案のような気がしたが、それはそれで厚かましい上に『こんにちは。お元気ですか? 先日頂いたお言葉に対してお返事しますね』などと書くのも気軽すぎてどう考えても駄目な気がする。
「ああー」
ため息とともに声に出しながらも、菓子を口に含む行為はやめられずにいると部屋のノックがあった。
「は、はぃ」
丁度口へ焼き菓子を運んでいたところだったのでこもった声になりながら辛うじて返事するとフォルスが入ってきて、少し笑われた。
フォルスに対しては確かにずっと不思議な気持ちではあった。兄への気持ちのような、だが実際兄に抱く気持ちと違うような、よくわからない気持ちだった。
アルディスに言われ、自分の中で出会ってから今までのフォルスが浮かび、そして昨日のフォルスの言葉を思い出して顔が熱くなった。多分アルディスはそれによってリフィルナが自分の気持ちを理解したことにすぐ気づいたのだろう。
ただまだ気づきたてで、リフィルナはフォルスへの自分の気持ちをどう表現したらいいのかわからない。それにアルディスから「上手くいきますように」と祈ってもらえたが、フォルスへの返事をどうすればいいのかについても戸惑っていた。
手紙を書けばいいのかもしれないが、頭の中でも未だどう表現すればいいのかわかっていないというのに文字で何と書けばいいのか到底思いつきそうにない。直接会えばどうにかなるかもしれないとは思ったが、第一王子に対して気軽に会う機会などそれこそ思いつかない。フォルスたちはいつでも来ていいと言ってくれてはいたが、さすがに表立って用事がないと王宮へ出向くのは敷居が高すぎる。
コルドに今こそ相談してみればいいのかもしれないとリフィルナは思い立ち、部屋を出た。だがコルドはちょうど出かけるところだったのか何やら支度をしていた。
「コルド兄さま、どこかへお出かけなの?」
「仕事で王宮へな」
王宮、と聞いてリフィルナはハッとなった。ついて行っては駄目だろうか。このままではフォルスに会う機会というか、口実もなく立ち往生だ。
リフィルナを見てきたコルドが苦笑してきた。
「お前も来るか?」
「いいの?」
「俺は仕事とはいえ人に会うだけだし、その間少し待っててもらうことになるが問題ないと思うよ」
「じゃ、じゃあすぐに支度してくるから待ってて!」
「ああ、わかった。まだ時間には余裕がある。急がなくてゆっくりで大丈夫だぞ」
笑いながらコルドは頷いていた。
「で、何か用事があったんじゃないのか? 王宮に」
馬車の中でコルドがニヤリと笑いながら聞いてくる。
「うん……あの、ね。その、フォルに話があったんだ」
「フォルス王子に、な」
「手紙を出せばいいのかもだけど、浮かびそうになくて。いっそ直接会えば言葉が出るかなとか思って。だけど会う約束を特にしてないから、どうしようかなって。でも約束してないから、こうして急に行ったところで会えないかもしれない、ね」
言いながらリフィルナは俯いた。相手は王子だ。それに王位継承権をアルディスに移したばかりだし、フォルスも引継ぎや何やらで忙しいのではないだろうか。リフィルナが行ったところで会えない可能性が高いと失念していたことに今さら気づいた。
「……リィーが会いにきたとわかれば絶対あの人は飛んででも来るだろうな……昨日絶対何かあったに違いないだろ……」
「え? 何か言った?」
ぼそりとコルドから何か聞こえてきたのでリフィルナは頭を上げた。コルドを見ると何故か複雑そうな顔をしている。
「いや……。何でもない。大丈夫だよリィー。多分貴賓室に案内されるだろうから、とりあえずそこで寛いでいてくれ」
「うん」
王宮に着くと一旦二人とも貴賓室へ案内された。だがすぐに誰かの従者らしい人に呼ばれ、コルドは部屋を出ていった。後に残されたリフィルナは待っている間に誰かにフォルスへの取り次ぎを頼むことはできないだろうかと考えながら、用意してもらった茶に手をつけた。
「美味しい」
さすがは王宮御用達というのだろうか。いつ来ても出される茶がとても美味しい。その上一緒についてくる焼き菓子も毎回あまりにも美味しそうで、手をつけないでいる強い力など持ち合わせていないリフィルナは毎回負けてしまっている。今も甘いものへの誘惑に負け、何の目的も果たせそうにないというのについ、優雅に焼き菓子も口にしていた。
いっそもう、このまま焼き菓子を堪能して今日は終わろうか。
そんな風に考えてしまう。そもそも人付き合いは未だに得意ではない。いくら友人となってくれた人たちであってもできることとできないことがある。しかも王子相手に自分が返事をするために貴賓室まで呼び出すなど、おこがましさしかないのではないだろうか。
やっぱり手紙のがいいかな……でも何て書けばいい?
『拝啓フォルス王子殿下、ここのところめっきり寒さを感じるようになってまいりましたがいかがお過ごしでしょうか』
……何か、違う。
しかしブルーに託すような気軽な手紙と違って普通に出す手紙なら時候の挨拶は必要だろう。とはいえそこから一体どのようにして今のリフィルナの気持ちを伝えればいいのだろう。テンションが違う気がしてならない。
いっそ、アルにブルーを借りる?
一瞬名案のような気がしたが、それはそれで厚かましい上に『こんにちは。お元気ですか? 先日頂いたお言葉に対してお返事しますね』などと書くのも気軽すぎてどう考えても駄目な気がする。
「ああー」
ため息とともに声に出しながらも、菓子を口に含む行為はやめられずにいると部屋のノックがあった。
「は、はぃ」
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