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第五章 帰還

145話

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 翌日の昼頃、アルディスは通信機でリフィルナに連絡を取った。すぐに出てきたリフィルナは『アル……忙しいのでは?』と困惑している。

「昨日の帰り、君に連絡を入れるねって言ったんだけどな。やっぱり覚えてなかったか」
『え? ご、ごめんなさい!』
「いいよ、大丈夫」

 アルディスは笑いながら手を振った。覚えていないだろうなとは思っていた。心ここにあらずだったリフィルナを思い出し、アルディスはまた笑う。

『あの……』
「ああ、こっちこそごめん。確かに今日から本格的に僕も色々と忙しくなるんだけどね、その前に少しだけ自分の時間をもらったんだ。どうしてもリフィルナと話がしたくて」

 実際リフィルナと、本格的に忙しくなる前に話したいと思っていた。それと共に、昨日のリフィルナの様子が気になっていたしフォルスのフォローもしたいという目的もある。

『私にご自分の時間使うなんてもったいないですよ』
「何言ってるの。それよりもリフィルナ、僕に相談したいこと、あるんじゃない?」

 ニコニコと聞けばわかりやすく動揺している。

『な、何でわかったんですか』
「そりゃあ、ね……昨日帰る時の君を見ていれば」
『私そんなに上の空だったんですね。……その……アルに言っていいかどうかわからないんです、でも』
「兄さんのこと?」
『何でわかるんですっ?』

 面白いなあと思いながらアルディスは「双子だしね」と言っておいた。リフィルナがわかりやす過ぎるということもあるが、彼女のいないところでリフィルナについて二人で話していると知れば落ち着かないかもしれないと思ったからだ。それにリフィルナならそう言うだけで納得しそうな気がしたのもある。
 案の定『なるほど……双子ですもんね』などと何がなるほどなのか、すぐに納得してきた。そしておずおずとフォルスとのことを話してくれる。

『私……誰かに好かれるなんて思ったことすらなくて、初めてのこと過ぎてわからなくて……』

 皆、意味はそれぞれ違えども君が大好きなのにね。

「他の人とフォルス、君が持つ気持ちの違いについて考えてみよう」
『気持ちの違い?』
「そうだなあ……自分から言い出すのはちょっとあれだけど、僕のこと、どう思ってる? 僕は君にとってどういう存在?」
『アルは……今回のことも誰かに相談したいなって思った時一番に浮かんだの。アルになら、言ってもいいことだったら何でも話せそう。だって生まれて初めての友だちなんです。とても大切な存在』
「嬉しいな。ありがとうリフィルナ。僕も同じだよ。外での初めての友だちで、そしてとても大切な人だ」

 二人で微笑み合ってから、アルディスは「じゃあコルジアは?」と聞いた。

『コルジアですか? 旅の間、とても頼りになりました。それにとても優しくて。なのにフォルに対しては何だかおかしくて。よく二人を見て笑ったりしてたなあ。楽しかった。お兄さまって感じではないんですが、とても頼りになる人で好きな人です。やっぱり大切な人』

 テント暮らしの時によく作ってくれたスープがとても美味しかった、とリフィルナは楽しそうに話してきた。

「好きな人、か。ねえリフィルナ。もし僕やコルジアが君に対してフォルスと同じように好きだと打ち明けてきたらどう思うだろうか」

 アルディスがそう聞いた途端、リフィルナはとても困惑した顔を見せてきた。

 うーん、友人だからそうなるのもわかるんだけど、ちょっと切ないなあ。

 内心苦笑しながらアルディスは「ごめんね」と謝った。

「困らせたいんじゃないんだ。君の気持ちを整理して、自分の中で把握して欲しくて」
『いえ。えっと……アルのことは大好きだけど……かけがえのない友だちだって思ってるから……それにコルジアも頼れる人だし好きだけど……』
「恋愛としては違う、と」
『は、はい』
「そっか。ねえ、リフィルナ。兄さんに言われて考えてしまうのは、まあ実際に言われたからだってこともあるけどね、あるけど、でもわからないと思いつつ明確に違うと思わないのは何でかな」

 アルディスの言葉に、リフィルナは思い切りぽかんとした顔をしている。思わず微笑んでしまった。

「僕とコルジアのことはすぐ違うってわかったよね? 兄さん……フォルスへの答えはわからないままだったのに。それって、そういうこと、なんじゃないかな」
『そう、いう……?』

 リフィルナはますますぽかんとしている。だが次第にその顔色が赤くなっていった。

「リフィルナ。フォルスは僕にとって本当に素晴らしい兄だ。誰よりも尊敬できる人だ。よく僕のことを優しすぎるって言ってくるんだけどね、僕からしたら兄さんのほうがよっぽど優しいと思ってる。真面目で完璧に見えて、結構不器用なとこもあるけどね、でもそういうところも僕は好きなんだ。とても自慢の兄だよ、リフィルナ。僕からも、どうぞ兄さんをよろしくねって言っておくよ」
『え、あ……え、う……、えっ、と……、は、はい』

 おそらく自分の気持ちを理解しつつもまだ混乱しているリフィルナに笑いかけると、アルディスは「ごめん、そろそろ時間がなくなってきた」と告げた。

「また時間ができれば連絡するね。あとたまにブルーを送るよ。じゃあね、リフィルナ。どうか上手くいきますように」

 通信機を切った後、アルディスは実際に二人がうまくいくことを祈りつつ、微笑んだ。そして自分の部屋を出て執務室へ足を向けた。
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