139 / 151
第五章 帰還
138話
しおりを挟む
差し出された手を取り、リフィルナはフォスルのエスコートで大広間へ向かう。
馬車から下りた後にコルドはそっと従者に何か話していた。リフィルナには聞こえないよう話したつもりだろうが、申し訳ないながらにちらりと断片ではあるが聞こえてきた。
「フィールズ家はまだ──」
「では来たらすぐに──」
おそらくフィールズ家の誰かが今すでに到着しているかの確認と、まだなら到着次第教えるようにと話していたのだと思われる。心を配ってくれるコルドに対して申し訳なさとともに、感謝と嬉しさという温かい気持ちが湧き上がった。
大広間はそこそこの人で賑わっていた。だがすぐに気づいてくれたのか、間もなくアルディスが近づいてきた。
「待っていたよリフィルナ。とても綺麗だね。ブローチとドレスもとても似合っているよ」
「ありがとうございます、アルディス第二王子殿下」
さすがにこの場で「アル」とは呼べないだろうとリフィルナが笑みを浮かべて言えば「ああそうか。にしても慣れないなあ」とアルディスは苦笑してきた。コルドとも挨拶を交わした後でアルディスはフォルスに「兄さんはリフィルナのこと、なんて褒めたの?」とニコニコ聞いている。
「……挨拶しただけだ」
実際、差し出された手を取った時に「久しぶりだね、リフィ。後でゆっくり話がしたいけど、とりあえず大広間までエスコートさせてもらうよ」と少々堅苦しく挨拶されただけではある。
「……兄さんは、本当に」
アルディスが何やら呟いている。だが気を取り直したように「今日はゆっくり楽しんでね。でもその前に王が待っているので挨拶、いいかな」と案内役を申し出てきた。
どうしてもまた緊張しつつも、リフィルナは王と挨拶を交わした。少なくとも前回の場より緊張感はましだったのもあり、気持ちスムーズに挨拶できたような気がする。王はリフィルナに対して微笑みかけてくれた。
その後コルドは「僕たちの従兄でエスター・キーガンという男がいるんだ。仕事にも役立つから」などと言ってきた、会わせたい人がいるらしいアルディスとともにどこかへ行ってしまった。大好きな兄が王子から信頼に足る人物だと思ってもらえるのは嬉しいが、リフィルナはフォルスと二人きりになってしまった。旅の間に何度も二人だったことがあるというのに何だか落ち着かない。多分、楽な格好ではなくお互いかしこまった格好をしているからかもしれない。
ただ二人きりになったと思ったのはつかの間だった。特に大した会話をする間もなく、フォルスが何か言いかけた時に何人もの貴族たちがフォルスの姿を見つけて挨拶に来た。
人見知りが発動して戸惑うだけではなく王子としての仕事や付き合いの邪魔になるかもしれないと思い、リフィルナはこの場から離れようとした。だがその前にフォルスは貴族たちに挨拶をした上で淡々と「エスコートしている女性がいる」などと断りをいれてリフィルナの背中にさりげなく手をやると、さらりとその場から移動した。そして隅の方まで向かうと一息ついてからリフィルナに向き合ってきた。
「悪かったね」
「とんでもない。私のほうこそ邪魔なのではと」
「ありえないよ」
フォルスが笑いかけてくる。リフィルナも妙な落ち着かなさがなくなり笑顔になった。旅をしていた頃のように気軽な感じで話していると、少ししてアルディスとコルドが戻ってきた。何故かアルディスはフォルスを見て「何も進んでない」とか何とか言って小さく笑っている。首を傾げてそんな二人を見ているとコルドがそっと耳打ちしてきた。
「お前をご所望していたお母様たちが到着したらしい」
茶化すような言い方だが表情は硬い。コルドには大丈夫と宣言していたリフィルナだが、やはりどうしたって緊張してきた。
「リフィルナ、大丈夫だよ」
アルディスが笑いかけてくる。フォルスも頷いてきた。それだけのことだが、リフィルナの気持ちはほんの少しだが軽くなる。
中央の扉が開くと侯爵家の面々が入ってきた。父と母、そして兄姉たち。ただ姉二人の内イルナはその場にはいなくて、少し後に婚約者にエスコートされて入ってきたようだ。
侯爵家のため、周りの貴族の注目を浴びている。それをリフィルナは隅からそっと眺めていた。
父親と母親は王への挨拶を済ませると大広間を見渡し、背の高いコルドを見つけて近づいてくる。コルドはリフィルナを自分の背後へやった。とはいえどのみち目に入るだろう。
「コルド兄さま、ありがとう。でも大丈夫だよ」
リフィルナは笑顔でコルドの背中に囁いた。少しだけ振り向いてきたコルドも笑顔で頷き返してきた。
「お久しぶりです、父上、母上。それに兄さん」
二番目の姉であるラディアは社交の場でもあるため、すでに友人たちと共に若者が集まっている華やかそうな場所へ向かっていた。両親と長男のコットンがコルドのそばまでやって来た。三人は頷くとコルドの近くにいる王子二人にまず丁寧な挨拶を始めた。フォルスとアルディスも形式的な挨拶を返す。そこへ婚約者と共にイルナも近づいてきた。
「イルナ嬢」
挨拶の後でフォルスが呼びかけた。そして婚約者がそばにいることもあり明確な表現を避けつつ「改めて非礼を詫びたい」と口にした。婚約破棄のことだろうなとリフィルナも気づく。イルナは丁寧な言葉で気にしていないし気にされないようにと返した上で、自分の婚約者である男爵家の令息を紹介してきた。
その様子をそっと眺めていたリフィルナはイルナの婚約者と目が合ってしまった。人見知り兼何となくの気まずさに顔をそらしてしまう前に、婚約者の青年は穏やかに微笑んできた。そしてコルドとリフィルナに対しても挨拶してくる。お互い簡単な自己紹介のみだったが、リフィルナはイルナの婚約者に好感を覚えていた。
馬車から下りた後にコルドはそっと従者に何か話していた。リフィルナには聞こえないよう話したつもりだろうが、申し訳ないながらにちらりと断片ではあるが聞こえてきた。
「フィールズ家はまだ──」
「では来たらすぐに──」
おそらくフィールズ家の誰かが今すでに到着しているかの確認と、まだなら到着次第教えるようにと話していたのだと思われる。心を配ってくれるコルドに対して申し訳なさとともに、感謝と嬉しさという温かい気持ちが湧き上がった。
大広間はそこそこの人で賑わっていた。だがすぐに気づいてくれたのか、間もなくアルディスが近づいてきた。
「待っていたよリフィルナ。とても綺麗だね。ブローチとドレスもとても似合っているよ」
「ありがとうございます、アルディス第二王子殿下」
さすがにこの場で「アル」とは呼べないだろうとリフィルナが笑みを浮かべて言えば「ああそうか。にしても慣れないなあ」とアルディスは苦笑してきた。コルドとも挨拶を交わした後でアルディスはフォルスに「兄さんはリフィルナのこと、なんて褒めたの?」とニコニコ聞いている。
「……挨拶しただけだ」
実際、差し出された手を取った時に「久しぶりだね、リフィ。後でゆっくり話がしたいけど、とりあえず大広間までエスコートさせてもらうよ」と少々堅苦しく挨拶されただけではある。
「……兄さんは、本当に」
アルディスが何やら呟いている。だが気を取り直したように「今日はゆっくり楽しんでね。でもその前に王が待っているので挨拶、いいかな」と案内役を申し出てきた。
どうしてもまた緊張しつつも、リフィルナは王と挨拶を交わした。少なくとも前回の場より緊張感はましだったのもあり、気持ちスムーズに挨拶できたような気がする。王はリフィルナに対して微笑みかけてくれた。
その後コルドは「僕たちの従兄でエスター・キーガンという男がいるんだ。仕事にも役立つから」などと言ってきた、会わせたい人がいるらしいアルディスとともにどこかへ行ってしまった。大好きな兄が王子から信頼に足る人物だと思ってもらえるのは嬉しいが、リフィルナはフォルスと二人きりになってしまった。旅の間に何度も二人だったことがあるというのに何だか落ち着かない。多分、楽な格好ではなくお互いかしこまった格好をしているからかもしれない。
ただ二人きりになったと思ったのはつかの間だった。特に大した会話をする間もなく、フォルスが何か言いかけた時に何人もの貴族たちがフォルスの姿を見つけて挨拶に来た。
人見知りが発動して戸惑うだけではなく王子としての仕事や付き合いの邪魔になるかもしれないと思い、リフィルナはこの場から離れようとした。だがその前にフォルスは貴族たちに挨拶をした上で淡々と「エスコートしている女性がいる」などと断りをいれてリフィルナの背中にさりげなく手をやると、さらりとその場から移動した。そして隅の方まで向かうと一息ついてからリフィルナに向き合ってきた。
「悪かったね」
「とんでもない。私のほうこそ邪魔なのではと」
「ありえないよ」
フォルスが笑いかけてくる。リフィルナも妙な落ち着かなさがなくなり笑顔になった。旅をしていた頃のように気軽な感じで話していると、少ししてアルディスとコルドが戻ってきた。何故かアルディスはフォルスを見て「何も進んでない」とか何とか言って小さく笑っている。首を傾げてそんな二人を見ているとコルドがそっと耳打ちしてきた。
「お前をご所望していたお母様たちが到着したらしい」
茶化すような言い方だが表情は硬い。コルドには大丈夫と宣言していたリフィルナだが、やはりどうしたって緊張してきた。
「リフィルナ、大丈夫だよ」
アルディスが笑いかけてくる。フォルスも頷いてきた。それだけのことだが、リフィルナの気持ちはほんの少しだが軽くなる。
中央の扉が開くと侯爵家の面々が入ってきた。父と母、そして兄姉たち。ただ姉二人の内イルナはその場にはいなくて、少し後に婚約者にエスコートされて入ってきたようだ。
侯爵家のため、周りの貴族の注目を浴びている。それをリフィルナは隅からそっと眺めていた。
父親と母親は王への挨拶を済ませると大広間を見渡し、背の高いコルドを見つけて近づいてくる。コルドはリフィルナを自分の背後へやった。とはいえどのみち目に入るだろう。
「コルド兄さま、ありがとう。でも大丈夫だよ」
リフィルナは笑顔でコルドの背中に囁いた。少しだけ振り向いてきたコルドも笑顔で頷き返してきた。
「お久しぶりです、父上、母上。それに兄さん」
二番目の姉であるラディアは社交の場でもあるため、すでに友人たちと共に若者が集まっている華やかそうな場所へ向かっていた。両親と長男のコットンがコルドのそばまでやって来た。三人は頷くとコルドの近くにいる王子二人にまず丁寧な挨拶を始めた。フォルスとアルディスも形式的な挨拶を返す。そこへ婚約者と共にイルナも近づいてきた。
「イルナ嬢」
挨拶の後でフォルスが呼びかけた。そして婚約者がそばにいることもあり明確な表現を避けつつ「改めて非礼を詫びたい」と口にした。婚約破棄のことだろうなとリフィルナも気づく。イルナは丁寧な言葉で気にしていないし気にされないようにと返した上で、自分の婚約者である男爵家の令息を紹介してきた。
その様子をそっと眺めていたリフィルナはイルナの婚約者と目が合ってしまった。人見知り兼何となくの気まずさに顔をそらしてしまう前に、婚約者の青年は穏やかに微笑んできた。そしてコルドとリフィルナに対しても挨拶してくる。お互い簡単な自己紹介のみだったが、リフィルナはイルナの婚約者に好感を覚えていた。
0
お気に入りに追加
386
あなたにおすすめの小説
とびきりのクズに一目惚れし人生が変わった俺のこと
未瑠
BL
端正な容姿と圧倒的なオーラをもつタクトに一目惚れしたミコト。ただタクトは金にも女にも男にもだらしがないクズだった。それでも惹かれてしまうタクトに唐突に「付き合おう」と言われたミコト。付き合い出してもタクトはクズのまま。そして付き合って初めての誕生日にミコトは冷たい言葉で振られてしまう。
それなのにどうして連絡してくるの……?
嫌われ者の僕
みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈
学園イチの嫌われ者が総愛される話。
嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。
※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。
完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!
音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。
頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。
都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。
「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」
断末魔に涙した彼女は……
[本編完結]彼氏がハーレムで困ってます
はな
BL
佐藤雪には恋人がいる。だが、その恋人はどうやら周りに女の子がたくさんいるハーレム状態らしい…どうにか、自分だけを見てくれるように頑張る雪。
果たして恋人とはどうなるのか?
主人公 佐藤雪…高校2年生
攻め1 西山慎二…高校2年生
攻め2 七瀬亮…高校2年生
攻め3 西山健斗…中学2年生
初めて書いた作品です!誤字脱字も沢山あるので教えてくれると助かります!
聖なる言霊を小言と馬鹿にされ婚約破棄されましたが、普段通りに仕事していたら辺境伯様に溺愛されています
青空あかな
恋愛
男爵令嬢のポーラは、詩を詠うことで願った現象を起こす【言霊】という珍しいスキルを持っていた。
スキルを活かし、家の離れで人々の悩みを解決する”言霊館”というお店を開いて、家計を助ける毎日を送る。
そんなポーラは婚約者と義妹たちにも【言霊】スキルで平穏な日々を願っていたが、ある日「小言が多い」と婚約破棄され、家を追い出されてしまう。
ポーラと同じ言葉のスキルを持つ義妹に店を奪われ、挙句の果てには、辺境伯のメイドに勝手に募集に出されていた。
“寡黙の辺境伯”という、誰とも話さず、何を考えているのかわからないと恐怖される辺境伯の屋敷に……。
ポーラは恐れながら屋敷へ行くも、【言霊】スキルの特別な力を示し、無事メイドとして勤めることになる。
屋敷で暮らすようになってから、フェンリルの病気を癒したり、街の火事を静めたり、枯れそうな古代樹を救ったり……ポーラは【言霊】スキルで屋敷の問題を次々と解決する。
日々、他人のため、そして辺境伯のために頑張るポーラを、“寡黙の辺境伯”は静かに溺愛し始める。
一方、義妹たちの毎日は、ポーラを追い出してから少しずつ暗い影が差す。
お店をポーラから奪うも、最初のお客さんである少女の大切な花を枯らして泣かす始末。
義妹のスキルは他人を不幸にするスキルだった。
ついには王様の持病をも悪化させ、瀕死の状態にさせてしまう。
※HOTランキング2位、ありがとうございます!
指輪一つで買われた結婚。~問答無用で溺愛されてるが、身に覚えが無さすぎて怖い~
ぽんぽこ狸
恋愛
婚約破棄をされて実家であるオリファント子爵邸に出戻った令嬢、シャロン。シャロンはオリファント子爵家のお荷物だと言われ屋敷で使用人として働かされていた。
朝から晩まで家事に追われる日々、薪一つ碌に買えない労働環境の中、耐え忍ぶように日々を過ごしていた。
しかしある時、転機が訪れる。屋敷を訪問した謎の男がシャロンを娶りたいと言い出して指輪一つでシャロンは売り払われるようにしてオリファント子爵邸を出た。
向かった先は婚約破棄をされて去ることになった王都で……彼はクロフォード公爵だと名乗ったのだった。
終盤に差し掛かってきたのでラストスパート頑張ります。ぜひ最後まで付き合ってくださるとうれしいです。
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。
詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~
橋本彩里(Ayari)
ファンタジー
【第二部更新中】
ひっそり生きたいと望むエリザベス・テレゼア公爵令嬢は、地味に目立たず生きてきた。
毎度毎度、必ず頭に飛んでくるものを最後に何度も生を繰り返すヘンテコな人生。回避、回避で今生は絶対長生きしてやると日々努力中。
王立学園に入らないためにも魔力がそこそこあることを隠し、目立たず十五歳を過ぎることを目指していた矢先……。
ひっそりと言い聞かせてきた日々の中に、すでにキラキラ危険分子が混じっていたなんて悲しすぎて悲しすぎて認めたくない。
――ああ、詰んだ。
何、イベント目白押しって。国って何? そんなの回避に決まってる。私はひっそり、こっそり生きたいの!
※過去作を大幅に改稿したものになります。
表紙はkouma.作で進化型。無事、王子たちオープンされました♪
なかば引きこもり令嬢のひっそり行動によって起こる騒動をお楽しみいただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる