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第五章 帰還

133話

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 コルドの屋敷に戻った途端、どっと疲れが押し寄せてきた気がしてリフィルナはへたり込みそうになった。

「お疲れ様、リィー。今日は仕事の手がさ、わりと空いていてね。この後よかったら一緒に町まで出かけようと誘うつもりだったんだけど……、また今度にしたほうがよさそうだな」

 コルドが苦笑しながら手を貸してくれた。その手をつかみ「大丈夫だよ、行く」と答えながら案内してくれた大広間のソファーに座る。

「明日も時間は作れる。明日出かけよう」
「うん」
「ところでリィー」

 頷いたリフィルナに笑いかけた後、コルドは少し真顔になって既にリフィルナも目を通していた王家の紋章のある招待状を改めて見せてきた。

「どうしたの? パーティーの招待状だよね」
「ああ。これは貴族各位へ届いているものだ。ということは当然、侯爵家であるフィールズ家にも届いている。どういうことかわかるだろ」
「……うん。お父さまたちも来られるんだよね」
「そうだ。……リィー。どうしても行きたくなければ俺が上手く説明して王か王子の使いにでも伝えるから、無理しなくていいんだぞ」

 ああ、心配してくれたんだなとリフィルナはコルドに笑みを向けた。そして少しだけ考えた上で口を開いた。

「正直なところ、あまり会いたいなとは思えない。自分の家族なのにね……。でも、そう、家族だから……このままではよくないなあとも思ってたよ。好きで旅に出たりするのとひたすら逃げるために旅に出るのも違うよね。……大丈夫。コルド兄さま、心配してくれてありがとう。でも私は大丈夫。もしパーティーで会っても……大丈夫。どのみち私、パーティーでは食べてる以外隅っこでそっと見学してるだけだから気づかれないかもだよ」

 リフィルナが言い終えるとコルドは立ち上がった。そしてそばまで来ると抱きしめてきた。抱擁を解くと微笑んで「わかった」と頷いてくる。

「リィーは成長したな」
「ほんと? 私、ちゃんと成長できてる?」
「ああ、強くなった」
「よかった! でもうん、私も成人した大人だからね!」

 得意げに言えば、しかし何故か笑われた。

「ああでもリィー」
「うん?」
「隅っこにいてもお前が周りに気づかれないことはないな」
「何故?」
「そんなに綺麗なんだ、誰もが目に留めると思うよ。よし、ドレスも新調しないとな。町で人気の仕立て屋に来てもらおうな」
「え、あの、それはい、いらないよ……。コルド兄さま、ドレスはたくさんあるからもう十分……」
「何言ってるんだ。お前のそれこそ十六歳になって初めてのパーティーなんだぞ。もちろん着飾らなくてもリィーは誰もが目を奪われるだろうけどな」
「そ、そう言ってくれるのはすごく嬉しいけど、それは兄の欲目みたいなものだよ……あとほんとドレスはもう……」

 リフィルナの脳裏に、楽しそうに袖をまくるアレットやマリーの姿が浮かんだ。
 翌日、リフィルナはコルドと町へ出かけた。コルドの屋敷に合いそうな美術品や装飾品を見るのはとても楽しかったが、コルドが目当ての仕立て屋へ意気揚々と向かう時は尻込みした。とはいえリフィルナとてドレスが嫌いなわけではないので店に置いてある様々なドレスには目を奪われた。コルドが店主と話している間、綺麗な色や生地、キラキラとした装飾品を見て楽しんだ。

「よし、出よう」
「寸法とか計らなくてよかったの?」
「屋敷に来てもらうよ」
「……そこまでしてまで、本当にいらないのに」
「リィー。お前そんなに綺麗なんだから、もっと自分を着飾るのを楽しむといいよ」
「別に嫌いじゃないよ? 嫌いじゃないけどそこまでしてまでは……」
「そこまでして、ってほど大したことしてないじゃないか。全く。ところでお腹は?」

 呆れた顔をした後にコルドがしたり顔で笑ってきた。

「空いた!」

 リフィルナもそれこそ遠慮なく答える。

「よし。じゃあ何か食べに行こう」

 ゆっくり食事を楽しみ、そろそろ帰ろうと馬車に乗ろうとしていた時にリフィルナはとある店の中に知った顔を見かけた。

 ……あれはイルナ姉さま……?

 少し疑問形になってしまったのはもちろん顔を忘れかけているからではない。あんな目に遭っても自分の姉だ、忘れるわけがない。ただ、いつもどこか冷たい雰囲気だったイルナがとても優しそうな笑みを浮かべていたから、一瞬別の人のように見えたのかもしれない。
 イルナはリフィルナの知らない男性と親しそうに話していた。リフィルナに対して以外でも、あんな穏やかそうな様子で楽しそうに誰かと話をするイルナは見たことがない気がする。
 馬車に乗ってから、リフィルナは「先ほどイルナ姉さまが」とコルドに話しかけた。

「ああ、いたね」
「どなたか私の知らない男性と一緒だった。あの方は……?」
「婚約者だよ」
「え? でも姉さまはフォルと……」

 リフィルナはぽかんとした顔をコルドへ向けた。コルドは何故か微妙な顔をして「あの生真面目王子様はこんな大事なことをまだリィーに言ってもないのか……前途多難だな」と呟いている。

「どういう意味?」
「え? ああ、何でもない。というかフォルス王子とはもう二年ほど前かな、婚約を解消しているぞ」
「えっ? そ、そうなの?」

 リフィルナはさらに口を丸く開けてコルドを見た。
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