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第五章 帰還
129話
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アルディスは「そっか」とリフィルナを見た。わがままを言うつもりはないが、それでも自分の思っていることは伝えておこうと思う。
「僕の気持ち、言わせてね。リフィルナとこうして出かけることが楽しくて仕方ないし、今後もまた一緒に出かけられたらと思ってる。だからできればここにいて欲しいなとは思うよ。できれば、だけどね。それに旅に出るリフィルナが心配というのもある。あとそうだなあ、何より兄さんが羨ましくて」
最後の言葉にリフィルナが首を傾げながら「何故?」と聞いてきた。
「だってリフィルナと一緒に旅をしていたでしょ。そりゃ羨ましいよ。僕も一緒に旅、してみたかったな」
このままフォルスの提案を受け入れ、そして父親である王の許可が正式に出ればアルディスは次期王となるだろう。今はまだ自由が利く身だが、王となれば旅どころかこうして出かけるのも難しくなる。
「じゃあアルも今度どこかへ行きませんか」
「……ふふ、いいね。あ、ねえ」
「はい」
「リフィルナは兄さんのこと、好き?」
「はい、好きです」
即答してきた後、リフィルナは「アルやコルジアも!」と嬉しそうに微笑んできた。
その好きかぁ……僕のことも好きと言ってくれるのはすごく嬉しいけど……兄さんも大変だな。
アルディスはそっと苦笑する。だがこのリフィルナの天然具合に、未だに無自覚そうなフォルスが振り回されている図が浮かんできて、今度は楽しさに笑った。
「? どうしたんですか、アル」
「ううん」
『そなたは本当に……』
鞄の中からディルのリフィルナに対して呆れたような声が聞こえてきた。
その後も特に時間を気にすることなく二人は町を歩いたり、出店で飲み物を買って芝生でゆっくり飲んだりして過ごした。夕暮れとなり薄っすらと白い月が見えても焦らなくていいことに、アルディスは心の底から喜びが湧き上がってくるのを感じた。
「ゆっくり過ごせるの、いいですね」
それに気づいたのか、リフィルナが嬉しそうに言ってくる。
「うん。すごく嬉しい。でもさすがにご令嬢を夜まで引き留めるわけにはいかないしね。そろそろ帰ろう。コルドの屋敷まで送らせてね」
「はい」
どのみちそのつもりで、リフィルナを乗せてきてくれた馬車には帰ってもらっている。アルディスは待たせてある馬車までエスコートした。外の風景を見ながら、二人は話が尽きることはなかった。
到着し許可を得て敷地内まで入っている時に、アルディスは「今日は楽しかった。ありがとう、リフィルナ」と礼を述べてから顔を寄せて、リフィルナの額に軽いキスをした。それに少し驚いたようではあるが、微笑むアルディスを見て安心したのか、「私こそありがとうございます、楽しかったです。またお出かけしてください」と微笑み返してきた。
リフィルナが馬車から下りようと御者の手を借りている際に、ディルがアルディスだけに話しかけてきた。
『私の主は無自覚たらしだな』
『ふふ。でも僕は今の行為で、元々抱いている特別大切に思う気持ちとは別の、芽生えつつあった気持ちを埋葬したつもりだよ』
『は。私としてはまだお前のほうがマシだったというのに』
『それはまた最大級の賛辞だな。ありがとう。でもあなたは兄さんを認めているのに素直になれないだけでしょう』
『……馬鹿馬鹿しい』
最後にもう一度手を振って、リフィルナは屋敷の中へ入って行く。その際にディルが『ヤケ果物だ。たくさん果物を用意してくれ』などとリフィルナに話していた。意味がわからないリフィルナが「どういうことなの」などと言っているのが聞こえる。アルディスはそっと笑いながらリフィルナが屋敷に入るまで見守っていた。
王宮へ戻るとアルディスはウェイドに、指示したティーセットの準備をしてフォルスの部屋へ持ってきてもらえるよう頼んでから、フォルスの私室へ向かった。土産である、リフィルナと一緒に選んだ菓子と小さな置物というか人形を手渡すためだ。それと話もあった。
フォルスの部屋に辿り着く前にコルジアの部屋がある。そこを訪ねるとコルジアは「先ほど仕事を終えてお部屋に戻っておられます」とすぐフォルスに繋いでくれた。相変わらず優しくて親切なコルジアを見ていると、何故フォルスが度々コルジアのことで微妙な顔をしたり「ウェイドと少し交換しよう」などと言ってくるのかやはりわからない。わかりにくい冗談なのだろうか。
「アルディス、お帰り。楽しかったか」
「うん、すごく。リフィルナとね、兄さんへのお土産を選んだんだ」
笑みを浮かべながら菓子の包みと置物の包みを渡した。菓子に対しては「中々美味そうだな」と頷いたフォルスは置物の包みを開けると一瞬戸惑っていた。確かに真面目でお堅いと言われているフォルスと人形は結びつかないだろう。それも小さなうさぎの人形だ。あまりに可愛らしすぎて、それを持っているフォルスを見ると中身を知っていたアルディスですら笑うか戸惑うかしそうになった。
だがすぐに「リフィらしいな」とフォルスは微笑んできた。
その様子に、アルディスは改めて「何故自覚のない振りをしていられるんだろう」と不思議で仕方がなく、思わず苦笑する。
「どうした?」
「ううん。あと今度は僕が話、あるんだけど今大丈夫?」
「ああ、問題ない」
うさぎの人形に微笑んでいたフォルスはアルディスに少し怪訝な顔をしつつ、ソファーを勧めてきた。
「僕の気持ち、言わせてね。リフィルナとこうして出かけることが楽しくて仕方ないし、今後もまた一緒に出かけられたらと思ってる。だからできればここにいて欲しいなとは思うよ。できれば、だけどね。それに旅に出るリフィルナが心配というのもある。あとそうだなあ、何より兄さんが羨ましくて」
最後の言葉にリフィルナが首を傾げながら「何故?」と聞いてきた。
「だってリフィルナと一緒に旅をしていたでしょ。そりゃ羨ましいよ。僕も一緒に旅、してみたかったな」
このままフォルスの提案を受け入れ、そして父親である王の許可が正式に出ればアルディスは次期王となるだろう。今はまだ自由が利く身だが、王となれば旅どころかこうして出かけるのも難しくなる。
「じゃあアルも今度どこかへ行きませんか」
「……ふふ、いいね。あ、ねえ」
「はい」
「リフィルナは兄さんのこと、好き?」
「はい、好きです」
即答してきた後、リフィルナは「アルやコルジアも!」と嬉しそうに微笑んできた。
その好きかぁ……僕のことも好きと言ってくれるのはすごく嬉しいけど……兄さんも大変だな。
アルディスはそっと苦笑する。だがこのリフィルナの天然具合に、未だに無自覚そうなフォルスが振り回されている図が浮かんできて、今度は楽しさに笑った。
「? どうしたんですか、アル」
「ううん」
『そなたは本当に……』
鞄の中からディルのリフィルナに対して呆れたような声が聞こえてきた。
その後も特に時間を気にすることなく二人は町を歩いたり、出店で飲み物を買って芝生でゆっくり飲んだりして過ごした。夕暮れとなり薄っすらと白い月が見えても焦らなくていいことに、アルディスは心の底から喜びが湧き上がってくるのを感じた。
「ゆっくり過ごせるの、いいですね」
それに気づいたのか、リフィルナが嬉しそうに言ってくる。
「うん。すごく嬉しい。でもさすがにご令嬢を夜まで引き留めるわけにはいかないしね。そろそろ帰ろう。コルドの屋敷まで送らせてね」
「はい」
どのみちそのつもりで、リフィルナを乗せてきてくれた馬車には帰ってもらっている。アルディスは待たせてある馬車までエスコートした。外の風景を見ながら、二人は話が尽きることはなかった。
到着し許可を得て敷地内まで入っている時に、アルディスは「今日は楽しかった。ありがとう、リフィルナ」と礼を述べてから顔を寄せて、リフィルナの額に軽いキスをした。それに少し驚いたようではあるが、微笑むアルディスを見て安心したのか、「私こそありがとうございます、楽しかったです。またお出かけしてください」と微笑み返してきた。
リフィルナが馬車から下りようと御者の手を借りている際に、ディルがアルディスだけに話しかけてきた。
『私の主は無自覚たらしだな』
『ふふ。でも僕は今の行為で、元々抱いている特別大切に思う気持ちとは別の、芽生えつつあった気持ちを埋葬したつもりだよ』
『は。私としてはまだお前のほうがマシだったというのに』
『それはまた最大級の賛辞だな。ありがとう。でもあなたは兄さんを認めているのに素直になれないだけでしょう』
『……馬鹿馬鹿しい』
最後にもう一度手を振って、リフィルナは屋敷の中へ入って行く。その際にディルが『ヤケ果物だ。たくさん果物を用意してくれ』などとリフィルナに話していた。意味がわからないリフィルナが「どういうことなの」などと言っているのが聞こえる。アルディスはそっと笑いながらリフィルナが屋敷に入るまで見守っていた。
王宮へ戻るとアルディスはウェイドに、指示したティーセットの準備をしてフォルスの部屋へ持ってきてもらえるよう頼んでから、フォルスの私室へ向かった。土産である、リフィルナと一緒に選んだ菓子と小さな置物というか人形を手渡すためだ。それと話もあった。
フォルスの部屋に辿り着く前にコルジアの部屋がある。そこを訪ねるとコルジアは「先ほど仕事を終えてお部屋に戻っておられます」とすぐフォルスに繋いでくれた。相変わらず優しくて親切なコルジアを見ていると、何故フォルスが度々コルジアのことで微妙な顔をしたり「ウェイドと少し交換しよう」などと言ってくるのかやはりわからない。わかりにくい冗談なのだろうか。
「アルディス、お帰り。楽しかったか」
「うん、すごく。リフィルナとね、兄さんへのお土産を選んだんだ」
笑みを浮かべながら菓子の包みと置物の包みを渡した。菓子に対しては「中々美味そうだな」と頷いたフォルスは置物の包みを開けると一瞬戸惑っていた。確かに真面目でお堅いと言われているフォルスと人形は結びつかないだろう。それも小さなうさぎの人形だ。あまりに可愛らしすぎて、それを持っているフォルスを見ると中身を知っていたアルディスですら笑うか戸惑うかしそうになった。
だがすぐに「リフィらしいな」とフォルスは微笑んできた。
その様子に、アルディスは改めて「何故自覚のない振りをしていられるんだろう」と不思議で仕方がなく、思わず苦笑する。
「どうした?」
「ううん。あと今度は僕が話、あるんだけど今大丈夫?」
「ああ、問題ない」
うさぎの人形に微笑んでいたフォルスはアルディスに少し怪訝な顔をしつつ、ソファーを勧めてきた。
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