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第五章 帰還

127話

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 しばらく三人で話してからそろそろ町へ出かけようかという流れになった。アルディスはフォスルに「一緒に行かない?」と聞いてみた。リフィルナもコクコク頷いている。

「ありがとう。でもやめておくよ。ゆっくりしておいで」

 フォルスは笑みを浮かべるとやんわり断ってきた。アルディスは何とも言えない表情になるがとりあえず「じゃあ行ってくる。お土産、買って帰るね」とリフィルナをエスコートしながら準備させている馬車へ向かった。
 フォルスはとてもいい兄だしアルディスはそんな兄が大好きだ。ただ、アルディスが呪いを受けていたからだろうか、どうにも昔からフォルスはアルディスに対してどこか遠慮気味というのだろうか、何ごともアルディスを優先してくれている気がする。気持ちは嬉しいのだが嬉しくないとも言える。

「どうしたんですか?」

 フォルスのことを考えていたアルディスに、馬車の向かい側に座ったリフィルナが首を傾げてきた。

「ううん、何でもないよ。ところで町へ行くのは久しぶりだよね。あの頃とはそんなに変わっていないと思うけど、新しくできた店もあるよ。リフィルナはどこか行きたいところ、ある?」
「行きたいといえばどこも行きたいですが……」
「ふふ、リフィルナらしい」
「そ、そうですか? でもお店に詳しくはないからその、」
「よかった、じゃあ今日は僕のお勧めの店へ連れていってもいいかな?」
「は、はい! 嬉しいです」

 リフィルナはとてもはしゃいでいた。町についても生き生きとした様子で、見ているだけで微笑ましい気持ちになる。出発するまでゆっくりしてきたつもりだったがそれでもまだ食事には少し早そうで、二人はとりあえず雑貨や菓子を売る店を見てまわった。ともすれば甘い菓子に目が行くらしいリフィルナに、アルディスはつい笑ってしまう。

「甘いお菓子は前から好きそうだったけど、ますます大好きみたいだね」
「そ、それはその、旅ではそんなに食べる機会がなかったというか、あってもいつもってわけじゃないというか……」
「咎めてるわけじゃないよ。可愛いなあと思って」
「可愛い、ですか? お菓子ばかりじゃなくてもっと肉を食べないとって思いません?」
「はい?」

 何故そこに肉が、とアルディスはニコニコとしたまま首を傾げた。

「フォルがね、筋肉を作りたいなら肉を食べないとって言ってたから。でも私、ついこういうのに目がいっちゃって」

 兄さん──

 いや、旅での話なのだ。リフィルナも少年の姿であり、戦闘をすることもあったのかもしれない。だからそういった会話にもなったのだろう。

 わかる、わかるけれども兄さん……!

「今のリフィルナは別に筋肉を作らないとって思わなくてもいいんじゃないかな」
「あ、そうか。そうですよね。あはは、つい。自分が今どっちか意識してないことわりとあるかもです」

 リフィルナは無邪気に笑ってきた。そんな状況はさすがに想像できないが、ある意味リフィルナらしいなとアルディスは苦笑しつつも微笑ましく思う。
 フォルスへの土産を二人で選び、他にも何か買う時にリフィルナは嬉しそうに自分の支払いをしていた。アルディスとしては全部出すと言いたいところだったが、どうやら自分で好きに買えるのが嬉しそうなリフィルナを見てぐっと堪える。
 いくつかの店を見たところで丁度よさげな時間だったので、今度は食事へと向かった。

「最近教えてもらって知った店なんだ。美味しかったから、君とも行きたいなと思ってて」

 アルディスが案内した店はとても素朴な雰囲気の店だった。料理も豪華なフルコースなどではなく、一般家庭に出てきそうなごくシンプルな料理ばかりだ。店内で聞こえるのは人の話し声と食器の音。賑やかでありながら煩くない耳心地のいい様子で、ゆっくりと食事が楽しめる。

「もっと静かで落ち着いたところがよかったかな」
「ううん、ここ、私好きです」

 リフィルナは辺りを見回しながら笑みを浮かべていた。

「ほんと? よかった。僕の大好きな店なんだ」
「そうなんですね。私、むしろ高そうなお店のが詳しくないかもです。ここは旅の間、町で入ったお店みたいな雰囲気と、素朴でシンプルなのにどこかお洒落な感じもあって素敵だなって思います」

 アルディスはリフィルナを見た。
 旅の間にきっと色々な経験をしたことだろう。いくら少年の姿をしていたとはいえ、大変なことも多かったはずだ。路銀が心許無くなることもあっただろうし、何日も風呂に入れない日や食事にありつけない日などもあったかもしれない。あのフォルスですら危険な状況になっていたくらいだ。リフィルナも命の危険にさらされるようなことだってあっただろう。
 こんなに華奢で大人しそうな人なのに。

「アル?」
「……旅は、楽しかった?」
「はい! すごく楽しかった! 大変なこともあったりしましたが、それを上回るくらい楽しかったし色んな経験ができてよかったと思ってます」

 即答だった。リフィルナは満面の笑みで答えてきた。アルディスも自然と口元が綻びる。

「あ、でも私一人だったらきっと乗り越えられなかったです。ディルはもちろん、フォルやコルジアがいてくれたからこうして笑えてるんだと思います。がんばれたんだと」
「そう、か」

 眩しいな、とアルディスは微笑みながら思った。
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