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第五章 帰還
115話
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翌日、リフィルナたちは身支度を済ませてから湖へ向かった。リフィだった時の服は少し大きいのでやはり少年の姿に戻ろうかと思ったが、ディルに『少女の姿で少年の格好というのもおつなものだぞ』と言われたのでそのままにしている。それにもっと気になることがあった。
リフィルナとしては湖の底と言われてもそこまでどうやって行くのか想像もつかなくて少しドキドキしていた。潜らないといけないのだろうか、だとしたら泳げない自分がちゃんとやってのけられるのだろうかなどと気になって仕方がない。夜眠る時にそばにいるディルに「どうするの?」と聞いてみたが『問題ない。それにその場での説明でそなたは簡単にやってのけられる』と返ってきた後に寝息が聞こえてきたのでそれ以上聞けなかった。そういえばディルはリフィルナを心配してくれたりフォルスたちと何だかんだと何かをしていたからかあまり眠っていなかったかもしれない。リフィルナがあれ程重症だった分、ディルの体も元気になっても疲れは残っていただろうと、リフィルナは起こすのはやめて自分もそのまま眠っていた。
向かう途中にコルジアが「そういえばフォルス様に飲ませるため水を汲みに行った際に底の魔法円を見ました。その時は急いでいたのでゆっくり見ておりませんが」と口にしてきた。
「見えるほど湖が浅いってことか」
昨日も結局ほとんど横になって休んでいたせいで湖どころかあまりこの周辺を探索できていないらしいフォルスが首を傾げている。今朝目を覚ますと本当に魔力が完全に戻っていたようで、嬉しくて一応辺りを見て回ったらしいのだが、つい廃墟のような建物などに目がいってしまっていたとフォルスは顔を合わせた時に言っていた。多分湖まではちゃんと見ていなかったのだろう。何にせよ本当に元気になってよかったと改めて思いつつ、リフィルナはぶんぶんと首を振った。
「結構深そうな湖でしたよ」
「そうなのか? ならコルジアは水を汲むのにわざわざ中に飛び込んだのか?」
「私をなんだと思ってるんです? 湖の水があまりに澄んでいて少し光を放っている魔法円が上からでも見えたんですよ」
コルジアが馬鹿ですかと言わんばかりにフォルスを見ている。リフィルナは思わず吹き出さないようにそっと手を口元に当てた。フォルスの正体をリフィルナが知ったのもあるのだろうか、フォル呼びではなくフォルス様と呼んでいるにも関わらずコルジアの態度はさほど変わっていない。どうやらあの飄々とした態度は演技ではなく元々なのらしいとわかって、つい笑いそうになってしまった。言われたフォルスも気を悪くした様子もなくただ微妙な顔をしている。やはりいつものことなのだろう。
改めて元気そうなフォルスを見ると、リフィルナは感嘆のため息が出そうになる。精霊による魔法と違って髪と目の色以外顔立ちなど何も変わっていないはずだが、意識の問題なのだろうか。とてつもなく王子らしく見える。キャベル王国に代々続くガルシア家の血筋がその髪と瞳の色に現れているからかもしれない。
「……? どうかしたのか、リフィ」
リフィルナが本来の姿に戻ってもフォルスは「リフィ」と呼んでくる。それが何だか変にこそばゆい気もしつつ嬉しい。変わらず仲間だと思っていてくれているように感じるからかもしれない。リフィルナはそれでもやはり身分が身分だしと親しくさせていただくにしても「フォルス王子」「フォルス様」と呼ばせてもらおうと思っていた。しかし「フォルのままでいい」と言われ、ありがたくそうさせてもらっている。それも王国に戻ればまた変わってくるのかもしれないが、せめて今だけはそのままが嬉しい。
「フォルがやっぱり王子様なんだなあと思って」
「……褒められてるのか何なのか」
「ですよねえ。髪と目が普通だと王子に到底見えないってことかもしれません」
「コルジアは黙ってろ」
「そ、そういう意味では……ただその、身分を知らなくてその、親しくさせてもらってる人って感覚だったからその……」
リフィルナが焦っているとフォルスが笑いかけてきた。
「そのほうが嬉しい。俺としては髪とかの色が変わっただけで他人行儀に見られてしまうのだろうかと思っただけだな」
「まさか。それはないです。だってフォルはフォルだもの。本当はそれ、失礼なことでしかないんだろうけど、私にとっては金色の髪に青い瞳の王子様でもやっぱりフォルです。ただそれでも本当に王子様なんだなあと思うとつい。でも褒めてますよ? 髪も目もきらきらでとても綺麗で素敵で」
本当に綺麗でつい気持ちが向上してペラペラと口を滑らせているとフォルスが手で目の辺りを覆っている。
「わ、私やっぱり失礼過ぎましたか……」
「いや……違う。その、ありがとう」
「え? あ、はい」
どうしたのだろうと何気にコルジアを見ると、コルジアはコルジアでどうしたのかというくらい満面の笑みを浮かべていた。
湖に着くと皆で覗き込んだ。コルジアの言うようにあまりに澄んだ水だからか底でほんのり光っている魔法円が見える。だがやはりとても深いところにありそうだ。
「……ディル。私、泳げないのにあの魔法円をどうこうすることできるの?」
肩に乗っているディルに聞けば舌をチロチロと出してきた。こうしていると本当は竜だなどと知っていても見えない。
『問題ない。洞窟の時のような感じで祈るといい』
「い、祈る……」
言われた通りにリフィルナは目を瞑って何とか祈ってみた。するとほんのりと光っていた魔法円の光が強くなってきたようだ。フォルスとコルジアからそれがわかって、リフィルナは祈りながら目を開けた。少しするとそれはみるみるうちに光の柱となって湖から飛び出してきた。
「う、わぁ……」
本で読んだおとぎ話や冒険譚みたいだ。
リフィルナの頬は紅潮した。
リフィルナとしては湖の底と言われてもそこまでどうやって行くのか想像もつかなくて少しドキドキしていた。潜らないといけないのだろうか、だとしたら泳げない自分がちゃんとやってのけられるのだろうかなどと気になって仕方がない。夜眠る時にそばにいるディルに「どうするの?」と聞いてみたが『問題ない。それにその場での説明でそなたは簡単にやってのけられる』と返ってきた後に寝息が聞こえてきたのでそれ以上聞けなかった。そういえばディルはリフィルナを心配してくれたりフォルスたちと何だかんだと何かをしていたからかあまり眠っていなかったかもしれない。リフィルナがあれ程重症だった分、ディルの体も元気になっても疲れは残っていただろうと、リフィルナは起こすのはやめて自分もそのまま眠っていた。
向かう途中にコルジアが「そういえばフォルス様に飲ませるため水を汲みに行った際に底の魔法円を見ました。その時は急いでいたのでゆっくり見ておりませんが」と口にしてきた。
「見えるほど湖が浅いってことか」
昨日も結局ほとんど横になって休んでいたせいで湖どころかあまりこの周辺を探索できていないらしいフォルスが首を傾げている。今朝目を覚ますと本当に魔力が完全に戻っていたようで、嬉しくて一応辺りを見て回ったらしいのだが、つい廃墟のような建物などに目がいってしまっていたとフォルスは顔を合わせた時に言っていた。多分湖まではちゃんと見ていなかったのだろう。何にせよ本当に元気になってよかったと改めて思いつつ、リフィルナはぶんぶんと首を振った。
「結構深そうな湖でしたよ」
「そうなのか? ならコルジアは水を汲むのにわざわざ中に飛び込んだのか?」
「私をなんだと思ってるんです? 湖の水があまりに澄んでいて少し光を放っている魔法円が上からでも見えたんですよ」
コルジアが馬鹿ですかと言わんばかりにフォルスを見ている。リフィルナは思わず吹き出さないようにそっと手を口元に当てた。フォルスの正体をリフィルナが知ったのもあるのだろうか、フォル呼びではなくフォルス様と呼んでいるにも関わらずコルジアの態度はさほど変わっていない。どうやらあの飄々とした態度は演技ではなく元々なのらしいとわかって、つい笑いそうになってしまった。言われたフォルスも気を悪くした様子もなくただ微妙な顔をしている。やはりいつものことなのだろう。
改めて元気そうなフォルスを見ると、リフィルナは感嘆のため息が出そうになる。精霊による魔法と違って髪と目の色以外顔立ちなど何も変わっていないはずだが、意識の問題なのだろうか。とてつもなく王子らしく見える。キャベル王国に代々続くガルシア家の血筋がその髪と瞳の色に現れているからかもしれない。
「……? どうかしたのか、リフィ」
リフィルナが本来の姿に戻ってもフォルスは「リフィ」と呼んでくる。それが何だか変にこそばゆい気もしつつ嬉しい。変わらず仲間だと思っていてくれているように感じるからかもしれない。リフィルナはそれでもやはり身分が身分だしと親しくさせていただくにしても「フォルス王子」「フォルス様」と呼ばせてもらおうと思っていた。しかし「フォルのままでいい」と言われ、ありがたくそうさせてもらっている。それも王国に戻ればまた変わってくるのかもしれないが、せめて今だけはそのままが嬉しい。
「フォルがやっぱり王子様なんだなあと思って」
「……褒められてるのか何なのか」
「ですよねえ。髪と目が普通だと王子に到底見えないってことかもしれません」
「コルジアは黙ってろ」
「そ、そういう意味では……ただその、身分を知らなくてその、親しくさせてもらってる人って感覚だったからその……」
リフィルナが焦っているとフォルスが笑いかけてきた。
「そのほうが嬉しい。俺としては髪とかの色が変わっただけで他人行儀に見られてしまうのだろうかと思っただけだな」
「まさか。それはないです。だってフォルはフォルだもの。本当はそれ、失礼なことでしかないんだろうけど、私にとっては金色の髪に青い瞳の王子様でもやっぱりフォルです。ただそれでも本当に王子様なんだなあと思うとつい。でも褒めてますよ? 髪も目もきらきらでとても綺麗で素敵で」
本当に綺麗でつい気持ちが向上してペラペラと口を滑らせているとフォルスが手で目の辺りを覆っている。
「わ、私やっぱり失礼過ぎましたか……」
「いや……違う。その、ありがとう」
「え? あ、はい」
どうしたのだろうと何気にコルジアを見ると、コルジアはコルジアでどうしたのかというくらい満面の笑みを浮かべていた。
湖に着くと皆で覗き込んだ。コルジアの言うようにあまりに澄んだ水だからか底でほんのり光っている魔法円が見える。だがやはりとても深いところにありそうだ。
「……ディル。私、泳げないのにあの魔法円をどうこうすることできるの?」
肩に乗っているディルに聞けば舌をチロチロと出してきた。こうしていると本当は竜だなどと知っていても見えない。
『問題ない。洞窟の時のような感じで祈るといい』
「い、祈る……」
言われた通りにリフィルナは目を瞑って何とか祈ってみた。するとほんのりと光っていた魔法円の光が強くなってきたようだ。フォルスとコルジアからそれがわかって、リフィルナは祈りながら目を開けた。少しするとそれはみるみるうちに光の柱となって湖から飛び出してきた。
「う、わぁ……」
本で読んだおとぎ話や冒険譚みたいだ。
リフィルナの頬は紅潮した。
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