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第四章 白き竜
111話
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アルディスはひたすら驚いている様子だった。その気持ちはわかると思いつつ、フォルスはディルに聞いた。
「一瞬で向かえるってどういう意味なんだ?」
この場所からキャベル王国は相当距離がある。フォルスとコルジアは寄り道も多かったため余計に時間がかかったわけだが、それがなくともかなり時間はかかる距離だ。
『リフィルナの力が必要になるが、特別な異空間移動の魔法がある。本人に記憶がないのもあり過去ほどの力はないかもしれないが、私がそばで魔力を添える。だから極端に言えば今すぐでもあちらへ行くことは可能だ』
「……ディル曰く、リフィが使える特殊な魔法で明日どころか今すぐでも行こうと思えば簡単に行けるらしい」
「ま、待ってください、フォルス様。私にはディルの声が聞こえませんから詳しい内容はわかりませんが、少なくともあなたの魔力が元に戻るまでは私が許しませんので」
「許さないってお前……」
焦ったように話を割って入ってきたコルジアに対して微妙な顔を向けたが、通信機から『コルジアの言う通りだよ。兄さんの体調が整うまでは駄目だ』とアルディスも同意してきた。
『絶対兄さんのことだからこっちへ戻ってきたらすぐ気を張って、仕事なんてしている場合じゃないだろうに王子モードになるだろうし。それに幻獣も保証するリフィの魔法なら多分危険はないとは思うけど、魔力が戻っていない状態で慣れない魔法移動なんてしたら具合が悪くならないとも断言できないよね』
「俺はもう大丈夫だ」
「は。先ほどまでちょっとしたことですら咳き込んでおられた方が何をおっしゃってるんです? 私だってアルディス様の呪いを早く解いてもらいたいです。当たり前です。ですがそれであなたが倒れでもしたら意味がないでしょう」
『そうだよ、本当にコルジアは優秀だよ。その通りだからね! 僕は兄さんに無茶してまで今すぐ呪いを解きたいなんて思わない』
「で、でも一刻も早くのほうがいいだろう。今解けば今日の夜からでもお前は自分の部屋で眠られるんだぞっ?」
『兄さん』
「だから……」
『兄さん』
「……わ、わかったよ。なら明日だ。ディルによれば湖の水を飲んだわけだし明日なら間違いなく魔力も戻っているはずだ。明日、そちらへ向かう」
フォルスはとうとう折れ、ため息をついた後に宣言した。
『もう少し休んだほうが……』
「俺も折れたんだぞ。明日だ。とはいえリフィの力を借りるわけだし、リフィの体調や力の具合にもよるだろうが」
『……わかった。とりあえず父さ……国王にも報告しておく』
アルディスが頷くと、今まで少し黙って三人のやりとりを見ていたディルが口を挟んできた。
『人目を避けられる場所を用意しておいてくれと伝えてもらえないか。それは私が入るような広いスペースが取れるもので。呪いを解くには竜の姿に戻ることになる。だが竜の姿は目立つ。できればあまり見られたくない』
「わかった。アルディス、お前が想像できるかなり大きな竜……いや、でもディルは幼竜だな……そこまでは大きくなくても……」
『余計なことはいい』
『兄さん?』
「ああ、えっと、とにかく竜が入られる場所が必要なんだ。あと人目につかないようにしたい。そういった場所を用意できるだろうか」
『うん、任せて。全て準備しておこう。兄さんたちは体調を万全にして、一応気をつけて明日は帰ってきて欲しい』
ようやく通信機を切り終えた後、フォルスは「リフィにも伝えなくては」とディルを見た。
『一応、キャベル王国へ戻るかもしれないとは伝えている。リフィルナの力が必要だとはまだ口にしていないが』
「そ、うか。ただ戻ってもらうなら理由を告げるべきだとは思うんだが、呪いのことは……リフィに関することでありながら前世のことは伝えないつもりなら……それに、ディルたちにとっては些細なことかもしれないが、一応王家の機密事項でもある」
フォルスの言葉にディルは目を細めてきた。腹を立てているのでも訝しんでいるのでもなく、考えているのだろうとフォルスは答えを待つ。
『……確かに私たちにとってキャベル王たちの機密事項など、どうでもいいな。ただ、呪いの経緯を口にしなくともいいと思う。わざわざリフィルナの前世を口にして悲しい思いにさせる必要などない』
それを聞いてフォルスは頷いた。機密事項を王子自らが破ることに抵抗はあっても自分たちの恥を口にするのは恥ながらもこそまで気にならない。ただ、何も知らない、覚えていないリフィルナにはわざわざ言えなかった。
「お前を自分のものにしようとした末に、俺の先祖であるキャベル王はお前を殺してしまった。だから他の精霊や幻獣たちもキャベル王国から離れたし前世のディルは怒って呪いをかけた。そのためアルディスも今呪いで苦しんでいる。それを解くためには呪いをかけたディルの力が必要であり、戻らなければならない」
改めて考えて無理だとますます思った。話を聞いたリフィルナがむしろ苦しむところしか浮かばない。
ただ戻る理由を伝えないのはいいとしても、そういった経緯なしでアルディスがリフィルナへ向けた殺意は説明できない気がする。アルディスのためにもリフィルナのためにも、アルディスの呪いについては明確にしたほうがいいとしか思えない。
『経緯は話さずに、アルディスが複雑な呪いにかかっているが幻獣である竜ならば解ける上で私が解いてやると約束したとでもいえばいい』
「そ、んなことで納得するだろうか」
フォルスなら明確に知りたいと思うし説明不足だと不審に思うだろう。
『リフィルナだぞ。即納得するだろうよ』
「……、はは」
つい笑っているリフィルナが頭に浮かび、フォルスはそういうところも可愛いしリフィルナらしいなと思わず笑ってしまった。
「一瞬で向かえるってどういう意味なんだ?」
この場所からキャベル王国は相当距離がある。フォルスとコルジアは寄り道も多かったため余計に時間がかかったわけだが、それがなくともかなり時間はかかる距離だ。
『リフィルナの力が必要になるが、特別な異空間移動の魔法がある。本人に記憶がないのもあり過去ほどの力はないかもしれないが、私がそばで魔力を添える。だから極端に言えば今すぐでもあちらへ行くことは可能だ』
「……ディル曰く、リフィが使える特殊な魔法で明日どころか今すぐでも行こうと思えば簡単に行けるらしい」
「ま、待ってください、フォルス様。私にはディルの声が聞こえませんから詳しい内容はわかりませんが、少なくともあなたの魔力が元に戻るまでは私が許しませんので」
「許さないってお前……」
焦ったように話を割って入ってきたコルジアに対して微妙な顔を向けたが、通信機から『コルジアの言う通りだよ。兄さんの体調が整うまでは駄目だ』とアルディスも同意してきた。
『絶対兄さんのことだからこっちへ戻ってきたらすぐ気を張って、仕事なんてしている場合じゃないだろうに王子モードになるだろうし。それに幻獣も保証するリフィの魔法なら多分危険はないとは思うけど、魔力が戻っていない状態で慣れない魔法移動なんてしたら具合が悪くならないとも断言できないよね』
「俺はもう大丈夫だ」
「は。先ほどまでちょっとしたことですら咳き込んでおられた方が何をおっしゃってるんです? 私だってアルディス様の呪いを早く解いてもらいたいです。当たり前です。ですがそれであなたが倒れでもしたら意味がないでしょう」
『そうだよ、本当にコルジアは優秀だよ。その通りだからね! 僕は兄さんに無茶してまで今すぐ呪いを解きたいなんて思わない』
「で、でも一刻も早くのほうがいいだろう。今解けば今日の夜からでもお前は自分の部屋で眠られるんだぞっ?」
『兄さん』
「だから……」
『兄さん』
「……わ、わかったよ。なら明日だ。ディルによれば湖の水を飲んだわけだし明日なら間違いなく魔力も戻っているはずだ。明日、そちらへ向かう」
フォルスはとうとう折れ、ため息をついた後に宣言した。
『もう少し休んだほうが……』
「俺も折れたんだぞ。明日だ。とはいえリフィの力を借りるわけだし、リフィの体調や力の具合にもよるだろうが」
『……わかった。とりあえず父さ……国王にも報告しておく』
アルディスが頷くと、今まで少し黙って三人のやりとりを見ていたディルが口を挟んできた。
『人目を避けられる場所を用意しておいてくれと伝えてもらえないか。それは私が入るような広いスペースが取れるもので。呪いを解くには竜の姿に戻ることになる。だが竜の姿は目立つ。できればあまり見られたくない』
「わかった。アルディス、お前が想像できるかなり大きな竜……いや、でもディルは幼竜だな……そこまでは大きくなくても……」
『余計なことはいい』
『兄さん?』
「ああ、えっと、とにかく竜が入られる場所が必要なんだ。あと人目につかないようにしたい。そういった場所を用意できるだろうか」
『うん、任せて。全て準備しておこう。兄さんたちは体調を万全にして、一応気をつけて明日は帰ってきて欲しい』
ようやく通信機を切り終えた後、フォルスは「リフィにも伝えなくては」とディルを見た。
『一応、キャベル王国へ戻るかもしれないとは伝えている。リフィルナの力が必要だとはまだ口にしていないが』
「そ、うか。ただ戻ってもらうなら理由を告げるべきだとは思うんだが、呪いのことは……リフィに関することでありながら前世のことは伝えないつもりなら……それに、ディルたちにとっては些細なことかもしれないが、一応王家の機密事項でもある」
フォルスの言葉にディルは目を細めてきた。腹を立てているのでも訝しんでいるのでもなく、考えているのだろうとフォルスは答えを待つ。
『……確かに私たちにとってキャベル王たちの機密事項など、どうでもいいな。ただ、呪いの経緯を口にしなくともいいと思う。わざわざリフィルナの前世を口にして悲しい思いにさせる必要などない』
それを聞いてフォルスは頷いた。機密事項を王子自らが破ることに抵抗はあっても自分たちの恥を口にするのは恥ながらもこそまで気にならない。ただ、何も知らない、覚えていないリフィルナにはわざわざ言えなかった。
「お前を自分のものにしようとした末に、俺の先祖であるキャベル王はお前を殺してしまった。だから他の精霊や幻獣たちもキャベル王国から離れたし前世のディルは怒って呪いをかけた。そのためアルディスも今呪いで苦しんでいる。それを解くためには呪いをかけたディルの力が必要であり、戻らなければならない」
改めて考えて無理だとますます思った。話を聞いたリフィルナがむしろ苦しむところしか浮かばない。
ただ戻る理由を伝えないのはいいとしても、そういった経緯なしでアルディスがリフィルナへ向けた殺意は説明できない気がする。アルディスのためにもリフィルナのためにも、アルディスの呪いについては明確にしたほうがいいとしか思えない。
『経緯は話さずに、アルディスが複雑な呪いにかかっているが幻獣である竜ならば解ける上で私が解いてやると約束したとでもいえばいい』
「そ、んなことで納得するだろうか」
フォルスなら明確に知りたいと思うし説明不足だと不審に思うだろう。
『リフィルナだぞ。即納得するだろうよ』
「……、はは」
つい笑っているリフィルナが頭に浮かび、フォルスはそういうところも可愛いしリフィルナらしいなと思わず笑ってしまった。
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