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第四章 白き竜
100話
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遠くに窺える荘厳とも言える竜たちの佇まいをフォルが呆然と眺めていると、ディルが咆哮した。その声に反応したように近くを飛んでいたらしい竜が二頭、降りてきた。その際に受けた振動だけでなく、比べるまでもなくディルよりもはるかに大きい竜にフォルは圧倒される。
ディルはその竜たちと会話をしているかのような仕草をしていたかと思うと、またフォルの頭にディルの声が響いてきた。
『彼らの背に乗るがいい。お前たちなら二人一度に乗ってももちろん問題ない大きさだが、お前たちも竜の背に乗るなど慣れておらんだろうし、竜たちとて人間を乗せるなど久しぶり過ぎて不安定だろう』
「あえて不安要素を述べるには理由があるのだろうな」
『最後まで聞いてから口を開けばいいものを。当たり前だ。お互い慣れておらんだろうからそれぞれ一人ずつ乗れ、と言おうとしていた』
「……なるほど」
フォルはコルジアにディルの言葉を告げて促した。魔物に対して平然と戦える二人ではあるが、竜の背中に乗るのは正直余裕の気持ちとは言い難い。
『乗ったか? しっかりつかまっておれよ』
「待て、つかまれって、どこにつかまれと」
「フォルス様、何か言われたんですか」
「ああ、しっかりつかまっておけ──」
言いかけている途中に突然、不可解な重力が体全体にかかった。気づけば二人とも目を開けていられない勢いでとんでもない風圧を感じながら必死につかみようのない竜の背中にしがみついている状況だった。はっきり言ってこれほどの速さを感じたことなどない。息の仕方すらわからなくなりそうだというか既に酸欠でクラクラする。おまけに相当体に力を入れていないと筋力だけでは圧力の抵抗に耐えられない。油断すると首の骨を折りそうだ。
その代わりというのだろうか。あっという間に目的地に到着したようだ。動かなくなった竜の上で、フォルはそれこそしばらく動けずにいた。おそらくコルジアも同じようなものだっただろう。少ししてようやくフラフラとしながら竜から下りる。恐る恐るだったはずの竜を怖がっている余裕もないくらいフラフラだった。そこに少しするとディルがふわりと降りてきた。手と言えばいいのか足と言えばいいのか、やはり手だろうか。それで意識のないリフィを抱き抱えながら比較的ゆっくりと飛んできたようだ。確かにあの恐るべき状況は例えリフィが瀕死の状態でなくとも耐え難いだろうと思い、今も意識はないものの、先ほどに比べるとではあるが穏やかそうなリフィを見てフォルはホッとする。と同時に「そういう飛び方もできるということなのだろう?」と微妙な気持ちになった。リフィのためには一刻も早くという気持ちはもちろんフォルにもある。だが先ほどの空での状況は人間が生身の状態で味わっていいものではないように思える。
「……俺もその運び方のほうがよかった」
思わずぼそりと呟く。コルジアはまだ万全ではないといった様子で頭を抱えている。
『ほう? では彼らにお前たちが抱きしめて飛んで欲しいと言っている、と伝えてやろう』
「……やめてくれ」
ため息をつきながらフォルはようやく辺りを見回した。そばにとても美しい湖がある。先ほど遠くに見えていた湖だろうか。辺りは先ほどの場所よりもさらに自然に満ちていた。ただ、今ようやく気付いたのだが開けたこの広い場所もよくよく見れば岩山に囲まれている。ということは異空間に入り込んだのではなく、やはりここもフォルたちが登ってきた岩山の一部ということなのだろうか。
『ここは岩山だ』
まるでフォルの考えを読んだかのようにディルが話してきた。
『この場所は魔法で守られている。生き物が外からこの場所へは入ることどころか見ることすら不可能だ。ただし先ほどグルルから逃れた結界の張られた場所と違い、一切を遮断するような結界は張っていない。要は精霊なら入ってこられるし存在している、ということだ』
ここまで言うと、ディルは湖のすぐそばまでリフィを運んだ。フォルと、ようやく生還したといった様子のコルジアもそばへ近づく。
そっと柔らかそうな草の上にディルがリフィを置くと、湖にいたらしい沢山の精霊たちがリフィに集まってきた。精霊そのものは見えないが光っているのでわかる。遠目に見てもあれほど湖がキラキラしていたのは日の光が反射してではなかった。精霊の姿が光っていたからだったと気づく。
リフィに集まるキラキラとした光たちを見て、フォルは確信した。
リフィは文献にあった「愛し子」だと。
コルジアはこの光景を見て珍しく大いに戸惑っているようだった。フォルも精霊の存在を見たのは二度目とはいえ、未だに信じられない。ただ、これでリフィはもう大丈夫だろうと思えてホッとした。ディルも『これでもう問題ない。大丈夫だ』と断言してきた。それをコルジアに伝え、二人で心から安心した。
実際、あれほどひどい火傷を負っていたリフィの肌は見る見るうちに元の健康な肌へと戻っていく。フォルはますますホッとした。いくら元気になったとしても、いくらこの姿が本当の姿でなかったとしても、リフィには少しの傷も残って欲しくなかった。もし残るようならアルディスの問題を抱えたままであろうが世界中を探してでも腕のいい医者か魔術師を探すほかないとさえ思っていた。
『過去のキャベル王の犯した過ちは決して許せるものではないし、許すつもりは一切ない。だがフォル。いや、フォルス。お前は信頼してもよい』
その時ディルから聞こえてきた言葉に、フォルは目を見開いてディルを見た。
ディルはその竜たちと会話をしているかのような仕草をしていたかと思うと、またフォルの頭にディルの声が響いてきた。
『彼らの背に乗るがいい。お前たちなら二人一度に乗ってももちろん問題ない大きさだが、お前たちも竜の背に乗るなど慣れておらんだろうし、竜たちとて人間を乗せるなど久しぶり過ぎて不安定だろう』
「あえて不安要素を述べるには理由があるのだろうな」
『最後まで聞いてから口を開けばいいものを。当たり前だ。お互い慣れておらんだろうからそれぞれ一人ずつ乗れ、と言おうとしていた』
「……なるほど」
フォルはコルジアにディルの言葉を告げて促した。魔物に対して平然と戦える二人ではあるが、竜の背中に乗るのは正直余裕の気持ちとは言い難い。
『乗ったか? しっかりつかまっておれよ』
「待て、つかまれって、どこにつかまれと」
「フォルス様、何か言われたんですか」
「ああ、しっかりつかまっておけ──」
言いかけている途中に突然、不可解な重力が体全体にかかった。気づけば二人とも目を開けていられない勢いでとんでもない風圧を感じながら必死につかみようのない竜の背中にしがみついている状況だった。はっきり言ってこれほどの速さを感じたことなどない。息の仕方すらわからなくなりそうだというか既に酸欠でクラクラする。おまけに相当体に力を入れていないと筋力だけでは圧力の抵抗に耐えられない。油断すると首の骨を折りそうだ。
その代わりというのだろうか。あっという間に目的地に到着したようだ。動かなくなった竜の上で、フォルはそれこそしばらく動けずにいた。おそらくコルジアも同じようなものだっただろう。少ししてようやくフラフラとしながら竜から下りる。恐る恐るだったはずの竜を怖がっている余裕もないくらいフラフラだった。そこに少しするとディルがふわりと降りてきた。手と言えばいいのか足と言えばいいのか、やはり手だろうか。それで意識のないリフィを抱き抱えながら比較的ゆっくりと飛んできたようだ。確かにあの恐るべき状況は例えリフィが瀕死の状態でなくとも耐え難いだろうと思い、今も意識はないものの、先ほどに比べるとではあるが穏やかそうなリフィを見てフォルはホッとする。と同時に「そういう飛び方もできるということなのだろう?」と微妙な気持ちになった。リフィのためには一刻も早くという気持ちはもちろんフォルにもある。だが先ほどの空での状況は人間が生身の状態で味わっていいものではないように思える。
「……俺もその運び方のほうがよかった」
思わずぼそりと呟く。コルジアはまだ万全ではないといった様子で頭を抱えている。
『ほう? では彼らにお前たちが抱きしめて飛んで欲しいと言っている、と伝えてやろう』
「……やめてくれ」
ため息をつきながらフォルはようやく辺りを見回した。そばにとても美しい湖がある。先ほど遠くに見えていた湖だろうか。辺りは先ほどの場所よりもさらに自然に満ちていた。ただ、今ようやく気付いたのだが開けたこの広い場所もよくよく見れば岩山に囲まれている。ということは異空間に入り込んだのではなく、やはりここもフォルたちが登ってきた岩山の一部ということなのだろうか。
『ここは岩山だ』
まるでフォルの考えを読んだかのようにディルが話してきた。
『この場所は魔法で守られている。生き物が外からこの場所へは入ることどころか見ることすら不可能だ。ただし先ほどグルルから逃れた結界の張られた場所と違い、一切を遮断するような結界は張っていない。要は精霊なら入ってこられるし存在している、ということだ』
ここまで言うと、ディルは湖のすぐそばまでリフィを運んだ。フォルと、ようやく生還したといった様子のコルジアもそばへ近づく。
そっと柔らかそうな草の上にディルがリフィを置くと、湖にいたらしい沢山の精霊たちがリフィに集まってきた。精霊そのものは見えないが光っているのでわかる。遠目に見てもあれほど湖がキラキラしていたのは日の光が反射してではなかった。精霊の姿が光っていたからだったと気づく。
リフィに集まるキラキラとした光たちを見て、フォルは確信した。
リフィは文献にあった「愛し子」だと。
コルジアはこの光景を見て珍しく大いに戸惑っているようだった。フォルも精霊の存在を見たのは二度目とはいえ、未だに信じられない。ただ、これでリフィはもう大丈夫だろうと思えてホッとした。ディルも『これでもう問題ない。大丈夫だ』と断言してきた。それをコルジアに伝え、二人で心から安心した。
実際、あれほどひどい火傷を負っていたリフィの肌は見る見るうちに元の健康な肌へと戻っていく。フォルはますますホッとした。いくら元気になったとしても、いくらこの姿が本当の姿でなかったとしても、リフィには少しの傷も残って欲しくなかった。もし残るようならアルディスの問題を抱えたままであろうが世界中を探してでも腕のいい医者か魔術師を探すほかないとさえ思っていた。
『過去のキャベル王の犯した過ちは決して許せるものではないし、許すつもりは一切ない。だがフォル。いや、フォルス。お前は信頼してもよい』
その時ディルから聞こえてきた言葉に、フォルは目を見開いてディルを見た。
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