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第四章 白き竜
94話
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翌日、早朝からリフィたちは岩山へ向けて出発した。町からもよく見えていた岩山だが、実際向かうとなるとそれなりに離れているようだった。早朝は気温も低く靄がかかったような空気だったが、ようやく山への道へ差し掛かった頃には昭然たる明るさになっていたし日もずいぶん高くなりつつあった。
最初はなだらかな坂であった道は登っていくにつれ次第に険しくなっていった。コルドと一緒に暮らしていた頃から色んな場所で薬草を取っていたリフィはそれなりに山に慣れているつもりだったし、こういったことなら体格差もあまり関係ないだろうと思っていたが、やはりきついものはきつい。しかしただでさえこうして歩いている間もフォルやコルジアはリフィに気遣いしながら進んでいるのがわかるため、泣き言は一切口にせずひたすら黙々とついていった。
途中、鞄の中に入っているディルが『このような面倒な道筋へ行かなくともそなただけなら私が抱えてそのまま目的地まで飛んでやったのだが』などと言ってくる。それはあまりに大変魅力的な誘惑ではあった。だが今さら一人で行きますなどと言えるはずもないし、過保護そうな二人がそうさせてくれない気がする。何より一緒に行けるのを自分が一番喜んだのだ、苦しくても仕方がない。
どのみち今から一人で行くなどと告げるには理由が必要だが、その理由も言えない。ディルはまだフォルを信用するに値しないなどと言ってくる。だからディルの正体も必然的に口にできない。何故そこまでディルがフォルを警戒するのかさっぱりわからないのだが、いくら聞いてもはぐらかされる。
『それはすごく魅力的だけど、そういうわけにもいかないからがんばるよ』
『そなたはマゾヒストなのか』
『なんですって?』
『とりあえず自己管理を誤るなよ。きつ過ぎるのに我慢し続けるといったことだけは避けるように』
『うん、ありがとう。ディルは鞄の中、窮屈じゃない?』
『快適だ』
いつもなら肩や腕にいるのだがディルのほうから『厳しい道のりなら肩や腕は負担になるだろう』と鞄の中にいることを希望してきた。魔法の鞄だけに中に何が入っていてもある程度重さも感じない。
日が暮れ始める前にフォルが「今日はここで休もう」と言ってきて、少し広くなっている場所にテントを張った。広いと言えどもそこまでスペースはなく、フォルが何とか二つ張れないかと試行錯誤していたが無理だったようでテントは一つだけだ。
「もう少し他に場所がないか探してみるか……」
「別に三人でもいいではないですか」
「うん。僕は一緒で問題ないですよ。フォルはあまり狭いのは苦手かもしれませんが……」
「いや、そうじゃなく……」
「え?」
「……何でもない。じゃあそうしよう……。あとコルジアは変な顔をしてないで水をくんで来い。先ほど湧き水があっただろう」
「ええ、任せてください」
変な顔とは、とリフィはコルジアを見たが、ただニコニコとしているだけのようだった。
昨夜は今日に備えてかなり早めに眠ったのだが、やはり相当疲れていたのだろう。リフィはその夜あっという間に眠りについた。テントは三人で眠るには確かに狭かったが、さすがフォルたちの持ち物だけあって寝心地のいいものだし、おまけに必然的に隣にいたフォルにくっつくことになったのだが正直それがとても心地良かった。
リフィは物心ついた時にはすでに一人で眠っていたし、家でも誰かと一緒に眠るなどしたことがなかった。父親や母親と一緒に眠らないのは当たり前なのだとすら思っていた。こうして外の世界へ出るようになって初めて、小さな子どもは親と一緒に眠るのだと知った。あの両親と一緒に眠りたかったとはさすがに思わないものの憧れに近いものは持っていたようだ。コルドと一緒に過ごしている時も「それなりの年齢の兄妹は一緒に眠るものじゃないんだよ」と言われた。その後何度も「俺としても一緒に眠りたいんだけどね、ほんとね、一緒に眠りたいんだけどこればかりは駄目だと思うからね」と言われ、苦笑したのを覚えている。
……少年になってよかったな……。
眠りに陥る前にリフィは思った。こうして誰かに寄り添って眠ることができた。しかもフォルだ。さすがに家族だとはおこがましくもあり思っていないが、とても大好きな友人だ。
友人、と思っていい、んだよ、ね……。
そのままリフィは心地良くて幸せな眠りに陥った。
翌朝も三人は朝早くから起きて行動を始めた。フォルが少々疲れているように見えたのだが、聞いても「ぐっすり眠ったし大丈夫」と返ってきたしコルジアも「フォルなら大丈夫ですよ」と言ってきたため納得するしかない。
二日目ともなるとリフィもずいぶんこの山に慣れてきた。とはいえ二日かけてもようやく岩山の半分といったところだろうか。疲れはあったが、岩山を登り、中心部に近づくにつれ、魔物の気配は薄れてきたように思える。実際、登山を始めた頃はちょくちょく襲ってきていた魔物だが今ではほぼ、それがない。おかげで無駄な体力の消費もなく進めることができ、余計に楽だったのかもしれない。ディルが言うには『竜を恐れて魔物は近づかないからな』らしい。だから中心部に近くなるほど、魔物も減っているということだ。
『やっぱり竜、いるんだね』
『そう言っておるだろう』
『そうなんだけど、全然実感がないんだもん』
二日目はテントを二つ張ることもできるスペースを確保した。フォルがとてもホッとしているように見えて、よほど狭かったのかもしれないなとリフィは思った。
最初はなだらかな坂であった道は登っていくにつれ次第に険しくなっていった。コルドと一緒に暮らしていた頃から色んな場所で薬草を取っていたリフィはそれなりに山に慣れているつもりだったし、こういったことなら体格差もあまり関係ないだろうと思っていたが、やはりきついものはきつい。しかしただでさえこうして歩いている間もフォルやコルジアはリフィに気遣いしながら進んでいるのがわかるため、泣き言は一切口にせずひたすら黙々とついていった。
途中、鞄の中に入っているディルが『このような面倒な道筋へ行かなくともそなただけなら私が抱えてそのまま目的地まで飛んでやったのだが』などと言ってくる。それはあまりに大変魅力的な誘惑ではあった。だが今さら一人で行きますなどと言えるはずもないし、過保護そうな二人がそうさせてくれない気がする。何より一緒に行けるのを自分が一番喜んだのだ、苦しくても仕方がない。
どのみち今から一人で行くなどと告げるには理由が必要だが、その理由も言えない。ディルはまだフォルを信用するに値しないなどと言ってくる。だからディルの正体も必然的に口にできない。何故そこまでディルがフォルを警戒するのかさっぱりわからないのだが、いくら聞いてもはぐらかされる。
『それはすごく魅力的だけど、そういうわけにもいかないからがんばるよ』
『そなたはマゾヒストなのか』
『なんですって?』
『とりあえず自己管理を誤るなよ。きつ過ぎるのに我慢し続けるといったことだけは避けるように』
『うん、ありがとう。ディルは鞄の中、窮屈じゃない?』
『快適だ』
いつもなら肩や腕にいるのだがディルのほうから『厳しい道のりなら肩や腕は負担になるだろう』と鞄の中にいることを希望してきた。魔法の鞄だけに中に何が入っていてもある程度重さも感じない。
日が暮れ始める前にフォルが「今日はここで休もう」と言ってきて、少し広くなっている場所にテントを張った。広いと言えどもそこまでスペースはなく、フォルが何とか二つ張れないかと試行錯誤していたが無理だったようでテントは一つだけだ。
「もう少し他に場所がないか探してみるか……」
「別に三人でもいいではないですか」
「うん。僕は一緒で問題ないですよ。フォルはあまり狭いのは苦手かもしれませんが……」
「いや、そうじゃなく……」
「え?」
「……何でもない。じゃあそうしよう……。あとコルジアは変な顔をしてないで水をくんで来い。先ほど湧き水があっただろう」
「ええ、任せてください」
変な顔とは、とリフィはコルジアを見たが、ただニコニコとしているだけのようだった。
昨夜は今日に備えてかなり早めに眠ったのだが、やはり相当疲れていたのだろう。リフィはその夜あっという間に眠りについた。テントは三人で眠るには確かに狭かったが、さすがフォルたちの持ち物だけあって寝心地のいいものだし、おまけに必然的に隣にいたフォルにくっつくことになったのだが正直それがとても心地良かった。
リフィは物心ついた時にはすでに一人で眠っていたし、家でも誰かと一緒に眠るなどしたことがなかった。父親や母親と一緒に眠らないのは当たり前なのだとすら思っていた。こうして外の世界へ出るようになって初めて、小さな子どもは親と一緒に眠るのだと知った。あの両親と一緒に眠りたかったとはさすがに思わないものの憧れに近いものは持っていたようだ。コルドと一緒に過ごしている時も「それなりの年齢の兄妹は一緒に眠るものじゃないんだよ」と言われた。その後何度も「俺としても一緒に眠りたいんだけどね、ほんとね、一緒に眠りたいんだけどこればかりは駄目だと思うからね」と言われ、苦笑したのを覚えている。
……少年になってよかったな……。
眠りに陥る前にリフィは思った。こうして誰かに寄り添って眠ることができた。しかもフォルだ。さすがに家族だとはおこがましくもあり思っていないが、とても大好きな友人だ。
友人、と思っていい、んだよ、ね……。
そのままリフィは心地良くて幸せな眠りに陥った。
翌朝も三人は朝早くから起きて行動を始めた。フォルが少々疲れているように見えたのだが、聞いても「ぐっすり眠ったし大丈夫」と返ってきたしコルジアも「フォルなら大丈夫ですよ」と言ってきたため納得するしかない。
二日目ともなるとリフィもずいぶんこの山に慣れてきた。とはいえ二日かけてもようやく岩山の半分といったところだろうか。疲れはあったが、岩山を登り、中心部に近づくにつれ、魔物の気配は薄れてきたように思える。実際、登山を始めた頃はちょくちょく襲ってきていた魔物だが今ではほぼ、それがない。おかげで無駄な体力の消費もなく進めることができ、余計に楽だったのかもしれない。ディルが言うには『竜を恐れて魔物は近づかないからな』らしい。だから中心部に近くなるほど、魔物も減っているということだ。
『やっぱり竜、いるんだね』
『そう言っておるだろう』
『そうなんだけど、全然実感がないんだもん』
二日目はテントを二つ張ることもできるスペースを確保した。フォルがとてもホッとしているように見えて、よほど狭かったのかもしれないなとリフィは思った。
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