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第三章 旅立ち
79話
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翌日は元々第三王子の婚約パーティーが開かれる予定ではあったが、それに急きょ第一王子の結婚祝いも加わった。姫のドレスはウェディングドレスではなかったが、その代わり何度か着替えた上にどれもとても似合っていて美しかった。マティアスもとても幸せそうだった。
「どのみち改めて隣国の王の元でも結婚式を行うんだそうだ」
フォルがため息をつきながらリフィに教えてくれた。
「何故ため息なんかを?」
「……昨日この島に到着してからのあまりの波瀾万丈っぷりにちょっと」
「確かにそうですね」
ほぼマティアスから話を聞いていただけだというのにすごく色んなことがあったような気がリフィもして、フォルの言葉に頷きながら笑った。そんなリフィをフォルはじっと見てくる。
「何ですか」
「……いや。その、ああ、君はこういう結婚とかは興味ないの?」
「僕ですか? どうだろう、考えたこともなかったです」
引きこもっていた令嬢の頃はむしろ結婚どころか知り合いすらできるものとは思っていなかった。それもあって「アル」との友情は本当に嬉しかったものだ。
少年の姿になってからはディルも一緒とはいえ一人で生きていくのに懸命で、やはりそんなこと考えたこともなかった。どのみち中身が女である少年にとって結婚どころか恋愛すら難しそうだ。
「フォルは?」
自分だと会話にもならないので聞き返せば、フォルも少々困ったような顔をして「特には……」と答えてきた。
「あはは、僕もフォルも駄目ですね」
「……そうだな」
笑うリフィを見てきた後でフォルも小さく笑ってリフィの頭をぽんぽんと撫でてきた。
「お二人さんたち、君たちも踊りなさいよ」
いつの間にかマティアスが近くまで来ていて、そんな風に声をかけてきた。
「俺はいい」
「僕もいいです」
「何言ってんだ。君たちと踊りたい娘が向こうに列をなさんばかりにいるんだぞ。おれの結婚を祝う気がないのか?」
「祝っているし、後日改めてまた祝ってやる」
「あーもしかして君の家族にも連絡してくれるのか、そいつは嬉しいな。君の父親やできれば弟君にも祝って貰えるならおれは幸せ者だよ」
「マティアス様はフォルの家族とも知り合いなんですか?」
今の話を聞いて純粋な気持ちでリフィが聞けば、何故か少し躊躇された後に「そうだよ、知り合いなんだ」とニッコリ頷かれた。フォルはため息をまたついた後にマティアスをジッと見る。
「マティアス・ド・コーンウォール」
「な、なんだ」
「あんなことをしたんだ。これからはあの姫に最大の忠義と敬愛を持って尽くすことだな」
「……ああ、当然だ!」
きょとんとしてからマティアスは最高の笑みで頷いた。リフィまでもがつられて微笑んでしまう。だがふと思い出して「あの」とマティアスにまた話しかけた。
「なんだい?」
「先ほどあのお姫様とお話をさせて頂いた時に、その、大変失礼ながらつい首元やその、ローブ・デコルテをお召しになっているのでたまたま目についてしまったんですが……いくつかその、痣が……、まさか喧嘩をまたなさってつい暴力を振るわれた、とか……その、不躾なのは承知なのですが、心配で、その、申し訳ありません」
姫の首や大きく開いた胸元にいくつかの小さな痣を見つけた時は思わずリフィはヒヤリとした。だがあのマティアスが暴力を振るうとも思えない。なので思い切って口にすれば何故かマティアスは笑いを堪えている。そしてフォルはとても困った顔をしていた。
「あのね、リフィ……」
「マティアス。いいから黙れ。あとパーティがあるのはわかっていたのだから、あなたはもう少し控えるべきだったな!」
「え、まさか本当に暴力……」
「いやぁ、まさか。リフィはこのおれが暴力を振るうやつだとでも?」
「お、思っておりません! が、その、お姫様が心配で……、あの、何故笑っているのです?」
「マティアス。あなたの大事な姫をあまり一人にしておくものではない。さっさと戻ったらどうだ。あと化粧直しを勧めるんだな」
「ああ、そうさせてもらおう。あとリフィは思っていた以上に子どもだな。少年、もう少し大人になるといい」
「え?」
「余計なことは言わなくていい!」
マティアスが去った後に困惑しながらフォルを見れば、フォルも少し困ったようにリフィを見てきた。
「ごめんなさい、僕だけわかってない感じです、よね?」
「姫は問題ない。ちょっとしたものだし怪我とかでもない。気にしなくていい。あとはマティアスがどうにかするだろうよ」
「でも……」
「本当に問題ないよ、大丈夫。さあ、君はもっと美味しいものを食べるなり、踊ってみるなりするといい。ダンスはわかる?」
別の話を振られ、話を逸らされたのだろうかと思いつつもリフィは真面目にもそちらを答える。
「はい、一応」
「どこで習ったの?」
「え? あ、えっと」
「これもディルから?」
「え?」
改めてフォルを見るとおかしそうに口元を綻ばせている。
「……今、からかいましたよね?」
「そうだったかな」
「とぼけて! いいですよ、見ていてくださいよ。どなたか綺麗なお嬢様と僕は華麗に踊ってみせますから!」
唇を尖らせて言えば苦笑された。
「ごめんごめん。食事のマナーをディルに習ったというのがおかしくてつい。でもリフィみたいに小柄で可愛らしいタイプでも男性パートを踊れるのか?」
小さいだの華奢だのはよく言われるが、男に「可愛らしい」と言われることは意外にも少ない。言ってくるような相手は大抵そういう趣味の人だった気がする。
「……フォル、本当に少年がお好きな人じゃないんですよね?」
「……まさか君から今さらそんな質問をされるとは。安心しろ、そういう趣味は本気でないから」
「どのみち改めて隣国の王の元でも結婚式を行うんだそうだ」
フォルがため息をつきながらリフィに教えてくれた。
「何故ため息なんかを?」
「……昨日この島に到着してからのあまりの波瀾万丈っぷりにちょっと」
「確かにそうですね」
ほぼマティアスから話を聞いていただけだというのにすごく色んなことがあったような気がリフィもして、フォルの言葉に頷きながら笑った。そんなリフィをフォルはじっと見てくる。
「何ですか」
「……いや。その、ああ、君はこういう結婚とかは興味ないの?」
「僕ですか? どうだろう、考えたこともなかったです」
引きこもっていた令嬢の頃はむしろ結婚どころか知り合いすらできるものとは思っていなかった。それもあって「アル」との友情は本当に嬉しかったものだ。
少年の姿になってからはディルも一緒とはいえ一人で生きていくのに懸命で、やはりそんなこと考えたこともなかった。どのみち中身が女である少年にとって結婚どころか恋愛すら難しそうだ。
「フォルは?」
自分だと会話にもならないので聞き返せば、フォルも少々困ったような顔をして「特には……」と答えてきた。
「あはは、僕もフォルも駄目ですね」
「……そうだな」
笑うリフィを見てきた後でフォルも小さく笑ってリフィの頭をぽんぽんと撫でてきた。
「お二人さんたち、君たちも踊りなさいよ」
いつの間にかマティアスが近くまで来ていて、そんな風に声をかけてきた。
「俺はいい」
「僕もいいです」
「何言ってんだ。君たちと踊りたい娘が向こうに列をなさんばかりにいるんだぞ。おれの結婚を祝う気がないのか?」
「祝っているし、後日改めてまた祝ってやる」
「あーもしかして君の家族にも連絡してくれるのか、そいつは嬉しいな。君の父親やできれば弟君にも祝って貰えるならおれは幸せ者だよ」
「マティアス様はフォルの家族とも知り合いなんですか?」
今の話を聞いて純粋な気持ちでリフィが聞けば、何故か少し躊躇された後に「そうだよ、知り合いなんだ」とニッコリ頷かれた。フォルはため息をまたついた後にマティアスをジッと見る。
「マティアス・ド・コーンウォール」
「な、なんだ」
「あんなことをしたんだ。これからはあの姫に最大の忠義と敬愛を持って尽くすことだな」
「……ああ、当然だ!」
きょとんとしてからマティアスは最高の笑みで頷いた。リフィまでもがつられて微笑んでしまう。だがふと思い出して「あの」とマティアスにまた話しかけた。
「なんだい?」
「先ほどあのお姫様とお話をさせて頂いた時に、その、大変失礼ながらつい首元やその、ローブ・デコルテをお召しになっているのでたまたま目についてしまったんですが……いくつかその、痣が……、まさか喧嘩をまたなさってつい暴力を振るわれた、とか……その、不躾なのは承知なのですが、心配で、その、申し訳ありません」
姫の首や大きく開いた胸元にいくつかの小さな痣を見つけた時は思わずリフィはヒヤリとした。だがあのマティアスが暴力を振るうとも思えない。なので思い切って口にすれば何故かマティアスは笑いを堪えている。そしてフォルはとても困った顔をしていた。
「あのね、リフィ……」
「マティアス。いいから黙れ。あとパーティがあるのはわかっていたのだから、あなたはもう少し控えるべきだったな!」
「え、まさか本当に暴力……」
「いやぁ、まさか。リフィはこのおれが暴力を振るうやつだとでも?」
「お、思っておりません! が、その、お姫様が心配で……、あの、何故笑っているのです?」
「マティアス。あなたの大事な姫をあまり一人にしておくものではない。さっさと戻ったらどうだ。あと化粧直しを勧めるんだな」
「ああ、そうさせてもらおう。あとリフィは思っていた以上に子どもだな。少年、もう少し大人になるといい」
「え?」
「余計なことは言わなくていい!」
マティアスが去った後に困惑しながらフォルを見れば、フォルも少し困ったようにリフィを見てきた。
「ごめんなさい、僕だけわかってない感じです、よね?」
「姫は問題ない。ちょっとしたものだし怪我とかでもない。気にしなくていい。あとはマティアスがどうにかするだろうよ」
「でも……」
「本当に問題ないよ、大丈夫。さあ、君はもっと美味しいものを食べるなり、踊ってみるなりするといい。ダンスはわかる?」
別の話を振られ、話を逸らされたのだろうかと思いつつもリフィは真面目にもそちらを答える。
「はい、一応」
「どこで習ったの?」
「え? あ、えっと」
「これもディルから?」
「え?」
改めてフォルを見るとおかしそうに口元を綻ばせている。
「……今、からかいましたよね?」
「そうだったかな」
「とぼけて! いいですよ、見ていてくださいよ。どなたか綺麗なお嬢様と僕は華麗に踊ってみせますから!」
唇を尖らせて言えば苦笑された。
「ごめんごめん。食事のマナーをディルに習ったというのがおかしくてつい。でもリフィみたいに小柄で可愛らしいタイプでも男性パートを踊れるのか?」
小さいだの華奢だのはよく言われるが、男に「可愛らしい」と言われることは意外にも少ない。言ってくるような相手は大抵そういう趣味の人だった気がする。
「……フォル、本当に少年がお好きな人じゃないんですよね?」
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