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第三章 旅立ち

70話

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 アルディスは通信を切った後、しばらくの間考え込んでいた。
 フォルスと話し終える前に聞こえてきた声がとてもリフィルナに似ているような気がしたのだ。その時はハッとなり、魔法石をじっと見た。ちらりと向こうのほうで垣間見した姿はしかしリフィルナとは全然違った。髪の色がまず違う。あの美しい白に近いシルバーという珍しい色ではなくよく見かける茶色の髪色だった。目の色もさすがにはっきり見えなかったが琥珀ではなく青に見えた。顔つきも違う気がする。とはいえ髪や目の色は他の魔力の強い人間の場合どうか知らないが、アルディスやフォルスなら簡単に変えることができる。顔の造形を変えるのもできないことはない。だがアルディスたちでも容易に変えられず、そして決定的に違う点があった。性別だ。ちらりと見えた人物はどう見ても少年に見えた。後でフォルスも少年だと言っていた。
 そもそもリフィルナがあんな長距離船に乗っているはずがないというのにとアルディスはため息をつく。
 雰囲気は似ている気がしたが、性別が違う時点で別人だ。声が似ている気がしたのも気のせいだろう。どれだけ自分は気にしているのだろうかと呆れる。
 以前フォルスにも通信で話したが、リフィルナは今、フィールズ家を出ているらしい。遠い親戚の元へ行ったのだとか聞いた。それ以上のことは侯爵からも、リフィルナの兄たちからも話題に出ることはないらしい。
 アルディスとしては自ら公に出ていってしつこいくらいに家族たちから今リフィルナがどうしているのかだけでも聞きたくて仕方がなかった。だができるわけがない。
 自分の呪いのこともあって姿を堂々と表すことは長らくしていないのもあるし、そもそもその呪いによってリフィルナを自分は殺しかけたのだ。どの面下げて気軽に家族の前に現れることができるというのか。とはいえ王家の機密事項に絡むため謝罪も容易にできない。
 そのリフィルナの姉であるイルナとフォルスは婚約していたが、それもいつの間にか立ち消えていたようだ。きっとそれも自分のせいだと以前嘆いていると側近であるウェイドが「違います」と否定してきた。

「元々親同士の決めた婚約であったのもあり、フォルス様が王に連絡を入れてこられたのです」

 王には申し訳ないながらも本人にその気であった訳でもない上に長旅に出ることもあり、今回の婚約をなかったことにして欲しいとフォルスは父親に珍しく自分の気持ちを告げてきたらしい。とはいえ勝手な婚約破棄は例え王子であってもできない。なのでフィールズ家には「見識を広げるためとはいえ長旅でいつ戻るかわからない。よって婚約を継続するか否かについてはフィールズ家に託したい」と伝えて欲しいとフォルスは願ったようだ。それでもイルナ側が婚約を継続したいと言ってくるなら了解するということだった。

「我々の間では、おそらく継続を望むだろうと言っていたんですけども」

 貴族からすれば王子との結婚は令嬢たちの中でも最も喜ばしいことだけに普通はそう思うだろうが、フィールズ家からは「婚約をなかったことにします」という答えが返ってきたようだ。

「そういえばイルナ嬢を最近全然社交的な場で見かけることがないんですよ。もしかしたらあちらでも何かあったのかもしれませんね」

 イルナ・フィールズは令嬢の中でも華々しい存在で、たまに仕事絡みで顔を出す程度のウェイドですら以前はよく見かけていたらしい。

「何か……」
「ああ、アルディス様とリフィルナ様のことではなく……。その、こういったことを口にするのはあまり好きではないのですが……イルナ嬢は何と言うか、その、お綺麗な方であるとともに派手なことや権力的なものがお好きなタイプの女性でした。そんな方が簡単に婚約をなかったことにすると言ってくるとは思えなくて。おまけに最近はあまり社交の場にも顔を出されておられませんし、ご本人に何かあったのかな、と。とはいえご病気をなさっているといった話は聞きませんので、心境の変化的な、ですね」
「そうか」
「はい。ですのでアルディス様のせいではありません。あまり思いつめて嘆かれないよう」
「……うん、ありがとう」

 ウェイドは普段からも色んな情報を取り込んでは引きこもりをしているアルディスに教えてくれるとても優秀な側近だ。おまけにアルディスの呪いについて悲しんでくれ、大いに支えになってくれる。ウェイドがいなければアルディスはもっと自分を憐れみ、例えフォルスに心配をかけたとしてもどうしようもない状況に陥っていただろうと思われた。
 今も通信を切った後で考え込んでいるアルディスをとても気にしているようだ。だがアルディスの考えがまとまるのを待っているのか、特に話しかけてこない。改めて優秀な人だと思う。
 以前フォルスに「側近をお前の相手と変えて欲しくて堪らない時がある」などと冗談なのか本気なのかわからない様子で言われたことがある。

「変えてどうするの、兄さん」
「どうもしないが、俺の心の安寧は得られそうだし、コルジアもお前相手だとただの優秀な側近になるだろうしな」
「うん、コルジアは優秀だしいい人じゃないか」
「いい人、か……」
「それに兄さんの幼馴染でもあるし、凄く兄さんの理解者って感じがするけど」
「理解者、ではあるだろうな……しかし、そうだな、うん、幼馴染というのがそもそもの元凶か」
「元凶って……」
「ウェイドほど優秀でいて気の優しい側近を俺も欲しかったということだ」

 コルジアもかなり優秀だし優しいと思うのだが、尊敬している大切なフォルスからウェイドをとても褒めてもらった気がして、アルディスとしては正直嬉しい会話だった。

「……ウェイド」

 考え事を終わらせ、アルディスはウェイドを呼んだ。

「はい」
「リフィルナに僕は二度と会わないほうがいいのだろうとは思う。それほど僕は酷いことをした。だけれども……それでも僕は……せめて心から彼女に謝りたい。機密事項によりそれもおそらく叶わないのはわかっているが……。この気持ちすら利己的でしかないのだろうとも思うけど、大切な友人を裏切ったままはあまりにも辛いんだ……」
「お気持ち、察します」
「気軽に会いたいとは言わない。だがせめて彼女の居場所を突き止められたらと思った。無事で……元気でいるのかを少なくとも確認したくて。そこからまた最良の道を考え、見つけたいと思うんだけど……ウェイドはどう思う?」
「私が思うに──まずは私が彼女の居場所を探してみたく存じます」
「……ありがとう、ウェイド」
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