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第二章 出会い

47話

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 リフィが出ていった後のコルジアの視線が何となく痛い。フォルは微妙な顔をしながら「……何だ」と顔を合わせることなく聞いた。

「改めて聞きますけど、フォルス様は本当に少年に対して特殊な感情を抱く方ではないのですよね?」
「……クソ。違うと言っているだろうが……! そもそもお前、俺の幼馴染だろうが。昔からずっと一緒にいてだな」
「本当ですか? 思い返せばフォルス様って誰か女性を好きになっているところを私は見たことがないんですよね」
「それは単に興味を持てる相手に出会わなかっただけだ」
「へぇ? で、今リフィくんに興味がある、と……?」
「おいコルジア。いい加減にしないと相手がお前だろうが俺は剣を抜くからな」
「わかりましたよ。ああ、薬草にリコリスの根がありますね。私も色々と心労が絶えませんから使わせていただこうかな」
「コルジア」

 ため息を吐きながら名前を呼ぶと「とりあえずこれらの薬草は私のこの特殊な鞄に入れておきますので」と何となく楽しそうに言ってきた。心の底から忌々しい側近だとフォルは思った。

「まあそれはともかく」
「ともかく、だと? お前が振ってきたんだ……!」
「そうでしたっけ? ともかくですね、アルディス様にいい加減連絡を取って差し上げてください」
「そ、れはわかっている」
「今頃アルディス様はフォルス様と全然連絡が取れなくて相当心を痛めておられるかと。おかわいそうではありませんか。そもそもフォルス様がいちいち周りを見過ごせないせいでこれほど期間が経ってしまっているのは事実ですし、今さらご自分の至らないところを恥じたところで何になると言うのです?」
「お前、アルディスに対してと俺に対しての対応に差があり過ぎないか……っ?」
「気のせいですよ。とにかく連絡を取っていただきたく存じます。仕方ないので気遣って私は道具屋を物色がてら、今日もこの町の様子を探りつつ酒でも飲んでまいりますので心置きなく話されるがいいかと」
「いちいち恩着せがましい上にそれお前が酒を飲みたいだけだろう……」
「では失礼いたします」

 笑みを浮かべたまま、コルジアは部屋を出ていった。本当に心の底から忌々しい側近だとフォルはまた思う。
 とはいえコルジアが言うのももっとも過ぎてフォルはため息をつきながら手のひらサイズの通信機を取り出した。何度か手をかざそうとしては躊躇した挙句、ようやくフォルはアルディスへ通信を飛ばす。中は空洞だった青く透明な魔法石から光が浮かび出した。そして丸い魔法石の中に少しするとアルディスが浮かび上がってきた。

『兄さん……! 久しぶり……元気だったの?』

 とても嬉しそうに笑いかけてくるアルディスに、フォルは申し訳ない気持ちが湧き上がりながら頷いた。

「ああ、元気だ。コルジアも相変わらず過ぎるくらい相変わらずだよ。お前は? 元気なのか? 何も変わらずか?」
『僕は元気……だけど聞いてくれないか……! とても気になっている人がいたんだけどね、その人が体を壊したか何だかで田舎に行ってしまったらしくて……』

 魔法石に映るアルディスがそれはそれは気落ちしている様子で、フォルとしてはその気になっている人が気になって仕方がない。

「どういう人なんだ? というか気になるとは、どう気になるのだ? いや、そもそもアルディス、お前に一体いつ、そんな気になる人ができたのだ」
『質問が多いよ兄さん……あとそれは今はどうでもいいんだ』

 いや、よくないだろ、とフォルは微妙な顔で魔法石を見る。むしろそれが大事だ。今のフォルにとっては、何よりも。

「……その人がどういう人だかわからないだけに俺としてもお前を慰めようがないというか、意見しようがないというか、だな」
『ありがとう、兄さん。やっぱり優しいね。でもいいんだ、今は別に意見を求めたかったわけでもなくて……ただ俺のせいだろうかとか、具合は大丈夫なのだろうかとか、今どうしているんだろうとかつい気になってしまって、でも今の僕にはどうしようもなくて、というか近づかないほうがその人のためになるんだろうなと思うとどうもしちゃいけないというか……だからせめて兄さんに言って気を紛らわせたかっただけなのかなあ。僕のためにがんばってくれているのに、なんだかごめんね』

 普段そこまでではないアルディスがとてつもなく喋る。これはよほど煮詰まっていたか、もしくはフォルが連絡しなさ過ぎたのだろうかと少々おろおろしそうだった。

「い、いや。全然構わない。なんでも言ってくれ。あと中々連絡しなくて俺のほうこそ申し訳ない……全然進んでなくて不甲斐なくてな」
『そんなの気にしないよ。というか兄さんの武勇伝は僕にも伝わってくるよ。どこそこの領主を成敗したとか村の悩みを解決したとかさ』
「……忘れてくれ」

 とてつもなく居たたまれない。そういうことをするために王宮を出たわけではないだけに、とてつもなく居たたまれない。

『……兄さん。僕は兄さんが元気で、あとできれば楽しく過ごしてくれてさえいれば嬉しいよ』
「ああ。……ありがとう」
『だからね──』

 先ほどまで気になる人が云々と悲しそうだったアルディスがにっこりと微笑んできた。

『もう少し連  ,絡取ってきて』
「……本当にすまない」

 その笑顔が少々怖くてフォルは微妙な顔をそっと逸らし気味に頷いた。
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