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第二章 出会い
44話
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定期連絡を入れるにはぎりぎりのタイミングだったようだ。通信機でコルドは「もう少しでそっちへ押しかけるところだった」などと言っていた。それを従者のシアンが止めてくれていたようだ。シアン様様だなとリフィはこっそり深く息をはく。山で遭難しかけた挙句助けられたなどとわかればコルドによって今すぐ旅を止めさせられるのは火を見るよりも明らかだ。
こうして人は嘘をつき誤魔化す人間になっていくのだなと思いつつ、コルドに内心嘘ついてごめんなさいと謝りながらリフィは「ちょっとバタバタしてて。ごめんなさい」と何とか誤魔化した。
『その例の島へはやはり行くのか? リィー』
「うん。行きたい。確かに長旅になっちゃうしコルド兄様ともその間会えなくなるけど、どうしても行きたい」
『……はぁ。俺は本当に寂しいよ、リィー。せめてちゃんと連絡は入れなさい』
「はい。ごめんね、遅くなって」
『仕方ないなぁ、許すよ。その代わり次に会った時は思い切り抱っこしてぐるぐる回るからな』
「……僕少なくともその頃には成人してる気がするんだけど」
『歳なんて関係ない。リィーはいつまでたっても俺の可愛い妹なんだからな』
「今は弟だよ」
『はぁぁぁぁ。わかってるよ、可愛い弟。じゃあ俺も仕事に戻らないといけないから。また連絡、待ってるよ』
「うん」
通信を切るとディルが呆れたように鎌首を揺らしている。ちなみに他の人が見ればディルの鎌首を揺らすところはどれも同じくただの蛇の習性というか威嚇にしか見えないらしい。
『あやつは少々おかしい』
「はは……でも優しくてやっぱり頼りになる大事な僕の兄だよ」
『それはわかっておるからそなたに近づいても否定はせんけどもな』
その後リフィはこの宿を取っているミンスとたまたま出会ったので果物のことを尋ね、やはり本人が置いてくれたのだとわかると何度も礼を言った。
「後はフォルの部屋を訪ねてお礼を言いたいけど……何か手土産持っていきたいね。助けてくれたし」
『は。別によい』
「よくないよ。何がいいかなあ。ミンスさんみたいに果物にするかな。ああ、それとも自分用に採ってある薬草でもいいかもしれないね、あの人も旅をしてるっぽいし」
『どうでもよい』
「もう。何かディル、フォルに対して適当じゃない?」
『当たり前だ』
「何が当たり前なんだか。とりあえず薬草にしよう。じゃあ決まったことだし、とりあえずこのまま先にお風呂に行くよ。何日も入ってないもんね……ベッドも後でシーツ変えてもらおう……」
ため息をつきながら宿にある浴場へ向かっていると肩に乗ったディルがまた呆れたように揺れている。
「どうかしたの?」
『そなたは浴場に慣れすぎではないか?』
「どういう意味? 別に入るのにそんな難しいことはないんだよ。ディルも入ってみたいだろうけど、さすがに蛇を入れると怒られちゃうだろうしなあ」
『そういう意味ではない。……まあよい。脱衣所まではついて行く。服の番をしておいてやろう』
「ありがとう、ディル。この着ている服は洗濯しないとなあ」
着替えを手に、リフィは宿にある浴場の脱衣場へ入っていった。ここの宿が気に入っている理由の一つがこの浴場だ。広い湯船とたっぷりとした湯が気持ちいい。リフィルナとして暮らしていた屋敷にも大きな浴場があったが、ここはそれよりも広い。時折火を噴くらしい山が近くにあるおかげで火魔法だけでなく天然の湯が湧くのだと知り合いに聞いたことがある。
大抵皆、朝の早い内に入るからか浴場は空いていた。リフィはいそいそと体を洗い、かけ湯をして泡を流し、湯船に浸かった。
「あー」
以前近くで湯を堪能していた人がとてつもないだみ声を出していたから何かあったのかと心配すれば「湯が気持ちいいと勝手に出るんだよ」と笑われたことがある。それ以来たまにそれを真似して声を出そうとするが、残念ながらだみ声は出てこない。とはいえ湯船が気持ちいいことには違いないので脱力しまくりながら堪能していると誰かに「リフィ?」と驚いたような声で呼ばれた。
見れば入ってきたばかりなのだろう、フォルがとてつもなく唖然とした顔で立っている。
「フォル。改めてお部屋にお礼に行こうとしてたのにまさかここで会うなんて」
あはは、と見上げるも、フォルは何故か硬直している。年上だろうとわかりつつも歳はそう離れていないはずと踏んで、せっかくなのでしっかり拝ませてもらったがやはり男性らしい体つきをしていた。羨ましくてならない。腕だけでなく胸や腹にあるしっかりとわかる筋肉を自分も欲しかったなと改めてリフィは思った。腰にはタオルを巻いてあるのでさらりと流して足も綺麗な筋肉がしっかりとついている。
「いいなぁ」
「な、何が……?」
唖然と、というよりフォルはもはや少々青ざめている。
「あ、不躾だったらごめんなさい。フォルの体が羨ましいなあって思って。僕、全然筋肉つかないんですよ。見てくださ──」
見てくださいよと立ち上がろうとしたら「座っていなさい!」と叱咤される勢いで言われた。もしかしたらまだ体調を心配してくれているのだろうかとリフィは笑いかける。
「ああ、僕とてもたくさん寝たんですよ。それに仲間の一人が果物をたくさんくれてお腹もいっぱいになったしすっごく元気になりましたよ」
「いや、そうじゃな……ああ、うん、元気になったのは本当によかった。だが座っていなさい……」
「? はい」
リフィに背を向けて体を洗いだしたフォルだが、やたらと耳が赤い。
……もしかして、いやでも否定してたしなあ。でも、やっぱりもしかして、フォルは少年が好きな人なのかな……? だとしたら申し訳ないことしちゃったのかな。僕はさすがにそういう趣味はないしなぁ……。
本人は否定していたので違うものと一応は思いつつも、フォルを見ているとその可能性もないとはどうも言い切れない。もしやはりそうなのだとしたら、おそらく紳士であるがためこういう場でも困惑しているのかもしれない。フォルのためにも一応気をつけようとリフィは自分に言い聞かせた。
こうして人は嘘をつき誤魔化す人間になっていくのだなと思いつつ、コルドに内心嘘ついてごめんなさいと謝りながらリフィは「ちょっとバタバタしてて。ごめんなさい」と何とか誤魔化した。
『その例の島へはやはり行くのか? リィー』
「うん。行きたい。確かに長旅になっちゃうしコルド兄様ともその間会えなくなるけど、どうしても行きたい」
『……はぁ。俺は本当に寂しいよ、リィー。せめてちゃんと連絡は入れなさい』
「はい。ごめんね、遅くなって」
『仕方ないなぁ、許すよ。その代わり次に会った時は思い切り抱っこしてぐるぐる回るからな』
「……僕少なくともその頃には成人してる気がするんだけど」
『歳なんて関係ない。リィーはいつまでたっても俺の可愛い妹なんだからな』
「今は弟だよ」
『はぁぁぁぁ。わかってるよ、可愛い弟。じゃあ俺も仕事に戻らないといけないから。また連絡、待ってるよ』
「うん」
通信を切るとディルが呆れたように鎌首を揺らしている。ちなみに他の人が見ればディルの鎌首を揺らすところはどれも同じくただの蛇の習性というか威嚇にしか見えないらしい。
『あやつは少々おかしい』
「はは……でも優しくてやっぱり頼りになる大事な僕の兄だよ」
『それはわかっておるからそなたに近づいても否定はせんけどもな』
その後リフィはこの宿を取っているミンスとたまたま出会ったので果物のことを尋ね、やはり本人が置いてくれたのだとわかると何度も礼を言った。
「後はフォルの部屋を訪ねてお礼を言いたいけど……何か手土産持っていきたいね。助けてくれたし」
『は。別によい』
「よくないよ。何がいいかなあ。ミンスさんみたいに果物にするかな。ああ、それとも自分用に採ってある薬草でもいいかもしれないね、あの人も旅をしてるっぽいし」
『どうでもよい』
「もう。何かディル、フォルに対して適当じゃない?」
『当たり前だ』
「何が当たり前なんだか。とりあえず薬草にしよう。じゃあ決まったことだし、とりあえずこのまま先にお風呂に行くよ。何日も入ってないもんね……ベッドも後でシーツ変えてもらおう……」
ため息をつきながら宿にある浴場へ向かっていると肩に乗ったディルがまた呆れたように揺れている。
「どうかしたの?」
『そなたは浴場に慣れすぎではないか?』
「どういう意味? 別に入るのにそんな難しいことはないんだよ。ディルも入ってみたいだろうけど、さすがに蛇を入れると怒られちゃうだろうしなあ」
『そういう意味ではない。……まあよい。脱衣所まではついて行く。服の番をしておいてやろう』
「ありがとう、ディル。この着ている服は洗濯しないとなあ」
着替えを手に、リフィは宿にある浴場の脱衣場へ入っていった。ここの宿が気に入っている理由の一つがこの浴場だ。広い湯船とたっぷりとした湯が気持ちいい。リフィルナとして暮らしていた屋敷にも大きな浴場があったが、ここはそれよりも広い。時折火を噴くらしい山が近くにあるおかげで火魔法だけでなく天然の湯が湧くのだと知り合いに聞いたことがある。
大抵皆、朝の早い内に入るからか浴場は空いていた。リフィはいそいそと体を洗い、かけ湯をして泡を流し、湯船に浸かった。
「あー」
以前近くで湯を堪能していた人がとてつもないだみ声を出していたから何かあったのかと心配すれば「湯が気持ちいいと勝手に出るんだよ」と笑われたことがある。それ以来たまにそれを真似して声を出そうとするが、残念ながらだみ声は出てこない。とはいえ湯船が気持ちいいことには違いないので脱力しまくりながら堪能していると誰かに「リフィ?」と驚いたような声で呼ばれた。
見れば入ってきたばかりなのだろう、フォルがとてつもなく唖然とした顔で立っている。
「フォル。改めてお部屋にお礼に行こうとしてたのにまさかここで会うなんて」
あはは、と見上げるも、フォルは何故か硬直している。年上だろうとわかりつつも歳はそう離れていないはずと踏んで、せっかくなのでしっかり拝ませてもらったがやはり男性らしい体つきをしていた。羨ましくてならない。腕だけでなく胸や腹にあるしっかりとわかる筋肉を自分も欲しかったなと改めてリフィは思った。腰にはタオルを巻いてあるのでさらりと流して足も綺麗な筋肉がしっかりとついている。
「いいなぁ」
「な、何が……?」
唖然と、というよりフォルはもはや少々青ざめている。
「あ、不躾だったらごめんなさい。フォルの体が羨ましいなあって思って。僕、全然筋肉つかないんですよ。見てくださ──」
見てくださいよと立ち上がろうとしたら「座っていなさい!」と叱咤される勢いで言われた。もしかしたらまだ体調を心配してくれているのだろうかとリフィは笑いかける。
「ああ、僕とてもたくさん寝たんですよ。それに仲間の一人が果物をたくさんくれてお腹もいっぱいになったしすっごく元気になりましたよ」
「いや、そうじゃな……ああ、うん、元気になったのは本当によかった。だが座っていなさい……」
「? はい」
リフィに背を向けて体を洗いだしたフォルだが、やたらと耳が赤い。
……もしかして、いやでも否定してたしなあ。でも、やっぱりもしかして、フォルは少年が好きな人なのかな……? だとしたら申し訳ないことしちゃったのかな。僕はさすがにそういう趣味はないしなぁ……。
本人は否定していたので違うものと一応は思いつつも、フォルを見ているとその可能性もないとはどうも言い切れない。もしやはりそうなのだとしたら、おそらく紳士であるがためこういう場でも困惑しているのかもしれない。フォルのためにも一応気をつけようとリフィは自分に言い聞かせた。
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