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第二章 出会い
35話
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キャベル王国から出て二年は経つだろう。ふと弟のアルディスは元気で過ごしているだろうかとフォルスは空を見上げた。
「フォルス様、アルディス様は亡くなられた訳ではないので空を見上げても浮かんできませんよ」
すると隣からそんな言葉が聞こえてきてフォルスは真顔のまま隣を見る。
「コルジア、お前はどうしてそうなんだ」
「そう、とは?」
「……もう少し人の感情の機微をだな……いや、もういい」
「それを言うならフォルス様はその機微とやらをもう少し鈍感になさったほうがよろしいかと」
「別に敏感ではないが、何故だ」
「ここへたどり着くまでにどれくらいかかったと思っているんです? 本当ならばおそらく一年と半年くらい前には着いていたのではないかと私は思いますけどね」
「……煩い」
ため息をつきながらどうしようもないといった表情でくどくど言い出した側近からフォルスは顔を逸らした。すると「は」っと鼻で笑うような音が聞こえてくる。改めて次期王と周りから言われている第一王子の側近とは思えない態度だとしみじみ思う。いくら幼馴染とはいえどうかと思われる態度ではないだろうか。だがフォルスにとってコルジア以外自分の側近は考えられなかった。
真面目過ぎるくらい真面目だと昔から言われていたフォルスにとって、コルジアの存在は肩の力を気づけば抜いてくれたり目から鱗が取れたりするだけでなく、自分が情けないなと思うようなことでも相談できる相手でもあった。
ただし禁書を調べたことに関しては絶対に面倒なことになるからと黙っていたのだが、いったい何故、誰から、もしくはどうやってかわからないがすぐにばれて永遠とも思える時間、一歳年上である自分の家来から説教を食らうこととなった。とはいえ禁書に手を出したことに関してよりも、軽率な考えやコルジアに相談もせず勝手な行動をした挙句、黙っていようとしたことに関してのほうがよほどくどくど言われた気はしないでもない。
ところでコルジアが一年と半年くらい前には着いていたのではと言ったことに関しては、認めたくないが間違ってはいないのだろう。
城を出て旅を始めてから今に至るまでどれほど足止めを食らったことだろうか。ただそれは王国からの追手では、当然、ない。王国からは飛び出してきたようなものではあるが、王が追手を差し向けたとはフォルスは思っていなかった。
竜の涙についての話をした後、アルディスはフォルスが旅に出ることに対して賛成してはくれなかった。それでも心配をかけたくないと思ったのだろう、牢からは出てきてくれていた。そんなアルディスのことを従兄弟のエスターに頼み、フォルスは旅支度をすぐさま始めていた。
だが話を聞いたのであろう、父である国王にフォルスは直々に止められた。アルディスの状態をよしとはしていないし、父としてもどうにかしたいとは思っている上で、だがさらにフォルスにまでもしものことがあってはと説得された。
キャベル王国を治めるために時として非情な決断さえ下す王ではあるが、それでも我が子を思い、そして亡き妻を思う王に尊敬と感謝の念を伝えた上で、フォルスは首を縦に振らなかった。挙句、軟禁されそうにさえなったがエスターに協力してもらってなんとか包囲を抜け、コルジアを従えて竜馬で城を、そして王国をフォルスは飛び出した。
そんな状況であったにも関わらず王国からの追手はないと断言できるのは、王でありつつも父親の顔をしてくれた敬愛するキャベル国王を思えばこそだ。きっと今でも反対はしているかもしれない。だがそれと同時に認めてくれているとフォルスは思っている。
ということで、足止めを食らったのはもちろん追手があったからではない。
通りかかる所々でその地や人の問題ばかりに直面し、どうしても放っておけず留まり解決を図ること数知れず。その度に剣を抜いたり頭を使ったり、挙句、強引に王国から飛び出してきたはずだというのにその王国へ連絡を取り、不正調査や援助のための人員確保などに時間を費やした。やり取りを手紙で行った場合は「元気でやっているのか」といった内容の王からの手紙が何故か添えられたりもしていた。
そのせいだからだろうか。キャベル王国の国民は皆、第一王子が旅に出たことを知っているらしい。コルジアがやたら満足げに聞かせてきた。フォルスに対しては塩対応も多いくせに周りに対しては何故か「私の王子はとても有能」的な恥ずかしいことを誇り口にするコルジアが言うには、第一王子は見識を広めるために旅に出て、至るところでその土地や人を救っている、と国民は思っているそうだ。
「何故そんなことに……」
「陛下が直々に広めているそうですよ」
「父上……!」
弟を助ける手段があるのならと藁にもすがる思いで飛び出してきたはずだ。竜の涙を手に入れるためと旅に出たはずなのにとフォルスは頭を抱えたくなる。
問題にこうも直面するのはしかし、王子という身分を隠しているからかもしれない。公言しないだけでなく、フォルスは自分の見た目も変えていた。顔の造形までは変えられないが、髪と目の色くらいなら自分の持つ光魔法でどうとでもなる。王子として王国にいた時からそれこそ見聞を広めるためにたまにお忍びとしてやっていたのもあり、慣れたものだ。王族特有の白に近い金髪と青い目を、黒っぽいこげ茶の髪と緑の目に変えるだけで別人に見えるので問題はなかった。名前もお忍びの時に使っていた「フォル」を今も名乗っている。
そうして身分を隠すことで、普段王や王子には綺麗な部分しか見せて来ない、それぞれの領地を治めている貴族たちの粗が見えすぎるくらい見えるせいもあり、様々な問題にぶち当たるのだろうか。
「隠すなら徹底して隠して欲しいものだ」
ため息をつくとコルジアが「人間らしくていいじゃないですか。あと出してくれるからこそ掃除もしやすいというものです」などと言いながら珍しく笑みを浮かべてきた。
「フォルス様、アルディス様は亡くなられた訳ではないので空を見上げても浮かんできませんよ」
すると隣からそんな言葉が聞こえてきてフォルスは真顔のまま隣を見る。
「コルジア、お前はどうしてそうなんだ」
「そう、とは?」
「……もう少し人の感情の機微をだな……いや、もういい」
「それを言うならフォルス様はその機微とやらをもう少し鈍感になさったほうがよろしいかと」
「別に敏感ではないが、何故だ」
「ここへたどり着くまでにどれくらいかかったと思っているんです? 本当ならばおそらく一年と半年くらい前には着いていたのではないかと私は思いますけどね」
「……煩い」
ため息をつきながらどうしようもないといった表情でくどくど言い出した側近からフォルスは顔を逸らした。すると「は」っと鼻で笑うような音が聞こえてくる。改めて次期王と周りから言われている第一王子の側近とは思えない態度だとしみじみ思う。いくら幼馴染とはいえどうかと思われる態度ではないだろうか。だがフォルスにとってコルジア以外自分の側近は考えられなかった。
真面目過ぎるくらい真面目だと昔から言われていたフォルスにとって、コルジアの存在は肩の力を気づけば抜いてくれたり目から鱗が取れたりするだけでなく、自分が情けないなと思うようなことでも相談できる相手でもあった。
ただし禁書を調べたことに関しては絶対に面倒なことになるからと黙っていたのだが、いったい何故、誰から、もしくはどうやってかわからないがすぐにばれて永遠とも思える時間、一歳年上である自分の家来から説教を食らうこととなった。とはいえ禁書に手を出したことに関してよりも、軽率な考えやコルジアに相談もせず勝手な行動をした挙句、黙っていようとしたことに関してのほうがよほどくどくど言われた気はしないでもない。
ところでコルジアが一年と半年くらい前には着いていたのではと言ったことに関しては、認めたくないが間違ってはいないのだろう。
城を出て旅を始めてから今に至るまでどれほど足止めを食らったことだろうか。ただそれは王国からの追手では、当然、ない。王国からは飛び出してきたようなものではあるが、王が追手を差し向けたとはフォルスは思っていなかった。
竜の涙についての話をした後、アルディスはフォルスが旅に出ることに対して賛成してはくれなかった。それでも心配をかけたくないと思ったのだろう、牢からは出てきてくれていた。そんなアルディスのことを従兄弟のエスターに頼み、フォルスは旅支度をすぐさま始めていた。
だが話を聞いたのであろう、父である国王にフォルスは直々に止められた。アルディスの状態をよしとはしていないし、父としてもどうにかしたいとは思っている上で、だがさらにフォルスにまでもしものことがあってはと説得された。
キャベル王国を治めるために時として非情な決断さえ下す王ではあるが、それでも我が子を思い、そして亡き妻を思う王に尊敬と感謝の念を伝えた上で、フォルスは首を縦に振らなかった。挙句、軟禁されそうにさえなったがエスターに協力してもらってなんとか包囲を抜け、コルジアを従えて竜馬で城を、そして王国をフォルスは飛び出した。
そんな状況であったにも関わらず王国からの追手はないと断言できるのは、王でありつつも父親の顔をしてくれた敬愛するキャベル国王を思えばこそだ。きっと今でも反対はしているかもしれない。だがそれと同時に認めてくれているとフォルスは思っている。
ということで、足止めを食らったのはもちろん追手があったからではない。
通りかかる所々でその地や人の問題ばかりに直面し、どうしても放っておけず留まり解決を図ること数知れず。その度に剣を抜いたり頭を使ったり、挙句、強引に王国から飛び出してきたはずだというのにその王国へ連絡を取り、不正調査や援助のための人員確保などに時間を費やした。やり取りを手紙で行った場合は「元気でやっているのか」といった内容の王からの手紙が何故か添えられたりもしていた。
そのせいだからだろうか。キャベル王国の国民は皆、第一王子が旅に出たことを知っているらしい。コルジアがやたら満足げに聞かせてきた。フォルスに対しては塩対応も多いくせに周りに対しては何故か「私の王子はとても有能」的な恥ずかしいことを誇り口にするコルジアが言うには、第一王子は見識を広めるために旅に出て、至るところでその土地や人を救っている、と国民は思っているそうだ。
「何故そんなことに……」
「陛下が直々に広めているそうですよ」
「父上……!」
弟を助ける手段があるのならと藁にもすがる思いで飛び出してきたはずだ。竜の涙を手に入れるためと旅に出たはずなのにとフォルスは頭を抱えたくなる。
問題にこうも直面するのはしかし、王子という身分を隠しているからかもしれない。公言しないだけでなく、フォルスは自分の見た目も変えていた。顔の造形までは変えられないが、髪と目の色くらいなら自分の持つ光魔法でどうとでもなる。王子として王国にいた時からそれこそ見聞を広めるためにたまにお忍びとしてやっていたのもあり、慣れたものだ。王族特有の白に近い金髪と青い目を、黒っぽいこげ茶の髪と緑の目に変えるだけで別人に見えるので問題はなかった。名前もお忍びの時に使っていた「フォル」を今も名乗っている。
そうして身分を隠すことで、普段王や王子には綺麗な部分しか見せて来ない、それぞれの領地を治めている貴族たちの粗が見えすぎるくらい見えるせいもあり、様々な問題にぶち当たるのだろうか。
「隠すなら徹底して隠して欲しいものだ」
ため息をつくとコルジアが「人間らしくていいじゃないですか。あと出してくれるからこそ掃除もしやすいというものです」などと言いながら珍しく笑みを浮かべてきた。
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