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第二章 出会い

33話

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「リフィ! これから飲みに行くんだけどよ、お前も行かないか?」

 知り合いに誘われ、リフィは笑みを浮かべつつ丁寧に断った。

「誘ってくれてありがとうございます。でもここでの用事が済んだら片づけることがあるんでやめておきます」
「そうかよ。じゃあ仕方ねーな。またな」
「はい」

 手を振ると、リフィーはギルドの建物へ入る。

「リフィ。二日ぶりだね。元気だった?」
「はい、ヴィーさん。これ、受けていた依頼の件です」

 珍しい、黒い花を咲かせたヘリオトロープを差し出すと、ギルドの受付担当はニッコリと微笑んだ。

「よく見つけたねえ。えっとじゃあこれが報酬ね。あとよかったら今日か明日、私と飲みに行かない? もちろんディルも一緒でいいよ」
「ありがとうございます。でもすみません、僕ちょっと用事があって」
「またぁ?」
「ふふ、ヴィーさん六連敗」
「煩いよリン。あんたは向こう担当でしょ」

 わいわいと気楽な感じに言い合っている二人に笑いかけ頭を下げた後、リフィはその場を離れた。とりあえず無事得た報酬に喜びつつ、一旦今の仮住まいへ戻る。
 あれから二年が経っていた。
 リフィルナからリフィとして今は一人と一匹で自由に過ごしている。成人するまではまだあと一年あるが、十五歳になったリフィは改めて自分の姿を眺めた。
 はっきり言って十三の頃に男に変身してから大して成長しているとは思えない。身長も伸びた気がしないし、筋肉などもそのままな気がする。ただ少なくとも今の体には完全に馴染んだ気はする。声は残念ながら自分ではわからないがとりあえず第三者が聞いて違和感はないのならよしとするしかない。
 コルドと生活している間は何度も過保護な兄に困惑させられたが、それ以上にたくさん大切なことを教えてもらえたし、こういった生活に慣れるまでも衣食住に苦労することもなく過ごせた。とてもありがたかったと思う。
 改めて一人で生活をすると決めた時も中々に苦労させられたが、最終的にはコルドも認めてくれた。
別れる時にいくつかのものをそして手渡してくれた。
 そこそこ容量のある、魔法の力が込められた便利なサイドポーチの他に、特に絶対に手放すな、失くすなと念を押されたのが通信機だ。不思議な魔法石でできているそれは貴族なら大抵の者が持っているらしい。貴族だった頃は子どもだったのと引きこもりだったのもあり、リフィは手にしたこともなかったのだが、それさえあれば離れていても通信し合える。台座からほんのり浮いている魔法石は通信中、とてもゆっくりと回る。そして石の中に通信している相手の姿がわりと鮮明に映るようになっていた。
 それを手にした時、ふとまた「アル」とのやり取りを思い出してしまった。怯えに襲われたのはさておき、別途思ったことがある。今さらどうでもいいことと言えばどうでもいいのだが、貴族なら大抵持っているものであれば、王子ならば当然のように通信機を持っていたのではないのだろうか。使わなかったのは「リフィルナ」は持っていないだろうと思われたからブルーを使ったのだろうか。それとも「アル」にも使えない事情でもあったのだろうか。
 コルドが他に渡してくれたものに、リフィルナだった頃大切に持っていたいくつかのものがあった。あの冒険の本もあった。それらの中に、ネロリ油の入った小瓶も含まれていた。
 それを手にした時も怯えに襲われ、体に震えが走りコルドに心配された。その際に「これはいらない」と言ってもよかった。だがリフィは「なんでもない」とコルドからそれらを受け取った。
 結局買ったものの一度も使うことなかった小瓶は、今もポーチの中にしまいこまれたままだ。
 ところで先ほど知人などの誘いを断ったのは口実でもなんでもなく、実際片付ける必要があるからだ。数日したらリフィは海に出る予定だった。もっと遠くへも行ってみたいという欲がむくむくともたげてきた時にふと、とある島へ行ってみたくなったのだ。
 二年もの間に何度か精霊とも交流したおかげだろうか、リフィはそういった力が増したのかもしれない。今ではディルと会話することができるようになっていた。とはいえもちろんディルが直接人の言葉を発するわけではない。念話というのだろうか。テレパシーで意思疎通を行える。その際に初めてディルについて知ったことがある。

『ディルは男の子だったんだ』
『特に性別の概念はないが、あえて言うなら、だな』
『じゃあ今の僕と同じだね』
『……まあ』
『どうかした?』
『あなたが本来の姿でないことを、少々残念に思っているだけだ』
『え、ディルもこの姿、ちょっと不満? 僕もなんだ』
『……いや、私は別にあなたに筋肉などは求めてない』
『ええっ?』

 そんなたわいもないやりとりをしている時に、ディルの本当の正体をリフィは知った。

『ディルは蛇じゃなかったの?』
『ああ。私の本来の姿は蛇ではない。大型幻獣は大抵がそうしているように、擬態しているに過ぎない』
『大型? え、ディル、大型幻獣なの? すごい! 私、昔コルド兄様に習ったよ、大型幻獣ってとても貴重なんでしょう? すごいねディル! そんな貴重な存在なんだね、かっこいい!』

わあ、とリフィが興奮していると、ディルは少しゆらゆらと鎌首を揺らした後に『私、に戻っているぞ』と少しぶっきらぼうな感じに伝えてきた。

『照れてるの?』
『余計なお世話だ』
『ええっ。ディルは会話できなかった時のほうが素直で可愛いなあ』
『ではテレパシーをやめようか』
『駄目! せっかく大好きなディルとお話できるようになれたのに。絶対駄目。ねえ、本来の姿に今、なれる?』
『悪いが、ここではちょっと。あなたの仮住まいが崩れるぞ』
『そんなにおっきいのっ?』
『……腹立たしいことだが私はまだ未熟で、体も全然小さい。だが、そうだな。私は竜なのでな、小柄であってもここを壊さずに元の姿になるのは少々難しいだろうな』
『っ竜!』

 コルドから聞いたことがあった。竜やユニコーンといった存在すら謎の幻獣は神幻獣と呼ばれているのだと。そんな貴重な存在がディルだったことに、リフィは心の底からわくわくとした。
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