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第一章 銀髪の侯爵令嬢
32話
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薬草については何か薬草絡みの依頼を受けるたびにコルドからその薬草についてや、それに絡むような他の薬草についてなどの解説付きで教えてもらいながら仕事をこなしていったおかげもあり、少しするとリフィルナもずいぶん詳しくなった。種類や生えている場所、それにそれらを使ってどんなことができるかなど、覚えることに際限はない上にコルドに比べたら全然かもしれないが、おそらく一般的な知識よりはかなり把握したのではないかと思われる。
ちなみに男である自覚も自分の中ではその間にずいぶん持てたと思っている。今では男だらけの中普通に風呂にだって入られる。最初の頃は公衆入浴に抵抗しかなくて困惑していた。自分の裸は平気でも他人の裸は平気ではいられなかった。一応慣れた今でもさすがに人の体を凝視する気はないが、これはどのみち女だった頃でも多分同性同士で一緒の風呂に入る機会があれば凝視することなどなかっただろうし、問題はないだろう。
「魔物退治も少し受けてみようと思うんだけど……」
「却下」
「ちょっとは考える振りくらいして」
「そうだな、どうしようかな、でも駄目だな。よし、却下だ」
「とてつもなく棒読みだった!」
とても頭がいいし面倒見もいい優しい兄のコルドは過保護でもある。おかげで時折こうして制限が入る。
「薬草を取ってくるだけじゃあまり稼げないと思うんだけど」
「馬鹿を言うな。極めてみろ。そうしたら相当レアな薬草にだって手が届くぞ。いつかはな。そうすれば一攫千金も夢じゃない」
「そんなレアな薬草見つける前にちょっとしたね、ほら、ワイルドボアとかホーンラビットとか。そっちのほうが簡単だと思うし、それくらいならわ、僕でも倒せると思うし」
微妙な顔をして言っても首を振られた。
「思う、じゃ駄目だ。もちろん過信はもっと駄目だが、そんな自信のないやつに魔物退治なんて行かせられない」
「そんなじゃいつまで経ってもできないじゃない」
「できなくていい」
「そんな。お願い、コルド兄様。わた、僕は最低限生きていける程度には強くもなりたいんです。何も強い魔物に挑戦したいって訳じゃない、ただ、ある程度の戦闘くらいはできるようになっておきたいんです」
お願いお願いと何度も必死になってひたすらお願いすると、業を煮やしたのかコルドがまた折れてくれた。
「その代わり一人では行かさないからな」
「うんわかった、ありがとうコルド兄様! 大好き!」
「……お前、中々に凶悪だよな」
「どういう意味?」
ため息を吐いてくるコルドに怪訝な顔を向けると、また呆れたようにため息を吐かれた。
「? あ、ねえ。一人は駄目ってことはコルド兄様がついて来るってこと?」
「馬鹿を言うな。俺はこう見えて剣術は最低限使えるって程度なんだぞ。雷魔法は使えるが主に研究向けだ、俺の場合。だいたい頭は使うが体を使うタイプじゃないんでね」
確かに背は高いが体型はどちらかといえばスリムなコルドに肉体労働的なものは似合わない。そういったものが似合いそうなのが一番上の兄、コットンだ。いつも何か仕事をするがてらに資料などを読んでいてインテリっぽい雰囲気はあるものの、ガタイの良さは隠しきれない。
「じゃあ誰が?」
「俺の従者のシアンだな」
「シアンが?」
国を出てからもずっとコルドの側で世話をやいてくれている従者であり、リフィルナに料理を教えてくれた家事の師匠でもある。
「魔物退治もできるの?」
「何を言う。元々そちらのほうが向いているくらいだよ」
「すごい! 料理や洗濯だってできるのにすごい。できないこと、ないんじゃないかな?」
リフィルナに仕えていたマリーのような侍女やコルドに仕えているシアンのような従者は主人に仕えるのが仕事であり、お仕着せの制服もなく雑用はしない。他の使用人だけでなくハウスキーパーなどからすら監督されることもない。ただし部下を持つこともないが、とにかく主人に仕え、尽くすのが侍女や従者の仕事になる。
「俺だって仕事ができるけど」
「何故そこでコルド兄様が張り合ってくるの?」
「……何となく。……とにかく。シアンと一緒なら許そう。仕方がないからな。その代わりシアンが駄目だといった依頼は受けないこと。少しでも危険だと思ったら受けてもすぐやめること。最低限のこれくらいなら頑固なリィーでも守れるな?」
「わ、僕は頑固じゃないし守れるよ。ありがとう、コルド兄様。あとよろしく、シアン」
雑用はしないはずの従者、シアンは干していた洗濯ものを取り込んできたらしく、いくつかの布を抱えながら無言で頷いてきた。基本無口で、料理を教えてくれる時も大抵見て覚えた。それでも間違えたやり方の時は注意を促してくれたし今では何とか作られるレベルには上達した。よってリフィルナはシアンと一緒であることに何も心配はなかった。
いくら剣術がそこそこ使えても実戦は絶対にまた違う。それにも多少なりとも慣れないことにはリフィルナは自信を持って独り立ちを宣言できないような気がしていた。
きっとこれで私も独り立ちができる。
そう思うと魔物が怖い存在だとしてもいくらでもがんばれそうな気がしたし、料理と同じように必死になってシアンに学ばせてもらえるだろうと思えた。
ちなみに男である自覚も自分の中ではその間にずいぶん持てたと思っている。今では男だらけの中普通に風呂にだって入られる。最初の頃は公衆入浴に抵抗しかなくて困惑していた。自分の裸は平気でも他人の裸は平気ではいられなかった。一応慣れた今でもさすがに人の体を凝視する気はないが、これはどのみち女だった頃でも多分同性同士で一緒の風呂に入る機会があれば凝視することなどなかっただろうし、問題はないだろう。
「魔物退治も少し受けてみようと思うんだけど……」
「却下」
「ちょっとは考える振りくらいして」
「そうだな、どうしようかな、でも駄目だな。よし、却下だ」
「とてつもなく棒読みだった!」
とても頭がいいし面倒見もいい優しい兄のコルドは過保護でもある。おかげで時折こうして制限が入る。
「薬草を取ってくるだけじゃあまり稼げないと思うんだけど」
「馬鹿を言うな。極めてみろ。そうしたら相当レアな薬草にだって手が届くぞ。いつかはな。そうすれば一攫千金も夢じゃない」
「そんなレアな薬草見つける前にちょっとしたね、ほら、ワイルドボアとかホーンラビットとか。そっちのほうが簡単だと思うし、それくらいならわ、僕でも倒せると思うし」
微妙な顔をして言っても首を振られた。
「思う、じゃ駄目だ。もちろん過信はもっと駄目だが、そんな自信のないやつに魔物退治なんて行かせられない」
「そんなじゃいつまで経ってもできないじゃない」
「できなくていい」
「そんな。お願い、コルド兄様。わた、僕は最低限生きていける程度には強くもなりたいんです。何も強い魔物に挑戦したいって訳じゃない、ただ、ある程度の戦闘くらいはできるようになっておきたいんです」
お願いお願いと何度も必死になってひたすらお願いすると、業を煮やしたのかコルドがまた折れてくれた。
「その代わり一人では行かさないからな」
「うんわかった、ありがとうコルド兄様! 大好き!」
「……お前、中々に凶悪だよな」
「どういう意味?」
ため息を吐いてくるコルドに怪訝な顔を向けると、また呆れたようにため息を吐かれた。
「? あ、ねえ。一人は駄目ってことはコルド兄様がついて来るってこと?」
「馬鹿を言うな。俺はこう見えて剣術は最低限使えるって程度なんだぞ。雷魔法は使えるが主に研究向けだ、俺の場合。だいたい頭は使うが体を使うタイプじゃないんでね」
確かに背は高いが体型はどちらかといえばスリムなコルドに肉体労働的なものは似合わない。そういったものが似合いそうなのが一番上の兄、コットンだ。いつも何か仕事をするがてらに資料などを読んでいてインテリっぽい雰囲気はあるものの、ガタイの良さは隠しきれない。
「じゃあ誰が?」
「俺の従者のシアンだな」
「シアンが?」
国を出てからもずっとコルドの側で世話をやいてくれている従者であり、リフィルナに料理を教えてくれた家事の師匠でもある。
「魔物退治もできるの?」
「何を言う。元々そちらのほうが向いているくらいだよ」
「すごい! 料理や洗濯だってできるのにすごい。できないこと、ないんじゃないかな?」
リフィルナに仕えていたマリーのような侍女やコルドに仕えているシアンのような従者は主人に仕えるのが仕事であり、お仕着せの制服もなく雑用はしない。他の使用人だけでなくハウスキーパーなどからすら監督されることもない。ただし部下を持つこともないが、とにかく主人に仕え、尽くすのが侍女や従者の仕事になる。
「俺だって仕事ができるけど」
「何故そこでコルド兄様が張り合ってくるの?」
「……何となく。……とにかく。シアンと一緒なら許そう。仕方がないからな。その代わりシアンが駄目だといった依頼は受けないこと。少しでも危険だと思ったら受けてもすぐやめること。最低限のこれくらいなら頑固なリィーでも守れるな?」
「わ、僕は頑固じゃないし守れるよ。ありがとう、コルド兄様。あとよろしく、シアン」
雑用はしないはずの従者、シアンは干していた洗濯ものを取り込んできたらしく、いくつかの布を抱えながら無言で頷いてきた。基本無口で、料理を教えてくれる時も大抵見て覚えた。それでも間違えたやり方の時は注意を促してくれたし今では何とか作られるレベルには上達した。よってリフィルナはシアンと一緒であることに何も心配はなかった。
いくら剣術がそこそこ使えても実戦は絶対にまた違う。それにも多少なりとも慣れないことにはリフィルナは自信を持って独り立ちを宣言できないような気がしていた。
きっとこれで私も独り立ちができる。
そう思うと魔物が怖い存在だとしてもいくらでもがんばれそうな気がしたし、料理と同じように必死になってシアンに学ばせてもらえるだろうと思えた。
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